#食料・生活用品200セット無料配布! 「長野きずな村」の活動と貧困の実態 
取材協力 反貧困ネット長野 長野きずな村実行委員会 執筆 ソーシャルライター大日方雅美
 2023.2.10


息が白くなるほど寒い師走の週末。12月17日の午前。長野市新田町にあるJAビル前のスペースで「年末ふれあい・たすけあい・きずな村」が開催された。
テントスペースには、この活動に賛同し集まったお米やりんごなどの食料と生活雑貨が並んでいた。事前申し込みと当日受付、あわせておよそ200セット分が生活に厳しさを感じている人々に無料で配られた。

リーマンショックの年、首都圏で始まった活動がきっかけで「長野にも必要な人がいるのでは?」という想いから2011年に「年末きずな村」がスタートした。年の瀬に、一瞬でもあたたかい食べ物を口にしてもらい、不安な気持ちや、悩みを外にだせる場所として、豚汁などの炊き出しや生活物資、食料品などの配布と同時に、弁護士による相談会などもおこなう。コロナ禍が始まった2020年からは夏にも開催し、今回で14回目だ。

きずな村運営委員会事務局の藤本ようこさんに「活動を行う上での課題は?」と質問すると、一瞬の間があった。

「一番はきずな村が不要になることが望ましいのですが、今は、続けていくことができるかどうか…私たちも余裕がなくなっていることも事実です。地域に暮らす人同士の良心によってのみ運営されている現状には限界があるんですよね…。でも必要な人のためにも、続けていかなくてはいけないですね…」

ある時には、「おまえらのやっていることは偽善だ。ここに来ている人間が本当に困っているのかどうか、わかったもんじゃない。こんなことは意味がないし、俺は嫌いだ!」と、テントのそばにわざわざ言いに来る人もいたそうだ。
「もちろん、いろいろな考えの方がいても当然ですが、それはやはり事実を知らないからなのでしょう。見た目にはわかりにくくても、実際に十分な食べ物が買えない、生活必需品が買えないという人はいるんです。貧困がこの社会に確実に広がっていることをどう伝え、知ってもらうかも大きな課題です」

先進国内で日本はワースト2という衝撃! 

 長引くコロナ禍での経済的打撃や、ウクライナ侵攻の影響による物価高、変わらぬ所得、とさまざまな状況から、多くの人が経済的な不安や厳しさを感じているものの、どれだけの日本人が「貧困」と聞いて自国のことだととらえられるだろうか?

 確かに日本では発展途上国に比べ「絶対的貧困」のケースが少ないことは明白だ。しかし「相対的貧困率」から見ると、先進国において日本はワースト2位。それだけ格差社会が広がっていることを表している。

「絶対的貧困」とは、国・地域の生活レベルとは無関係に、生きるうえで必要最低限の生活水準が満たされていない状態のこと。世界銀行では2015年時点で1日1.90ドル以下(約200円)で暮らす人の比率。

一方で、「相対的貧困率」とは、国全体の平均より低い所得で暮らす人の比率を指す。厚生労働省の「2019年 国民生活基礎調査」による相対的貧困の基準は世帯年収127万円とされ、相対的貧困率は15.7%に達している。つまり日本人口の6人に1人、約2,000万人が貧困ライン以下での生活を余儀なくされている。

引用 「2019年国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省) 抜粋


日本の子どもの6人に1人が「貧困」 

 筆者がもっとも直視すべきだと考えるショッキングなデータは、子どもの貧困率だ。

             引用 内閣府 子ども若者白書(平成26年度)
 

 その原因のひとつは、離婚の増加にともなうひとり親世帯の貧困があげられる。ひとり親世帯の貧困率はなんと50%を超えている。その多くが非正規雇用労働者であり、平均収入の低さが際立つ。

 長引くコロナ禍に、ロシアのウクライナ侵攻という非常事態が生活困窮に拍車をかけていることは事実だが、それはあくまで厳しい現実に追い打ちをかける要因の一つであって、今の日本の貧困問題、子どもたちの貧困問題を語るとき、自助努力だけで解決せよというには限界があると思う。

 私たちはまず社会的構造の問題によって「貧困を余儀なくされている」というケースがある現実を、正しく知ることから始めなければならない。

 未来を生きる子どもたちが、生まれた環境に左右されずに将来の選択肢を広げられる社会にすることが大人としての緊急課題だろう。 



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 #動物と人間の幸せのために必要な「アニマルウェルフェア」(動物の福祉)

動物と人間の幸せのために必要な「アニマルウェルフェア」(動物の福祉)

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執筆者:松井明子 (ナガクルソーシャルライター)
 2022.11.22

普及が進まない「アニマルウェルフェア」の考え方

人間に身近な動物というと、犬や猫を思い浮かべる方が多いかもしれません。

一方で、日ごろ食べている鶏、豚、牛などの家畜動物の生活を思い浮かべることはあるでしょうか。

できる限り苦痛を取り除き、動物にとって快適な環境で飼うという「動物の福祉」「アニマルウェルフェア」の考え方があります。

日本も加盟している世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関「国際獣疫事務局」(OIE)の勧告で、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されています。

人間が食用などに利用している動物たちに、なるべくストレスが少なく快適な環境で暮らしてもらうことが、実は私たち食べる側にとっても大事なことなのです。

農林水産省がアニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針等の普及を進めようと努めています。

残念ながら、日本では畜産動物の飼育実態が広く知られていません。採卵鶏の多くがバタリーケージ※飼育されていることを約7割の人が知らず、アニマルウェルフェアという言葉を約8割の人が知りません。(2022年 認定NPO法人アニマルライツセンターの調査結果)

※バタリーケージ…一羽あたり22㎝×22㎝ほどの金網のケージ

認定NPO法人アニマルライツセンター 2022年 畜産動物に関する認知度調査アンケート

アニマルウェルフェアを、飼育中だけでなくその先まで考える

採卵鶏は一般的に5ヵ月くらいに育ったヒナを入れて、1ヵ月程度慣らすと産み始めて、1年~1年半の間集中的に産ませて廃鶏にし、また5ヵ月くらいに育ったヒナを入れて…というサイクルで効率的に産卵させるそうです。

4、5年から長ければ10年程度生きるという採卵鶏。役目を終えた鶏たちを、身近な方に無償で譲っている養鶏農家さんがいると聞き、お話を聞いてみました。

上高井郡高山村で養鶏をしている高山村の平飼い卵(むらたま)」の村内倫子さんは、熊本県から移住し、自然に関わる仕事がしたくて移住先探しをしているときに高山村に出合いました。

養鶏の仕事を始める以前の仕事が激務で、食がおろそかになり体を壊してしまった経験から、食生活を大切に、食と環境、動植物と人の幸せのつながりを思うようになったそうです。

村内さんはヒヨコのうちから鶏舎に入れるので、成長するまで5~6ヵ月の空白期間ができます。取材に伺ったときはちょうどその移行期で新たに3期生となるヒヨコを入れる前のタイミングでした。

2019年4月に1期生30羽で開業。2020年5月に完成した運動場つきの鶏舎で2期生を飼い始めました。

ここの鶏たちは純国産鶏のあずさ。鶏たちが鶏舎のなかを自由に行き来する「平飼い」で飼育し、広々とした運動場で放牧をしています。鶏舎は1㎡あたり3羽でしたが2羽にしようとしているとのこと。鶏のつつき合いを防ぐために日本では一般的に行われているデビーク(くちばしを切る)もしていません。

