「ひとんち(人の家や土地と、その道路沿いなど)の草を刈ったら、どえらく怒られた」
ひと昔前、いまでは「雑草」と一括りされる草であっても、暮らしを支える大事な資源だった。
お浸しや天ぷらなどにして食べられるものがあれば、家畜のエサになるもの、畑の肥料になるもの、かやぶき屋根の材料としてなど、使い方はさまざま。
※参考:草を有機物マルチに利用する細井千重代子さんを取材した記事
暮らしに必要な「大事な資源」を、他人が勝手に刈ったと知れたら、怒られるのも無理はない。
そんな思い出話を「いもいリビングらぼ(芋井地区住民自治協議会)」で地域活性化推進員を務める羽田一郎さんから聞いた。
「草刈り」は地域のやっかいな困りごと
道路わきの草を放置しいていると、見通しが悪くなって危険。交通事故が起きては困る。
伸び放題の草は景観を悪くし、草ムラへ隠すようにゴミを投げ込まれかねない。
そして、多くの農業者にとって「雑草」は、農作物の生長を妨げる「やっかいもの」でしかない。
できるなら春・夏・秋と、少なくても年に3回は草を刈っておきたい。育ちすぎるほど草木は刈りづらくなって、次の作業が大変になってしまう。
私有地ならば、自分で責任を持って刈るしかない。公道や公園などの「公」は、基本的に自治体が管理する場所。
とはいえ地域には、「公」か「私」かでは割り切れない無数の土地が存在する。地主が地域に居住していない場合や、所有者不明の土地もある。また「公」の役割を、地域の自治会に任されるケースもある。
長野市の市民協働サポートセンターが2022年3月14日に開いた「地域まんまる2022」は、地域課題のひとつである草刈りをテーマに「地域の草刈りどうしてる?」と意見を交換しました。
内容にある「たかが草刈り、されど草刈り、草刈なめんな!! 奥が深いぞっ!!」との言葉から、地域住民にとって根の深い問題であることがうかがえます。
※地域まんまるのレポートは、市民協働サポートセンターのホームページで見られます
羽田さんが暮らす芋井地区では、早朝に住民が参加して県道と市道あわせて85kmの道路まわりを、それぞれ年に5回ほど草刈りしていると言う。そんな地域住民が共同する取り組みは、交流の機会でもあり、地域社会の良好な維持にも役立っていた。
しかし現在は、以前のように草刈りができなくなってしまった高齢者が増えている。また、空き家も増え続け問題になっている。地域での少子高齢化は、「草刈り」や積雪が多い地域での「雪かき・雪おろし」をどうするかといった現実的な問題として、重くのしかかってきている。
もし、地域の草刈りが行われず、空き家が放置され続けたら、どうなるか。
耕作が放棄された田畑は、ことわざ「後は野となれ山となれ」という言葉の通り。わずかな期間で「野」となり、やがて木々が生えて「山」へ還っていく。田畑に限らず、家も道も至る先は同じだろう。
このことわざには、「後はどうなってもかまわない」、「後のことは知ったことではない」という開き直りの気持ちが込められている。
が、そこで暮らしている人々は「どうなってもかまわない」というわけにはいかない。ずっと暮らし続けていくためには、なにかしらの手立てが必要だ。
さて、どうしたものか…。
地域を悩ませる困りごとのひとつが草刈りだ。
“何とかしなければ”から生まれた「草刈りバスターズ養成講座」
いもいリビングらぼ(芋井地区住民自治協議会)は2023年度に2回、草刈り機の安全使用を座学と実習で教える講座を開いた。題して「草刈りバスターズ養成講座inいもい」。「バスターズ」の名称は、1984年に公開され大人気になった映画「ゴーストバスターズ」にちなんだ。
地域外から人を呼び込み、草刈り機の使い方を教える。できるものであれば、その後も「地域の草刈りに参加してもらえたら、とてもありがたい」。
そんな願いを込めた2023年度第1回目の取組は、6月の大雨に流されて出鼻をくじかれた。
仕切り直した1回目は8月6日(日)。観測史上もっとも暑いと言われた7月に続いて、日差しの強い日だった。
