#コロナ禍でフードバンクを通して見える貧困。企業のロスフード提供の必要性。

コロナ禍で見える貧困。ロスフード提供の必要性。

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取材・撮影・執筆・編集 / ナガクル編集デスク 寺澤順子
 2022.3.29

「小学生のいる苦しい家庭」のニーズが、コロナ禍で高まる。ネットでの申し込みが激増。

「3月だけで、334の家庭から食料支援の申し込みがあった。早く送って! という悲鳴も」と話すのは美谷島越子さん(認定NPO法人フードバンク信州副理事長)。それらはいずれも、小学生の子どものいる生活が苦しい家庭からの申し込みです。

平時の生活状況とは違うと感じる。これまで普通の状態だった人たちが急に困難に直面している」と美谷島さんは、これまでにはない危機感をひしひしと感じているようです。コロナ禍で、仕事を失ったり、労働時間短縮で収入が減った家庭もあると言います。そして、学校閉鎖も頻繁に起き、子どもたちが家で過ごす時間が長くなっているという現実。こうした状況が2年も続いているのです。必然的に昼食の用意も必要となります。

フードバンク信州資料より/提供した家庭からの声

また「自身が貧困だとは意識していない状態で、実は困っている。どこに相談していいのかわからない。(支援)制度につながっていない人がほとんど」とも美谷島さんは心配しています。フードバンク信州のサービスを利用した、小学生のいる家庭に2020年度にアンケートを行いました。そのフィードバックで、困って公的な制度を使ったことのある人は19%でした。つまり8割の家庭は制度につながっていないのです。

フードバンク信州は2016年に設立し、「子どもの貧困」解決を事業の柱の一つに置いてきました。2018年からは長期休み向けに、小学生のいる家庭への食料支援を実施。最初は県内でモデル地域を決めて学校でチラシを配布、直接FAXでフードバンクに申し込めるようにしました。初年度は年間88世帯に食品を送りました。これを足がかりとし「全県にこの活動を広められないか」と模索。

そして2020年になり、新型コロナウイルスが蔓延し、学校閉鎖や外出の自粛が続き、収入の減少が社会課題となり、ひっ迫する家庭が顕在化すると予想されました。しかし実際は、社会から閉ざされ、助けて欲しい家庭が見えなくなってしまいました。

発送作業の様子(写真提供:フードバンク信州)/子どもの年齢や状況を見ながら少しずつ中身を変える配慮も。

そこで、小学生のいる家庭に直接アプローチするため、インターネットにさえアクセスできれば、スマホでも食料支援の申し込みができる仕組みを開始。すると反響はみるみるうちに広がっていきました。

2020年7月から「コロナ緊急対応子ども応援プロジェクト」を実施し、スマホを使ってウェブサイトから申し込める仕組みと、マイサポなどの機関に設置してあるチラシに記入し、FAXでの申し込みを併用。今まで見えにくかった各家庭に情報が届き、食品の詰め合わせを個別に発送することができました。事務局に集まってきた食品を箱詰めし、宅急便を利用して年間1076世帯に贈りました。下のナガクル記事は、ちょうどこの事業をスタートした最初の発送時の様子です。

2021年度になると、更にフードバンク信州への申し込みが増加します。実績は、合計2331世帯に約16tを支援。当初の30倍近くとなっています。下記参照(フードバンク信州資料提供:3/27現在3月重量未定)。

食品を集める手立ては、もっと企業のロスフードの提供をレギュラー化すること

「フードバンク」という仕組みの基本は余剰食品、寄贈に基づいて成り立っています。

支援してほしい人たちのニーズはあるのに、「思うように(寄贈が)増えていかない。まだまだ寄贈できるものが企業の中にあるはず」と美谷島さん。例えば加工食品類で、余剰在庫、出荷期限切れや、返品商品などなど。

それが、全国で集計されている食品ロスの多さにつながってきてもいるのです。農林水産省の発表によると、本来食べられるのに捨てられる食品「食品ロス」の量は年間570万tになっています(令和元年度推計値)。食品ロスは大きく分けると「事業系食品ロス」「家庭系食品ロス」の2つに分けられます。事業系ロスが半分以上を占めているのです。

