#家庭崩壊が生み出すものとは
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子どもの6人~7人に1人が「貧困家庭」にいる
60万余組が婚姻関係を結び、21万余組の離婚

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寄稿: NPO「子ども・家庭支援センターHUG」副理事長 山口利幸さん
 2018.10.12


学校教育に携わる者にとって、不登校やいじめ、非行などへの対応、即ち生活指導は学びの指導とともに教育活動の二つの柱です。

生活指導と学習指導は相互に絡み合って子どもの成長、人格形成の不可欠の両面をなしています。私は、近代日本の教育がこの両面を視野に入れてきたところに大きな特徴があると思っています。「知・徳・体のバランスのとれた全人教育」が「信州教育」の使命、目標に据えられてきたのもこのような子ども観、教育観からです。また、社会全体から見ますと、たとえ貧しい家庭の出身であっても教育を通じて貧しさからの脱却が可能となり、中間層の増大と社会の流動性(風通し)がよくなったのもこのような教育の成果といえます。


現在、「子どもの貧困」が社会の階層化と固定化につながる恐れが出てきました。学校教育においても、「子どもの貧困」にどう向き合っていくかが大きな課題となっています。経済成長の時代から1980年代の低成長・成熟時代、そして金融資本の暴走によるバブル崩壊後の「失われた十年(二十年)」の中で急速に「子どもの貧困」が浮上してきました。

「豊かな日本」で、子どもの6人~7人に1人が「貧困家庭」にいるといわれています。スナック菓子の「食事」、まともな食事は給食のみ、洗濯や入浴不足で「くさい」といわれ不登校になった例、運動用品が買えなくて部活をやめざるを得なかった例、外から見えにくい家庭内での虐待・ネグレクトやDVの急増等々目を覆うばかりの実態が生じてきました。いま、子どもの成長の基盤となる生活環境が崩壊している現実があります。社会全体で家庭を支え、子どもの生活環境を整える支援が喫緊の課題となっています。

 

貧困家庭の増加の一因に離婚による母子家庭の増加があます。


平成に入ってから離婚件数と離婚率が急増し、平成14年には29万件弱と最高を記録した以降は減少してきています。昨年は60万余組が婚姻関係を結び、21万余組の離婚がありました。その離婚夫婦の約6割に未成年者がいて、その数は約20万人弱に上っています。昨年の出生数は94万人ですので、単純計算しますと、子どものおよそ5人に1人が将来離婚家庭で育てられる可能性があるという数字です。


我が国は離婚の際、親権を片方の親に限定する単独親権制をとっています。欧米などを中心に概ね共同親権制(離婚しても子どもが成人するまで父親・母親としての義務を果たす)であり単独親権制の国は少数派です。加えて離婚の際、85%以上は母親が親権者になる中で、シングルマザーの子育てと仕事の両立の困難さや労働環境等の厳しさもあって、母子家庭の半数以上がいわゆる国民の平均所得の半分以下にある「貧困家庭」であり、子どもの6~7人に1人が「貧困家庭」にあるといわれています。

[caption id="attachment_822" align="aligncenter" width="700"] 子どもの虐待防止のためのオレンジリボン運動[/caption]


2012年(平成24)の民法改正では離婚時に別居親との面会交流と養育費の取り決めを行うことが明記されましたが、罰則規定がないこともあり、面会交流は3割前後、養育費を受け取っているのは2割未満にとどまっているのが実態と言われています。いま単独親と子で構成される家庭が危機に瀕しています。家庭を支援する親族、地域や職場の支援力も衰退してきました。お互いに深く係わらない人間関係の希薄化、「自己責任論」が拍車をかけています。

親の離婚は未成年の子どもたちに大きな衝撃を与えます。

そのような子どもと家庭を支援することは絶対に必要です。しかし、「家庭に介入する」ことは教員、学校にとって厚い壁があります。
両親の離婚に至るまでの様々な対立、そして離婚は子どもたちに大きな衝撃を与え「自分は捨てられたのではないか」「自分のせいで離婚したのではないか」「これからは父(母)会いたいけど口にしてはいけない」など不安な気持ちに陥れます。子どもの成長には、「自分は両親から愛されている」「必要とされている」「理解してくれる親や大人がいる」といった信頼感や安心感が不可欠なのですが、離婚に伴う子供の喪失感は生涯にわたって心に深い傷をもたらすことが多いのです。人間関係を作る意欲や自信が損なわれ、鬱症状が現れやすくなります。結果として不登校やいじめ、また非行・犯罪の発生率も高くなります。このような「問題行動」の背後に「離婚に伴う要因」があることを踏まえた指導・支援策が大切です。


