#地域との関係をつくる「若者」たち
関連する目標:  
ソーシャルライター 吉田 百助
 2021.5.1

「十数年住んでいて地元の知らないことがたくさんあった。何もないと思っていたが、思ったよりいろいろある。それまで意識していなかったものを身近に感じ、特別な存在になった。知らない人に広めていきたい」という学生。

そして、もうひとり。「県外から来た自分は、ここのことをぜんぜん知らなかったけれど、自分たちで調べて知って、とても好きになった。いまはコロナ禍で難しいけれど、これからは住んでいる方々との交流も深めたい」という学生。

2021年4月16日、ONE NAGANO基金助成団体の取材で「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」で活動する上田女子短期大学の学生たちから、地域との関係を考えた言葉を聞き、地域づくりに必要と言われる「関係人口」について調べてみた。

「関係人口」とは

はじめに「関係人口」の説明を総務省のサイト「地域への新しい入口 関係人口ポータルサイト」から紹介する。

説明では「『関係人口』とは、移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、『関係人口』と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています」とある。

総務省「地域への新しい入口 関係人口ポータルサイト」より

要は、図にあるように「より多様な人材が地域づくりに参画する」ことを指している。

同サイトでは「モデル事業概要」と「モデル団体の取組」も見ることができる。ここで言う「モデル団体」とは、総務省の「関係人口創出・拡大事業」のモデル事業に採択された地方公共団体のことだ。説明には「総務省では平成30年度に「『関係人口』創出事業」を、平成31年度及び令和2年度に「関係人口創出・拡大事業」を実施し、国民が関係人口として地域と継続的なつながりを持つ機会・きっかけを提供する地方公共団体を支援しています」とある。

長野県内のモデル団体の取組

県内では、塩尻市での「MEGURUプロジェクト」、泰阜村での「関係人口を拡大するローカルコミュニケーション広報事業」と「山村留学等の学びを中心とした関係人口(ファン)づくり事業」、根羽村での「『木育の村・根羽村』で何かやりたい人を全力でサポートする関係事業創出事業」、東御市での「関係人口によるワインクラスター創出事業」、そして長野県の「信州つなぐラボ」が掲載されている。

総務省の事業概要資料より

これら事業のきっかけになった報告書「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会 報告書 -『関係人口』の創出に向けて-」(平成 30 年1月)の「はじめに」の冒頭部分には「人口減少、少子高齢化が急速に進む中、東京一極集中の傾向が継続している。より著しい人口の低密度化が予想される地方圏においては、地域づくりの担い手の育成・確保が大きな課題の一つとなっており、移住・交流施策を通じて積極的に課題解決に取り組む地方公共団体が増えている」とある。

もういちど読み返す学生の言葉

ここで、冒頭に紹介した二人の学生の言葉を読み返してみると、まさに「地域づくりの多様な担い手」になり得る学生たちだと思う。

上田女子短期大学の学生たちが活動する「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」のきっかけは、別所線存続支援活動を検討していた2016年にあった。「別所線と学生のコラボ」を投げかけられた学生たちが始めたのが、和装・袴姿に身を包んだ乗車ガイドだった。上田市と別所線沿線の観光スポットや、地域にまつわる話などを自分たちで調べて独自のガイドを作成し、土・日曜日、祝日など月に3回ほど車両内でお客さんへガイドしていたという。

ガイド活動は、その後も代々受け継がれ、4年目に入った19年10月に令和元年東日本台風(19号)がやってきた。増水で千曲川堤防が削られ、一部崩落した赤い橋は別所線のシンボル的な存在だった。一部区間の運休が続き、学生たちは乗車ガイドの機会を失った。翌年1月になってガイドを再開したが、今度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止になった。

「できること」を形にした学生たち

活動の機会を失いつつも学生たちは「できること」を模索する。車内でのガイドはできない。けれど、上田市や別所線沿線の魅力を多くの人へ伝えたい。そんな学生たちの熱い思いが「バーチャル別所線ガイド」になった。

バーチャル別所線ガイドのサイト

どんな状況になっても「できること」はある。また、どこへ行こうと「何もない」はずはない。それを学生たちが示してくれた。

なにかに気づく感性や、できることを探すのは「若者」や「地域外の人材」だけではない。関係人口が求める「より多様な人材が地域づくりに参画する」ために必要なのは、参画する機会づくりと参画を促す働きかけ、そして参画したことで成果と喜びを得た人々の思いを共有することにあるだろう。

前述した学生たちの願いは「早く別所線に乗りながらガイドする」こと。調べて気づいて好きになり、人へ伝えたくなる魅力が地域にはある。バーチャルガイドをつくる人、それを見た人、そして訪れる人も、すべて地域との関りをもった人になる。そうした多様な人びとの思いを共有し、ともに力を合わせて活動する「協働」の仕組みが地域にできれば、「関係人口」を増やしながら地域の担い手となる人材を育成することができる。

そんな思いに気づかせてくれた地域との関係を考える学生ガイドたちのますますの活躍を楽しみに、いっしょに地域の未来を考える「関係ある人」であり続けたいと思った。

取材・文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助

#長野県発祥の山村留学は地域活性化のカギか?!
関連する目標:  

山村留学は長野県が発祥、県下10ヶ所で137人受入
長野市大岡で廃止の危機に!?