また、一般的なバタリーケージは、ケージの下が傾斜していて、産み落とされた卵が転がり、卵が汚れず集めやすくなっていますが、むらたまの産卵箱は平らで、鶏たちがそれぞれお気に入りの産卵箱で産卵します。

1期生は自分のところで卵を食べたいという4家庭に全羽、引き取ってもらったそうです。

手間も時間もかかる鶏の里親探し。採卵鶏としてもう必要がない鶏の行く先をどうしてそこまで考えるのでしょうか。

「もちろん、うちの子たちを生かしたいという気持ちもあるけど、まずは鶏に興味を持ってもらいたいんです。『1年とか1年半しか産まないの?』と驚かれたり、1日1個か0かというペースで産むのに、『1日10個くらい産みますか?』と聞く人もいます。ポンポン簡単に産むわけではなく、本当に一生懸命産むんだよというのを間近で見る機会が少しでもあればいいなと思います。知識として知っているだけでも、全く知らないのと比べたら全然違います。でも、実際飼って経験してみると、知っているだけ見ているだけと全然違う理解度になる。経験って一番大事」

高齢の方にとっては、子どもの頃に庭先養鶏をしていた方も珍しくないそうですが、私は鶏を間近で見たこともほとんど初めての経験でした。

この子たちが一生懸命産んだ卵をいただいているのかと思うと、1個1個の重みがやはり違って感じられます。

村内さんは「限りある命、家畜と言えども生きているうちは幸せな生を全うしてほしい」と、アニマルウェルフェアへの思いを話していました。

一般家庭の庭先で鶏を飼う

鶏の飼育経験がない私は庭先養鶏をイメージするのが難しく、実際に村内さんから鶏を譲り受けた長野市の高橋有希さん宅を訪ねて、飼育の様子を見せてもらいました。

今年6月に高橋さん宅にやってきた鶏、りんごちゃん。

昨シーズンの大雪であまり鶏舎から出られず、むらたまの鶏たちにストレスがたまり、他の鶏たちにつつかれて首の後ろの羽毛がなくなり、地肌が見えている状態になっていた鶏なのだそうです。

エシカルとアニマルウェルフェアにずっと興味があったという高橋さんは、自宅の隣でパン屋を営み、りんごちゃんの鶏舎も同じ敷地内にあります。車道からは奥まったところにあるため、りんごちゃんが道路に出てしまう心配はないそうです。10月には新たにむらたまさんから2羽目を譲り受け、2羽が隣り合って砂浴びする姿も見られます。

「webでむらたまさんが鶏の里親を探しているのを知りました。ちょうど、生き物を飼いたいと思っていて。パン屋という職業柄、食べ物に関心があるので、鶏を世話することによって鶏が元気に卵を産んで、それが息子のお弁当に入る、そういうのを体験させたいと思いました」

高橋さんにとって鶏の飼育は初めてなので、食べ物などの飼育方法についてはむらたまさんがアドバイスをしています。

鶏というと、「コケコッコー!」と朝暗いうちからけたたましく鳴くイメージがあり、庭で飼えるのだろうかと気になりましたが、それはオスだけだそうで、メスのりんごちゃんは「コッコッコッ」と小さな声でさえずります。

今年5歳になる息子さんは、りんごちゃんが産んだ卵を採ってくるのが好きだそうで、りんごちゃんがおいしそうに虫をついばむのを、高橋さんと一緒になってじーっと見ているといいます。

鶏を飼うことですごく考えさせられます。人間に都合よく改良されて、短期間にたくさん産むように変えられてきた生き物に対して、さらなる仕打ちをするのかという気持ちがわきます。しっかり愛情をかけて世話をしてあげるのも人間の責任なのではないでしょうか

自分の意志で歩きたいところを散策し、虫がいそうなところをつつき、伸び伸び過ごしている姿に、なんだかほっとしてしまいます。

高橋さんは「幸せそうな動物から卵をもらえるというのは精神衛生的にいい」と笑顔を見せていました。

※鶏の飼育をする上での注意

家畜伝染病予防法に基づき、飼育目的や羽数に関わらず、毎年2月1日現在に何羽飼っているかと衛生管理の状況について、家畜保健衛生所に定期報告書を提出する必要があります。鳥インフルエンザ発生予防のため「飼育衛生管理基準」が決められています。

ストレスなく育った鶏はおいしい

採卵鶏だけでなく肉用の鶏の飼育についても知りたくて、中野市のIN THE VILLAGE FARM(インザヴィレッジファーム)の代表、中村栄介さんを訪ねました。

中村さんは、長野県で開発された、長野県オリジナル地鶏「信州黄金シャモ」を飼育しています。信州黄金シャモは、ブロイラーの血が一切入っていない100%在来種の地鶏で、長野県認定の生産者がブロイラーの2倍以上の時間をかけてじっくり育てています。

ブロイラーは通常約50日間で育てられるそうですが、中村さんの鶏は120日間かけて育てているそうです。

静岡県から移住して4年目。3年間は中野市の地域おこし協力隊員として、信州黄金シャモプロジェクトを進めてきました。

決まっていたのは活動テーマだけだったため、当初は鶏の肉の処理の仕方から学び、1年前からは現在の場所を借りてシャモを飼育しています。

鶏舎は3棟あり、それぞれ半分に分けて計6部屋を作り、200羽×6を飼育。生まれて3週間のヒナを畜産試験場から買い、3週ごと部屋を入れ替えて120日間育てます。

「50羽から始めて、いきなり頭数を増やさずに自分で管理できる数だけを飼育してきました」という中村さん。値崩れをさせず、鶏の価値に見合う値段を付けているといいます。

エサも試行錯誤で配合を調整。エサ代は高騰していて、中村さんが養鶏を始めたころの1.5倍の価格になっているそうで、エサには市内の米農家から提供してもらったくず米を混ぜています。

「エサにタンパク質が足りなくなると、鶏同士のつつきが始まります。今の配合になるまではつつきが収まりませんでした」

鶏は地面をつついてエサを探す生き物で、つつきたい欲求を持っているため、鶏同士のつつき合いが起きることがありますが、中村さんのように鶏への理解を深めることで、つつき合いを防ぐことができます。

一方で、日本国内の養鶏場の採卵鶏の80%以上は、つつき合いを防ぐためにクチバシを切断(デビーク)されているという現実があります。

クチバシを切断されれば、鶏は当然痛みを感じます。その後も慢性的な痛みを感じるとされ、切断面からの感染の恐れもあるといいます。ヨーロッパ諸国では、デビークを禁止している国もあります。

ウイルスから鶏を守るために、鶏にストレスを与えず、獣から鶏を守る。それを常識的にやっているだけで、今さら胸を張って言うことでもありません。商売でやっていることですから」と淡々と話す中村さん。生産者が、おいしい肉を生産するために試行錯誤していることが、結果的にアニマルウェルフェアにもつながっているというのは興味深いことです。

取材を通して、鶏肉や卵に関心を持っていたつもりが、養鶏場を目にしたこともなかったことを改めて反省する思いになりました。

日本でなぜこんなにもアニマルウェルフェアが進まないのか―やはり多くの人が実態を知らないことが大きいのではないでしょうか。安すぎる卵、安すぎる鶏肉はどうしてその価格になっているのか、どうやって飼育された鶏なのか、知った上で選択できる消費者になりたいと思いました。

