#地域のやっかいごとに挑んだ「草刈りバスターズ」が思いのほか楽しかった件

地域のやっかいごとに挑んだ「草刈りバスターズ」が思いのほか楽しかった件

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<取材・執筆>ソーシャルライター 吉田 百助
 2023.9.18

「ひとんち(人の家や土地と、その道路沿いなど)の草を刈ったら、どえらく怒られた」

ひと昔前、いまでは「雑草」と一括りされる草であっても、暮らしを支える大事な資源だった。
お浸しや天ぷらなどにして食べられるものがあれば、家畜のエサになるもの、畑の肥料になるもの、かやぶき屋根の材料としてなど、使い方はさまざま。

※参考:草を有機物マルチに利用する細井千重代子さんを取材した記事

暮らしに必要な「大事な資源」を、他人が勝手に刈ったと知れたら、怒られるのも無理はない。

そんな思い出話を「いもいリビングらぼ(芋井地区住民自治協議会)」で地域活性化推進員を務める羽田一郎さんから聞いた。

初夏、昨年まで耕作されていたと思われる中山間地の一画は、草がノビノビしている

「草刈り」は地域のやっかいな困りごと

道路わきの草を放置しいていると、見通しが悪くなって危険。交通事故が起きては困る。
伸び放題の草は景観を悪くし、草ムラへ隠すようにゴミを投げ込まれかねない。
そして、多くの農業者にとって「雑草」は、農作物の生長を妨げる「やっかいもの」でしかない。

できるなら春・夏・秋と、少なくても年に3回は草を刈っておきたい。育ちすぎるほど草木は刈りづらくなって、次の作業が大変になってしまう。

私有地ならば、自分で責任を持って刈るしかない。公道や公園などの「公」は、基本的に自治体が管理する場所。
とはいえ地域には、「公」か「私」かでは割り切れない無数の土地が存在する。地主が地域に居住していない場合や、所有者不明の土地もある。また「公」の役割を、地域の自治会に任されるケースもある。

長野市の市民協働サポートセンターが2022年3月14日に開いた「地域まんまる2022」は、地域課題のひとつである草刈りをテーマに「地域の草刈りどうしてる?」と意見を交換しました。

内容にある「たかが草刈り、されど草刈り、草刈なめんな!! 奥が深いぞっ!!」との言葉から、地域住民にとって根の深い問題であることがうかがえます。

※地域まんまるのレポートは、市民協働サポートセンターのホームページで見られます

羽田さんが暮らす芋井地区では、早朝に住民が参加して県道と市道あわせて85kmの道路まわりを、それぞれ年に5回ほど草刈りしていると言う。そんな地域住民が共同する取り組みは、交流の機会でもあり、地域社会の良好な維持にも役立っていた。

しかし現在は、以前のように草刈りができなくなってしまった高齢者が増えている。また、空き家も増え続け問題になっている。地域での少子高齢化は、「草刈り」や積雪が多い地域での「雪かき・雪おろし」をどうするかといった現実的な問題として、重くのしかかってきている。

もし、地域の草刈りが行われず、空き家が放置され続けたら、どうなるか。

耕作が放棄された田畑は、ことわざ「後は野となれ山となれ」という言葉の通り。わずかな期間で「野」となり、やがて木々が生えて「山」へ還っていく。田畑に限らず、家も道も至る先は同じだろう。

このことわざには、「後はどうなってもかまわない」、「後のことは知ったことではない」という開き直りの気持ちが込められている。
が、そこで暮らしている人々は「どうなってもかまわない」というわけにはいかない。ずっと暮らし続けていくためには、なにかしらの手立てが必要だ。

さて、どうしたものか…。
地域を悩ませる困りごとのひとつが草刈りだ。

何とかしなければ”から生まれた「草刈りバスターズ養成講座」

いもいリビングらぼ(芋井地区住民自治協議会)は2023年度に2回、草刈り機の安全使用を座学と実習で教える講座を開いた。題して「草刈りバスターズ養成講座inいもい」。「バスターズ」の名称は、1984年に公開され大人気になった映画「ゴーストバスターズ」にちなんだ。

看板にもゴーストっぽいデザインが入れられている

地域外から人を呼び込み、草刈り機の使い方を教える。できるものであれば、その後も「地域の草刈りに参加してもらえたら、とてもありがたい」。

そんな願いを込めた2023年度第1回目の取組は、6月の大雨に流されて出鼻をくじかれた。
仕切り直した1回目は8月6日(日)。観測史上もっとも暑いと言われた7月に続いて、日差しの強い日だった。

主催者側は朝早くからテントを立て、草刈り道具を並べて、受付を用意した。この日は、遠く群馬県から「テレビ放送を見て、おもしろそうな取組だと思って来た」という参加者もいた。

なにごとも基本が大事

講座のはじめは、座学。事前に制作した2本の動画「身支度編」と「実践編」を見て、地域のベテランから話を聞く。講師は、長野森林組合のOBで長年農業を営む大日方 邦忠さん。刈払機取扱作業者の資格を有する85歳は、草刈り歴が半世紀以上という大ベテランだ。

写真上段は9月10日(日)の第2回講座。下段が8月6日(日)で中の中央が大日方さん

「分かりやすい内容だった」と、今まで草刈り機にふれたことがない初めての参加者が言うのはともかく、草刈り歴数年~数十年という地域の参加者が「今まで自己流だったのがわかった」「あらためて基本が大事だと思った」「慣れたと思った頃に事故が起きる。気を付けなければ」と、襟を正すような姿が印象的だった。

新品の輝く刃がまぶしい草刈り機たち

屋外での実践は、2人一組。参加者に地元のベテランが付いて、直接指導する。

身支度、
肩掛けベルトの調整、
エンジンのかけ方、
草の刈り方と、刈った草の置き方、
足の運び方…。

8月6日の様子をまとめた2分間の動画(筆者編集)

体で覚えた技術と、心に残る爽快感が大きな成果

実践で参加者が得たのは、技術だけではなかったようだ。

最初は恐る恐るだった初心者も、後半はスムースに草刈りを楽しむ様子がうかがえた。
腕の力だけに頼らず、腰を回して頭を動かさないのは、ゴルフスウィングと同じ。草刈り機をリズムよく左右に振りながら、足取りも軽くなっていくように見えた。

そして、次々と草を切り倒してゆく気持ちの良い爽快感。
やがて振り向いた先に、思わず「刈ったぞー」と叫びたくなるような達成感があった

一方、地域のベテラン陣も新品ならではの切れ味を楽しんでいたようだ。
石や木にあたって刃が欠けたり、長い時間を使ったりしていると、どうしても切れ味が落ちてしまう。思うように切れないイライラは、ストレスにしかならない。気持ちよく刈れることがストレス発散に良い。