農林水産省ホームページより

また、ここ数年SDGs(国連の持続可能な開発目標)に関心が出てきて「長野県SDGs推進企業登録制度」に県内1323社(2022.3.29現在)が登録しています。県のポータルサイトもあり、取り組み事例も紹介されています。

「SDGsに関心が出てきている。もっと幅広く食品製造や、卸売業の皆さんに、ぜひ目を向けて欲しい」と訴えます。そして「企業に直接調査をしてみたい。食の循環で回るような動機づけがしたい」とフードバンク信州では、昨年10月、県内食品関係企業812社にこの子ども応援キャンペーンのチラシを同封し、アンケート調査を実施しました。そのうち211社が回答をし、結果として、フードバンクやこども食堂などに、27%の企業が寄贈した経験があるというものでした。しかし、一方で、73%はその経験がないことが分かったのです。

「どうしてやれなかったのか」という問いに対して、そもそも余剰の在庫がない企業が46%、やりたくても、寄贈先や方法がわからない、余裕がない企業が26%でした。この26%では、フードバンクからの情報発信や方法の提案などで、解決していけばいいことがわかりました。また46%の企業には、金銭的な寄付や、社員個人が家庭から食品を提供するためのフードドライブ実施も提案できます。

美谷島さんは、「今後の活動の根拠となる資料となった。今後は入出庫管理とマッチングシステム、寄贈者と支援者を見える化することが必要」と言います。NPO側から企業に対し、作業を簡便化した参加しやすい仕組みづくりや、支援した食品がどこにどう発送され、どう社会に役立っているのかをフィードバックするとのこと。

成果を可視化することで、SDGs達成に向けた企業の取り組みとして、フードバンク信州のようなノウハウを持ったNPOと手を組むことの重要性を訴えていくのです。

行政や社会福祉協議会の主体的な協力をさらに求める

「灯油やガソリン、食品などの値が上がって、深刻さが家庭に直接影響している。今、顕在化している貧困家庭は、まだまだ一部だと思う」と美谷島さんは眉を潜めます。

コロナ禍は誰もが予想しえなかった社会問題です。そのため、生活が厳しくなった人は確実に増え、さらに悪化すれば、支援するための食品が足りない状態になります。「だからこそ、無駄にしないで動かす仕組みが必要」と美谷島さんは語気を強めます。

筆者が感じたのは、美谷島さんたちのような専門家や企業が理事として集まるNPO法人ですら、民間のNPO単独ではまだまだニーズに応えられないし、本当に貧困に喘ぐ人たちへのアクセスや、地域企業への信頼性という点で、「動きづらい」という現状がありそうです。

そこで、長野県や県または市町村の社会福祉協議会など、公的な機関も乗り出し、連携する時代になってきました。2021年9月、長野県が音頭を取り「長野県フードバンク活動団体連絡会」がスタートしました。

企業や家庭から提供された食品棚(写真:フードバンク信州提供)

「貧困」と「フードロス」という二つの社会課題を同時に解決する仕組みの「フードバンク」や「子ども食堂」などに取り組む複数のNPO法人と行政がネットワーク化して、「食の循環」という仕組みを作ることが目的です。

こうした仕組みは貨幣価値を伴わない流通で、地域全体で取り組むべき大きな仕組みだと言えます。そのために、ぜひ多くの企業がネットワークに参加し、NPOと手を組んで行ってほしい。災害やコロナ禍により、もう待てない状況にあることをわかってほしい、そう思いこの記事を執筆しました。

取材/ 認定特定非営利活動法人フードバンク信州 (2022.3.26)

#段ボール箱で生ごみを堆肥化。どんな人でも始められる仕組みづくり

段ボール箱で生ごみを堆肥化。どんな人でも始められる仕組みづくり

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執筆者:松井明子 (ナガクルソーシャルライター)
 2022.3.25

長野市の家庭系可燃ごみ排出量、生ゴミが3割!