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文責 : ナガクル編集デスク 寺澤 順子  写真提供 : 内田 光一郎 (大岡地区住民自治協議会 事務局職員)
 2020.5.30

体験の裏付けがない知識習得は砂上の楼閣であり、子どもが真の生きる力を獲得するには、様々な自然体験、生活体験の場が必要である (公益財団法人育てる会ホームページより)

山村留学は、昭和51年、教員や保護者、教育関係者により長野県八坂村(現在大町市八坂)で任意団体(現 公益財団法人育てる会)を発足、初めて実践活動をシステム化して教育に取り入れた。その後、山村留学は全国に広まり、これまで小中学生約12,000人が参加し体験してきた。「山村留学とは、都市部の子どもたちが自然豊かな農山村地域の共同宿泊施設や農家などで暮らし、地元の学校に通いながら、自然体験や生活体験をする取組」としており、自然という県財を有効に活用した教育県として、世界に誇れる功績の一つだ。

雄大な北アルプスを抱きながら、子ども達の心と体が育まれる。写真提供 : 内田 光一郎

しかし、今、その山村留学が長野市で危機となっているー。

長野市大岡地区には「大岡ひじり学園」(長野市大岡農村文化交流センター)がある。今年度は小学生9人、中学生6人が在籍。大岡ひじり学園は長野市(教育委員会)が育てる会に委託し運営されている。

写真提供 : 内田 光一郎

旧大岡村時代、村長が八坂村の山村留学施設を視察し、大岡村での開設を模索し調査、平成9年より村が主導で「大岡ひじり学園」を開設した。その後大岡村が平成17年に長野市に編入したため、長野市が2100万円の予算を割いて、育てる会に委託し運営する形となった。

学園生は平日昼間は大岡小中学校に通うことはもちろん、年間120日は地区内の農家に民泊し生活するため、地域住民との絆も深く、県外から留学しているとはいえ、立派な地域の一員だ。開設以来約400人にのぼる子ども達がここで成長し、中にはそれがきっかけで移住する家族も。大岡地区住民自治協議会には学園を支援する会もでき、地域と連携した学園運営を続けている。

大岡ひじり学園の様子は「ナガラボ」(内田 光一郎 さん執筆)のこちらの記事から

突然、山村留学事業は打ち切りの知らせが?!

 

大岡地区住民自治協議会 会長 下倉光良さん

大岡地区住民自治協議会会長下倉光良さん・事務局長中村哲夫さんによると、今年3月11日、担当である長野市教育委員会の職員から青木高志学園長を訪ね「平成2年度で山村留学事業は打ち切りとし、育てる会への委託契約もしない」と伝えられたという。「まさに寝耳に水。学園から住民自治協議会に連絡があり初めて知り驚いた」と話す。

 

「いわば山村留学は合併前から大岡の社会教育の柱」と下倉さんは語気を強める。「山村留学の経験を生かして、もっと小さな子どもや、その家族を誘って大岡の自然体験をしてもらう企画を進めているところ」と話す。

この2年、大岡地区住民自治協議会も後押しし、地域住民らの有志が活動グループ「Oooka森の学び舎」を立ち上げ活動してきた。今年2月にはNPO法人化し、保育園児の親子を対象に自然体験教室に力を入れていこうとした矢先の出来事だった。

大岡地区住民自治協議会 事務局長中村哲夫さん

数日後、教育委員会より住民自治協議会へ正式に説明があった。「これはえらいことだ」と、大岡地区住民自治協議会は3月25日〜4月17日の短期間で、地区内外から852名の山村留学予算打ち切りの反対署名を集めた。

そして4月21日、長野市長を訪問しその署名を提出。市長からは「(廃止)期間を区切らずに協議していこう」というコメントを得たところだ。

「しかし油断はできない」と二人は話す。なぜなら、山村留学事業の受け入れの可否は、小中学校の合併問題とも深く絡んでくるからだという。4月1日現在で、大岡小学校の児童数14人、内山村留学が9人、大岡中学の生徒数は13人、内、山村留学が6人。特に小学生の数は地元の児童を上回っているという現状がある。地域で生まれる子どもの数が年々減少し、このままでは小中学校自体の存続が危ぶまれる。

一昨年には、長野市が主導し「小さな拠点ワークショップ」を開催、大岡地区の住民自治協議会は協働し、県外から講師を呼び大岡の今後について考えてきた。過疎化が進む地域をどう存続していくのか。その魅力を掘り起こし、活動者同士の交流を通じて、関係人口増加や移住促進のために今、何をすべきかを模索してきた。

「地域づくりの新しい視点~関係人口の増やし方~」大岡地区住民自治協議会主催 2018年1月10日(水)13:30~17:30大岡支所2階大会議室にて、月刊「ソトコト」編集長の指出一正さんを迎えて関係人口について学んだ。(写真提供:市民協働サポートセンターまんまる)

昨年春には11人の住民有志により、「自然教育の大岡」を目指し「Oooka森の学び舎」を結成。親子山村留学の提案を視野に入れて、シンポジウムを開催したり、学園と連携し、保育園児を招いた自然体験教室を開くなどの活動を実施。「移住促進を目的として、長い間培ってきた山村留学の経験を生かして、小学生低学年や保育園以下の子どもたちとその親が遊びに来られる企画をと考えてきた」と言う。

2月1日(日)長野市大岡地区で親子自然体験「100の大岡」イベントがあり、長野市街地に住む親子14組約50人が参加しました。(写真提供:市民協働サポートセンターまんまる)

「山村留学」は移住促進のカギに

冒頭に書いたように、山村留学は長野県発祥。長野県全体で、現在10ヶ所で山村留学を受け入れている。「山村留学で学ぼう!」と題して、県主催で東京都にある「銀座NAGANO」で昨年も2回の合同説明会を開催。10月には20組50人の参加があった。継続希望者が多いため、新規の需要に対し供給が追いつかないこともあるという。(長野県の山村留学ホームページ)

29年度NPO法人全国山村留学協会の全国の山村留学実態調査より

公益財団法人育てる会が中心となり、全国山村留学協会を1987年に設立、現在全国で23団体が加盟している。その協会が行った29年度NPO法人全国山村留学協会の全国の山村留学実態調査によると、地域活性化のため新たな政策として山村留学に着目する自治体が増えていると分析している。