いつもと違う機種で、パワーや使い勝手の違いを感じて、おもしろがっている人もいた。
草刈り機のエンジンはバイクと同じで、4サイクルと2サイクル、そして電動もある。
付ける刃は、金属製で刃の形や数が違ったり、ナイロン製や樹脂製があったり、さまざま。

いつか、たくさんの機種と刃の違う草刈り機を並べたら、ベテラン陣も楽しめる機会になると思った。
地域外の参加者や初心者だけでなく、地域の人々が楽しんで交流できる催しとしても「草刈り」は可能性がありそうだ。

「楽しさ」が地域のつながりを強め、関係人口を増やす

座学の動画「身支度編」に登場した地元の女性は、家族から「危ないからヤメろ」と言われ、草刈り機に触れることができなかったらしい。そんな彼女は、草刈りバスターズに参加して「やればできるじゃん!」を実感し、今では「刈るのを楽しんでいる」と笑顔だった。

同じ地元にいながら、「こんな人もいるんだ」とわかったことも成果のひとつだ。
「草が伸びてきて邪魔だから刈らなければ…」といった義務感や、「刈れ」という命令形はストレスにしかならず、地域の活動や関りを避けていくきっかけになりかねない。

「楽しかった」という感想と、「次も楽しそうだ」と口コミが広がることで、興味と参加者が増えていく。
地域内での広がりが交流の機会を増やして、良好な関係とつながりを深める。
地域外への広がりが興味を持たせる機会を増やして、いずれ地域とかかわりを持つ「関係人口」へとつながる。

そんな広がりづくりには「楽しい」のほかに、「うれしい」「おいしい」も有効だ。
8月の草刈りバスターズで食した特製のカレーは、「また参加したい(食べたい)」と思わせるおいしさにあふれていた。

草刈りは、楽しい。
ストレス発散と運動不足解消にも役立つ。
そして、地域の困りごとを解決する人助けにもなる。

「草刈りをしたことがない」のは、実にもったいない。
気軽に参加できる「草刈りバスターズ」は、地域の催しとしても「おいしい」ところがある。

多くの人に楽しみを知ってもらいたいと思う。

<取材・編集>ソーシャルライター 吉田 百助
<取材協力>いもいリビングらぼ(芋井地区住民自治協議会)

#地域との関係をつくる「若者」たち
関連する目標:  
ソーシャルライター 吉田 百助
 2021.5.1

「十数年住んでいて地元の知らないことがたくさんあった。何もないと思っていたが、思ったよりいろいろある。それまで意識していなかったものを身近に感じ、特別な存在になった。知らない人に広めていきたい」という学生。

そして、もうひとり。「県外から来た自分は、ここのことをぜんぜん知らなかったけれど、自分たちで調べて知って、とても好きになった。いまはコロナ禍で難しいけれど、これからは住んでいる方々との交流も深めたい」という学生。

2021年4月16日、ONE NAGANO基金助成団体の取材で「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」で活動する上田女子短期大学の学生たちから、地域との関係を考えた言葉を聞き、地域づくりに必要と言われる「関係人口」について調べてみた。

「関係人口」とは

はじめに「関係人口」の説明を総務省のサイト「地域への新しい入口 関係人口ポータルサイト」から紹介する。

説明では「『関係人口』とは、移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、『関係人口』と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています」とある。

総務省「地域への新しい入口 関係人口ポータルサイト」より

要は、図にあるように「より多様な人材が地域づくりに参画する」ことを指している。

同サイトでは「モデル事業概要」と「モデル団体の取組」も見ることができる。ここで言う「モデル団体」とは、総務省の「関係人口創出・拡大事業」のモデル事業に採択された地方公共団体のことだ。説明には「総務省では平成30年度に「『関係人口』創出事業」を、平成31年度及び令和2年度に「関係人口創出・拡大事業」を実施し、国民が関係人口として地域と継続的なつながりを持つ機会・きっかけを提供する地方公共団体を支援しています」とある。

長野県内のモデル団体の取組

県内では、塩尻市での「MEGURUプロジェクト」、泰阜村での「関係人口を拡大するローカルコミュニケーション広報事業」と「山村留学等の学びを中心とした関係人口(ファン)づくり事業」、根羽村での「『木育の村・根羽村』で何かやりたい人を全力でサポートする関係事業創出事業」、東御市での「関係人口によるワインクラスター創出事業」、そして長野県の「信州つなぐラボ」が掲載されている。

総務省の事業概要資料より

これら事業のきっかけになった報告書「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会 報告書 -『関係人口』の創出に向けて-」(平成 30 年1月)の「はじめに」の冒頭部分には「人口減少、少子高齢化が急速に進む中、東京一極集中の傾向が継続している。より著しい人口の低密度化が予想される地方圏においては、地域づくりの担い手の育成・確保が大きな課題の一つとなっており、移住・交流施策を通じて積極的に課題解決に取り組む地方公共団体が増えている」とある。

もういちど読み返す学生の言葉

ここで、冒頭に紹介した二人の学生の言葉を読み返してみると、まさに「地域づくりの多様な担い手」になり得る学生たちだと思う。

上田女子短期大学の学生たちが活動する「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」のきっかけは、別所線存続支援活動を検討していた2016年にあった。「別所線と学生のコラボ」を投げかけられた学生たちが始めたのが、和装・袴姿に身を包んだ乗車ガイドだった。上田市と別所線沿線の観光スポットや、地域にまつわる話などを自分たちで調べて独自のガイドを作成し、土・日曜日、祝日など月に3回ほど車両内でお客さんへガイドしていたという。

ガイド活動は、その後も代々受け継がれ、4年目に入った19年10月に令和元年東日本台風(19号)がやってきた。増水で千曲川堤防が削られ、一部崩落した赤い橋は別所線のシンボル的な存在だった。一部区間の運休が続き、学生たちは乗車ガイドの機会を失った。翌年1月になってガイドを再開したが、今度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止になった。

「できること」を形にした学生たち

活動の機会を失いつつも学生たちは「できること」を模索する。車内でのガイドはできない。けれど、上田市や別所線沿線の魅力を多くの人へ伝えたい。そんな学生たちの熱い思いが「バーチャル別所線ガイド」になった。

バーチャル別所線ガイドのサイト

どんな状況になっても「できること」はある。また、どこへ行こうと「何もない」はずはない。それを学生たちが示してくれた。

なにかに気づく感性や、できることを探すのは「若者」や「地域外の人材」だけではない。関係人口が求める「より多様な人材が地域づくりに参画する」ために必要なのは、参画する機会づくりと参画を促す働きかけ、そして参画したことで成果と喜びを得た人々の思いを共有することにあるだろう。