長野市のごみ総量と市民一人一日当たりの排出量は、平成15(2003)年度をピークに減少傾向にあります。

家庭系可燃ごみに占める生ごみの割合は、重量比で37.4%(平成29~令和元年度 組成分析結果平均)。そのうち、食品ロス7.5%あります。

令和2年度長野市ごみ処理概要(令和元年度結果 令和2年10月 長野市環境部生活環境課発行)の資料から抜粋

生ごみは水分量が多いので、燃やせるごみのなかでも焼却に時間がかかり、CO2が余計に発生します。

しかも、生ごみは堆肥化すればごみとして排出する必要もなくなりますので、自家処理が進めば大幅に可燃ごみを削減でき、CO2と税金の負担も減らすことが出できるのです。

家庭での生ごみの堆肥化と、その回収を行う仕組みづくり

環境啓発活動などを行っている「NPO法人みどりの市民」はこれまで、生ごみの減量と有効活用を図るため各地域で普及啓発を推進する人材、「生ごみ減量アドバイザー」の養成講座を開催してきました。受講した人は、長野市の生ごみ減量アドバイザーに登録でき、ボランティアとして生ごみ減量の実践指導を行うことができます。現在は22人が登録し、2022年度も5月から養成講座が予定されています。

みどりの市民は2018年、段ボール堆肥の基材の配達と回収をする仕組み「どんぐり・るるネット」をスタートしました。5年ほど前の生ごみ減量アドバイザー例会でのワークショップで、段ボール堆肥がなぜ続かないのかを話し合ったことがきっかけでした。

その理由として挙げられたのが、

  • 基材がなかなか手に入らない
  • 堆肥ができても、それを使う畑がない

といった課題。

段ボール箱で堆肥化を始めるには、段ボール箱以外に「基材」を用意しなければなりません。

腐葉土など、ホームセンターなどで手に入るものを基材にして始めることができますが、定期的に購入しにいかなければならないというハードルがあります。

それ以上に大変なのが、「できた堆肥をどうするか」という問題です。

自分の畑がない、マンション住まいで庭もないという場合、せっかくできた堆肥をごみに出さざるを得ないという、本末転倒の事態に陥ってしまいます。

段ボール堆肥を続ける上での課題を洗い出したところで、長野市の西山地区の竹林整備などを行う「西山淡竹会」の松橋清美さんが「竹チップがたくさんあるから、それを配達して、回収しに行ったらどうか」と提案しました。

機械で細かく砕いて製造される竹チップ

松橋さんたちが伐採した竹を粉砕機で細かくしたものが「竹チップ」。竹チップを基材にすると、竹の中の微生物の力で発酵が進み、生ごみが分解されます。

とにかく始めてみようと初年度は補助金もない中で、有志の15会員からスタート。

2年目の2019年度は長野市の「ながのまちづくり活動支援事業」の対象事業になり、2021年度末で丸3年になります。

竹チップ活用と「どんぐり・るるネット」持続可能へ

みどりの市民が西山淡竹会から竹チップを購入し、配達回収を委託。

回収した堆肥は、モーリー農場(社会福祉法人 森と木)とエコーンファミリー(社会福祉法人 花工房福祉会)の畑で活用しています。

2021年12月1日現在、会員数は62人に増えました。
西山淡竹会は長野市内の各家庭や拠点をトラックで周り、年5回(2コースで計10回)、竹チップを配達し、堆肥化したものを回収しています(自分の畑で堆肥を使う人には、竹チップ配達のみ)。

2021年度、竹チップ配布は286箱、段ボール堆肥回収は131箱になりました。

3月9日、どんぐり・るるネット会員の交流会が開かれ、13人が参加。

年度末にいつも行われている交流会では、事業の活動報告と、会員から1年間段ボール堆肥に取り組んでの感想などを話す時間があります。

今回は今年度末で補助金交付が終了するため、みどりの市民副代表理事の渡辺ヒデ子さんから、継続させるための変更点の説明がありました。

  • 会費の値上げ
  • 竹チップの配達・回収を西山淡竹会から花工房福祉会に変更
  • 配達時に行っていた生ごみ堆肥化のアドバイスを、今後は地域にいる生ごみ減量アドバイザー、あるいはNPO法人みどりの市民が担う

などで、新年度のスタートに先立ち直接会員に案内するそうです。

どんぐり・るるネットの交流会=3月9日、長野市ふれあい福祉センター

「会費の値上げは非常に迷ったが、続けるためには値上げせざるを得ない。竹チップを製造する西山淡竹会が配達を担う今までのやり方は非常に効率良かったが、さまざまな事情から、花工房福祉会に委託先を変える。農業と福祉を結び付けた取り組みは各地でたくさん行われているが、私たちは環境と福祉を結び付けてやっていきたい。これまでとは違った新しい出会いがあると思うので、変更を前向きに考えたい」と渡辺さん。

