体験の裏付けがない知識習得は砂上の楼閣であり、子どもが真の生きる力を獲得するには、様々な自然体験、生活体験の場が必要である (公益財団法人育てる会ホームページより)
山村留学は、昭和51年、教員や保護者、教育関係者により長野県八坂村(現在大町市八坂)で任意団体(現 公益財団法人育てる会)を発足、初めて実践活動をシステム化して教育に取り入れた。その後、山村留学は全国に広まり、これまで小中学生約12,000人が参加し体験してきた。「山村留学とは、都市部の子どもたちが自然豊かな農山村地域の共同宿泊施設や農家などで暮らし、地元の学校に通いながら、自然体験や生活体験をする取組」としており、自然という県財を有効に活用した教育県として、世界に誇れる功績の一つだ。
しかし、今、その山村留学が長野市で危機となっているー。
長野市大岡地区には「大岡ひじり学園」(長野市大岡農村文化交流センター)がある。今年度は小学生9人、中学生6人が在籍。大岡ひじり学園は長野市(教育委員会)が育てる会に委託し運営されている。
旧大岡村時代、村長が八坂村の山村留学施設を視察し、大岡村での開設を模索し調査、平成9年より村が主導で「大岡ひじり学園」を開設した。その後大岡村が平成17年に長野市に編入したため、長野市が2100万円の予算を割いて、育てる会に委託し運営する形となった。
学園生は平日昼間は大岡小中学校に通うことはもちろん、年間120日は地区内の農家に民泊し生活するため、地域住民との絆も深く、県外から留学しているとはいえ、立派な地域の一員だ。開設以来約400人にのぼる子ども達がここで成長し、中にはそれがきっかけで移住する家族も。大岡地区住民自治協議会には学園を支援する会もでき、地域と連携した学園運営を続けている。
大岡ひじり学園の様子は「ナガラボ」(内田 光一郎 さん執筆)のこちらの記事から
突然、山村留学事業は打ち切りの知らせが?!
大岡地区住民自治協議会会長下倉光良さん・事務局長中村哲夫さんによると、今年3月11日、担当である長野市教育委員会の職員から青木高志学園長を訪ね「平成2年度で山村留学事業は打ち切りとし、育てる会への委託契約もしない」と伝えられたという。「まさに寝耳に水。学園から住民自治協議会に連絡があり初めて知り驚いた」と話す。
「いわば山村留学は合併前から大岡の社会教育の柱」と下倉さんは語気を強める。「山村留学の経験を生かして、もっと小さな子どもや、その家族を誘って大岡の自然体験をしてもらう企画を進めているところ」と話す。
この2年、大岡地区住民自治協議会も後押しし、地域住民らの有志が活動グループ「Oooka森の学び舎」を立ち上げ活動してきた。今年2月にはNPO法人化し、保育園児の親子を対象に自然体験教室に力を入れていこうとした矢先の出来事だった。
数日後、教育委員会より住民自治協議会へ正式に説明があった。「これはえらいことだ」と、大岡地区住民自治協議会は3月25日〜4月17日の短期間で、地区内外から852名の山村留学予算打ち切りの反対署名を集めた。
そして4月21日、長野市長を訪問しその署名を提出。市長からは「(廃止)期間を区切らずに協議していこう」というコメントを得たところだ。
「しかし油断はできない」と二人は話す。なぜなら、山村留学事業の受け入れの可否は、小中学校の合併問題とも深く絡んでくるからだという。4月1日現在で、大岡小学校の児童数14人、内山村留学が9人、大岡中学の生徒数は13人、内、山村留学が6人。特に小学生の数は地元の児童を上回っているという現状がある。地域で生まれる子どもの数が年々減少し、このままでは小中学校自体の存続が危ぶまれる。
一昨年には、長野市が主導し「小さな拠点ワークショップ」を開催、大岡地区の住民自治協議会は協働し、県外から講師を呼び大岡の今後について考えてきた。過疎化が進む地域をどう存続していくのか。その魅力を掘り起こし、活動者同士の交流を通じて、関係人口増加や移住促進のために今、何をすべきかを模索してきた。
昨年春には11人の住民有志により、「自然教育の大岡」を目指し「Oooka森の学び舎」を結成。親子山村留学の提案を視野に入れて、シンポジウムを開催したり、学園と連携し、保育園児を招いた自然体験教室を開くなどの活動を実施。「移住促進を目的として、長い間培ってきた山村留学の経験を生かして、小学生低学年や保育園以下の子どもたちとその親が遊びに来られる企画をと考えてきた」と言う。
「山村留学」は移住促進のカギに
冒頭に書いたように、山村留学は長野県発祥。長野県全体で、現在10ヶ所で山村留学を受け入れている。「山村留学で学ぼう!」と題して、県主催で東京都にある「銀座NAGANO」で昨年も2回の合同説明会を開催。10月には20組50人の参加があった。継続希望者が多いため、新規の需要に対し供給が追いつかないこともあるという。(長野県の山村留学ホームページ)
公益財団法人育てる会が中心となり、全国山村留学協会を1987年に設立、現在全国で23団体が加盟している。その協会が行った29年度NPO法人全国山村留学協会の全国の山村留学実態調査によると、地域活性化のため新たな政策として山村留学に着目する自治体が増えていると分析している。
29年度の山村留学者数は全国で628人に登り、増加傾向にある。最も多いのが鹿児島県で165人、長野県は2番目で130人、北海道が61人と続く。
大岡地区では、毎年、8月15日の夏休みに行う成人式には山村留学卒業生も地区へ招いている。また、「お祭りなどに第二の故郷として、子連れで遊びにきてくれることもある。移住者もいるし、地域おこし協力隊となって戻ってきてくれた卒業生もいる」と下倉さんらは誇らしげに語る。
新型コロナウイルスでICT化が進み、どこにいても、仕事ができるテレワークを取り入れた働き方や生活が主流となる可能性が見えてきた。そんな中、今後、密集した都会から離れ、自然の中でのびのびと子育てをしようとする家族の増加が期待される。
一方で、災害や新型コロナウイルスによる経済危機により、税収の落ち込みが懸念され財政改革が叫ばれ、過疎化・小子化による教育施設の編成にも手をつけざるを得ない状況が迫ってくる。
こうした状況は大岡の山村留学だけに限らない。削減か継続かの二者択一という従来型の議論から脱却する必要がある。行政と地域が対峙する関係ではなく、協働し、第三の道を探る必要性に迫られているのではないだろうか。
取材:2020年4月22日 大岡地区住民自治協議会にて
ナガクルは国連が提唱する
「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。
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