前述した学生たちの願いは「早く別所線に乗りながらガイドする」こと。調べて気づいて好きになり、人へ伝えたくなる魅力が地域にはある。バーチャルガイドをつくる人、それを見た人、そして訪れる人も、すべて地域との関りをもった人になる。そうした多様な人びとの思いを共有し、ともに力を合わせて活動する「協働」の仕組みが地域にできれば、「関係人口」を増やしながら地域の担い手となる人材を育成することができる。

そんな思いに気づかせてくれた地域との関係を考える学生ガイドたちのますますの活躍を楽しみに、いっしょに地域の未来を考える「関係ある人」であり続けたいと思った。

取材・文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助

#商店街復活のカギは「本」を通じたコミュニティ

商店街復活のカギは「本」を通じたコミュニティ

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文責: 田中 一樹 (ナガクル・ソーシャルライター養成塾生)
 2021.3.23

商店街の現状

かつては町の中心として繁栄していた商店街。それが今は空き店舗が増え衰退の道を進んでいるかのように見える。

私たちの生活スタイルの変化に伴い、特に駅前の商店街など利用者は郊外へ流れてしまうのは時代の流れとして仕方がない部分である。さらにはコロナ禍でリアルでの販売が厳しさを増した昨今。果たしてこのまま衰退の一途を辿ってしまうのだろうか。長野県内の現状踏まえ、商店街復活の鍵を探ってみたい。

千曲市屋代商店街のコミュニティカフェ和かふぇよろずやが、地域とコラボして開催したイベントで、「本の箱市」筆者が主宰する「ほんのきもちプロジェクト」の活動。(2020年8月)

鍵はズバリ!本屋

いきなり本題から入ることになるが、商店街の復活には「本屋」の存在は欠かせない。

いやいや、本自体の売上も落ちているじゃないか!

本屋だってつぶれているじゃないか!

そんな声が聞こえてきそうだ。

その通り。後述するがまさに本の売上は右肩下がりである。しかしかつて本屋は、人の集まる商店街や駅前にあることが普通で、まさに文化の発信源であり情報の集積所であり仲間の集う場所でもあった。本屋は「本」を売るだけではなく、「知」を売る場所であったのではないか。そのもともとの本屋の存在理由を復権させることこそが鍵となるのではないかと考える。

みなさんは書店や本屋で、じっくりとサインと呼ばれる分類表示を見たことがあるだろうか。本のジャンルは出版社や書店独自棚分類などで細分化されているが、雑誌の特集まで含めれば無限にあると感じさせられる。サインには「文芸」や「ビジネス」「実用」といった大分類。「実用」でも「園芸」「料理」「スポーツ」などに分けられ、さらに「料理」も「専門料理」「家庭料理」「お菓子」。さらにはそのお菓子も分類されていく。よく見れば他の人には相手にされないと思われるニッチな趣味まで、あらゆるジャンルの本が多岐にわたり出版や特集が組まれ、商店街にあるほかの商売や利用する人々とのマッチングを図ることも容易だ。

また商店街にあるからこそ立地や利便性を生かし、そこを行き交う多種多様な人々の持つ人間性や意識、趣味、仕事、地域をつなげる協働の場としての担っていくことができると考えられる。

それでは「つなげる場所」とはどんなところなのか?商店街である以上、商売が成り立つことが一つの条件であると考えると、単なるコミュニティスペースでは難しい。

筆者が千曲市屋代西沢書店とコミュニティカフェ和かふぇよろずや他の協働で開催した「ホンダナプロジェクト」(2021年3月)

実態調査の結果

ここで商店街の現状について把握しておいきたい。

平成29年度の商店街実態調査結果(前回調査平成26年度との比較)では、長野県内にある商店街数は、昭和56年に454あった商店街数をピークに減少傾向にあり、前回調査241商店街に比べ 約1割減少し24商店街減の217商店街となった。空き店舗を除く店舗数は8,829店舗で、前回9,641店舗から812店舗の減少となった。また空き店舗率は9.5%(+0.7ポイント)と増加傾向にある。

以前と比較した景況感については、「繁栄」が3.2%(+0.7ポイント)、「変わらない」が 39.6%(+5.2ポイント)、「衰退」が 57.1%(▲0.6ポイント)という結果となり、圧倒的に「衰退している」と感じているが、その感覚は前回調査から改善していると捉えることができる。

調査結果からは、実際の商店街における店舗が減り空き店舗は増えているが、景況感については改善を見せているという逆転の現象が起こっている。これは各自治体が実施してきている「空き家・空き店舗見学会」や「空き店舗活用事業補助金」といった制度の活用が一部では活発な動きがあり、移住推進などと合わせた他の機関との連携がうまくいっていると考えることもできる。

では、実際に商店街においての衰退原因について考えてみる。

「衰退している」と回答した要因には、「商店主の高齢化(後継者の不足)」が54.8%で一番にあげられる。次に「域外大型店への客の流出」で54.0%。「商圏内の人口、世帯数の減少」が48.4%と続く。これらの結果から一番の原因は顧客云々よりも事業を引き継ぐ人材がいないことが深刻であると考えられる。よって前段で述べたような、補助金の活用での新規出店やIターン者を支援する動きで若返りを図っていることは有効な手段なのである。

しかし商店街のコミュニティを活気づけるには、それだけでは不十分である。新参者や移住者はいまだに「よそ者」というレッテルで見られることもあり、溶け込むのは難しくもある。

そこで商店同士、または地元民と移住者をつなげるのに欠かせない存在や場所としても本屋が必要で重要な場所なのである。

本棚を製作した本人がオーナーとなり、セレクトされた貸し本をカフェに収納して置かれるという企画。

本屋の現状

本の売上推移と本屋の現状にも触れておく。

本好きとしては悲しいことではあるが、本屋もまた衰退産業の一つである。

90年代後半は書店の大型化や郊外化が進む中、書籍の販売金額は1996年、月刊雑誌は1997年をピークに毎年下がり続けてく。現在の売上を見ても近年伸びているインターネット経由での販売数や電子書籍をカウントしても、ピーク時の販売数には到底届かない。この原因として紙媒体の本以外に娯楽や情報源の選択肢が増えたことが一つと考えられている。

また書店の数も年々下降傾向にあり20年前22000軒あった書店は、10年後の2010年には15000軒、2017年には12000軒と減り続けている。これはただ単に機能として本を売る場所が、CVSコンビニエンスストアでの取り扱いや、車社会の発展とともに郊外へ移り、さらには出版点数の肥大により取扱量が多い店舗の大型化傾向が続いていったこと。また通信技術の発展とともに必要とする情報も商品も店舗で買い求める必要もなく、インターネットの発達と物流が発展していく中で、店頭では取り寄せに何週間もかかる注文や仕入れ弱者ともいえる販売方法では時代から取り残されていく小さな街の本屋は淘汰されつつあるのだ。