補助金が終了するのに伴い、継続のための非常に難しい判断。

会員から意見が出ました。

「ごみ袋代より高いお金を負担しているのでは、段ボール堆肥の活動は広がらない。ごみ減量に対して行政がもっと真剣になって考えてくれよと言いたい。市民団体がしっかりごみの減量、堆肥化に取り組んでSDGsに協力している。『3年補助金を出したから自立して』ではなく、これを市の取り組みとしてやってくれと。民間に任せきりにしないでほしい」

これに、他の会員からも賛同の声が上がりました。

NPO法人みどりの市民 渡辺ヒデ子さん

渡辺さんは「こういった取り組みをしていくときは、もっと世論づくりをしないといけないが、それが足りていない。指導者や実践者、大きな組織を巻き込みながら結びついてやらないと、『どうせ道楽でやっているんだろう』と思われてしまう。もっと人数が増えてくれば市も事業化を考えてくれると思う。これは私たちNPO法人だけでなく、利用者の声として届けていかないといけない」と会員に伝えました。

微生物とともに「ありがとう」が循環。生き甲斐へ。

基材の配達と堆肥の回収では、

「『(家に)来てもらえるから続けられる』と言葉をかけられる。

ありがとうと喜んでもらえる・・・」

どんぐり・るるネットの関係者はそう話しています。

役に立っていると実感できること。それは人間の生きがいの根源的なもの。

人との関係が希薄化する地域社会で、どんぐり・るるねっとの活動は、人としての生き方の問題にもつながります。

生ごみが、ただの「ごみ」ではなく、西山地区の竹と、そこにいる微生物といっしょに長野市内を巡って、「ありがとう」が循環しています。

これがもっと多くの長野市民に浸透していけば、ごみ問題の解決以上に大きな広がりへとつながりそうな予感がします。

どんぐり・るるネットは、2022年度に向けて、新たな会員を募集中。5月中旬に第1回の回収がスタートします。

これからの暖かい季節は、堆肥の温度が上がりやすく、始めるのに良い季節。

ごみ問題からSDGsを考えてみませんか?

#不幸な犬を減らそう 長野県内の動物愛護活動

不幸な犬を減らそう     長野県内の動物愛護活動

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執筆者:松井明子 (ナガクルソーシャルライター)
 2022.1.22

2021年秋、松本市内の犬を劣悪な環境で飼育し虐待していた販売業者の元社長らが逮捕されました。元社長は動物愛護法違反の罪で12月に起訴されました。

業者の施設で900頭以上を飼育し、469頭の犬を衰弱させたとされ、犬たちが置かれていた過酷な状況が全国ニュースで大きく報じられました。

不幸な犬が増えないように、飼う側が「犬を誰から迎え入れるか」をよく見極めなければなりません。かわいければいいのか? 安ければいいのか? 本当に大事なことは何なのかを考えたいと思います。

犬の処分率が0に近い長野県

長野県では、1994年に4500頭を超える犬が保健所に保護・引き取られ、そのうち4000頭近くが処分されていました。

しかし、現在では保護・引き取りされる犬が減り、処分頭数はほぼ0に近くなっています。

長野県と全国の犬の保護・引取・譲渡・返還頭数の比較(ハローアニマル提供)

2020(令和2)年度に県の保健所で引き取った犬は14頭。以前は「引き取ってほしい」と申し出があった際に、すぐに引き取っていたそうですが、今は特別な事情がなければ「まず自分で引き取り手を探してください」と伝えているそうです。

全国レベルでは処分率がまだ2割弱あるため、比較すると長野県の動物愛護は推進しているといえます。

狂犬病の予防注射の接種率も9割を超えており、全国トップクラスです。

長野県動物愛護センター「ハローアニマル」(小諸市)そうだん課の小平満さんは「長野県民の真面目な県民性が反映されているのではないか」と話しています。

長野県の動物愛護を推進してきた「ハローアニマル」

ハローアニマルは、人と動物が共生する潤い豊かな地域社会を構築することを目的に2000年に設置されました。県の動物愛護管理推進計画の進行管理と、災害発生時の動物救護活動の拠点施設で、災害時にはフードなど、動物のための物資の援助も行っています。

