「十数年住んでいて地元の知らないことがたくさんあった。何もないと思っていたが、思ったよりいろいろある。それまで意識していなかったものを身近に感じ、特別な存在になった。知らない人に広めていきたい」という学生。
そして、もうひとり。「県外から来た自分は、ここのことをぜんぜん知らなかったけれど、自分たちで調べて知って、とても好きになった。いまはコロナ禍で難しいけれど、これからは住んでいる方々との交流も深めたい」という学生。
2021年4月16日、ONE NAGANO基金助成団体の取材で「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」で活動する上田女子短期大学の学生たちから、地域との関係を考えた言葉を聞き、地域づくりに必要と言われる「関係人口」について調べてみた。
「関係人口」とは
はじめに「関係人口」の説明を総務省のサイト「地域への新しい入口 関係人口ポータルサイト」から紹介する。
説明では「『関係人口』とは、移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、『関係人口』と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています」とある。
要は、図にあるように「より多様な人材が地域づくりに参画する」ことを指している。
同サイトでは「モデル事業概要」と「モデル団体の取組」も見ることができる。ここで言う「モデル団体」とは、総務省の「関係人口創出・拡大事業」のモデル事業に採択された地方公共団体のことだ。説明には「総務省では平成30年度に「『関係人口』創出事業」を、平成31年度及び令和2年度に「関係人口創出・拡大事業」を実施し、国民が関係人口として地域と継続的なつながりを持つ機会・きっかけを提供する地方公共団体を支援しています」とある。
長野県内のモデル団体の取組
県内では、塩尻市での「MEGURUプロジェクト」、泰阜村での「関係人口を拡大するローカルコミュニケーション広報事業」と「山村留学等の学びを中心とした関係人口(ファン)づくり事業」、根羽村での「『木育の村・根羽村』で何かやりたい人を全力でサポートする関係事業創出事業」、東御市での「関係人口によるワインクラスター創出事業」、そして長野県の「信州つなぐラボ」が掲載されている。
これら事業のきっかけになった報告書「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会 報告書 -『関係人口』の創出に向けて-」(平成 30 年1月)の「はじめに」の冒頭部分には「人口減少、少子高齢化が急速に進む中、東京一極集中の傾向が継続している。より著しい人口の低密度化が予想される地方圏においては、地域づくりの担い手の育成・確保が大きな課題の一つとなっており、移住・交流施策を通じて積極的に課題解決に取り組む地方公共団体が増えている」とある。
もういちど読み返す学生の言葉
ここで、冒頭に紹介した二人の学生の言葉を読み返してみると、まさに「地域づくりの多様な担い手」になり得る学生たちだと思う。
上田女子短期大学の学生たちが活動する「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」のきっかけは、別所線存続支援活動を検討していた2016年にあった。「別所線と学生のコラボ」を投げかけられた学生たちが始めたのが、和装・袴姿に身を包んだ乗車ガイドだった。上田市と別所線沿線の観光スポットや、地域にまつわる話などを自分たちで調べて独自のガイドを作成し、土・日曜日、祝日など月に3回ほど車両内でお客さんへガイドしていたという。
ガイド活動は、その後も代々受け継がれ、4年目に入った19年10月に令和元年東日本台風(19号)がやってきた。増水で千曲川堤防が削られ、一部崩落した赤い橋は別所線のシンボル的な存在だった。一部区間の運休が続き、学生たちは乗車ガイドの機会を失った。翌年1月になってガイドを再開したが、今度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止になった。
「できること」を形にした学生たち
活動の機会を失いつつも学生たちは「できること」を模索する。車内でのガイドはできない。けれど、上田市や別所線沿線の魅力を多くの人へ伝えたい。そんな学生たちの熱い思いが「バーチャル別所線ガイド」になった。
どんな状況になっても「できること」はある。また、どこへ行こうと「何もない」はずはない。それを学生たちが示してくれた。
なにかに気づく感性や、できることを探すのは「若者」や「地域外の人材」だけではない。関係人口が求める「より多様な人材が地域づくりに参画する」ために必要なのは、参画する機会づくりと参画を促す働きかけ、そして参画したことで成果と喜びを得た人々の思いを共有することにあるだろう。
前述した学生たちの願いは「早く別所線に乗りながらガイドする」こと。調べて気づいて好きになり、人へ伝えたくなる魅力が地域にはある。バーチャルガイドをつくる人、それを見た人、そして訪れる人も、すべて地域との関りをもった人になる。そうした多様な人びとの思いを共有し、ともに力を合わせて活動する「協働」の仕組みが地域にできれば、「関係人口」を増やしながら地域の担い手となる人材を育成することができる。
そんな思いに気づかせてくれた地域との関係を考える学生ガイドたちのますますの活躍を楽しみに、いっしょに地域の未来を考える「関係ある人」であり続けたいと思った。
取材・文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助