29年度の山村留学者数は全国で628人に登り、増加傾向にある。最も多いのが鹿児島県で165人、長野県は2番目で130人、北海道が61人と続く。

29年度NPO法人全国山村留学協会の全国の山村留学実態調査より

大岡地区では、毎年、8月15日の夏休みに行う成人式には山村留学卒業生も地区へ招いている。また、「お祭りなどに第二の故郷として、子連れで遊びにきてくれることもある。移住者もいるし、地域おこし協力隊となって戻ってきてくれた卒業生もいる」と下倉さんらは誇らしげに語る。

山村留学大岡ひじり学園から望む北アルプス 写真提供 : 内田 光一郎

新型コロナウイルスでICT化が進み、どこにいても、仕事ができるテレワークを取り入れた働き方や生活が主流となる可能性が見えてきた。そんな中、今後、密集した都会から離れ、自然の中でのびのびと子育てをしようとする家族の増加が期待される。

一方で、災害や新型コロナウイルスによる経済危機により、税収の落ち込みが懸念され財政改革が叫ばれ、過疎化・小子化による教育施設の編成にも手をつけざるを得ない状況が迫ってくる。

こうした状況は大岡の山村留学だけに限らない。削減か継続かの二者択一という従来型の議論から脱却する必要がある。行政と地域が対峙する関係ではなく、協働し、第三の道を探る必要性に迫られているのではないだろうか。

 

取材:2020年4月22日 大岡地区住民自治協議会にて

ナガクルは国連が提唱する

「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。

この記事は下記のゴールにつながっています。

#衰退していく長野県の地域の足=交通手段をどうすべきか
関連する目標:  

地域の足が無くなっていく!
交通弱者、買い物難民……
その現状と取り組み

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文責 ソーシャルライター 立岡淳志
 2020.5.6

人口減少・高齢社会がやってきた

 少子高齢社会と言われて久しい。若者は都市部に流出し、地方には高齢者だけが残っていく。長野県も例外ではない。長寿県ランキングでは常に上位だが、長生きであるというポジティブな側面がある一方、高齢社会にまつわる問題に直面している、ということでもある。

 高齢化社会とは高齢化率が7%を超えた社会のことである。さらに、高齢化率が14%を超えると高齢社会、21%を超えると「超高齢社会」と定義される。都道府県別に見ると、長野県は31.9%。日本国内で19番目の超高齢社会だ。
([人口推計 2019年10月1日現在(総務省統計局)]より)

 そして県内の市町村別に見ていくと、ランキングは以下の表の通り。

グラフ[毎月人口異動調査年齢別人口(2020年4月分)(長野県企画振興部)]より引用

 

 都市圏の長野市でも30.6%、松本市でも28.1%である。大変な高齢社会が到来している事がわかる。

「生活の質」にかかわる交通手段

 その中で、問題になっているのが、交通弱者だ。明確な定義は存在しないが、ここでは「自家用車などの移動手段を持たず、公共交通機関に頼らざるおえず、日常の移動に困難を生じている人々」のことを指すこととしよう。

 コロナウイルス感染症の感染が拡大している。そんな今、stay homeが呼びかけられ、移動する人は少なくなっているが、その分、路線バスなどが減便されていて、交通弱者にとっては、苦しい状況が続いている。

 交通弱者になると、移動することが困難になるため、生活の質が低下する。病院に行くにも金銭的負担がかかる、徒歩圏内に商店やスーパーが無ければ買い物難民になってしまう、学校に通うことができず結果として移住せざるおえない、等々……地域で元気に生活することが出来なくなってしまうのだ。

 国内全体で、買い物難民(または弱者)は700万人程度と推計されている。([買物弱者対策に関する実態調査結果報告書 平成2 9 年7 月 総務省行政評価局]より)

「交通に係る県民等意識調査[長野県 平成24年6月]」では、「自由に移動できる交通手段がないことで困るのはどのような時か」という設問がある。そこで多かった答えは「食料品などの普段の買い物」である。

免許返納したくてもできない

 過疎地域を中心に、人口減少~公共交通機関の利用客減少~公共交通機関の廃止・縮小~さらに人口減少、といった負のループに陥っている。その一方で、県内のマイカー保有率は全国7位で世帯あたり1.579台([自動車検査登録情報協会 令和元年8 月20 日 ニュースリリース]より)となっている現状がある。

 しかし、マイカー移動から公共交通機関での移動へのシフトは容易ではない。市民の意識の問題もある。だが、それ以上に、衰退し始めている公共交通機関は、例えば1時間に1本しか電車が来ない、土日休日はバスが運休になってしまう、など、すでに利便性は事実上失われている状態だ。そこに「マイカーをやめて公共交通機関を利用しましょう」と言っても、なかなか難しいのが、そこに生活する人の本音なのではないだろうか。

 そのため、マイカーがないとやっていけないが、マイカーを使えば使うほど公共交通機関が衰退して、交通弱者にとってはより厳しい状態になる、というジレンマを抱えている。

 既出の「交通に係る県民等意識調査」では、3~4割の人が鉄道在来線を使う時に、不便や不満を感じているという結果が出ており、その理由は「日中の便数が少ない」というものが多くなっている。そもそもで「利用していないので、わからない」という回答もかなりの割合を占めている。

グラフ「交通に係る県民意識調査 [長野県 平成24年6月]」より引用

 また、昨今では、高齢者の起こした交通事故が報道で注目され「免許返納」の機運も高まっている。県内での交通事故の約4割(39.6%)、交通事故死者の半数以上(55.4%)が高齢者だ。([長野県警察 令和元年交通統計]より)

 しかし、免許返納をしようにも、マイカーの運転が「生活の生命線」となっている場合、「返納したくてもできない」ということになってしまう。高齢者も、若者も、お互いに安全に暮らすためにも、何かしらの移動手段の保証は、不可欠だと思われる。

交通弱者問題に対する新しい取り組み

 交通弱者の問題に対して、新しい取り組みも行われつつある。



 1つ目は「既存の路線をデマンド交通に転換する」というものだ。デマンドというのは「要求」という意味で、決まった時間に時刻表通り運転する路線バスに対して、予約制のワゴン車などを運行する。予約制なので、空っぽのバスが走っている、という事態は回避されて運行効率が上がる。