長野県動物愛護センター「ハローアニマル」

「動物のため」ではなく「人と動物のため」の施設で、動物愛護に関する事業を総合的に行う拠点として、約20年に渡り、県民に動物愛護と適正飼養の啓発を行ってきました。

全国では、動物愛護センターと動物の処分場を併設している施設が多いですが、ハローアニマルは動物愛護に特化した施設です。

現在飼育している「ふれあい動物」は、保護犬25頭・保護猫16頭。一定期間の後は引退して譲渡されます。保護動物以外に、うさぎ15頭、モルモット13頭、やぎ2頭を飼育しています。

啓発事業の一つ、「動物ふれあい教室」では、遠足などで訪れた小学生や園児に、犬、ウサギ、モルモットなどと実際に触れあってもらい、命の大切さ、相手を思える気持ちを感じてもらいます。

ふれあい動物としてハローアニマルで飼育される犬も、もとは保健所で引き取られた犬たち。いろいろな人に触れられるので、犬の性格によっては大きなストレスを感じてしまいます。適性を見た上で「人と触れ合っても大丈夫」だとされた犬たちに訓練して、ふれあい動物として活躍してもらっているそうです。

個性豊かなふれあい動物の犬たちが出迎えてくれる

かつては譲渡が事業の柱でしたが、現在は子どもたちを対象にした様々な普及啓発事業が中心になっています。
大人への「犬猫の正しい飼い方教室」では、「命を大切に、責任を持って飼ってください」と、飼うことの大変さを伝えています。

―自宅に犬を迎え入れようと思ったとき、犬とどうやって出会ったらよいだろう?

新たな家族を探している保護犬を迎える選択肢もあります。
小平さんも保護犬を飼っているといいます。

「保護犬は心に傷があったりするので、触られるのを嫌がったり、人間が思う『犬らしさ』がない犬もいます。かわいそうとか、単純な気持ちでは飼えませんので、覚悟がいります。かわいそうというだけで手を差し伸べるのは、野良猫にえさをやるのと同じこと。飼うことで、犬と飼い主、お互いが不幸になってはいけません。個性をしっかり知ったうえで迎え入れてほしい。考えた末に飼わないのも愛情、選択の1つです」

保護犬に関わる方法は里親になるだけではありません。たとえ飼えなくても、保護団体に寄付をしたり、ボランティアに協力するなど、様々な愛情の形があります。

不幸なワンちゃんを減らしたい 「ポチの会」

昨年から長野市で保護犬活動を始めた「犬の心をつなぐWA ポチの会」。

同会代表の西條章代さんは、別の保護団体のメンバーとして活動していたそうですが、10月21日に犬を受け入れ、独自の活動がスタートしました。

長野市と須坂市に住む5人のメンバーが、主に自宅で預かりボランティアをしています。

2~7歳くらいの犬9頭を保護し、譲渡会を経てすでに2頭が正式譲渡になりました。

初めての譲渡会は昨年11月、ドッグラン施設「ドッグフォレスト杏っ子の里」で行われました。

11月に開かれた譲渡会

メンバーの相澤亜紀さん夫妻は農業をやりながら、ドッグランと「わんらぶ 犬の幼稚園」を営んでいます。

ドッグランは、畑に猿を寄せ付けないように犬に来てもらうための施設でもあり、むしろ来てくれる人はありがたく、利用者の寄付で運営しているといいます。

「ワンちゃんたちに敬意を払い、一匹でも不幸なワンちゃんを減らしたい」という思いが、ポチの会の活動にもつながります。

譲渡会には、長野市を中心に県内全域から60人ほどの人が来場。

「自分が思っていた以上の反響がありました。テレビや新聞などで松本の事件のショッキングな映像が流れました。それを受けて、ペットショップではなくこのような場に足を運んでいただいたというのは、関心の高まりを感じます」と相澤さん。