取材:高橋有希さん(2022年7月26日)、高山村の平飼い卵(2022年8月9日)、IN THE VILLAGE FARM(2022年8月16日)

【関連サイト】

認定NPO法人アニマルライツセンター

高山村の平飼い卵(むらたま)

中野市のIN THE VILLAGE FARM(インザヴィレッジファーム)

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#動物と人間の幸せのために必要な「アニマルウェルフェア」(動物の福祉) に取り組む団体を探す
 #子ども食堂を通し、食の大切さ楽しさを考える

子ども食堂を通し、食の大切さ楽しさを考える

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寄稿: ナガクルソーシャルライター養成塾卒業生 中村健(プロフィールは文末参照)
 2021.3.25


つい最近、喉の疾患で、ものがまともに食べられない日が続きました。 そんな中、ものを食べたり飲んだりすることの難しさ・大切さを改めて思いました。食べなければ、確実に体重は減り体力は落ちて気力もなくなるということを、体験したのです。今はもと通りに食べられるようになって、食べれる喜び、楽しさを味わっています。

子ども食堂に参加して


以前、安曇野市で、3年程「おなかまキッチン」という子ども食堂のボランティアスタッフをしたことがあります。子ども食堂について書くと、書き切れないものがあります。

私が子ども食堂のスタッフとして関わり始めた理由は2つあります。1つは、「子どもの貧困」という言葉が遠い存在でないことに気がつき始めたということ。日本の経済格差が拡がり、「日本の貧困は“相対的貧困”」なんだからまだ良いのでは、などと言っていられない状態ではないかと思い始めていたことです。

2018年の発表では、7人に1人の子どもが貧困と、厚生労働省から発表されています。

私が関わろうとした子ども食堂は、“孤食”で寂しい思いをしている子どもたちに、みんなで一緒に食べることの楽しさを味わって欲しいというものでした。

実際、参加者の中には、貧困故に十分な食事ができないお子さんもいたのではないかと思います。

そして、もう1つの関わりの理由は、自分で作った野菜(特に芋類)が自家では食べ切れず、春になっても残っていて芽を出させてしまって、結局破棄することが続き、勿体ないなあと感じていたことです。
ここは、子ども食堂に食材として提供するのが一番と考えたのです。

イメージ写真(撮影:ナガクル編集デスク)

実際にスタッフとして協力して、私自身が得た物が沢山あります。子ども食堂の名前は「おなかまキッチン」。名前の通り、スタッフとしての“仲間”意識をもった人が集まりました。

子ども食堂に向けての準備会議が、とても楽しく、いろいろ勉強になりました。
当日に向けての準備には沢山やることがあります。一番大切なのは、メニューづくりです。だいたいの食材を想定して、そのつど、新しいアイデアが出てきます。みんなで1つの目標に向かっていろいろ意見交換していると、自然と一体感が出てきて楽しくなります。更にそこに、スタッフの子どもたちがいたりすると、益々「子どもたちのために」という、やりがいのようなものが出てきて、まさに「おなかま」で行なう、子どもたちが喜びそうな子ども食堂準備会議となっていくのです。

2時間あまりの時間の中での準備会ですが、いろいろな役割が必要なことがわかってきます。会場掲示係、食材係、調理班、受付、開場準備班(後にはイベント担当も)など、沢山の役割あるがありますが、準備会そのものも、それぞれ楽しみながらやったものです。

そして、当日の朝、親子が、少しずつやって来ます。
受付で、「こんにちは!」と言って迎えるスタッフ。
「よろしくお願いします」と親。
子どもたちも、少し恥ずかしながら「こんにちは!」
こんな感じではじまる「おなかまキッチン」!

調理が始まり、スタッフに混じって、キッチンで楽しく調理のお手伝いをする子ども。食事会場では、担当スタッフとカードゲームなどをしながら、食事ができるのを楽しみにしている子どもたち。

食事の用意がととのうと、みんなで用意したテーブルにつき、バイキング方式で自分の好きなものを好きな量だけプレートに盛り付け、席につきます。 
スタッフからメニューの内容についての紹介、材料を提供してくれた人の紹介などがあり、いよいよ「いただきまーす!」。子どもたちだけでなく、スタッフ全員も一緒になっての楽しい食事が始まります。

今想えば、懐かしくも、楽しい体験でした。

食は命、そして楽しく!


食べることは、生き物が生きていくためには欠かせないものであることは当たり前であり、水や空気と同じように、私たちの「命の大元」であり、「食は命!」であると思います。そして、栄養・安全面だけでなく、何にしても「楽しく食べる」ことこそ、人間に与えられた特権?であり、これを”享受”するに越したことはないと思っているところなのです。

《筆者中村健プロフィール》―9つ顔を持つ男―
①庭師(25年の経験) ②ファシリテーター(繋ぎ役、力引き出し役) ③ワークショップデザイナー ④SDGs翻訳家(SDGsを分かり易く解説する人) ⑤ツリーハウス「修復の家」管理人 ⑥「子どもの権利とSDGsについて語る会」代表 ⑦にわか俳諧師(季節毎の自然を俳句・川柳で語る) ⑧やまびこネット(地域づくりネットワーク長野県協議会)松本支部長・会長 ⑨ソーシャルライター

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 #虐待相談等長野で約2800件。出産直後の子育て支援を

途切れさせないために必要なものは?
~コロナ禍での子育て支援~

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執筆者:松井明子 (ナガクルソーシャルライター) 
 2020.11.27

年々増える児童虐待相談件数

児童虐待相談件数の増加は全国的に、そして県内でも課題になっています。

県内では、〈図1〉のように児童相談所への相談件数が過去5年間増加し続けており、特に児童虐待を含む養護相談は大幅に増加しています。令和元年度の養護相談のうち、実に7割以上が児童虐待に関する相談でした。

〈図1〉過去5年間の相談種別受付件数

長野県中央児童相談所発行「令和2年度版業務概要」より

〈図2〉養護相談の理由別相談結果

長野県中央児童相談所発行「令和2年度版業務概要」より

児童虐待相談が増えている要因の一つとして、産後うつや子育てへの不安、ストレスを抱える親へのサポート体制の不足があります。全体の子どもの数が減っているのに相談件数が増えているという現状を考えると、より細やかな支援が求められます。

家庭によって抱える問題は異なります。どんな内容のサポートが必要か、サポートする側にはどんなことが必要なのか。長野市内で事業を行う子育て支援団体に日々の活動について聞きました。

長野市で子育てしていて感じることは?