 ただし、デマンド交通は、予約する手間がある。予約方法は、高齢者でも簡単にできるように、スマホといった電子機器だけでなく、電話などでも予約できるようにしておくべきだろう。

 また、当然のことながら、ただデマンド交通を走らせるだけでなく、どの程度の効果が上がったのか、検証し改善することが必要だ。既存の鉄道・バスとの連携も重要である。

 飯綱町では「iバス」というデマンド交通があり、年間250万円の経費削減につながり、また住民の3分の2が利用登録をしているという。([自治体通信オンライン ウェブサイト]より)

 


 2つ目は「MaaS=マース(モビリティ・アズ・ア・サービス)」という仕組み・考え方の導入だ。ITを活用して、すべての交通機関のデータをつなぎ、運行主体にとらわれずに「移動」をもっと一体的に捉え、便利にしよう、というものだ。

 利用者はスマホを使い、移動方法の検索から決済までを行う。国土交通省が全国で先行モデル事業を19事業選定し、その導入促進を模索している。([国土交通省報道発表資料 「日本版MaaSの展開に向けて地域モデル構築を推進!~MaaS元年!先行モデル事業を19事業選定~」より])

 長野県内では、まだMaaSの導入事例はないと思われるが、IT・スマホを活用したサービスとして「信州ナビ」というアプリが公開されている。公共交通のルート検索や、一部地域では、走行中の路線バスの現在位置が分かる「バスロケーションサービス」が提供されている。


 

 3つ目は「移動販売などによる買い物難民の支援」だ。県内でも各地で移動販売や宅配・ネットスーパーの取り組みが行われている。決まった場所や、自宅の目の前など、自分の生活圏内に移動販売車がやって来て、買い物ができる。

 県内にどんな支援事業があるのかは、長野県のウェブサイト「買物環境向上支援事業実施事業者一覧」で閲覧することができる。

 信濃町では地元の人が、地元スーパーと協力して「移動スーパーとくし丸」を運営している。買い物難民を支援することは、日々の食料品の調達を助けるだけでなく、コミュニケーションが生まれて、暮らしの活力になるのだ。([信濃町の移住者支援サイト 「ありえない、いなかまち。」より])

 また、向こうからやってくる移動販売とは逆に、市街地へ自分たちででかけていく「買い物ツアー」を企画しているところもある。長野市鬼無里地区では、住民自治協議会が主体となり、地元の路線バスを使って市街地へ行き、買い物をしながら、住民であるお年寄りの心身のリフレッシュを図っている。([FNNプライムオンライン]および[鬼無里地区住民自治協議会フェイスブックページ]より)

 

交通の問題は、生活の維持に直結する

 本稿では、交通の問題、特に「交通弱者」をキーワードに、問題の現状や新しい取り組みの一端を見てきた。

 地域の交通手段は、利用者の減少とそれに伴う収入減で、非常に厳しい状況に置かれている。路線バスだけでなく、鉄道も同様だ。「乗って残そう」というのはよく聞かれるスローガンだが、簡単なことではない。例えば、しなの鉄道は平成10年度から平成20年度の10年間で、利用者が14.7%も落ち込んでいる。([しなの鉄道総合連携計画 平成22年2月]より)

 自家用有償旅客運送(福祉有償運送)などの場面では、地域の社会福祉協議会やNPO法人等が努力を重ねているが、それもこのままでは、限界を迎えるかもしれない。

 交通手段が本当に無くなってしまえば、その地域には住むことはできなくなる。その現実を、我々は早く直視すべきだろう。今ならまだ間に合うかもしれない。

 交通は、それ単体で見れば、単なる移動手段だが、生活のすべてに関わってくる重要な要素だ。しかし、国家レベルでも県や市町村レベルでも、それぞれのシーンで担当部署が異なり、一貫した施策が行われているとは言い難い。早急に、横断的なチームの立ち上げが望まれる。

 今までは、主に民間事業者が担っていた公共交通だが、まさに今「公共」のものとして、考え方を変え、もう一度意識し直す時期に来ているのではないだろうか。行政や事業者だけでなく、何より利用主体である市民一人ひとりが考えて、行動することに、公共交通機関ひいては地域の未来がかかっている。

#食料自給率を高めるカギは学校給食だ!
関連する目標:  
文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助
 2020.2.29

国内の食料消費の63%が国内でまかなえていない

「平成30年度のカロリーベース食料自給率は37%」と、農林水産省のホームページを見るとある。食料自給率とは、国内の食料消費が、国産でどの程度まかなえているかを示す指標だとしている。

つまり国内の食料消費の63%が国内でまかなえていないということだ。食料自給率の⻑期的推移を示すグラフで前述したカロリーベースは、中ほどの青線。年々下がっているのが分かる。

農林水産省ホームページ「食料自給率とは?」より

 

同省のホームページには「先進国と比べると、アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%となっており、我が国の食料自給率(カロリーベース)は先進国の中で最低の水準」とあり、下のグラフも示されている。(なぜ1位のカナダと2位のオーストラリアを除くコメントになっているのだろうか)

 

国別グラフ

 

日本の食料施策とその結果分析に疑問

食料自給率が低下した説明を同省は「平成30年度においては、米の消費が減少する中、主食用米の国内生産量が前年並みとなった一方、天候不順で小麦、大豆の国内生産量が大きく減少したこと等により、37%となりました」とし、米の消費減少と天候不順が原因らしい。

平成27年3月に策定された「食料・農業・農村基本計画」では、食料自給率の目標として、「供給熱量ベースの総合食料自給率を平成37年度に45%」を掲げているが、その達成に向けて国がなにをしてきたのか。この一年どういう策をもって何をしたのか、その成否の結果が数字として表れたという説明があってもいいのではないか。国の策を抜きにして、天候不順のせいにしたような説明は納得しがたい。

