#衰退していく長野県の地域の足=交通手段をどうすべきか

地域の足が無くなっていく!
交通弱者、買い物難民……
その現状と取り組み

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文責 ソーシャルライター 立岡淳志
 2020.5.6

人口減少・高齢社会がやってきた

 少子高齢社会と言われて久しい。若者は都市部に流出し、地方には高齢者だけが残っていく。長野県も例外ではない。長寿県ランキングでは常に上位だが、長生きであるというポジティブな側面がある一方、高齢社会にまつわる問題に直面している、ということでもある。

 高齢化社会とは高齢化率が7%を超えた社会のことである。さらに、高齢化率が14%を超えると高齢社会、21%を超えると「超高齢社会」と定義される。都道府県別に見ると、長野県は31.9%。日本国内で19番目の超高齢社会だ。
([人口推計 2019年10月1日現在(総務省統計局)]より)

 そして県内の市町村別に見ていくと、ランキングは以下の表の通り。

グラフ[毎月人口異動調査年齢別人口(2020年4月分)(長野県企画振興部)]より引用

 

 都市圏の長野市でも30.6%、松本市でも28.1%である。大変な高齢社会が到来している事がわかる。

「生活の質」にかかわる交通手段

 その中で、問題になっているのが、交通弱者だ。明確な定義は存在しないが、ここでは「自家用車などの移動手段を持たず、公共交通機関に頼らざるおえず、日常の移動に困難を生じている人々」のことを指すこととしよう。

 コロナウイルス感染症の感染が拡大している。そんな今、stay homeが呼びかけられ、移動する人は少なくなっているが、その分、路線バスなどが減便されていて、交通弱者にとっては、苦しい状況が続いている。

 交通弱者になると、移動することが困難になるため、生活の質が低下する。病院に行くにも金銭的負担がかかる、徒歩圏内に商店やスーパーが無ければ買い物難民になってしまう、学校に通うことができず結果として移住せざるおえない、等々……地域で元気に生活することが出来なくなってしまうのだ。

 国内全体で、買い物難民(または弱者)は700万人程度と推計されている。([買物弱者対策に関する実態調査結果報告書 平成2 9 年7 月 総務省行政評価局]より)

「交通に係る県民等意識調査[長野県 平成24年6月]」では、「自由に移動できる交通手段がないことで困るのはどのような時か」という設問がある。そこで多かった答えは「食料品などの普段の買い物」である。

免許返納したくてもできない

 過疎地域を中心に、人口減少~公共交通機関の利用客減少~公共交通機関の廃止・縮小~さらに人口減少、といった負のループに陥っている。その一方で、県内のマイカー保有率は全国7位で世帯あたり1.579台([自動車検査登録情報協会 令和元年8 月20 日 ニュースリリース]より)となっている現状がある。

 しかし、マイカー移動から公共交通機関での移動へのシフトは容易ではない。市民の意識の問題もある。だが、それ以上に、衰退し始めている公共交通機関は、例えば1時間に1本しか電車が来ない、土日休日はバスが運休になってしまう、など、すでに利便性は事実上失われている状態だ。そこに「マイカーをやめて公共交通機関を利用しましょう」と言っても、なかなか難しいのが、そこに生活する人の本音なのではないだろうか。

 そのため、マイカーがないとやっていけないが、マイカーを使えば使うほど公共交通機関が衰退して、交通弱者にとってはより厳しい状態になる、というジレンマを抱えている。

 既出の「交通に係る県民等意識調査」では、3~4割の人が鉄道在来線を使う時に、不便や不満を感じているという結果が出ており、その理由は「日中の便数が少ない」というものが多くなっている。そもそもで「利用していないので、わからない」という回答もかなりの割合を占めている。

グラフ「交通に係る県民意識調査 [長野県 平成24年6月]」より引用

 また、昨今では、高齢者の起こした交通事故が報道で注目され「免許返納」の機運も高まっている。県内での交通事故の約4割(39.6%)、交通事故死者の半数以上(55.4%)が高齢者だ。([長野県警察 令和元年交通統計]より)

 しかし、免許返納をしようにも、マイカーの運転が「生活の生命線」となっている場合、「返納したくてもできない」ということになってしまう。高齢者も、若者も、お互いに安全に暮らすためにも、何かしらの移動手段の保証は、不可欠だと思われる。