主催者側は朝早くからテントを立て、草刈り道具を並べて、受付を用意した。この日は、遠く群馬県から「テレビ放送を見て、おもしろそうな取組だと思って来た」という参加者もいた。
なにごとも基本が大事
講座のはじめは、座学。事前に制作した2本の動画「身支度編」と「実践編」を見て、地域のベテランから話を聞く。講師は、長野森林組合のOBで長年農業を営む大日方 邦忠さん。刈払機取扱作業者の資格を有する85歳は、草刈り歴が半世紀以上という大ベテランだ。
写真上段は9月10日(日)の第2回講座。下段が8月6日(日)で中の中央が大日方さん
「分かりやすい内容だった」と、今まで草刈り機にふれたことがない初めての参加者が言うのはともかく、草刈り歴数年~数十年という地域の参加者が「今まで自己流だったのがわかった」「あらためて基本が大事だと思った」「慣れたと思った頃に事故が起きる。気を付けなければ」と、襟を正すような姿が印象的だった。
屋外での実践は、2人一組。参加者に地元のベテランが付いて、直接指導する。
身支度、
肩掛けベルトの調整、
エンジンのかけ方、
草の刈り方と、刈った草の置き方、
足の運び方…。
体で覚えた技術と、心に残る爽快感が大きな成果
実践で参加者が得たのは、技術だけではなかったようだ。
最初は恐る恐るだった初心者も、後半はスムースに草刈りを楽しむ様子がうかがえた。
腕の力だけに頼らず、腰を回して頭を動かさないのは、ゴルフスウィングと同じ。草刈り機をリズムよく左右に振りながら、足取りも軽くなっていくように見えた。
そして、次々と草を切り倒してゆく気持ちの良い爽快感。
やがて振り向いた先に、思わず「刈ったぞー」と叫びたくなるような達成感があった。
一方、地域のベテラン陣も新品ならではの切れ味を楽しんでいたようだ。
石や木にあたって刃が欠けたり、長い時間を使ったりしていると、どうしても切れ味が落ちてしまう。思うように切れないイライラは、ストレスにしかならない。気持ちよく刈れることがストレス発散に良い。
いつもと違う機種で、パワーや使い勝手の違いを感じて、おもしろがっている人もいた。
草刈り機のエンジンはバイクと同じで、4サイクルと2サイクル、そして電動もある。
付ける刃は、金属製で刃の形や数が違ったり、ナイロン製や樹脂製があったり、さまざま。
いつか、たくさんの機種と刃の違う草刈り機を並べたら、ベテラン陣も楽しめる機会になると思った。
地域外の参加者や初心者だけでなく、地域の人々が楽しんで交流できる催しとしても「草刈り」は可能性がありそうだ。
「楽しさ」が地域のつながりを強め、関係人口を増やす
座学の動画「身支度編」に登場した地元の女性は、家族から「危ないからヤメろ」と言われ、草刈り機に触れることができなかったらしい。そんな彼女は、草刈りバスターズに参加して「やればできるじゃん!」を実感し、今では「刈るのを楽しんでいる」と笑顔だった。
同じ地元にいながら、「こんな人もいるんだ」とわかったことも成果のひとつだ。
「草が伸びてきて邪魔だから刈らなければ…」といった義務感や、「刈れ」という命令形はストレスにしかならず、地域の活動や関りを避けていくきっかけになりかねない。
「楽しかった」という感想と、「次も楽しそうだ」と口コミが広がることで、興味と参加者が増えていく。
地域内での広がりが交流の機会を増やして、良好な関係とつながりを深める。
地域外への広がりが興味を持たせる機会を増やして、いずれ地域とかかわりを持つ「関係人口」へとつながる。
そんな広がりづくりには「楽しい」のほかに、「うれしい」や「おいしい」も有効だ。
8月の草刈りバスターズで食した特製のカレーは、「また参加したい(食べたい)」と思わせるおいしさにあふれていた。
草刈りは、楽しい。
ストレス発散と運動不足解消にも役立つ。
そして、地域の困りごとを解決する人助けにもなる。
「草刈りをしたことがない」のは、実にもったいない。
気軽に参加できる「草刈りバスターズ」は、地域の催しとしても「おいしい」ところがある。
多くの人に楽しみを知ってもらいたいと思う。
<取材・編集>ソーシャルライター 吉田 百助
<取材協力>いもいリビングらぼ(芋井地区住民自治協議会)