不可解な説明は、同省の別資料「平成30年度 食料自給率・食料自給力指標について」にもある。「食料自給率は、米の消費が減少する一方で、畜産物や油脂類の消費が増大する等の食生活の変化により、長期的には低下傾向が続いてきましたが、2000年代に入ってからは概ね横ばい傾向で推移しています」と、食生活の変化が要因になっていて、ここにも国の策は見られない。

そもそも1期前の平成22年に策定された同基本計画では、「平成32年度の供給熱量ベースの総合食料自給率50%」と目標を設定していたにも関わらず、その目標を下げてもなお達成への道筋はまったく見えていない。
その一方で、食生活の変化がなぜ起きたのか歴史をさかのぼると、はっきりとした国の策が見えてくる。

 

米の消費が減少する代わりに増えたのは、小麦

団塊の世代には懐かしいコッペパンが、国民の食生活を変える一因になった。学校給食のはじまりである。全国学校給食会連合会のホームページ「学校給食の歴史」によると、昭和25年7月、「8大都市の小学校児童に対し、米国寄贈の小麦粉によりはじめて完全給食が実施」とあり、翌年から全国すべての小学校が対象になる。昭和31年には、「『米国余剰農産物に関する日米協定等』の調印により、学校給食用として小麦粉10万トン、ミルク7,500トンの贈与が決定される。」とある。

贈与とは気前が良いなと思っていたら、アメリカは1954年(昭和29年)に農産物を輸出する法案PL480法「農業貿易促進援助法(余剰農産物処理法)」を成立させていた。大量の余剰農産物の保管に係る経費が莫大で、国家財政が危機的状況にあるから輸出しようという法律であった。
なんとアメリカの余剰農産物を消費するために、日本の学校給食が利用され、それまでの米食からパンへと日本人の食生活が大きく変えられてしまった。はじめは「贈与」だったが、それから日本はアメリカの余剰小麦を買い続け、現在では輸入小麦の51%がアメリカ産になっている。(財務省「貿易統計」より)
コッペパンととも懐かしい脱脂粉乳も、アメリカが抱えていた膨大な余剰物資だったらしい。

もうひとつ、昭和30年頃から日本人の食生活を大きく変えた運動があった。「1日1回はフライパンを使う」という「フライパン運動」だ。「米では栄養不足になる」というネガティブキャンペーンの一方で、「高カロリーの油を使え」、「もっと粉食を」と、厚生省がつくった財団法人日本食生活協会の「栄養改善車(キッチンカー)」が全国を駆け回った。

食の風土記より

写真は「信州ながの食の風土記-未来に伝えたい昭和の食-」長野県農村文化協会編より、「キッチンカーで油を使ったフライパン料理の実地指導(昭和30年代、松代町にて)」

キッチンカーの写真は、公益財団法人 日本栄養士会のホームページにある「沿革」内で見ることができます。昭和29年7月

「偏りがちな栄養を正しく摂取するために」と、パンケーキやスパゲティ、ベーコンエッグ、オムレツなどの調理を実演し、油料理を勧めるキッチンカー。学校給食で小さな頃からパンと牛乳を当たり前に食する子どもたち。それまで日本の食卓になかったカタカナ料理が大々的に普及し、小麦と油、肉、卵、乳製品などの消費が伸びていく。国の策によって、日本人の食生活が大きく変えられた。
油脂の原料となる大豆は現在、輸入量の72%がアメリカ産。畜産物の飼料となるトウモロコシは、輸入量の92%がアメリカ産になっている。(財務省「貿易統計」より)

 

学校給食にご飯

昭和50年代になって学校給食にご飯が登場する。導入の理由は、子どもたちためではなかった。当時、食糧管理制度による政府全量買入の下で政府在庫に膨大な過剰在庫(昭和40年代に第1次過剰、昭和50年代半ばに第2次過剰)が発生し、古米・古古米と積み重なる過剰米の処理に困った政府が学校給食への利用をはじめたためだ。
昭和30年代にアメリカの過剰小麦を処理し、次に国内の過剰米を処理する役目を負わされた学校給食。米の生産調整(減反)が本格的に開始されたのも、この頃だった。

 

変わりはじめた世界の学校給食

近年、学校給食に新たな取り組みが見られるようになった。アメリカでは、「ミートレス・マンデー」に取り組み、月曜日は「肉を使わない給食」を提供している。フランスでは、「週に1回のベジタリアン給食」。韓国では、有機農産物を用いた学校給食の無償化へ動き出した。(詳しくはWEBで検索を)
ミートレスもベジタリアンも、脂質と油を摂り過ぎている子どもたちの健康を改善し、畜産業が排出する二酸化炭素を抑制して地球温暖化対策に貢献することができる。もとは、イギリスのミュージシャンであったポール・マッカートニーらの呼びかけで2009年から始まった「ミート・フリー・マンデー(週に1度は肉を食べない日を設けよう)」という活動だった。

カロリーベース食料自給率が37%にまで下がった日本。過剰農産物の処理に利用され変遷してきた学校給食が、次に目指すのはなにか。世界の動きにならってミートレスと有機農産物の利用に取り組めば、子どもたちの健康と地球の未来のためになる。地元の農業者が子どもたちのためを思いながら丁寧に育てた作物を学校給食で提供すれば、地域に活気が生まれる。それまでどこかへ支払っていた給食費が地元の農業者へ支払われるようになれば、経済の地域循環も生まれる。

農薬と化学肥料で育てた栄養価の乏しい作物。まるで工場のような畜産。残留する化学物質やホルモン剤。超加工品と言われる添加物だらけの食品。産地や素材が分からない加工品。遺伝子組み換えやゲノム編集技術を使った未知の食…。
現代社会に溢れる「子どもたちに食べさせて良いのか?」と疑問視せざるを得ない食を避けるためにも、地元で育てた有機農産物を学校給食で提供すべきだろう。