先日、長野県立大学(長野市)の財政学ゼミの3年生4人が、NPO法人ワーカーズコープ篠ノ井事業所が運営する「篠ノ井こども広場 このゆびとまれ」(長野市)を訪れました。子育て中の女性たちに、長野市で子育てしていて困っていることなど、子育ての現状をリサーチすると聞き、同席させてもらいました。

母親たちに子育ての困りごとを聴く長野県立大学生

乳幼児を連れた7人の母親が出席。実家が近い方、移住してきた方、育休中、専業主婦の方など、子育て事情は様々。「自分が病院に行きたいとき、健診を受けたいときに子どもを預ける先がない」という人がいる一方、「一時保育を頼みたいときに月初めに電話で予約しないと予約がいっぱいになってしまう」という切実な悩みが聞かれました。

その中で「外に出て、少しでも人の役に立ちたいけど、子どもがいるからできない。いつも『ありがとう』というばかり」という声が。孤独感を感じやすい子育て中に、どうしたら母親の孤立を防げるでしょうか。コロナ禍で、孤立の傾向はますます高まっています。

コロナ禍で制限される子育て支援事業

出産後、約10%の女性が経験すると言われる産後うつ。抑うつ気分や過度の不安などが2週間以上続くなどの症状が続くもので、出産後、数カ月以内に発症。産後は誰にでも発症の可能性があります。コロナ禍により、両親学級の休止、立ち会い出産、産後の面会の制限、コロナ禍による生活様式の変化などにより、ますます産後うつの発症リスクが高まっています。

篠ノ井こども広場では、母親に広場の存在を知ってもらうために、市の助産師・保健師による新生児訪問の際に利用案内をしたり、市立図書館の「赤ちゃんのおはなし会」で同広場のコンシェルジュが宣伝に行ったりと、周知活動を行っています。

感染対策で絵本やおもちゃの消毒を徹底している「篠ノ井こども広場このゆびとまれ」

しかし、現在はコロナ禍で広場の利用が制限されています。1日を1時間半ごとに3つの時間帯に区切り、年齢別に受け入れ。前日予約で時間帯ごとに親子12組かつ36人未満までに(2020年11月現在)。利用回数も週2回までに限定しています。以前は平日毎日、大人・子ども合わせて100人ほど利用。そのうち70人ほどが午前中に集中していたため、齋藤由美子館長「利用できない親子がどうしているだろうかと気がかり」と話します。

途切れさせず、すべての母親に届く支援を

若かったり、夫にDVの傾向があったり、親や親類を頼れないなど、孤立しやすい母親が孤独感を深めないように、周りが継続して支えていくことが大事です。そのために、一度ひろばに足を運んだ女性たちと関係を切らさない工夫が求められます。齋藤館長は、特に気になる家庭には地道に電話を掛け続けて、「丁度良いサイズの衣類があるから取りにおいで」「こんなイベントがやるよ」などと声を掛け、広場に来るきっかけを提案しているといいます。

それでも自分から救いの手を求めに動けない親もいます。しかも、コロナ禍により1カ所に多くの親子を集められないことも重なり、支援の手が簡単に途切れやすい状況になっています。

支援される親子を待つのではなく、支援する側がこちらから訪問するのも一つの方法です。そんな活動の1つに「ホームスタート」があります。イギリス発祥で全国100カ所以上で行われていますが、長野県内では長野市で、NPO法人ながのこどもの城いきいきプロジェクトが実施しています。養成講座を修了したボランティア「ホームビジター」が産前産後の母親の自宅を週1回2時間、4回訪問し、話を聴いたり、一緒に家事をしたりするなかで子育てへの不安な気持ちに寄り添います。ホームビジターは育児経験のある先輩ママのボランティアです。子育て支援センターに行く元気がなくなってしまっていたり、専門家に相談しづらい悩みを抱えていたりする母親に、ピンポイントで支援の手を差し伸べる活動になっています。

「こども広場じゃん・けん・ぽん」にあるNPO法人ながのこどもの城いきいきプロジェクト事務局

同ホームスタート担当者によると、2019年は利用者が少なく、コロナ禍になり更に利用者がほとんどいない状態が続いていましたが、8月から9月にかけて急増し、2020年11月現在で10件近くの家庭が利用中とのこと。事務局には、「コロナ禍で、実家と行き来できなくなった」「転勤で頼れる人がいなくて困り果てている」という切実な声が寄せられています。

ホームビジターで40代の女性は、夫が転勤族で知らない土地での子育ての大変さを経験し、自分の経験を生かせることを探しこの活動を知ったと言います。各家庭の状況によって、ホームスタートに求めることは違いますが、「まずは、話したいこと、伝えたいことなど、何でもどんどん言ってもらうよう、傾聴に徹します。後は、褒めたり、認めたり、肯定感を持ってもらえるようなサポートを心がけています」と話しています。

支援者側は、ただSOSを待っているだけでは、必要な時に必要な支援を届けることができません。SOSをキャッチするための関係づくりや、どんな状況の母親も取りこぼさない細やかな支援の形作りが重要です。形式だけではなく、地道な種まきの積み重ねが的確な支援につながっていきます。生まれてきた大事な命を一人でも多く救うために最も重要なのは、産後すぐの支援であり、スムーズに支援を行うためにも出産前から妊婦と関わり、途切らせない支援体制が必要です。

取材:2020年10月26日 篠ノ井こども広場このゆびとまれ

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 #クライシスサイコロジーの視点から新型コロナウイルス感染を考える
関連する目標:  
寄稿: 太田秋夫/HopeApple(穂保被災者支援チーム)代表、脳力開花研究所 クライシスサイコロジー アドバイザー 
 2020.5.14

こころのなかから不安を取り除くには

新型コロナウイルス感染が日本列島を襲い、国民を不安に陥れています。「緊急事態宣言」が出されたことにより経済活動もストップ状態で、こちらの面でも不安が広がっています。*クライシスサイコロジーの視点から、この現状と対応策を考えてみたいと思います。

クライシスとは「危機」「重大局面」のことです。そのとき人間の心理はどのようになるのか、どうすればよいのかをお伝えしましょう。不安と恐怖が蔓延している局面を乗り越え、暗闇から脱出する方法です。

人間はクライシスの状況に直面すると不安や恐怖を感じます。今回の新型コロナウイルス感染拡大でも、昨年10月の台風19号災害でも、「危機」に対して人間はそのような心理状態になります。脳のはたらきがそのときどうなっているかというと、大脳辺縁系(好き嫌いなどの感情基づく本能的な情動や記憶を司る部分)のなかにある偏桃体が活発に動きます。ここには恐怖や不安といった生命の危機に関わって本能的な行動を駆り立てる機能があり、交感神経を刺激し、心拍や血圧が上がり、全身の筋肉を収縮させるなどの身体反応も起こります。

この反応は危機に対して「攻撃」もしくは「逃避」するための本能的なはたらきで、危機から脱出するために人間に備わった本能的機能であり必要なはたらきです。しかし、問題になるのは、偏桃体が優位になると思考や認知・判断をする大脳皮質のなかの前頭前野のはたらきが低下してしまうことです。つまり、的確な判断や行動ができなくなってしまうのです。

そのため人間は意味不明な行動をとるようになります。今回のコロナ騒動でも、デマが広がってコロナとは無関係なトイレットペーパーがなくなり、在庫が十分にあると報道されてもなかなか買い占め行動がとまりませんでした。感染していない医療従事者のお子さんが登園するのを拒否した保育園もありました。理性がはたらいて考えれば、おかしな対応であることは明らかなのに不可解な行動に出てしまったのです。外出自粛のために家庭内でのDVが問題になっていますが、これも精神状態が恐怖と不安に巻き込まれているためと考えられます。県外の車両を傷つけるといった事件も起きていますし、海外ではマスクをつけていない人を殴るといったことも起きています。先が見えないためにうつ状態になる人も増えます。これらはいずれも前頭前野の思考が低下しているがための現象です。