佐久市岩村田商店街、左手が書店。商店会関係者を訪ねると、ネット通販に押され、商店街を訪れる人が減少しているという。(撮影2019年ナガクル編集デスク)

商店街の展望を担う本屋の未来

幸いとも言うべきか、近年は本屋を経営したいと思う若者は多いのだと言う。本屋は取次店との契約などにお金がかかり新規参入するにはハードルが高い。しかしそのために本屋の経営をあきらめてほしくはない。新規での開店は難しいが、やりやすいのは今ある資源を生かすこと事業承継をおこなうことだ。もちろんこれも簡単にできることではない。何よりも元のオーナーとの信頼関係が肝となる。商店街や地域に必要なことやできることを一緒になって話し合い、これからの時代に必要な持続可能な本屋でありながら、本屋だけではない新しい形へ業態を進化させる必要がある。

今までも日本全国でブックカフェも生まれて、一つの生き残りの形となっている。今ではブックマンションという形で棚貸により棚のオーナーが独自に特集し編集した内容で本を販売する店舗もある。

千曲市屋代駅前で、商店街や、カフェ、書店、市民団体とコラボしたイベントを開催。

本屋というものはつくづく個性が出る場所だと感じる。その本屋独特の陳列や情報発信により人となりがわかり、内容に共感することでも満足感や新たな世界も垣間見ることができる。その可能性は本のジャンルと同じように無限だ。その商店街が観光地であれば観光の拠点となり、自然豊かな場所に隣接していれば地域の情報発信の場やテレワークする場所ともなる

「ほんのきもちプロジェクト」の活動「紅葉とコミックとときどき仕事」(2020年11月) 千曲市更埴中央公園で

「温泉×本」「焚き火×本」など、本にとっては対敵なもので組み合わせるのも面白い。一見意外ともとれる趣味や活動、業種や業態やと組み合わせれば、それは商店街の中の個店ではなく、それぞれがステークホルダーとなり協働できる本屋も作ることが可能だ。それこそがシャッターが並ぶ商店街復活の鍵となり、持続可能なまちづくりができるのではないかと私は考えている。

#市政についてゆるく話せる場をー気軽なカフェを上田で

市政についてゆるく話せる場をー気軽なカフェを上田で

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取材・執筆・撮影 : さらみ (ナガクルソーシャルライター)
 2021.3.21

きっかけはひとつのTweetだった。

#上田と市政とコーヒーと

このタグを2020年9月9日に発信したのは投稿主の「もぎりのやぎちゃん @g0hvpn 」
以来、 [#上田と市政とコーヒーと]でつぶやいたタグには市内の政治(市政)に関する様々な問いへとつながっていった。

「政治」と聞くと、皆さんはどのようなイメージをもつだろうか。

漠然とした「難しさ」や「自分の生活とはあまり関係がない」などとかく意識をはずしであったり、あるいは「真剣に考えなければいけないだけどなかなか考える機会がない」テーマかもしれない。

筆者は政治について話すとき、「わかってないと話してはいけない」「本気にまじめにかかわらないといけない」雰囲気を感じることがままある。

「『意識高く』とか、『何かを変えよう』といった気持ちはなくて、ゆるく話す場としてあればいいなぁって」

もぎりのやぎちゃんこと、やぎかなこさんはインタビューで柔らかな口調で話してくれた。

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その日は上田と市政とコーヒーと、の第3回目。
今回は「市政とお金の関係について前向きに深堀してみよう」というテーマ。

会場は上田市海野町商店街にある「犀の角」
ゲストハウスや劇場設備などを備えており、イベントの会場としても使われる。
http://sainotsuno.org/

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会場の様子。オンライン参加も可能。

今回参加したのは、4名。うち2名はオンラインの参加。
現役の上田市議会議員も参加していた。

内容は「はりぼて」という映画から。数年前富山県で起こった市議会議員14名が辞職した政務活動費をめぐる一連をテーマにしたもので、その少し前に上田映劇で上映をしていた。

政務活動費って名前を聞いたことがあるけど、よく知らない…という疑問から始まり、上田市の状況、他市と比べて高いのか安いのか、使い勝手はどうなのかなどが話題になった。

そののち、議員報酬や供託金(選挙へでるために法務局へいったん収めるお金。一定の得票数を獲得しないと没収される)についての話題も出た。

なかでも興味深かったのは、税収をあげるにはどうしたらよいかという話題になった時だ。
コロナ禍で税収が落ち込む中、どうやって税収をあげていき、分配するか。
税収の多くを占めているのは固定資産税と法人税だ。
ひょっとしたら今盛んに各地で勧められている空き家対策なども、税収対策の一環なのかもしれない、と会場で気づきもでた。

会は2時間で終了。

主催のやぎさんと、よしざわまほさんは、
わからないことを言える場、知れる場を作ってみたかった。何かを変えたいわけではないけれど、ここで生まれた疑問を文章などにして何らかのかたちで提案するおまけみたいなのがうまれれば良いかなと思う」、とインタビューに答えてくれた。

会の主催にあたり、意識していることがあるという。
冒頭のTweetにもある「ゆるさ」だ。
「テーマが政治だと堅苦しくなりがちだったり、ふと気を抜くと、何かをしないといけない、変えないといけない、となりがち。自分がたのしく安心して自分の言葉で話せる場がほしかったから、堅苦しくなく、どう楽しむかという観点ですすめている。話す場としてあくまでゆるくゆるく

『雑談としての政治』をどう楽しむか。
二人のゆるさに筆者はほっこりしながら真面目に考えられる場所の大切さを痛感した。

ここまで、取材執筆撮影: さらみ (ナガクルソーシャルライター) 


まとめ・・・・以下、ナガクル編集デスク加筆。

長野県の選挙人名簿登録者数は、令和3年3月現在で、1,734,429人。前年12月から3ヶ月で1,781人減少している。人口がどんどん減っているという現実がある。

平成30年3月25日に執行された、上田市長選挙の投票率は58.14% 上田市議会議員一般選挙が58.13%。

人口も投票率も年々減少傾向にある。

そして、課題は、投票率に限らず、当選後の市政への関心が危機的状況にあることだ。

一例として、議会のオンライン傍聴をする人が少ない。長野県議会はYouTubeでの配信をしているが、3月21日時点で、チャンネル登録者がたった193人、視聴回数が数回から多くて数十回程度しか試聴されていない。

上田市議会のYouTubeチャンネル登録者がたった55人、令和2年度市議会報告会は意外にも、467回は視聴されていた。

県や市町村の広報が配布されたり回覧されたりはしている。しかし、果たして若者や子育て・働く世代の手に届いているのか。ホームページだけでも弱く、TwitterなどのSNSを通じて、自治体もなんとか情報発信を始めている。