若いうちから生活習慣病(予備軍)に悩まされ、「2人に1人が、がんになる時代」と当たり前のように言われている日本人。(詳しくはWEBを参照)

一般財団法人 日本生活習慣病予防協会

公益財団法人 日本対がん協会

米からパンへ、油と肉の大量消費へと食生活を大きく変えてきた国策の歴史がありながら、現在の政府は食料自給率の低下を横目に思い切った打開策を打ち出すこともない。
日本には、世界無形文化遺産になった「和食」がある。先人たちの長年の知恵が詰った郷土食伝統食ひらがな料理がある。味噌や納豆など体に良い発酵食品がある。世界が着目する健康的な「和食」を本家の日本人が見失ってはならない。
子どもたちのために、できること。国の策を待つことなく、地域からできること。
学校給食で変えられた食生活であれば、もう一度学校給食を変えればいい。キッチンカーが有効であれば、地域に走らせればいい。国全体の数字は上がらなくても、地域の食料自給率を高めることならできる。

2020年2月に発足した「信州オーガニック議員連盟」の活躍に大いに期待する。
信州オーガニック議員連盟 結成、NPOとコラボに期待

文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 

#台風19号災害支援 発災から2週間NPOの軌跡 長野県
関連する目標:  

台風19号水害発生から2週間、長野でNPOはどう動いたか?

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長野市民新聞「市民とNPOのひろば」2019.11.5掲載 執筆:ナガクル編集デスク 寺澤順子
 2019.11.13

10月12日から13日未明に掛けて襲った台風19号。その被害は長野県各所で甚大です。

10/24決壊現場付近、民家の庭に流れ込んだ体育館床材を、重機で撤去する支援グループ(DRT JAPAN)

穂保地区では、堤防が決壊した後15日水位が低下し、17日には仮堤防が完成。ようやく住民が現地に入れる状態となりました。24日に決壊現場近くの民家でボランティアと一緒に作業する被災者の大学生に話を聞くと「17日に県外から戻ると、実家周辺は見渡す限り泥だらけ、言葉を失った」と話しました。決壊箇所のすぐ近くにある長沼コミュニティセンターの体育館の床ははがれ、北側の民家に突っ込んでいました。重機を持って助けに入ったグループが撤去作業を行っていました。こうしたプロボノ(専門家のボランティア集団)といわれる民間NGOが、重機やダンプ、軽トラなどを全国から調達し、廃棄物や泥を運び、道を明けていました。

10月15日、長野県対策本部で災害ボランティア担当者の会議

災害が発生してすぐに、災害専門のNPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)が県災害対策本部室に入り、岡山や広島の災害での経験をもとに、現地調査をし対応に当たりました。また県NPOセンター、県社会福祉協議会、県生協連などの民間が作る「長野県災害時支援ネットワーク」のメンバーも対策本部で県職員と共にボランティア担当としてその対応に当たっています。

10月19日長野市南部ボランティアセンターの様子

長野市では市社会福祉協議会が中心となって「災害ボランティアセンター」南部と北部団体サテライトの立ち上げ運営に着手。

第2回情報共有会議(10/16)では次々と課題が出されていく

また民間組織「長野市災害ボランティア委員会」や防災啓発グループ「ながのみらい」のメンバーが、避難所やボランティアセンターなどに調査、サポートに入り、毎晩ミーティングを重ね、現状と課題を共有し被災者支援に尽力してきました。フェイスブックやメッセンジャーなどのSNSを活用して、24時意見交換を行い、民間サイドにできることを模索。同時に市民に様々な情報提供をし対応に当たっています。

毎回共有会議では車座で情報交換し、課題に対し知恵を出し合う(10/23)

県災害時支援ネットワークはNPOや市民グループなどを集め、14日から週3回、情報共有会議を開催。6回までで延べ332人、94団体が参加しました。毎回、県の防災本部からの情報共提供、被災現場の状況、災害ボランティアセンターの現状、避難所での被災者の様子などについて報告があり、分野ごとに車座で意見交換します。

第6回情報共有会議では前原氏(災害NGO結代表)が地域をきれいにする作戦を呼びかけた

24日に行った第6回会議では「今、現場では災害廃棄物の山、泥の山がたくさんあり無残な光景に。住民やボランティア、関係機関みんなで心を一つにして景色をきれいに一変させたい」と災害NGO「結」の前原士武さんが訴えました。また県災害時支援ネットワークは市災害ボランティア委員会と協働で、炊き出しや心のケアなどのボランティアをマッチングするシステムも準備しています。

穂保サテライト拠点でNGO(写真は青年海外協力協会)や市民グループも活躍(10/24)

今までに経験のない災害対応の混乱の中で、県と市や自衛隊、県内外のNPOや社会福祉協議会、そして小さな市民グループと一緒にスピーディな協働が求められています。「ここからが長期戦。在宅避難者の調査や支援活動もし、一人も取り残さず助けたい。みんなで一緒にがんばりたい」と第6回会議参加者が最後に呼びかけました。

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 

#生物浄化法による安全な水
関連する目標:  
ソーシャルライター 吉田百助
 2019.11.6

海外を旅行する際、生水を飲まないように注意を受ける。現地の水が合わずにお腹を壊すことがある。水道水が飲める国は世界でも十数カ国しかなく、蛇口をひねれば「きれいな水」が出る日本は希少な国。
ユニセフ(UNICEF:国際児童基金)のホームページには、「2017年時点、世界では22億人が安全に管理された飲み水を使用できず、このうち1億4,400万人は、湖や河川、用水路などの未処理の地表水を使用しています」とある。下グラフ参照

SDGs(持続可能な開発目標)のゴール6「安全な水とトイレを世界中に」のターゲット1は、「2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する」こと。水質の安全性に加え、必要な時にいつでも手に入れられる「安全に管理された水」を求めている。