離婚家庭への十分な支援がなく、子どもの健全な成長が阻害されたままですと、親の貧困が子の世代にも引き継がれる「負の連鎖」による階層の固定化が懸念されます。そうなりますと将来膨大な社会的コストが必要となります。したがって現在、せめて高校を卒業し、仕事得て自活できるまでは、基礎自治体を中心に社会の支えによって「一人前の大人」になれるよう物心両面から母(父)子家庭支えることがきわめて大事です。なおこの際、行政の医療・保健、福祉、教育、産業・労働など各分野の一体的な支援体制、即ちワンストップの横断的かつ継続的な支援体制ができるかどうかが解決の鍵であると思います。


離婚は親にとっては男女関係の決裂ですが、子どもにとっては一方的に片方の親を失うことになります。虐待やDVによる離婚は例外としても、本来なら子どもの成長にとって父性的なものと母性的なもの双方が両親によって提供されることが必要なのです。せめて成人するまでの間、親子関係が面会交流など何らかの形で維持され、父親や母親として子どもに向き合える環境を整えることが子どもにとって大切ではないでしょうか。

私たちのNPO「子供・家庭支援センターHUG」は公正、中立の第三者的立場から別れた親と子どもの面会交流等のお手伝いを通じて子どもの成長・発達を目指す組織です。
今年になって国においても新しい動きが出てきました。6月、法務省は来年度「法制審議会」に共同親権制の導入を諮問すると報道されました。現在の単独親権制を維持しながら、共同親権制も選択できる民法改正を目指すとのことです。離婚しても子どもとの親子関係は切れるわけではありません。母親、父親としての責務を果たすことが子どもの成長の保障となる民法改正と具体的で効果的な制度設計が求められるところです。

筆者プロフィール 山口利幸さん
昭和22年長野市生まれ。昭和44年度から長野県の高校教員として勤務し、高校4校、中学校1校で社会科などを担当。平成3年度から県教育委員会の指導主事として教育行政に従事、その後高等学校長を経て平成18年度途中から県の教育長を2期6年半務め平成25年3月に退職。現在は母校の小・中学校の教育ボランティアや、NPO「子ども・家庭支援センターHUG」の副理事長などを務めている。

 

NPO法人子ども・家庭支援センターHUG会報掲載記事を再執筆(民生児童委員の皆様、学校教育に携わっておられる皆様へのお願い H30.8.13)していただき、ナガクル編集室で編集したものです。 

寄稿: NPO「子ども・家庭支援センターHUG」副理事長 山口利幸さん

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 

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 #皆が共に生きる社会へ
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障害のある人もない人も共に生きる社会の実現を目指して

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文:川崎昭仁
 2018.4.18

「なくならない差別」

 公平で平等な社会を目指す上で差別解消は欠かせない要素である。しかし、現在から過去の歴史をさかのぼってみても差別のない時代はない。性別・年齢・国籍・宗教など、身近な小さな事から国際的な事まで様々な問題がある。
 ここでは障害者の差別について考えたい。

「障害者差別の歴史」

 これまで「障害者」は“保護”される存在で、その実態は施設等への“隔離”になっていた。1957年、脳性麻痺の障害当事者を中心に「青い芝の会」が発足。これを機に、各地で障害者の社会運動が活発に行われるようになった。しかし、その過激な活動故に障害者に対する差別意識を高める一面も否めなかった。
 1975年12月9日、国際連合総会において「障害者は、その障害の原因、特質及び程度にかかわらず、市民と同等の基本的権利を有する」という障害者の権利に関する決議(障害者の権利宣言(Declaration on the Rights of Disabled Persons)、国連総会決議3447)が採択された。
1982年に障害者問題への理解促進、障害者が人間らしい生活を送る権利とその補助の確保を目的とし「障害者に関する世界行動計画」が採択され、これを記念して1992年には毎年12月3日を「国際障害者デー」にすると宣言された。これを機に3~9日までを「障害者週間」とし、「障害のある人もない人も“障害”について考えよう」という動きが始まった。

「地域移行」

 2003年4月、「支援費制度」が施工された。
 同年10月、長野県では知的障害者の大規模総合援護施設である「西駒郷」入所者の地域生活移行への取り組みを積極的に始めた。この動きは県内の市町村・社会福祉法人・NPO法人にも波及し、各地でグループホームの運営や相談支援事業を行う法人が増え、障害者の地域生活移行は急速に進んだ。