議員それぞれが、SNSで、情報公開をしたり、日々の活動を呟くことも重要だ。

2月17日【緊急企画】パリテ・カフェ@信州~森会長発言を多面的に考えてみる~をオンラインで開催。地方議会議員の有志と関心のある市民、約30人が人権について意見交換した。

ゆるくオンラインで集まり、それを行動へ、そして政策へと移していくという仕組みをうまく組み立て、政治への関心の高まりを期待したい。



#クライシスサイコロジーの視点から新型コロナウイルス感染を考える
関連する目標:  
寄稿: 太田秋夫/HopeApple(穂保被災者支援チーム)代表、脳力開花研究所 クライシスサイコロジー アドバイザー 
 2020.5.14

こころのなかから不安を取り除くには

新型コロナウイルス感染が日本列島を襲い、国民を不安に陥れています。「緊急事態宣言」が出されたことにより経済活動もストップ状態で、こちらの面でも不安が広がっています。*クライシスサイコロジーの視点から、この現状と対応策を考えてみたいと思います。

クライシスとは「危機」「重大局面」のことです。そのとき人間の心理はどのようになるのか、どうすればよいのかをお伝えしましょう。不安と恐怖が蔓延している局面を乗り越え、暗闇から脱出する方法です。

人間はクライシスの状況に直面すると不安や恐怖を感じます。今回の新型コロナウイルス感染拡大でも、昨年10月の台風19号災害でも、「危機」に対して人間はそのような心理状態になります。脳のはたらきがそのときどうなっているかというと、大脳辺縁系(好き嫌いなどの感情基づく本能的な情動や記憶を司る部分)のなかにある偏桃体が活発に動きます。ここには恐怖や不安といった生命の危機に関わって本能的な行動を駆り立てる機能があり、交感神経を刺激し、心拍や血圧が上がり、全身の筋肉を収縮させるなどの身体反応も起こります。

この反応は危機に対して「攻撃」もしくは「逃避」するための本能的なはたらきで、危機から脱出するために人間に備わった本能的機能であり必要なはたらきです。しかし、問題になるのは、偏桃体が優位になると思考や認知・判断をする大脳皮質のなかの前頭前野のはたらきが低下してしまうことです。つまり、的確な判断や行動ができなくなってしまうのです。

そのため人間は意味不明な行動をとるようになります。今回のコロナ騒動でも、デマが広がってコロナとは無関係なトイレットペーパーがなくなり、在庫が十分にあると報道されてもなかなか買い占め行動がとまりませんでした。感染していない医療従事者のお子さんが登園するのを拒否した保育園もありました。理性がはたらいて考えれば、おかしな対応であることは明らかなのに不可解な行動に出てしまったのです。外出自粛のために家庭内でのDVが問題になっていますが、これも精神状態が恐怖と不安に巻き込まれているためと考えられます。県外の車両を傷つけるといった事件も起きていますし、海外ではマスクをつけていない人を殴るといったことも起きています。先が見えないためにうつ状態になる人も増えます。これらはいずれも前頭前野の思考が低下しているがための現象です。

正しい情報を自らの意思で入手し、客観的に判断することが大事

危機に直面すると偏桃体が不安・恐怖を呼び起こす。偏桃体のはたらきが優位になると、前頭前野のはたらきが低下して思考・判断力が鈍る。

 次に、どうすればよいかということですが、前頭前野を正しくはたらかせ、偏桃体の動きにコントロールされないように(つまり恐怖・不安に支配されないように)する必要があります。そのためには、正しい情報を自らの意思で入手し、高所対処にたって判断することが大事です。テレビや新聞などのメディアから流れてくる情報をうのみにしていると不安が増幅するばかりです。ちょっとでも咳が出たり喉が痒かったりすると「自分が感染しているのでは」と不安になる人がたくさんいます。それは、「自分もすでに感染しているかもしれないと思って外出を控えてマスクをし、人にうつさないように」と連日脳に刷り込まれているからです。

日本の感染者確認数は5月5日現在、1万6067人で、死亡者は579人です。これを抑えるために外出自粛や三密防止をするのは当然ですが、実は毎年冬季におなじみになっているインフルエンザは、昨年の冬は1200万人(今年の冬は激減して730万人)が感染し、3300人が死亡しています。交通事故の死亡者も一時1万人を超していたものが年々減少したものの、年間3000人以上が犠牲になっています。今回のコロナとは比較にならない大量の感染者と死亡を出している現実があります。

長野県の感染確認者は72人(5月5日現在)です。人口比でいうと、およそ3万人のうち1人です。確認されていない人もこの何倍かはいるでしょうが、それでも圧倒的な人は感染しておらず、根拠なく隣の人が感染しているかも知れないと不安に思う必要はまったくありません。しかし、日々のメディアの報道だけに接していると正しく判断ができなくなり、不安が深まるばかりです。前頭前野が得た情報を何の判断もなく受け入れると偏桃体の恐怖を増幅させてしまう危険があります。意識的に情報を選択し、正しく判断できるようにしましょう。

正しく恐れることが何より大事です。新型コロナウイルスの感染は飛沫感染と接触感染です。マスクの着用と手洗い・消毒が基本です。対面での食事を避け、三密を守れば感染のリスクは下がります。人と人とが接近したら伝染するわけではありません。前頭前野を働かせ、偏桃体の動きに支配されるのでなくコントロールするようにしましょう。

新型コロナ感染予防の国民的取り組みの効果からか、今年のインフルエンザが前年の6割に激減しています。コロナの予防策といっしょだからです。メディアで判断材料となる数値もようやく発表されるようになってきました。一時より再生産数が下がっているのも嬉しい情報です。頭をはたらかせて不安を取り除き、新しい生活スタイルを確立しながら暗闇から抜け出しましょう。

*クライシスサイコロジーとは/クライシスは「危機」「重大局面」、サイコロジーは「心理」「心理学」という意味で用いています。クライシスサイコロジーは機能脳科学者が提唱する新たな学問体系で、感染症流行や災害時の対応を心理面からアプローチするものです。

寄稿・文責: ゲストライター: 太田秋夫さん/HopeApple(穂保被災者支援チーム)代表、脳力開花研究所 クライシスサイコロジー アドバイザー 

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

#衰退していく長野県の地域の足=交通手段をどうすべきか
関連する目標:  

地域の足が無くなっていく!
交通弱者、買い物難民……
その現状と取り組み

2,967
文責 ソーシャルライター 立岡淳志
 2020.5.6

人口減少・高齢社会がやってきた

 少子高齢社会と言われて久しい。若者は都市部に流出し、地方には高齢者だけが残っていく。長野県も例外ではない。長寿県ランキングでは常に上位だが、長生きであるというポジティブな側面がある一方、高齢社会にまつわる問題に直面している、ということでもある。