安全な水、きれいな水、おいしい水を目指したみなさんの活動を表彰するとした「第21回日本水大賞」(主催:日本水大賞委員会/国土交通省)で2019年6月25日、「生物浄化法による安全な飲料水の普及」で国際貢献賞を受賞した中本信忠さん(信州大学名誉教授理学博士、NPO地域水道支援センター理事、NPO沖縄Blue Water理事)。同氏が案内する現地見学会があると聞き、長野県上田市を訪ねた。

1923年(大正12年)に建設され96年目になった現在も現役の染屋浄水場

水をきれいにする浄化のしくみ
「水が第一」にちなんで毎月第一水曜日(2019年は11月5日で終了)に見学会を開く上田市の染屋浄水場(上田市古里2250)。場内を見学しながら、中本信忠さんの説明を受けた。
同場の浄水方法は「緩速(かんそく)ろ過法」と呼ばれる。戦前の浄水はほとんどこの方法で行われていたそうだ。国内外で「小石や砂の層による物理的なろ過(砂の層にゆっくり水を流すことによって浄水する仕組み)」(英名Slow Sand Filtration)と考えられていた。
中本さんは長い研究の末、水をきれいにしていたのは砂ではなく、水中の多様な生物たちであることを発見した。砂の間に棲むバクテリアやプランクトン、藻など顕微鏡で見ないとわからないほどの微小な生き物が、水に含まれる不純物や濁りを体に取り込み、排せつ・発酵・捕食といった食物連鎖を繰り返して細菌やウイルスまで分解・除去している。「砂の層の表面にすんでいる生物群集の働きによって、水の汚れや雑菌を除去している」とし、名称を「生物浄化法」(英名Ecological Purification System)とした。

写真右から二人目、ハンドマイクをもって案内してくれた信州大学名誉教授の中本信忠さん。世界各地の浄水場で生物現象を調査し、生物群集による浄化の仕組みと方法を世界中で指導している。

コストいらずでエコな施設
この浄化場での人の役目は、生き物にやさしい環境を守ること。薬品も機械も電気も使わない施設は低コスト・省エネで、維持管理もメンテナンスも容易。自然の力を活かすだけで機械を使っていないので災害に強く、停電になっても断水することがない。薬品を使わないので、水道管などの設備が痛まず長持ちする。まさに持続可能な仕組み。簡易な施設であれば現地にある材料で手造りすることができるスマートテクノロジー(賢い技術)として、世界中に広がっている。
詳しい様子は、中本信忠さんのブログでさまざま紹介されている。


染屋浄水場の浄水濁度は0.000度。水道水基準で定められた浄水濁度2.0度と比べると、ものすごく いい水、安全・安心な水なのがわかる。口に含むと、とてもやわらか。口の中を刺激するものも匂いもなく、のどにしみ込むようなおいしさが広がる。

日本の主流「急速ろ過法」
日本の水道水を供給する施設の多くは、1960年から70年代に造られた「急速ろ過法」という方式を採用している。
川から取り込んだ水に凝集剤(ポリ塩化アルミニウム)を加え大型の機械で攪拌して濁りを沈め、臭気を活性炭で吸着し、塩素を加えて消毒。さらに薬剤処理で発生した大量の汚泥を処分しなければならないのが「急速ろ過法」。戦後「化学薬品が万能」と言われた時代から大量の殺菌剤などを使い、浄水場に藻が繁殖しないよう殺藻剤をまいた。
1974年には、アメリカの消費者団体が「急速ろ過処理では腐植物質が塩素と反応し発ガン物質が生成している」と警告し、大きな問題になったそうだ。(中本信忠さんの著書「おいしい水の探求-2」より)
日本の水道水の消毒に使用される塩素は、水道法で各家庭の蛇口で1リットルあたり0.1mg以上の濃度を保つように規定されている。一方、塩素が有機物と化学反応することにより、カルキ臭が発生するほか、発がん性が疑われるトリハロメタン(トリハロメタンのうちクロロホルムおよびブロモジクロロメタンについてはIARC(国際がん研究機関)においてGroup 2B(発がんがあるかもしれない物質)として勧告)を生成すると言われている。
さらに、大量に使用する薬剤は、機械や水道管などの設備も痛める。機械設備の維持・修理と交換・更新にも多額の費用と手間がかかっている。
ここまで聞くと、染屋浄水場の「生物浄化法」とは真逆な高リスク高コストの方法にしか思えない。

水道法の改正で水道事業はどうなる
2019年10月、水道基盤の強化を理由として「改正水道法」が施行された。老朽化した機械施設や水道管の更新などに多額の費用がかかる一方、人口減少に伴う水使用量減で水道料の減収が見込まれることから、水道事業に民間企業の参入を促すことを目的にしている。施設を自治体が持ちながら経営権限を民間へ売却する「コンセッション方式」の導入や、市町村の枠を超えて経営の一本化を探る「広域連携」といった検討がはじまっている。
世界を見ると、水道事業の民営化は1990年代に世界銀行とIMFなどの国際金融機関が水道民営化を債務国への融資条件としたことで各国に拡大していった。
ところが、PSIRU(公共サービス国際研究ユニット)のデータによれば、2000年から2015年の間に37か国235都市が民営化した水道事業を再び公営化に戻している。主な理由は、①水道料金の高騰、②財政の不透明性、③劣悪な運営、④サービスの低下など。民間企業側は、契約打ち切りで予定していた利益が得られなくなったと違約金の支払いを求め、アメリカのインディアナ州は仏ヴェオリア社に2900万ドル(日本円で約29億円)を支払っている。

中央の「ろ過池」には藻が繁殖している。光合成で酸素を生産し微小生物が活躍しやすい環境をつくっている。

気候と自然に恵まれた日本は、水にも恵まれている。多様な生き物の力を活かした「生物浄化法」は、環境にやさしく、経済的な負担も少ない。世界が認める持続可能な仕組みが長野県にある。生きるために欠かせない命を支える水を再認識し、これからの水道事業のあり方を注視していきたい。
(文責:吉田百助)