正しい情報を自らの意思で入手し、客観的に判断することが大事

危機に直面すると偏桃体が不安・恐怖を呼び起こす。偏桃体のはたらきが優位になると、前頭前野のはたらきが低下して思考・判断力が鈍る。

 次に、どうすればよいかということですが、前頭前野を正しくはたらかせ、偏桃体の動きにコントロールされないように(つまり恐怖・不安に支配されないように)する必要があります。そのためには、正しい情報を自らの意思で入手し、高所対処にたって判断することが大事です。テレビや新聞などのメディアから流れてくる情報をうのみにしていると不安が増幅するばかりです。ちょっとでも咳が出たり喉が痒かったりすると「自分が感染しているのでは」と不安になる人がたくさんいます。それは、「自分もすでに感染しているかもしれないと思って外出を控えてマスクをし、人にうつさないように」と連日脳に刷り込まれているからです。

日本の感染者確認数は5月5日現在、1万6067人で、死亡者は579人です。これを抑えるために外出自粛や三密防止をするのは当然ですが、実は毎年冬季におなじみになっているインフルエンザは、昨年の冬は1200万人(今年の冬は激減して730万人)が感染し、3300人が死亡しています。交通事故の死亡者も一時1万人を超していたものが年々減少したものの、年間3000人以上が犠牲になっています。今回のコロナとは比較にならない大量の感染者と死亡を出している現実があります。

長野県の感染確認者は72人(5月5日現在)です。人口比でいうと、およそ3万人のうち1人です。確認されていない人もこの何倍かはいるでしょうが、それでも圧倒的な人は感染しておらず、根拠なく隣の人が感染しているかも知れないと不安に思う必要はまったくありません。しかし、日々のメディアの報道だけに接していると正しく判断ができなくなり、不安が深まるばかりです。前頭前野が得た情報を何の判断もなく受け入れると偏桃体の恐怖を増幅させてしまう危険があります。意識的に情報を選択し、正しく判断できるようにしましょう。

正しく恐れることが何より大事です。新型コロナウイルスの感染は飛沫感染と接触感染です。マスクの着用と手洗い・消毒が基本です。対面での食事を避け、三密を守れば感染のリスクは下がります。人と人とが接近したら伝染するわけではありません。前頭前野を働かせ、偏桃体の動きに支配されるのでなくコントロールするようにしましょう。

新型コロナ感染予防の国民的取り組みの効果からか、今年のインフルエンザが前年の6割に激減しています。コロナの予防策といっしょだからです。メディアで判断材料となる数値もようやく発表されるようになってきました。一時より再生産数が下がっているのも嬉しい情報です。頭をはたらかせて不安を取り除き、新しい生活スタイルを確立しながら暗闇から抜け出しましょう。

*クライシスサイコロジーとは/クライシスは「危機」「重大局面」、サイコロジーは「心理」「心理学」という意味で用いています。クライシスサイコロジーは機能脳科学者が提唱する新たな学問体系で、感染症流行や災害時の対応を心理面からアプローチするものです。

寄稿・文責: ゲストライター: 太田秋夫さん/HopeApple(穂保被災者支援チーム)代表、脳力開花研究所 クライシスサイコロジー アドバイザー 

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

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 #食料自給率を高めるカギは学校給食だ!
関連する目標:  
文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助
 2020.2.29

国内の食料消費の63%が国内でまかなえていない

「平成30年度のカロリーベース食料自給率は37%」と、農林水産省のホームページを見るとある。食料自給率とは、国内の食料消費が、国産でどの程度まかなえているかを示す指標だとしている。

つまり国内の食料消費の63%が国内でまかなえていないということだ。食料自給率の⻑期的推移を示すグラフで前述したカロリーベースは、中ほどの青線。年々下がっているのが分かる。

農林水産省ホームページ「食料自給率とは?」より

 

同省のホームページには「先進国と比べると、アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%となっており、我が国の食料自給率(カロリーベース)は先進国の中で最低の水準」とあり、下のグラフも示されている。(なぜ1位のカナダと2位のオーストラリアを除くコメントになっているのだろうか)

 

国別グラフ

 

日本の食料施策とその結果分析に疑問

食料自給率が低下した説明を同省は「平成30年度においては、米の消費が減少する中、主食用米の国内生産量が前年並みとなった一方、天候不順で小麦、大豆の国内生産量が大きく減少したこと等により、37%となりました」とし、米の消費減少と天候不順が原因らしい。

平成27年3月に策定された「食料・農業・農村基本計画」では、食料自給率の目標として、「供給熱量ベースの総合食料自給率を平成37年度に45%」を掲げているが、その達成に向けて国がなにをしてきたのか。この一年どういう策をもって何をしたのか、その成否の結果が数字として表れたという説明があってもいいのではないか。国の策を抜きにして、天候不順のせいにしたような説明は納得しがたい。

不可解な説明は、同省の別資料「平成30年度 食料自給率・食料自給力指標について」にもある。「食料自給率は、米の消費が減少する一方で、畜産物や油脂類の消費が増大する等の食生活の変化により、長期的には低下傾向が続いてきましたが、2000年代に入ってからは概ね横ばい傾向で推移しています」と、食生活の変化が要因になっていて、ここにも国の策は見られない。

そもそも1期前の平成22年に策定された同基本計画では、「平成32年度の供給熱量ベースの総合食料自給率50%」と目標を設定していたにも関わらず、その目標を下げてもなお達成への道筋はまったく見えていない。
その一方で、食生活の変化がなぜ起きたのか歴史をさかのぼると、はっきりとした国の策が見えてくる。

 

米の消費が減少する代わりに増えたのは、小麦

団塊の世代には懐かしいコッペパンが、国民の食生活を変える一因になった。学校給食のはじまりである。全国学校給食会連合会のホームページ「学校給食の歴史」によると、昭和25年7月、「8大都市の小学校児童に対し、米国寄贈の小麦粉によりはじめて完全給食が実施」とあり、翌年から全国すべての小学校が対象になる。昭和31年には、「『米国余剰農産物に関する日米協定等』の調印により、学校給食用として小麦粉10万トン、ミルク7,500トンの贈与が決定される。」とある。

贈与とは気前が良いなと思っていたら、アメリカは1954年(昭和29年)に農産物を輸出する法案PL480法「農業貿易促進援助法(余剰農産物処理法)」を成立させていた。大量の余剰農産物の保管に係る経費が莫大で、国家財政が危機的状況にあるから輸出しようという法律であった。
なんとアメリカの余剰農産物を消費するために、日本の学校給食が利用され、それまでの米食からパンへと日本人の食生活が大きく変えられてしまった。はじめは「贈与」だったが、それから日本はアメリカの余剰小麦を買い続け、現在では輸入小麦の51%がアメリカ産になっている。(財務省「貿易統計」より)
コッペパンととも懐かしい脱脂粉乳も、アメリカが抱えていた膨大な余剰物資だったらしい。

もうひとつ、昭和30年頃から日本人の食生活を大きく変えた運動があった。「1日1回はフライパンを使う」という「フライパン運動」だ。「米では栄養不足になる」というネガティブキャンペーンの一方で、「高カロリーの油を使え」、「もっと粉食を」と、厚生省がつくった財団法人日本食生活協会の「栄養改善車(キッチンカー)」が全国を駆け回った。

食の風土記より

写真は「信州ながの食の風土記-未来に伝えたい昭和の食-」長野県農村文化協会編より、「キッチンカーで油を使ったフライパン料理の実地指導(昭和30年代、松代町にて)」