 高齢化社会とは高齢化率が7%を超えた社会のことである。さらに、高齢化率が14%を超えると高齢社会、21%を超えると「超高齢社会」と定義される。都道府県別に見ると、長野県は31.9%。日本国内で19番目の超高齢社会だ。
([人口推計 2019年10月1日現在(総務省統計局)]より)

 そして県内の市町村別に見ていくと、ランキングは以下の表の通り。

グラフ[毎月人口異動調査年齢別人口(2020年4月分)(長野県企画振興部)]より引用

 

 都市圏の長野市でも30.6%、松本市でも28.1%である。大変な高齢社会が到来している事がわかる。

「生活の質」にかかわる交通手段

 その中で、問題になっているのが、交通弱者だ。明確な定義は存在しないが、ここでは「自家用車などの移動手段を持たず、公共交通機関に頼らざるおえず、日常の移動に困難を生じている人々」のことを指すこととしよう。

 コロナウイルス感染症の感染が拡大している。そんな今、stay homeが呼びかけられ、移動する人は少なくなっているが、その分、路線バスなどが減便されていて、交通弱者にとっては、苦しい状況が続いている。

 交通弱者になると、移動することが困難になるため、生活の質が低下する。病院に行くにも金銭的負担がかかる、徒歩圏内に商店やスーパーが無ければ買い物難民になってしまう、学校に通うことができず結果として移住せざるおえない、等々……地域で元気に生活することが出来なくなってしまうのだ。

 国内全体で、買い物難民(または弱者)は700万人程度と推計されている。([買物弱者対策に関する実態調査結果報告書 平成2 9 年7 月 総務省行政評価局]より)

「交通に係る県民等意識調査[長野県 平成24年6月]」では、「自由に移動できる交通手段がないことで困るのはどのような時か」という設問がある。そこで多かった答えは「食料品などの普段の買い物」である。

免許返納したくてもできない

 過疎地域を中心に、人口減少~公共交通機関の利用客減少~公共交通機関の廃止・縮小~さらに人口減少、といった負のループに陥っている。その一方で、県内のマイカー保有率は全国7位で世帯あたり1.579台([自動車検査登録情報協会 令和元年8 月20 日 ニュースリリース]より)となっている現状がある。

 しかし、マイカー移動から公共交通機関での移動へのシフトは容易ではない。市民の意識の問題もある。だが、それ以上に、衰退し始めている公共交通機関は、例えば1時間に1本しか電車が来ない、土日休日はバスが運休になってしまう、など、すでに利便性は事実上失われている状態だ。そこに「マイカーをやめて公共交通機関を利用しましょう」と言っても、なかなか難しいのが、そこに生活する人の本音なのではないだろうか。

 そのため、マイカーがないとやっていけないが、マイカーを使えば使うほど公共交通機関が衰退して、交通弱者にとってはより厳しい状態になる、というジレンマを抱えている。

 既出の「交通に係る県民等意識調査」では、3~4割の人が鉄道在来線を使う時に、不便や不満を感じているという結果が出ており、その理由は「日中の便数が少ない」というものが多くなっている。そもそもで「利用していないので、わからない」という回答もかなりの割合を占めている。

グラフ「交通に係る県民意識調査 [長野県 平成24年6月]」より引用

 また、昨今では、高齢者の起こした交通事故が報道で注目され「免許返納」の機運も高まっている。県内での交通事故の約4割(39.6%)、交通事故死者の半数以上(55.4%)が高齢者だ。([長野県警察 令和元年交通統計]より)

 しかし、免許返納をしようにも、マイカーの運転が「生活の生命線」となっている場合、「返納したくてもできない」ということになってしまう。高齢者も、若者も、お互いに安全に暮らすためにも、何かしらの移動手段の保証は、不可欠だと思われる。

交通弱者問題に対する新しい取り組み

 交通弱者の問題に対して、新しい取り組みも行われつつある。



 1つ目は「既存の路線をデマンド交通に転換する」というものだ。デマンドというのは「要求」という意味で、決まった時間に時刻表通り運転する路線バスに対して、予約制のワゴン車などを運行する。予約制なので、空っぽのバスが走っている、という事態は回避されて運行効率が上がる。

 ただし、デマンド交通は、予約する手間がある。予約方法は、高齢者でも簡単にできるように、スマホといった電子機器だけでなく、電話などでも予約できるようにしておくべきだろう。

 また、当然のことながら、ただデマンド交通を走らせるだけでなく、どの程度の効果が上がったのか、検証し改善することが必要だ。既存の鉄道・バスとの連携も重要である。

 飯綱町では「iバス」というデマンド交通があり、年間250万円の経費削減につながり、また住民の3分の2が利用登録をしているという。([自治体通信オンライン ウェブサイト]より)

 


 2つ目は「MaaS=マース(モビリティ・アズ・ア・サービス)」という仕組み・考え方の導入だ。ITを活用して、すべての交通機関のデータをつなぎ、運行主体にとらわれずに「移動」をもっと一体的に捉え、便利にしよう、というものだ。

 利用者はスマホを使い、移動方法の検索から決済までを行う。国土交通省が全国で先行モデル事業を19事業選定し、その導入促進を模索している。([国土交通省報道発表資料 「日本版MaaSの展開に向けて地域モデル構築を推進!~MaaS元年!先行モデル事業を19事業選定~」より])

 長野県内では、まだMaaSの導入事例はないと思われるが、IT・スマホを活用したサービスとして「信州ナビ」というアプリが公開されている。公共交通のルート検索や、一部地域では、走行中の路線バスの現在位置が分かる「バスロケーションサービス」が提供されている。


 

 3つ目は「移動販売などによる買い物難民の支援」だ。県内でも各地で移動販売や宅配・ネットスーパーの取り組みが行われている。決まった場所や、自宅の目の前など、自分の生活圏内に移動販売車がやって来て、買い物ができる。

 県内にどんな支援事業があるのかは、長野県のウェブサイト「買物環境向上支援事業実施事業者一覧」で閲覧することができる。

 信濃町では地元の人が、地元スーパーと協力して「移動スーパーとくし丸」を運営している。買い物難民を支援することは、日々の食料品の調達を助けるだけでなく、コミュニケーションが生まれて、暮らしの活力になるのだ。([信濃町の移住者支援サイト 「ありえない、いなかまち。」より])

 また、向こうからやってくる移動販売とは逆に、市街地へ自分たちででかけていく「買い物ツアー」を企画しているところもある。長野市鬼無里地区では、住民自治協議会が主体となり、地元の路線バスを使って市街地へ行き、買い物をしながら、住民であるお年寄りの心身のリフレッシュを図っている。([FNNプライムオンライン]および[鬼無里地区住民自治協議会フェイスブックページ]より)