 

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#県民が誇れる「長野県産」を
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「長野県産」で子どもたちの健康を守りたい

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執筆 吉田 百助
 2019.2.7

いまは「安心」の長野県産農産物

店頭に並ぶ農作物に「長野県産」の表示を見つけると「安心」できる。さらに生産者に知った名前があれば、迷うことはない。見た目や値段にとらわれず「安心」を選べるのがうれしい。

そんな農産物が店頭から消える日がやってくるかも知れない。2018年4月に廃止された主要農産物種子法の影響が心配だ。戦中戦後に食料難の時代を経験した日本が、「食料を確保するためには種子が大事」という国の意思を現し、米・麦・大豆の優良な種子を安定的に供給することを都道府県に義務付けていた法律が、マスコミも取り上げることなく静かに廃止された。

さらに国は、種苗法で定める農林水産省令を改正し、農業者による「自家採取を原則禁止」した。これらによって、種子は毎年「企業から買わなくてはならないモノ」になった。

 

失われる多様性と脅かされる健康

種子を巡る同様の動きは、すでに世界各地で重大な環境問題を引き起こしている。企業は最大の儲けを追求するため、種子の種類を限定する。地域のニーズは関係ない。大規模な単一農業で、地域にあった生物の多様性が失われ、土壌劣化などの環境被害が起きている。もうひとつの問題は、企業が扱う「遺伝子組み換え種子」とセットの農薬が引き起こす健康被害だ。

 

食べものを選べない

種子が「企業から買うモノ」になり契約栽培に縛られれば、そこからできる農産物もすべて企業のものになる。種子を支配すれば、食も支配できる。「それしかない」社会では、消費者が買うものを選ぶことすらできない。食料の6割以上を輸入している日本で、国内栽培の種子までが企業に支配されたら、国民は「与えられたモノ」を食べることでしか生きられなくなる。

子どもたちの健康も守れない

失うのは食べものを選ぶ権利だけではない。健康への影響も心配だ。アメリカでは現在、Non-GMO(非遺伝子組み換え)有機農産物の消費が増え続けている。アレルギーや発達障害、内臓疾患、肥満、糖尿病、自閉症、うつ病などに苦しむ「子どもたちのため」を考えた母親たちの取組が、大きな社会現象になっている。

 

長野県産農産物の安心を守るには

もし、長野県内で「遺伝子組み換え作物」が栽培されるようになったら、「長野県産の農産物は安心」という信用はなくなってしまう。「安全性に疑問のある種子が栽培されている県」になるからだ。「うちは違う」と証明することも、下がった信用を取り戻すことも極めて難しい。

農業者の自由な栽培と消費者の選べる機会、子どもたちの健康を守れるとしたら、これまで長野県が守ってきた米や麦の種子を引き続き県が責任をもって生産・供給するともに、県産の価値を下げないため「長野県では遺伝子組み換えの米や麦を一切栽培しません」と、県が宣言し規制するしかない。これに、大豆やそば、野菜、果樹などを含めて県産の農産物すべてを対象にできれば、県は子や孫に世界にも誇れる「NAGANOブランド」を手にすることができる。その経済的な効果は計り知れないものになり、県民の大きな誇りになる。

 

(執筆:吉田 百助)

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#NPO法施行20年記念特集1
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NPOの運営、60代が中心、高齢化が浮き彫りに

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アンケート主体:ナガクル編集室 協力:ながの協働ねっと「市民とNPOのひろば編集委員会」
 2018.2.8

2018年12月で、特定非営利活動促進法(NPO法)が施行され20年を迎えます。同法は95年の阪神淡路大震災がきっかけとなり、98年3月に成立し、12月に施行されました。NPO法20周年記念「優良NPO活動に関する調査」を昨年12月に実施しました。運営とその課題部分の集計結果の一部を紹介します。

優良NPO活動に関する調査
ナガクル編集室(NPO法人長野県NPOセンター)が、ながの協働ねっと「市民とNPOのひろば編集委員会」に委託し実施しました。NPOの運営・資金調達・情報開示・広報に関する実態調査です。調査対象は、市内で設立登記  から10年以上経過し、28年度の予算が100万円以上の団体としました。県ウェブサイト公開書類で確認し、郵送による送付数は68団体、返信数は26団体でした。

9割以上がNPOのミッションを達成している

活動する中でミッション(使命)の達成度についての質問(図1)に、「ある程度ミッションは達成したと感じている」は38%、「ミッションの一部は達成できたと感じている」は54%で、多くのNPO法人が設立以来、目標を達成できているという結果でした。

 

34%が運営にあまり満足していない

 

それに対して、運営(経営)について満足していますかの問い(図2)には、「満足している」「まあまあ満足している」が66%、「あまり満足してない」が34%と運営の難しさがうかがえます。  

 

課題のトップ3は人材、そして協働の推進

運営上の課題について(図3)、スタッフの人材確保、高齢化、会員確保と、人材の問題がトップ3を占めました。資金調達が4位に入り、次に企業・地域・行政との協働が挙げられたのが特徴的で、NPO法人が単独の活動ではなく、さまざまな組織と協働することの必要性を課題と感じていることがわかりました。

 

60代がNPO運営の中心に! 課題はやがて後継者不足に

また特に大きな課題として挙げられた高齢化について理事の年代を調べた結果(図4)、理事の年齢について60代がもっとも多く96人、次に70代と50代が占める割合が高く20代はゼロでした。立ち上げ時から年月を経た今、後継者不足や世代交代が大きな課題となったことが浮き彫りになりました。

また、調査団体の中の各分野のNPO理事長に取材し、その成果や課題について話を聞きました。順次取材、トピックス頁に掲載していきます。(>トピックス>NPO紹介 参照)

(執筆:寺澤順子)

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。