「小学生のいる苦しい家庭」のニーズが、コロナ禍で高まる。ネットでの申し込みが激増。
「3月だけで、334の家庭から食料支援の申し込みがあった。早く送って! という悲鳴も」と話すのは美谷島越子さん(認定NPO法人フードバンク信州副理事長)。それらはいずれも、小学生の子どものいる生活が苦しい家庭からの申し込みです。
「平時の生活状況とは違うと感じる。これまで普通の状態だった人たちが急に困難に直面している」と美谷島さんは、これまでにはない危機感をひしひしと感じているようです。コロナ禍で、仕事を失ったり、労働時間短縮で収入が減った家庭もあると言います。そして、学校閉鎖も頻繁に起き、子どもたちが家で過ごす時間が長くなっているという現実。こうした状況が2年も続いているのです。必然的に昼食の用意も必要となります。
また「自身が貧困だとは意識していない状態で、実は困っている。どこに相談していいのかわからない。(支援)制度につながっていない人がほとんど」とも美谷島さんは心配しています。フードバンク信州のサービスを利用した、小学生のいる家庭に2020年度にアンケートを行いました。そのフィードバックで、困って公的な制度を使ったことのある人は19%でした。つまり8割の家庭は制度につながっていないのです。
フードバンク信州は2016年に設立し、「子どもの貧困」解決を事業の柱の一つに置いてきました。2018年からは長期休み向けに、小学生のいる家庭への食料支援を実施。最初は県内でモデル地域を決めて学校でチラシを配布、直接FAXでフードバンクに申し込めるようにしました。初年度は年間88世帯に食品を送りました。これを足がかりとし「全県にこの活動を広められないか」と模索。
そして2020年になり、新型コロナウイルスが蔓延し、学校閉鎖や外出の自粛が続き、収入の減少が社会課題となり、ひっ迫する家庭が顕在化すると予想されました。しかし実際は、社会から閉ざされ、助けて欲しい家庭が見えなくなってしまいました。
そこで、小学生のいる家庭に直接アプローチするため、インターネットにさえアクセスできれば、スマホでも食料支援の申し込みができる仕組みを開始。すると反響はみるみるうちに広がっていきました。
2020年7月から「コロナ緊急対応子ども応援プロジェクト」を実施し、スマホを使ってウェブサイトから申し込める仕組みと、マイサポなどの機関に設置してあるチラシに記入し、FAXでの申し込みを併用。今まで見えにくかった各家庭に情報が届き、食品の詰め合わせを個別に発送することができました。事務局に集まってきた食品を箱詰めし、宅急便を利用して年間1076世帯に贈りました。下のナガクル記事は、ちょうどこの事業をスタートした最初の発送時の様子です。
2021年度になると、更にフードバンク信州への申し込みが増加します。実績は、合計2331世帯に約16tを支援。当初の30倍近くとなっています。下記参照(フードバンク信州資料提供:3/27現在3月重量未定)。
食品を集める手立ては、もっと企業のロスフードの提供をレギュラー化すること
「フードバンク」という仕組みの基本は余剰食品、寄贈に基づいて成り立っています。
支援してほしい人たちのニーズはあるのに、「思うように(寄贈が)増えていかない。まだまだ寄贈できるものが企業の中にあるはず」と美谷島さん。例えば加工食品類で、余剰在庫、出荷期限切れや、返品商品などなど。
それが、全国で集計されている食品ロスの多さにつながってきてもいるのです。農林水産省の発表によると、本来食べられるのに捨てられる食品「食品ロス」の量は年間570万tになっています(令和元年度推計値)。食品ロスは大きく分けると「事業系食品ロス」「家庭系食品ロス」の2つに分けられます。事業系ロスが半分以上を占めているのです。
また、ここ数年SDGs(国連の持続可能な開発目標)に関心が出てきて「長野県SDGs推進企業登録制度」に県内1323社(2022.3.29現在)が登録しています。県のポータルサイトもあり、取り組み事例も紹介されています。
「SDGsに関心が出てきている。もっと幅広く食品製造や、卸売業の皆さんに、ぜひ目を向けて欲しい」と訴えます。そして「企業に直接調査をしてみたい。食の循環で回るような動機づけがしたい」とフードバンク信州では、昨年10月、県内食品関係企業812社にこの子ども応援キャンペーンのチラシを同封し、アンケート調査を実施しました。そのうち211社が回答をし、結果として、フードバンクやこども食堂などに、27%の企業が寄贈した経験があるというものでした。しかし、一方で、73%はその経験がないことが分かったのです。
「どうしてやれなかったのか」という問いに対して、そもそも余剰の在庫がない企業が46%、やりたくても、寄贈先や方法がわからない、余裕がない企業が26%でした。この26%では、フードバンクからの情報発信や方法の提案などで、解決していけばいいことがわかりました。また46%の企業には、金銭的な寄付や、社員個人が家庭から食品を提供するためのフードドライブ実施も提案できます。
美谷島さんは、「今後の活動の根拠となる資料となった。今後は入出庫管理とマッチングシステム、寄贈者と支援者を見える化することが必要」と言います。NPO側から企業に対し、作業を簡便化した参加しやすい仕組みづくりや、支援した食品がどこにどう発送され、どう社会に役立っているのかをフィードバックするとのこと。
成果を可視化することで、SDGs達成に向けた企業の取り組みとして、フードバンク信州のようなノウハウを持ったNPOと手を組むことの重要性を訴えていくのです。
行政や社会福祉協議会の主体的な協力をさらに求める
「灯油やガソリン、食品などの値が上がって、深刻さが家庭に直接影響している。今、顕在化している貧困家庭は、まだまだ一部だと思う」と美谷島さんは眉を潜めます。
コロナ禍は誰もが予想しえなかった社会問題です。そのため、生活が厳しくなった人は確実に増え、さらに悪化すれば、支援するための食品が足りない状態になります。「だからこそ、無駄にしないで動かす仕組みが必要」と美谷島さんは語気を強めます。
筆者が感じたのは、美谷島さんたちのような専門家や企業が理事として集まるNPO法人ですら、民間のNPO単独ではまだまだニーズに応えられないし、本当に貧困に喘ぐ人たちへのアクセスや、地域企業への信頼性という点で、「動きづらい」という現状がありそうです。
そこで、長野県や県または市町村の社会福祉協議会など、公的な機関も乗り出し、連携する時代になってきました。2021年9月、長野県が音頭を取り「長野県フードバンク活動団体連絡会」がスタートしました。
「貧困」と「フードロス」という二つの社会課題を同時に解決する仕組みの「フードバンク」や「子ども食堂」などに取り組む複数のNPO法人と行政がネットワーク化して、「食の循環」という仕組みを作ることが目的です。
こうした仕組みは貨幣価値を伴わない流通で、地域全体で取り組むべき大きな仕組みだと言えます。そのために、ぜひ多くの企業がネットワークに参加し、NPOと手を組んで行ってほしい。災害やコロナ禍により、もう待てない状況にあることをわかってほしい、そう思いこの記事を執筆しました。
取材/ 認定特定非営利活動法人フードバンク信州 (2022.3.26)