「障害者権利条約」

 地域生活移行が進む中、障害者の権利擁護への取り組みはというと、「思いやりの心、差別のない心を育てましょう」等の標語に代表されるような「あなたの心の問題」として人権啓発や社会常識、個人の行動規範に委ねられているのが現実で、日本には何が障害を理由とした差別であるかを具体的に明らかにした法律も条例もなかった。
そんな従来の権利擁護の在り方を転換するきっかけとなったのが2006年12月、障害者の差別撤廃を目指し国連総会で採択された障害者権利条約である。
条約の交渉過程で注目されたのが、「私たちのことを決めるのに私たち抜きで決めないで(Nothing About Us Without Us)」という今まで障害者施策の決定に関与できずにいた各国の障害者の発言だった。障害者は、平等に発言し、非公式協議の場にも参加した(日本からは特別委員会に約200名の障害者やその家族の方が政府代表と共に派遣された)。
この結果、日常生活の中で最も切実に問題を感じている人たちの知恵や経験が条約に反映された」と当事者参加の意義と成果を強調している。

「医学モデルから社会モデルへ」

 障害者に関する法は、リハビリテーションや福祉の観点から考えることが多いが、障害者権利条約は国際人権法に基づいて人権の視点から創られ、これまで149カ国が署名し101カ国が批准している。日本も2007年9月に署名しているが、国内法の整備等のため批准には至っていなかった。
2011年7月に障害者基本法が改正され、第1条目的に「共に生きる社会の実現」の文言が書き込まれた。
これによって「障害に対する考え方が社会環境との関係が考慮されずに個人の障害だけに視点をおいた“医学モデル”」から「個人と社会環境に着目し、社会環境にその原因があり、社会のあり方が問題とされる“社会モデル”」へと変わり、差別の問題が見えてきた。

 

医学モデル 社会モデル
・障害というのは障害者個人の問題だとする考え方。
・社会的不利益が起きている原因は、足が動かないとか目が見えないといった機能障害や、能力障害にある。
・この考え方では、社会的不利益の原因は、社会にあるということにはつながらず、人権問題にはならない。
・障害者は、保護の対象でしかなく権利の主体という概念は生まれない。
・障害は社会の側にあるという考え方。
・車いすの人が2階にいけないのはエレベーターがないためであり、エレベーターが設置されれば1人で2階にあがれるので、障害はなくなる。
・このように、機能障害に着目するのではなく、個人と社会環境とに着目し、制約を生んでいるのは社会環境に問題があるという考え方。

(JIL/DPI条例プロジェクト資料より)

「改正された障害者基本法のポイント」

①相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現
②障害者の定義変更
障害の定義は医学モデルから社会モデルへ変更
障害者の範囲の拡大 身体、知的、精神、発達、その他、心身の機能の障害がある者
③差別の定義
社会的障壁とは、障害がある者にとって日常生活や社会生活を営む上で障壁となるような社会の事物(物理的な障壁)、制度、慣行、観念(偏見・差別意識等)その他一切のもの策の基本である。

「県外の主な取り組み」

千葉県 障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県作り条例
北海道 北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例
岩手県 障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例
さいたま市 さいたま市誰もがともに暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例
熊本県 障がいのある人もない人も共に生きる熊本県づくり条例
八王子市 障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子市づくり条例

「障害者差別をなくすための条例のポイント」

①障害の定義  社会モデルに基づき救済対象を幅広く設定

②差別の定義  社会モデルに基づき何が差別か具体的に定義

③相談体制と救済機関の設置、 処罰を求めるものではなく、話し合いによる解決の場の提供

④地域の意識改革 差別の温床の改善、啓発表彰等

「障害は社会にある、変わるべきは社会である」

2012年10月に「障害者虐待防止法が施工され、2016年4月に「障害者差別解消法」が施工された。しかし障害を理由とする差別や偏見が、あると思うか? 障害のある人は「少しあると思う」を含めて84.9%が、国民一般向け調査でも「少しあると思う」を含めて91.5%が「ある」と答えている(2009年度に内閣府が、障害のある人向けと国民一般向けに行った障害を理由とする差別に関する意識調査)。
障害のある人もない人も共に生きる社会の実現には、医学モデルの発想が深く浸透した地域社会そのものを変えていく必要がある。ノーマライゼーションからインクルージョン、バリアフリーからユニバーサル、そして医学モデルから社会モデル。多角的かつ個を尊重する時代であり、今やっと障害者への差別意識が変わろうとしている。キーワードは「障害は社会にある、変わるべきは社会である」と言えるだろう。

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