「他県に比べれば、長野県は確かに保護犬は少ないですが、避妊去勢をせずにワンちゃんを安易に迎え入れた結果、飼いきれない現状を招くというのは、長野県を含めて日本のどこにでも起こっていること。ブリーダーに限らず、個人のお宅でもです」

相澤さん宅で飼っている犬も、もとは保護犬。

迎え入れて6年経つそうですがいまだに人になじむことができず、家族以外には今も心を閉ざしています。

譲渡会では、「トイレのしつけがうまくいってないワンちゃんはもらえません」という声も。

相澤さんは「そこでめげていたら保護犬の受け入れは無理。一般的なトイレトレーニングがされてきたワンちゃんではなく、冷たいケースの中、ただ新聞紙を敷かれた状況に閉じ込められていたワンちゃんだったり、栄養状態が悪かったり、病気の治療をちゃんとされずに体が変形しているワンちゃんも来ています」と訴えます。

健康状態が悪い犬は、ある程度回復してからの譲渡になります。

保護犬たちが生まれてからこれまでのバックボーン、すべてをまるごと受け入れ、向き合う。関係づくりに時間がかかることをしっかりわかった上で迎える準備をする必要があります。

「犬のことを自分で勉強するのは大事ですが、悩んだ時はドッグトレーナーなどのプロにも相談してみてください。『一人で悩まないで』というのは人間の子育てと一緒です。それを認知してもらえれば適正に飼われて、捨てられるようなワンちゃん、一般家庭で虐待にあうようなことが減っていくと思います」

ポチの会は、譲渡会活動と並行して、今後は子どもたちへの啓発活動もしていきたいと考えているそうです。

「保育園、小中学校などを訪問し、動物たちが置かれている状況の裏側がどうなっているか、お話をできる場を作っていくのが目標です」 しかし、今はまだ行先の決まっていない犬たちがいるので、家庭に迎えてもらえる努力を最優先で取り組もうと活動しています。

犬を迎え入れようと思ったら

フランスでは昨年、動物愛護の法律が改正され、2024年1月以降はペットショップで犬猫を販売することが禁止になります。

しかし、ペットショップは身近で簡単に動物を目にできる場所。犬を飼おうと思った時に、ペットショップを訪れるのは、日本ではごく一般的な行動です。

「店内に動物がいれば、やっぱりかわいいから子どもは見に行ってしまいます。一緒に来た大人が、そこにいる犬たちのことを子どもにどう説明できるか。犬に対しての知識がないのが現実だと思います」と相澤さん。

―では、どんなブリーダーから犬を迎えれば良いだろう?

相澤さんに聞いてみました。
「飼育環境を見せてくれたり、迎え入れる子の両親を見せてくれたり、バックボーンを明らかにしているブリーダーさんであれば、全てというわけではありませんが信頼はできると思います。また、耳障りのいい売り文句だけでなく、ワンちゃんの特性をちゃんと話していただけることも大事です」

相手がブリーダーだとしても、保護団体だとしても、対面して話を聞き、気になること、わからないことをしっかり確認した上で犬を迎えることが必須なのは違いありません。

各保護団体が譲渡会を開くなどしていますので、話を聞いてみるとよいでしょう。

取材日:長野県動物愛護センター「ハローアニマル」(2021年11月16日)、犬の心をつなぐWA ポチの会(2021年11月26日)

#長野県の外国人労働者を「共に暮らす」者として考える
関連する目標:  

長野県の外国人労働者を「共に暮らす」者として考える

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文責:神保 美月 / 編集:吉田 百助
 2021.11.7

外国人との関係を同じ地域で「共に暮らす」者として考えた時、
私たちは彼らのことをどこまで理解しているだろうか。

外国人労働者は、短期間で訪れる旅行者とは異なる。長期間滞在し、あるいは移住し働きながら暮らしている。コンビニや居酒屋などで働く姿を見かけることはあっても、日ごろの暮らしぶりまで知っているという者は極めて限られているのではないか。

同じ地域のどこかに住みながら、働いて賃金を得て、税金を納め、スーパーで買い物し、決まった日にゴミを出す。私たちと同じように生活しているはずである。ひょっとしたらゴミの出し方がわからず地域でトラブルが起きているかも知れない。あるいは働く時以外は、自宅にこもって出歩かないのかも知れない。

「国籍や民族などが異なる人々が、互いの文化的ちがいを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと」を、総務省は「多文化共生」と定義している。 長野県には「長野県多文化共生推進指針2020」(2020年3月策定)がある。その「指針改定の趣旨」の中に、長野県の問題意識を示した一文があった。

長野県は高齢化の進展が早く、また人口減少も進んでいるため、外国人の活力をこれからの地域づくりに活かすことなしに、長野県の持続的な発展は望めません
日本人県民としては何とも複雑な思いを抱く。
外国人の活力を地域づくりに活かすとは、どのようなイメージを持てばよいのだろうか。

外国人材は長野県内にどれくらいいるのか?