交通弱者問題に対する新しい取り組み

 交通弱者の問題に対して、新しい取り組みも行われつつある。



 1つ目は「既存の路線をデマンド交通に転換する」というものだ。デマンドというのは「要求」という意味で、決まった時間に時刻表通り運転する路線バスに対して、予約制のワゴン車などを運行する。予約制なので、空っぽのバスが走っている、という事態は回避されて運行効率が上がる。

 ただし、デマンド交通は、予約する手間がある。予約方法は、高齢者でも簡単にできるように、スマホといった電子機器だけでなく、電話などでも予約できるようにしておくべきだろう。

 また、当然のことながら、ただデマンド交通を走らせるだけでなく、どの程度の効果が上がったのか、検証し改善することが必要だ。既存の鉄道・バスとの連携も重要である。

 飯綱町では「iバス」というデマンド交通があり、年間250万円の経費削減につながり、また住民の3分の2が利用登録をしているという。([自治体通信オンライン ウェブサイト]より)

 


 2つ目は「MaaS=マース(モビリティ・アズ・ア・サービス)」という仕組み・考え方の導入だ。ITを活用して、すべての交通機関のデータをつなぎ、運行主体にとらわれずに「移動」をもっと一体的に捉え、便利にしよう、というものだ。

 利用者はスマホを使い、移動方法の検索から決済までを行う。国土交通省が全国で先行モデル事業を19事業選定し、その導入促進を模索している。([国土交通省報道発表資料 「日本版MaaSの展開に向けて地域モデル構築を推進!~MaaS元年!先行モデル事業を19事業選定~」より])

 長野県内では、まだMaaSの導入事例はないと思われるが、IT・スマホを活用したサービスとして「信州ナビ」というアプリが公開されている。公共交通のルート検索や、一部地域では、走行中の路線バスの現在位置が分かる「バスロケーションサービス」が提供されている。


 

 3つ目は「移動販売などによる買い物難民の支援」だ。県内でも各地で移動販売や宅配・ネットスーパーの取り組みが行われている。決まった場所や、自宅の目の前など、自分の生活圏内に移動販売車がやって来て、買い物ができる。

 県内にどんな支援事業があるのかは、長野県のウェブサイト「買物環境向上支援事業実施事業者一覧」で閲覧することができる。

 信濃町では地元の人が、地元スーパーと協力して「移動スーパーとくし丸」を運営している。買い物難民を支援することは、日々の食料品の調達を助けるだけでなく、コミュニケーションが生まれて、暮らしの活力になるのだ。([信濃町の移住者支援サイト 「ありえない、いなかまち。」より])

 また、向こうからやってくる移動販売とは逆に、市街地へ自分たちででかけていく「買い物ツアー」を企画しているところもある。長野市鬼無里地区では、住民自治協議会が主体となり、地元の路線バスを使って市街地へ行き、買い物をしながら、住民であるお年寄りの心身のリフレッシュを図っている。([FNNプライムオンライン]および[鬼無里地区住民自治協議会フェイスブックページ]より)

 

交通の問題は、生活の維持に直結する

 本稿では、交通の問題、特に「交通弱者」をキーワードに、問題の現状や新しい取り組みの一端を見てきた。

 地域の交通手段は、利用者の減少とそれに伴う収入減で、非常に厳しい状況に置かれている。路線バスだけでなく、鉄道も同様だ。「乗って残そう」というのはよく聞かれるスローガンだが、簡単なことではない。例えば、しなの鉄道は平成10年度から平成20年度の10年間で、利用者が14.7%も落ち込んでいる。([しなの鉄道総合連携計画 平成22年2月]より)

 自家用有償旅客運送(福祉有償運送)などの場面では、地域の社会福祉協議会やNPO法人等が努力を重ねているが、それもこのままでは、限界を迎えるかもしれない。

 交通手段が本当に無くなってしまえば、その地域には住むことはできなくなる。その現実を、我々は早く直視すべきだろう。今ならまだ間に合うかもしれない。

 交通は、それ単体で見れば、単なる移動手段だが、生活のすべてに関わってくる重要な要素だ。しかし、国家レベルでも県や市町村レベルでも、それぞれのシーンで担当部署が異なり、一貫した施策が行われているとは言い難い。早急に、横断的なチームの立ち上げが望まれる。

 今までは、主に民間事業者が担っていた公共交通だが、まさに今「公共」のものとして、考え方を変え、もう一度意識し直す時期に来ているのではないだろうか。行政や事業者だけでなく、何より利用主体である市民一人ひとりが考えて、行動することに、公共交通機関ひいては地域の未来がかかっている。

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