#生物浄化法による安全な水
ソーシャルライター 吉田百助
 2019.11.6

海外を旅行する際、生水を飲まないように注意を受ける。現地の水が合わずにお腹を壊すことがある。水道水が飲める国は世界でも十数カ国しかなく、蛇口をひねれば「きれいな水」が出る日本は希少な国。
ユニセフ(UNICEF:国際児童基金)のホームページには、「2017年時点、世界では22億人が安全に管理された飲み水を使用できず、このうち1億4,400万人は、湖や河川、用水路などの未処理の地表水を使用しています」とある。下グラフ参照

SDGs(持続可能な開発目標)のゴール6「安全な水とトイレを世界中に」のターゲット1は、「2030年までに、すべての人々の、安全で安価な飲料水の普遍的かつ衡平なアクセスを達成する」こと。水質の安全性に加え、必要な時にいつでも手に入れられる「安全に管理された水」を求めている。

安全な水、きれいな水、おいしい水を目指したみなさんの活動を表彰するとした「第21回日本水大賞」(主催:日本水大賞委員会/国土交通省)で2019年6月25日、「生物浄化法による安全な飲料水の普及」で国際貢献賞を受賞した中本信忠さん(信州大学名誉教授理学博士、NPO地域水道支援センター理事、NPO沖縄Blue Water理事)。同氏が案内する現地見学会があると聞き、長野県上田市を訪ねた。

1923年(大正12年)に建設され96年目になった現在も現役の染屋浄水場

水をきれいにする浄化のしくみ
「水が第一」にちなんで毎月第一水曜日(2019年は11月5日で終了)に見学会を開く上田市の染屋浄水場(上田市古里2250)。場内を見学しながら、中本信忠さんの説明を受けた。
同場の浄水方法は「緩速(かんそく)ろ過法」と呼ばれる。戦前の浄水はほとんどこの方法で行われていたそうだ。国内外で「小石や砂の層による物理的なろ過(砂の層にゆっくり水を流すことによって浄水する仕組み)」(英名Slow Sand Filtration)と考えられていた。
中本さんは長い研究の末、水をきれいにしていたのは砂ではなく、水中の多様な生物たちであることを発見した。砂の間に棲むバクテリアやプランクトン、藻など顕微鏡で見ないとわからないほどの微小な生き物が、水に含まれる不純物や濁りを体に取り込み、排せつ・発酵・捕食といった食物連鎖を繰り返して細菌やウイルスまで分解・除去している。「砂の層の表面にすんでいる生物群集の働きによって、水の汚れや雑菌を除去している」とし、名称を「生物浄化法」(英名Ecological Purification System)とした。

写真右から二人目、ハンドマイクをもって案内してくれた信州大学名誉教授の中本信忠さん。世界各地の浄水場で生物現象を調査し、生物群集による浄化の仕組みと方法を世界中で指導している。

コストいらずでエコな施設
この浄化場での人の役目は、生き物にやさしい環境を守ること。薬品も機械も電気も使わない施設は低コスト・省エネで、維持管理もメンテナンスも容易。自然の力を活かすだけで機械を使っていないので災害に強く、停電になっても断水することがない。薬品を使わないので、水道管などの設備が痛まず長持ちする。まさに持続可能な仕組み。簡易な施設であれば現地にある材料で手造りすることができるスマートテクノロジー(賢い技術)として、世界中に広がっている。
詳しい様子は、中本信忠さんのブログでさまざま紹介されている。


染屋浄水場の浄水濁度は0.000度。水道水基準で定められた浄水濁度2.0度と比べると、ものすごく いい水、安全・安心な水なのがわかる。口に含むと、とてもやわらか。口の中を刺激するものも匂いもなく、のどにしみ込むようなおいしさが広がる。

日本の主流「急速ろ過法」
日本の水道水を供給する施設の多くは、1960年から70年代に造られた「急速ろ過法」という方式を採用している。
川から取り込んだ水に凝集剤(ポリ塩化アルミニウム)を加え大型の機械で攪拌して濁りを沈め、臭気を活性炭で吸着し、塩素を加えて消毒。さらに薬剤処理で発生した大量の汚泥を処分しなければならないのが「急速ろ過法」。戦後「化学薬品が万能」と言われた時代から大量の殺菌剤などを使い、浄水場に藻が繁殖しないよう殺藻剤をまいた。
1974年には、アメリカの消費者団体が「急速ろ過処理では腐植物質が塩素と反応し発ガン物質が生成している」と警告し、大きな問題になったそうだ。(中本信忠さんの著書「おいしい水の探求-2」より)
日本の水道水の消毒に使用される塩素は、水道法で各家庭の蛇口で1リットルあたり0.1mg以上の濃度を保つように規定されている。一方、塩素が有機物と化学反応することにより、カルキ臭が発生するほか、発がん性が疑われるトリハロメタン(トリハロメタンのうちクロロホルムおよびブロモジクロロメタンについてはIARC(国際がん研究機関)においてGroup 2B(発がんがあるかもしれない物質)として勧告)を生成すると言われている。
さらに、大量に使用する薬剤は、機械や水道管などの設備も痛める。機械設備の維持・修理と交換・更新にも多額の費用と手間がかかっている。
ここまで聞くと、染屋浄水場の「生物浄化法」とは真逆な高リスク高コストの方法にしか思えない。

水道法の改正で水道事業はどうなる
2019年10月、水道基盤の強化を理由として「改正水道法」が施行された。老朽化した機械施設や水道管の更新などに多額の費用がかかる一方、人口減少に伴う水使用量減で水道料の減収が見込まれることから、水道事業に民間企業の参入を促すことを目的にしている。施設を自治体が持ちながら経営権限を民間へ売却する「コンセッション方式」の導入や、市町村の枠を超えて経営の一本化を探る「広域連携」といった検討がはじまっている。
世界を見ると、水道事業の民営化は1990年代に世界銀行とIMFなどの国際金融機関が水道民営化を債務国への融資条件としたことで各国に拡大していった。
ところが、PSIRU(公共サービス国際研究ユニット)のデータによれば、2000年から2015年の間に37か国235都市が民営化した水道事業を再び公営化に戻している。主な理由は、①水道料金の高騰、②財政の不透明性、③劣悪な運営、④サービスの低下など。民間企業側は、契約打ち切りで予定していた利益が得られなくなったと違約金の支払いを求め、アメリカのインディアナ州は仏ヴェオリア社に2900万ドル(日本円で約29億円)を支払っている。

中央の「ろ過池」には藻が繁殖している。光合成で酸素を生産し微小生物が活躍しやすい環境をつくっている。

気候と自然に恵まれた日本は、水にも恵まれている。多様な生き物の力を活かした「生物浄化法」は、環境にやさしく、経済的な負担も少ない。世界が認める持続可能な仕組みが長野県にある。生きるために欠かせない命を支える水を再認識し、これからの水道事業のあり方を注視していきたい。
(文責:吉田百助)

 

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 

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