長野県が公表している「令和3年10月1日現在の長野県の人口と世帯数の推計結果」によると、総人口は2,020,372人。このうち外国人は31,644人。割合にして1.57%ほどにしかならないと思っていたが、市町村別人口を見ると駒ヶ根市の人口総数31,653人と同程度。どの町村の人口総数と比べても、外国人総数の方が多いことがわかった。

県内に在住する外国⼈の推移(毎年12⽉末現在)⻑野県県⺠⽂化部多⽂化共⽣・パスポート

別のデータで外国人労働者数を調べてみた。令和2年の19,858人は、人口総数で飯山市の19,133人や軽井沢町の19,783人に近い。
これほどの数の外国人が身近にいると思ったことはなかったが、調べてみると相当数いることがわかった。
なるほど、コンビニや居酒屋などで外国人の店員を見かけることも増えた。コロナ禍の影響で令和2年は減少したようだが、長い目で見ると外国人労働者数は増加傾向にある


長野県における「外国人雇用状況」の届出状況(令和2年10月末現在)

農業を例に考える外国人との関係

農業の人材不足に対し、外国人労働者の受け入れは考えるべき課題だろう。
しかし、収穫時期など一時的に足りない労働力を外国人で補うだけの関係では「共に暮らす」と言えない。彼らが日本の農業に興味を抱いてくれるような働き方。さらに地域のなかで活力を発揮し、農業と地域が持続的に発展できるような取り組みは考えられないだろうか。

たとえば、地域の子どもたちといっしょに行う農業体験はどうだろうか。言葉は通じなくても、仕草や土の感触、収穫の喜びは共有できる。農作業を楽しみながら、地域のことや異国のことを語り合って笑顔を交わす姿は「多文化共生」と呼べるだろう。作物を育てるという同じ目的で一緒に汗を流すことは、心の交流とも呼べそうである。
収穫した作物を互いの国の方法で料理するのも楽しそうだ。同じ作物でも、国によって調理の仕方や味付けは異なるだろう。作り方を教え合い、互いの料理を同じテーブルに並べることで、違いを楽しむことができる。「こんな食べ方があるんだ」と互いに思い合えたら、それはすてきな多文化共生体験になる。

参考イメージ(吉田百助が2021年5月に長野市松代で撮影)

長野県の多文化共生推進指針を読んでみる

「長野県多文化共生推進指針2020」の基本目標は、「共に学び、共に創る しんしゅう多文化新時代」だ。重点施策のひとつである「やさしい日本語」を具体化するため、「信州」がひらがなになっている。

その新時代の実現に向け、3つの施策目標が掲げられている。最初にあるのが「多様性を活かした持続可能な地域づくり」だ。その説明には「多様性を認め合い、尊重する『多文化共生』の意識を醸成し、日本人県民と外国人県民が共に支え合って協力し、誰もが活躍し、自己実現できる活力ある持続可能な地域づくりを目指します」とある。 先ほどの「やさしい日本語」が、ここでは使われなかったらしい。「日本人県民と外国人県民」という表現も耳慣れない。

要は「おたがいを認めあって協力し、だれもが活躍できる地域をめざす」といった感じでよいのだと思う。

お互いを認めあう多文化共生に必要なのは、「共通」の中から「違い」を見つけ、「違い」の中から「共通」を見つけることではないだろうか。「おいしい」という感覚は共通でも、「おいしい」の基準には違いがある。農作業で感じる「楽しさ」も共通できるが、その楽しみ方や表す言葉にも違いがある。