キッチンカーの写真は、公益財団法人 日本栄養士会のホームページにある「沿革」内で見ることができます。昭和29年7月

「偏りがちな栄養を正しく摂取するために」と、パンケーキやスパゲティ、ベーコンエッグ、オムレツなどの調理を実演し、油料理を勧めるキッチンカー。学校給食で小さな頃からパンと牛乳を当たり前に食する子どもたち。それまで日本の食卓になかったカタカナ料理が大々的に普及し、小麦と油、肉、卵、乳製品などの消費が伸びていく。国の策によって、日本人の食生活が大きく変えられた。
油脂の原料となる大豆は現在、輸入量の72%がアメリカ産。畜産物の飼料となるトウモロコシは、輸入量の92%がアメリカ産になっている。(財務省「貿易統計」より)

 

学校給食にご飯

昭和50年代になって学校給食にご飯が登場する。導入の理由は、子どもたちためではなかった。当時、食糧管理制度による政府全量買入の下で政府在庫に膨大な過剰在庫(昭和40年代に第1次過剰、昭和50年代半ばに第2次過剰)が発生し、古米・古古米と積み重なる過剰米の処理に困った政府が学校給食への利用をはじめたためだ。
昭和30年代にアメリカの過剰小麦を処理し、次に国内の過剰米を処理する役目を負わされた学校給食。米の生産調整(減反)が本格的に開始されたのも、この頃だった。

 

変わりはじめた世界の学校給食

近年、学校給食に新たな取り組みが見られるようになった。アメリカでは、「ミートレス・マンデー」に取り組み、月曜日は「肉を使わない給食」を提供している。フランスでは、「週に1回のベジタリアン給食」。韓国では、有機農産物を用いた学校給食の無償化へ動き出した。(詳しくはWEBで検索を)
ミートレスもベジタリアンも、脂質と油を摂り過ぎている子どもたちの健康を改善し、畜産業が排出する二酸化炭素を抑制して地球温暖化対策に貢献することができる。もとは、イギリスのミュージシャンであったポール・マッカートニーらの呼びかけで2009年から始まった「ミート・フリー・マンデー(週に1度は肉を食べない日を設けよう)」という活動だった。

カロリーベース食料自給率が37%にまで下がった日本。過剰農産物の処理に利用され変遷してきた学校給食が、次に目指すのはなにか。世界の動きにならってミートレスと有機農産物の利用に取り組めば、子どもたちの健康と地球の未来のためになる。地元の農業者が子どもたちのためを思いながら丁寧に育てた作物を学校給食で提供すれば、地域に活気が生まれる。それまでどこかへ支払っていた給食費が地元の農業者へ支払われるようになれば、経済の地域循環も生まれる。

農薬と化学肥料で育てた栄養価の乏しい作物。まるで工場のような畜産。残留する化学物質やホルモン剤。超加工品と言われる添加物だらけの食品。産地や素材が分からない加工品。遺伝子組み換えやゲノム編集技術を使った未知の食…。
現代社会に溢れる「子どもたちに食べさせて良いのか?」と疑問視せざるを得ない食を避けるためにも、地元で育てた有機農産物を学校給食で提供すべきだろう。

若いうちから生活習慣病(予備軍)に悩まされ、「2人に1人が、がんになる時代」と当たり前のように言われている日本人。(詳しくはWEBを参照)

一般財団法人 日本生活習慣病予防協会

公益財団法人 日本対がん協会

米からパンへ、油と肉の大量消費へと食生活を大きく変えてきた国策の歴史がありながら、現在の政府は食料自給率の低下を横目に思い切った打開策を打ち出すこともない。
日本には、世界無形文化遺産になった「和食」がある。先人たちの長年の知恵が詰った郷土食伝統食ひらがな料理がある。味噌や納豆など体に良い発酵食品がある。世界が着目する健康的な「和食」を本家の日本人が見失ってはならない。
子どもたちのために、できること。国の策を待つことなく、地域からできること。
学校給食で変えられた食生活であれば、もう一度学校給食を変えればいい。キッチンカーが有効であれば、地域に走らせればいい。国全体の数字は上がらなくても、地域の食料自給率を高めることならできる。

2020年2月に発足した「信州オーガニック議員連盟」の活躍に大いに期待する。
信州オーガニック議員連盟 結成、NPOとコラボに期待

文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 

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 #健康づくりは、子どもの頃からの食育の積み重ねが大切
関連する目標:  

今、子どもの食が危ない! 食育の積み重ねを

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文責: ソーシャルライター 野菜ソムリエプロ:増田朱美
 2020.2.17

今、子どもたちの食が危ない。

 

2020年1月29日、長野県長野保健福祉事務所を会場に

「令和元年度長野地域 健康づくり・食育フォーラム」が開催された。

このイベントを通して、長野県における子どもたちの食育の重要性を考えたい。

NPOと行政が手を組んで、子どもたちの食育を支える必要性があるのではなかろうか。

長野県が独自のアンケートを実施し策定した

「長野県こども若者支援総合計画 ~子ども若者未来の応援~2018-2022」

を見ると・・・・・

小中学生の9割は朝食をとっいてる一方で、

約半数しかバランスの良い朝食を摂れておらず、約2割の児童生徒が、

副菜なしの朝食となっているなど、

望ましい食事内容となっていない子どもがいたとしている。

1月29日の健康づくり・食育フォーラムの冒頭、

長野県立大学健康発達学部長:笠原賀子氏は

「持続可能な食育の推進にむけて ~地域の野菜と果物で健康づくり~」の

をテーマに講演を行い、

SDGsの17の目標すべてが「食」に関連している。

その中、長年の生活習慣は変えないほうがよい。

それには、幼少期からの生活習慣を教育で積み重ねていくことが大切と提起した。

 

 

続いて長野地域(長野市、須坂市、千曲市、坂城町、小布施町、

高山村、信濃町、飯綱町、小川村)で

              日頃の「信州の食でつながる 人づくり・地域づくり」を テーマとして

食育活動を発表する3団体が発表。

長野市を活動拠点とし、10年間食育活動を続けている、

NPO法人「食育体験教室・コラボ」理事長の飯島美香さんは

「朝、味噌汁飲んできた人?と子どもたちに問うと、

クラスの半数以下しか食べていない。

私たちのNPOはこれからの未来を生きる子ども達が

自らの力で生き抜く術を身に着けるお手伝いを活動をしている。

子どもと母親に寄り添い続けている

と発表。

このNPOはキッズファーム、弁当の日応援プロジェクト、

おでかけみそフェスタ、和食の日などの取組をしている。

味噌の生産量日本一の長野県。

このイベントで健康効果も説明しながら「みそボール」づくりを出展。

子どもでも手軽に作ることができる「みそボール」は、様々なイベントで大好評だ。

 

また、信濃町立柏原保育園での取組「地域の文化にちなんだ活動と献立」

信濃町教育委員会管理栄養士:小林真澄さんより紹介された。

 

信濃町に生まれた、俳人:小林一茶にちなんだ献立を取り入れている。

1例として、5月5日は、一般的には「こどもの日」だが、一茶誕生の日。

子どもたちに、「5月5日はなんの日?」と問うと、

「一茶の誕生日!」と答えるまでになっている。

 

 

 

 

もう1団体は、飯綱町食生活改善推進協議会。

会長:黒栁美和子さんから「地域に密着した食育活動」として、

2歳児向けの食育シアターの実施、

男性向けの料理教室など、地域に密着した活動が報告された。

 