 

交通の問題は、生活の維持に直結する

 本稿では、交通の問題、特に「交通弱者」をキーワードに、問題の現状や新しい取り組みの一端を見てきた。

 地域の交通手段は、利用者の減少とそれに伴う収入減で、非常に厳しい状況に置かれている。路線バスだけでなく、鉄道も同様だ。「乗って残そう」というのはよく聞かれるスローガンだが、簡単なことではない。例えば、しなの鉄道は平成10年度から平成20年度の10年間で、利用者が14.7%も落ち込んでいる。([しなの鉄道総合連携計画 平成22年2月]より)

 自家用有償旅客運送(福祉有償運送)などの場面では、地域の社会福祉協議会やNPO法人等が努力を重ねているが、それもこのままでは、限界を迎えるかもしれない。

 交通手段が本当に無くなってしまえば、その地域には住むことはできなくなる。その現実を、我々は早く直視すべきだろう。今ならまだ間に合うかもしれない。

 交通は、それ単体で見れば、単なる移動手段だが、生活のすべてに関わってくる重要な要素だ。しかし、国家レベルでも県や市町村レベルでも、それぞれのシーンで担当部署が異なり、一貫した施策が行われているとは言い難い。早急に、横断的なチームの立ち上げが望まれる。

 今までは、主に民間事業者が担っていた公共交通だが、まさに今「公共」のものとして、考え方を変え、もう一度意識し直す時期に来ているのではないだろうか。行政や事業者だけでなく、何より利用主体である市民一人ひとりが考えて、行動することに、公共交通機関ひいては地域の未来がかかっている。

#五輪決定から激動の7年、消える訪日観光客

インバウンド:五輪決定から激動の7年を振り返る

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長野市民新聞コラム「カムカム外国人」2020.2.24 の再編執筆:ナガクル編集デスク 寺澤順子
 2020.3.26

インバウンド戦略の始まりは東京五輪決定から

いま、広がるコロナウイルスの影響で、観光客が長野でも激減している。そもそもインバウンドはどう始まったのか振り返ってみる。

2013年9月に東京五輪開催が決定し、訪日外国人観光客誘致「インバウンド」という言葉が浮上し、10年発表の政府の成長戦略では20年に2000万人を目標とし、16年には目標を4000万人に修正した。

中国をはじめ、東南アジア諸国の日本への観光ビザを緩和し、中国人観光客による「爆買い」の様子がトップニュースを飾った。ICT整備によるスマートフォンでの決済も広がった。

エア・ビー・アンド・ビーという民家宿泊のインターネットを使った世界的なサービスが日本にも到来。住宅の空き部屋への宿泊をルール化したいわゆる「民宿新法」が18年に整備された。空き家を利用した格安ホテルができたり、富裕層を狙った高級リゾートホテルの建設が相次いだ。同年、外国語での観光ガイドを、有料でできるようにした通訳ガイド制度の改正もあり、受け入れ環境が整備された。そして、18年を終えると、訪日観光客は1年で3200万人を越えた。

長野駅にはアジア諸国からの個人客が詰めかけるようになった。2020.1.18撮影。この直後にコロナウイルスが浮上した。

訪日外国人延べ宿泊者数は6年で7倍に

県内では、11年には訪日外国人延べ宿泊者数は20万人だった。自治体や観光関係機関が、WiFi整備や人材育成、海外での観光プロモーションなど、インバウンド推進に力をいれてきた。そして18年には120万人を突破したった6年で6倍に。

長野県観光部発表「平成30年 外国人延宿泊者数調査結果 」

リゾート地だけでなく、善光寺や戸隠などでも外国人観光客を多く見かけるようになった2019年2月には「長野県インバウンド推進協議会」を設立。官民一体となって世界にアピールすると同時に受け入れ環境整備を強化する基盤ができた。まさにインバウンド経済は、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

 

2019年2月、300人もの団体や企業が加盟し、立ち上がった長野県インバウンド推進協議会の設立総会の様子。

相次ぐ不運で危ぶまれるインバウンド

ところが、昨年秋より、かげりが見え始めた。外国人観光客が急激に増加したことによる「観光公害」が話題となり、その後日韓関係の悪化により、韓国人観光客が減少。相次ぐ大型台風によるダメージ。そして暖冬によるスキー客の減少。今年に入って、新型コロナウイルス問題が浮上し、外国人観光客が観光地から消えた。

美しい千曲川の河川敷の風景が台風19号により一変した。堆積した川砂が強風で舞い上がる様子。

(筆者は長野市民新聞で東京五輪が決定する前2013年7月よりインバウンドに関するコラムを連載してきました。当記事は最終回の文章を編集加筆したものです)
 

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 
#地域おこし協力隊、長野県で約350人、6割が定着
文責:ナガクル編集デスク 寺澤順子
 2019.3.31

地域おこし協力隊は「地方創生」の一環で2009年からスタートした総務省の制度です。特別交付税措置によって、隊員の給与や活動に伴う経費、終了後の起業経費も100万円上限で認められています。また、隊員の募集・研修(普通交付税)についても賄われています。全国で2017年度で約5000人が活動しています。

 

人口減少を食い止めるための施策

そもそも、なぜ地域おこし協力隊が必要となったか。長野県の場合も2010年度の国勢調査をもとに試算した結果、2040年には上図のような人口減少が予想され、特に中山間地はもちろん、市街地をもつ自治体でも、高齢化と少子化、生産人口の減少は深刻。消滅する集落をどうみおくるのかの議論までされてきたのです。

中山間地の村では75歳以上の後期高齢者たちが、自治の中心となり、祭りの担い手がいなくなったり、雪かきや草刈りなどを担えなくなってきました。限界集落の住民が、若い人に移住してほしい! と願ったところで、疲弊する地方の自治体にとってはアイデアも予算もなく、課題を放置せざるを得なかったのです。

一方都会では、過剰労働で疲弊した若者の過労死がニュースで大きく報道されました。二拠点生活、副業、テレワークなどの新しい労働・生活形態が話題となり、実践するオピニオンリーダーが相次いでいます。

「県内の地域おこし協力隊受入状況 市町村別」 長野県のホームページ「地域おこし協力隊の広場」より

 

6割が任期の後、地域に残るという好実績

そうした状況の中で、地域おこし協力隊が生まれました。7割が30代以下で、女性も4割。その多くが東京などの都会出身者です。任期中に結婚して定着する事例も増えてきました。長野県でも2018年4月時点で350人の地域おこし協力隊が上記の様に各自治体で活動しています。

「平成29年度中 任期終了者の動向」 長野県のホームページ「地域おこし協力隊の広場」より

 

制度の初期段階では、すぐに離職したり、地域の住民の理解が得られなかったりで、なかなか定着することが難しいという現状もありました。しかし、いま、統計を見ると全国でも6割、県内で63.8%が地域に定着しています。終了後は、農業者となったり、ゲストハウス、カフェなどを起業するなどのユニークな活動も。また地域のNPOや社会福祉協議会などへの就職という形も見られます。しかし、あくまでも終了した時点での定着の有無の調査であり、その後数年してからの追跡調査の結果はありません。

 

課題は受け入れ側の態勢づくり

今年3月、地域おこし協力隊の任期終了報告会が、いくつかの自治体で開催されました。佐久市は第一期地域おこし協力隊が3年の任期を終え、4人中3人の最終活動報告会が開催されました。平日の夜にもかかわらず、ざっと120人を超す人たちが集まっていました。

課題として出ていたのは、行政の担当者との連携でした。右も左もわからない民間の青年たちが、突然、田舎の行政に配属になって、住民との関係に一喜一憂します。やりたいことが出てきても行政との関係でできなかったり、予算が取れなかったり・・・。受け入れる側の態勢づくりはやはり大きいようです。

佐久市地域おこし協力隊第一期最終活動報告会が、2019年3月19日19:00~佐久平交流センターで開催された

市民からは「4月から住むところも取り上げられ、収入も断たれ、大丈夫なのか?」と心配する声が上がるなど、協力隊員に対して好意的な意見が多く驚きました。起業したり結婚したり、子どもができたりと、それぞれたった3年ですっかり、地元に定着したように見えました。

都会に比べて、人間関係が濃く、いつも監視され評価される地域の中で、この若者たちが実にユニークな自身のスタンスを確立できたことは、彼らの精神力とコミュニケーション能力、行動力のなせる業でしょう。都会にそのままいたら、もしかしたらこんな風に、公私にわたって多くの人に心配され、応援され、自分のやりたいことを見出せる人生は味わえなかったかもしれません。

実は県内各地に、移住者や、起業家、NPOスタッフ、行政マンなど、地域おこし協力隊とつながって面白いことをやろうとする人たちのつながりができてきました。SNSによる情報交換や、ワークショップなどのイベント増加の力は大きいかと思います。情報発信ツールの整備が、地域おこし協力隊の活動の追い風になっていることも確かです。

こうした制度は税金で成り立っています。その成功は彼ら次第ではなく、我々次第だということを忘れてはいけません。

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 

#消える人と人とのつながり
関連する目標:  

消える人と人とのつながり

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文:亀垣嘉明
 2018.4.14

自治会の加入率に見る「人と人とのつながり」

自治会や町内会の加入率は全国の自治体で軒並み低下。

長野県内では...

長野市96.1% 須坂市98.3%と高率の一方、南箕輪村では67.2%

南箕輪村は全国でも珍しい人口増加中の村なのに加入率が低迷しています。

今、加入率が高い県内の他の市町村も安心はできません。

地域の象徴的な存在であった自治会や町内会ですが、そのあり方や内容が現代にマッチしているのかという議論はさておき、人と人をつなぐ一つの形である事は確かです。

大阪商業大学(JGSS研究センター)の2010年日本版総合的社会調査によると、20歳~39歳の青年男性で「過去1年間、必要なときに心配事を聞いてくれた人はいますか?」という問いに14.6%の人が「いいえ」と答えています。

つまり、約7人に1人は誰も心配事を言える相手が居なかった事になります。

しかし一方で「何かにつけ相談したり、たすけ合えるようなつきあい」が望ましいという人の割合は年々減少しています。

NHK放送文化研究所 第9回日本人の意識調査より

新たなつながりを模索する必要がある

ただ、この調査結果が現代人が「相談する人がいなくてもいい」と考えている訳でも無さそうです。平成23年度 横浜市こころの健康相談センターの調査によると、男性では概ね半数以上の人が、女性ではそれより更に高率の人が「悩みやストレスを感じたときに誰かに相談したい」と答えています。

平成23年度自殺に関する市民意識調査(横浜市こころの健康相談センター )より

これは、つまり何かあった時に誰かに相談はしたいけど、職場の人や親戚、近隣(隣近所)には相談したくないという事なのかもしれません。

自治会でもない、職場でもない、親せきや隣近所でもない、困り事を気軽に相談できる新たな形の人と人とのつながり方を私たちNPOは模索していかないといけないのかもしれません。

#空き家対策が求められる

長野県は14.7%が空き家に
特に中山間地が深刻

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引用:平成25年住宅土地統計調査(長野県分)、平成28年長野市空き家など実態調査
 2018.2.9

別荘や貸家などを除くと、7万7400戸、全体の14.7%に及ぶ

長野県では今、空き家が大きな地域課題となっている。都会からの移住を推進するも、空き家の増加になかなか追いつかない。

総務省統計局の昭和38年から5年ごとに行われている、平成25年住宅土地統計調査(長野県分)では、住宅数98万2400のうち、空き家は19万9000世帯、そのうち、別荘や貸家などを除くと、7万7400戸、全体の14.7%に及ぶ。

子どもの都会への流出で、親の世代が取り残され高齢化

その後、数年で、7軒に1軒が空き家という可能性が高い。昭和38年から半世紀を経て、世帯数が2倍以上に増加。一方で、空き家は10倍となっている。別荘の多い長野県では、バブル期に建てられ都会の居住者によって買い求められた別荘が空き家となって、買い手がつかず、点在する地域も少なくない。

高度経済成長とともに、長野市や松本市などの都市周辺での団地造成と、住宅建設が相次いだ。しかし一方で、少子化が加速し、東京などの都市への進学率が上昇し、若者が都会へ流出した。

中山間地では、放置される空き家や、荒れ地が深刻化

 

特に中山間地は深刻で、長野市の28年度の調査では、中心部に比べ、中条、大岡をはじめ、鬼無里、戸隠、信州新町に続いて、比較的中心部に近い、芋井、七二会、信更、小田切などの地域も深刻な状態となっている。

年老いた夫婦だけが世帯に取り残されることとなり、やがて、亡くなったり、施設に入ると空き家となってしまう。持ち主は都会にいるため、近隣の畑や水田も含め、放置されたまま、なかなか手が入らないという実態がある。

 

 

まちづくりの活用へ国や地方自治体が補助へ

国土交通省は2018年度から、一戸建て住宅が並ぶタイプの団地にある空き家を老人ホームや保育所などに転用すれば、国と自治体が3分の2を補助する制度が発表された。

県内では、戦後造成された郊外型の団地も多く、耐震補強などのリフォームをしたうえで、NPOが地域の実情に合わせたまちづくりへの活用が期待されている。

(執筆:寺澤順子)

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。