課題は、会員数の減少と会員の高齢化と

農繁期に活動できる会員が限られてしまうこと。

 

「今後は、子どもを通して、子育て世代の保護者にも向けた

食育活動の実施に力を入れたい」と述べた。

 

このフォーラムは、

長野地域振興局を中心に、

おいしい果物を活かした地域活性化を図る「長野果物語り」を展開している中、

地域の特性を活かしながら、健康づくりと食育、

そして地域づくりの推進を図る目的で、

長野県長野保健社会福祉事務所の主催で開催されたもの。

 

会場には、食生活改善推進業議会、

農業委員、栄養士、JA職員などの160名ほどの大人に混じり、

教師の引率のもと、食を勉強している高校生も参加している姿も見られた。

 

開会前には、須坂健康スムージー等の試食提供や、

フォーラム途中に健康体操の実演も行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

まとめ

 

現在、小児生活習慣病が増えている。

朝食や昼食などの欠食や、野菜類が少ない偏った食事などの要因により、

小児肥満に加え、栄養失調も起因の一つと言われている。

 

 

これを機会に、

それぞれの団体が繋がり、それぞれの実績等を共有し、

食育活動の輪が広がることを期待したい。

 

 

「子どもに伝える」

 

 

 

小さなうちから食事の大切さを伝えていくことは

大人の大切な役目であると思われる。

 

ほんの少し前まで食事は各々「箱膳」を使っていた。

そして小学生になると自分専用の「箱膳」が与えられる。

 

食事をしながら作法、食事の内容、

その食事に関わっている多くの人達に感謝の心等も

大人から子どもたちへ伝えながらだったという。

 

 

長野地域及び長野県内の子ども達は

もっと健やかに過ごすことができ大人となり、

そして将来、自身が子どもを育てるとき、

それを継続して伝えていく大人となることを期待したい。

 

(文責: ソーシャルライター 野菜ソムリエプロ:増田朱美)

 

 

 

 

 

 

 

 

ナガクルは国連が提唱する

「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。

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 #生物浄化法による安全な水
関連する目標:  
ソーシャルライター 吉田百助
 2019.11.6

海外を旅行する際、生水を飲まないように注意を受ける。現地の水が合わずにお腹を壊すことがある。水道水が飲める国は世界でも十数カ国しかなく、蛇口をひねれば「きれいな水」が出る日本は希少な国。
ユニセフ(UNICEF:国際児童基金)のホームページには、「2017年時点、世界では22億人が安全に管理された飲み水を使用できず、このうち1億4,400万人は、湖や河川、用水路などの未処理の地表水を使用しています」とある。下グラフ参照

SDGs(持続可能な開発目標)のゴール6「安全な水とトイレを世界中に」のターゲット1は、「2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する」こと。水質の安全性に加え、必要な時にいつでも手に入れられる「安全に管理された水」を求めている。

安全な水、きれいな水、おいしい水を目指したみなさんの活動を表彰するとした「第21回日本水大賞」(主催:日本水大賞委員会/国土交通省)で2019年6月25日、「生物浄化法による安全な飲料水の普及」で国際貢献賞を受賞した中本信忠さん(信州大学名誉教授理学博士、NPO地域水道支援センター理事、NPO沖縄Blue Water理事)。同氏が案内する現地見学会があると聞き、長野県上田市を訪ねた。

1923年(大正12年)に建設され96年目になった現在も現役の染屋浄水場

水をきれいにする浄化のしくみ
「水が第一」にちなんで毎月第一水曜日(2019年は11月5日で終了)に見学会を開く上田市の染屋浄水場(上田市古里2250)。場内を見学しながら、中本信忠さんの説明を受けた。
同場の浄水方法は「緩速(かんそく)ろ過法」と呼ばれる。戦前の浄水はほとんどこの方法で行われていたそうだ。国内外で「小石や砂の層による物理的なろ過(砂の層にゆっくり水を流すことによって浄水する仕組み)」(英名Slow Sand Filtration)と考えられていた。
中本さんは長い研究の末、水をきれいにしていたのは砂ではなく、水中の多様な生物たちであることを発見した。砂の間に棲むバクテリアやプランクトン、藻など顕微鏡で見ないとわからないほどの微小な生き物が、水に含まれる不純物や濁りを体に取り込み、排せつ・発酵・捕食といった食物連鎖を繰り返して細菌やウイルスまで分解・除去している。「砂の層の表面にすんでいる生物群集の働きによって、水の汚れや雑菌を除去している」とし、名称を「生物浄化法」(英名Ecological Purification System)とした。

写真右から二人目、ハンドマイクをもって案内してくれた信州大学名誉教授の中本信忠さん。世界各地の浄水場で生物現象を調査し、生物群集による浄化の仕組みと方法を世界中で指導している。

コストいらずでエコな施設
この浄化場での人の役目は、生き物にやさしい環境を守ること。薬品も機械も電気も使わない施設は低コスト・省エネで、維持管理もメンテナンスも容易。自然の力を活かすだけで機械を使っていないので災害に強く、停電になっても断水することがない。薬品を使わないので、水道管などの設備が痛まず長持ちする。まさに持続可能な仕組み。簡易な施設であれば現地にある材料で手造りすることができるスマートテクノロジー(賢い技術)として、世界中に広がっている。
詳しい様子は、中本信忠さんのブログでさまざま紹介されている。


染屋浄水場の浄水濁度は0.000度。水道水基準で定められた浄水濁度2.0度と比べると、ものすごく いい水、安全・安心な水なのがわかる。口に含むと、とてもやわらか。口の中を刺激するものも匂いもなく、のどにしみ込むようなおいしさが広がる。

日本の主流「急速ろ過法」
日本の水道水を供給する施設の多くは、1960年から70年代に造られた「急速ろ過法」という方式を採用している。
川から取り込んだ水に凝集剤(ポリ塩化アルミニウム)を加え大型の機械で攪拌して濁りを沈め、臭気を活性炭で吸着し、塩素を加えて消毒。さらに薬剤処理で発生した大量の汚泥を処分しなければならないのが「急速ろ過法」。戦後「化学薬品が万能」と言われた時代から大量の殺菌剤などを使い、浄水場に藻が繁殖しないよう殺藻剤をまいた。
1974年には、アメリカの消費者団体が「急速ろ過処理では腐植物質が塩素と反応し発ガン物質が生成している」と警告し、大きな問題になったそうだ。(中本信忠さんの著書「おいしい水の探求-2」より)
日本の水道水の消毒に使用される塩素は、水道法で各家庭の蛇口で1リットルあたり0.1mg以上の濃度を保つように規定されている。一方、塩素が有機物と化学反応することにより、カルキ臭が発生するほか、発がん性が疑われるトリハロメタン(トリハロメタンのうちクロロホルムおよびブロモジクロロメタンについてはIARC(国際がん研究機関)においてGroup 2B(発がんがあるかもしれない物質)として勧告)を生成すると言われている。
さらに、大量に使用する薬剤は、機械や水道管などの設備も痛める。機械設備の維持・修理と交換・更新にも多額の費用と手間がかかっている。
ここまで聞くと、染屋浄水場の「生物浄化法」とは真逆な高リスク高コストの方法にしか思えない。

水道法の改正で水道事業はどうなる
2019年10月、水道基盤の強化を理由として「改正水道法」が施行された。老朽化した機械施設や水道管の更新などに多額の費用がかかる一方、人口減少に伴う水使用量減で水道料の減収が見込まれることから、水道事業に民間企業の参入を促すことを目的にしている。施設を自治体が持ちながら経営権限を民間へ売却する「コンセッション方式」の導入や、市町村の枠を超えて経営の一本化を探る「広域連携」といった検討がはじまっている。
世界を見ると、水道事業の民営化は1990年代に世界銀行とIMFなどの国際金融機関が水道民営化を債務国への融資条件としたことで各国に拡大していった。
ところが、PSIRU(公共サービス国際研究ユニット)のデータによれば、2000年から2015年の間に37か国235都市が民営化した水道事業を再び公営化に戻している。主な理由は、①水道料金の高騰、②財政の不透明性、③劣悪な運営、④サービスの低下など。民間企業側は、契約打ち切りで予定していた利益が得られなくなったと違約金の支払いを求め、アメリカのインディアナ州は仏ヴェオリア社に2900万ドル(日本円で約29億円)を支払っている。

中央の「ろ過池」には藻が繁殖している。光合成で酸素を生産し微小生物が活躍しやすい環境をつくっている。

気候と自然に恵まれた日本は、水にも恵まれている。多様な生き物の力を活かした「生物浄化法」は、環境にやさしく、経済的な負担も少ない。世界が認める持続可能な仕組みが長野県にある。生きるために欠かせない命を支える水を再認識し、これからの水道事業のあり方を注視していきたい。
(文責:吉田百助)

 

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 #成人移行期支援始まる

小児患者から成人へ 「成人移行期支援」とは?

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文責:西山春久
 2019.3.21

現在、移行期支援というワードが全国の小児医療の中で大きな話題となっている。

小児期に慢性的な治療を要する病気を発症した患者が成長し、成人科医療へとシフトしていくことをいう。近年の医療技術や薬品技術等の進歩により、今まで治らないとされてきていた小児慢性期疾病(子どもの時より長く治療や管理が必要な病気)が緩和、治療できるようになってきた。

一方、小児から成人への切り替えができていないため、現在小児科が飽和状態になっている。

具体的な数としては、2016年に全国で多くの難治患児を診る医療機関5施設を調査した結果、通院入院含めた全患者の内、移行期支援の対象者とされている15歳~19歳が8.5%、20歳以上は4.8%となっている。その数は年々増えてきており、30、40代になっても小児科に通っている人もいる。

移行期医療の課題は、医療側と患者側の両面にある。

医療者側の主な課題は、①患者の加齢に伴う症状や合併症の変化への対応が確立されていない、②小児科の専門外である子どもにはみられない病気(成人病等)を発症した場合の対処が十分できない、③先天性の難治疾病を診る成人科医師が少ないなどが挙げられる。

患者側の課題は、①幼い時から信頼している医師にずっと診てもらいたいという希望と、いつまでも小児科には通いたくないという葛藤②年齢が成人領域に入ったという理由で主治医を変えさせられるのではないか不安などが挙げられる。患者・家族ともに幼い頃からの環境からの脱却ができていないことも理由のひとつだ。

移行期には成人科の医師に対する小児慢性疾患への知識・経験の付与、小児科医と成人科医師との連携、移行に向けた患者・家族への教育などが求められる。

症状をトータルで診る小児科と異なり、成人科は各科の専門性が強い。

小児科の時は、主の病気のついでに別の症状も診てくれることがあるが、成人では難しい。そのたびに別な科を受診する必要がある。

採血や点滴をとる時も、小児科では針を一度刺して、そこから採血と点滴の確保を両方行うが、成人科では採血と点滴をとるのは別なことが多い。

こうした小児科と成人科との間にあるギャップに悩む患者や家族もいるのだ。

長野県立こども病院では2018年4月2日より、「成人移行期支援外来(現在循環器の元木医師の外来については成人先天性心疾患外来(成人先天心)へ名称変更された)」が始まった。患児が自分の病気と向き合いながら理解を深め、成人科・小児科の医療者と連携しながら、自立と社会参画を計画的に支援していくことが期待されている。

(文責:西山春久)

 

 
 

 

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 #認知症グループホームの一つの現実
寄稿:そよかぜ
 2019.3.15

私の母は83歳、認知症。13年前父が急逝してから少しづつ症状が出始めデイサービス2ヶ所を経て今のグループホームで生活して2年になる。

日本認知症グループホーム協会によると認知症グループホームは「認知症の人にとって生活しやすい環境を整え、少人数の中で「なじみの関係」をつくり上げることにより、 生活上のつまづきや認知症状を軽減し、心身の状態を穏やかに保ち、過去に体験した役割を見出すなどして、潜在的な能力に働きかけ、認知症の人の失いかけた能力を再び引き出し、本人らしい生活を再構築することが可能」としている。できることは引き続きやりつつ、少しづつできなくなっていくことはまだできる人や施設職員の手助けを得て母らしく生活していけるようにと、当時入居できる施設を探したが現実には多少の手助けで生活できる人より身体的に常時介助の必要な高齢者が入居しているケースが多かった。母のように膝も腰も年相応にあちこち痛い程度の者は入居優先度が低い。

長野市では65歳以上の高齢者の独居もしくは夫婦世帯が51%を超えている(2015年・長野市「あんしんいきいきプラン21」)。少子化と晩婚化の中で、子育てをしている家庭に高齢の親を迎えて暮らすのは実際相当難しい。北欧デンマークやスウェーデンでは同居率は数パーセントしかないという(「諸外国における介護施設の機能分化等に関する調査報告書」厚生労働省)。介護や福祉の社会化が進んでいるのだ。日本もそういう社会を目指しているが、長野市のデータで見ると高齢者福祉施設の定員のうち半分以上は特養や老健などの介護保険施設が占めている。これらの施設の利用は介護度の高い人であり、母のような介護度の低い認知症に対応するグループホームは2017年度末で定員は780人、この先3年の整備計画でも90人の増加にとどまっている。

 

介護施設職員の待遇と離職率

そして施設の担当職員はよく変わる。2017年の介護施設職員の離職率は16.7%(介護労働安定センター調査)、6人に1人はやめてしまうのが現状で、私が把握しているだけで、退職のほか系列の施設への移動という名目も含め母が入居してからの2年間に18人の職員のうち56人の職員が入れ替わっている。このグループホームは1ユニット9人で2ユニット18人が入居しているが、平屋ではないため入居者同士の12階の交流はほとんどないが職員の交代はよくある。入居者全体を職員全体で見る、という説明だが私も母も少し慣れたと思うと別の階の担当になりましたと挨拶されたりする。施設長との面談の中で「どうしても若い人は続かない、給料が安いから。これから結婚を考えている人や子育て中の家庭の人は辞めていく」と話してくれた。

 

実際厚労省の調査によると、10年以上勤務する介護職員の給料の平均は20179月時点で326,620円だが、政府は「人づくり革命」として2017年12月、10年以上同一の事業所で働く介護福祉士の給料を月額8万円アップを目指すと発表し、2018年10月の社会保障審議会介護給付費分科会では、2019年10月以降の新たな処遇改善の方針が提示された。実際の現場では就業10年以内の若い人たちが数多く働いていて、その世代の給料アップにはなかなかならず決して十分とは思えないが、認知症が今後増えていくと言われる中で、介護職員の職場環境が少しでも長く働ける方向に変化していくことは意味のあることだと思う。

(執筆:ペンネームそよかぜ)

 

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