「指針」のような優れた文章がいくらあっても、お互いを認め合うきっかけがなければ、支え合って協力し、活躍することはできない。
では、私たちの身近に、具体的なきっかけや取り組みがどれほどあるのだろうか。交流する機会がなければ、互いを知り合うこともできないままだ。

外国人と「共に暮らし続けられる長野」へ

少子高齢化で足りない労働力を補うために外国人を雇うことは、持続可能な社会を目指す試みとしても必要である。「外国人の活力をこれからの地域づくりに活かすことなしに、長野県の持続的な発展は望めません」と県が言うほど重要な視点なのだろう。

しかしその際に大切なのは、彼らを単なる「労働力」として見るのではなく「共に暮らす住人」として捉え、互いの「共通」と「違い」を知り合うことだ。
外国人に限らず、労働者には「働く」以前に「暮らし」がある。安定し安心できる暮らしと、それを実現し維持するためのルールが社会にある。共に暮らし続けられる地域であるためには、互いに理解し合える環境ときっかけが必要だ。

農業を例にしたような長野県だからできる「共生」の取り組みを、これからも考えていきたい。「来てくれてありがとう」、「長野に来てよかった」と双方が思い合える社会をともに築いていくために。

文責:ナガクルソーシャルライター 神保 美月
編集:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助

👉過去の関連人気記事はこちら『新しい「外国人材の受け入れ」と私たち(2019年4月)』

#地域との関係をつくる「若者」たち
関連する目標:  
ソーシャルライター 吉田 百助
 2021.5.1

「十数年住んでいて地元の知らないことがたくさんあった。何もないと思っていたが、思ったよりいろいろある。それまで意識していなかったものを身近に感じ、特別な存在になった。知らない人に広めていきたい」という学生。

そして、もうひとり。「県外から来た自分は、ここのことをぜんぜん知らなかったけれど、自分たちで調べて知って、とても好きになった。いまはコロナ禍で難しいけれど、これからは住んでいる方々との交流も深めたい」という学生。

2021年4月16日、ONE NAGANO基金助成団体の取材で「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」で活動する上田女子短期大学の学生たちから、地域との関係を考えた言葉を聞き、地域づくりに必要と言われる「関係人口」について調べてみた。

「関係人口」とは

はじめに「関係人口」の説明を総務省のサイト「地域への新しい入口 関係人口ポータルサイト」から紹介する。

説明では「『関係人口』とは、移住した『定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉です。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、『関係人口』と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています」とある。

総務省「地域への新しい入口 関係人口ポータルサイト」より

要は、図にあるように「より多様な人材が地域づくりに参画する」ことを指している。

同サイトでは「モデル事業概要」と「モデル団体の取組」も見ることができる。ここで言う「モデル団体」とは、総務省の「関係人口創出・拡大事業」のモデル事業に採択された地方公共団体のことだ。説明には「総務省では平成30年度に「『関係人口』創出事業」を、平成31年度及び令和2年度に「関係人口創出・拡大事業」を実施し、国民が関係人口として地域と継続的なつながりを持つ機会・きっかけを提供する地方公共団体を支援しています」とある。

長野県内のモデル団体の取組

県内では、塩尻市での「MEGURUプロジェクト」、泰阜村での「関係人口を拡大するローカルコミュニケーション広報事業」と「山村留学等の学びを中心とした関係人口(ファン)づくり事業」、根羽村での「『木育の村・根羽村』で何かやりたい人を全力でサポートする関係事業創出事業」、東御市での「関係人口によるワインクラスター創出事業」、そして長野県の「信州つなぐラボ」が掲載されている。

総務省の事業概要資料より

これら事業のきっかけになった報告書「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会 報告書 -『関係人口』の創出に向けて-」(平成 30 年1月)の「はじめに」の冒頭部分には「人口減少、少子高齢化が急速に進む中、東京一極集中の傾向が継続している。より著しい人口の低密度化が予想される地方圏においては、地域づくりの担い手の育成・確保が大きな課題の一つとなっており、移住・交流施策を通じて積極的に課題解決に取り組む地方公共団体が増えている」とある。

もういちど読み返す学生の言葉

ここで、冒頭に紹介した二人の学生の言葉を読み返してみると、まさに「地域づくりの多様な担い手」になり得る学生たちだと思う。

上田女子短期大学の学生たちが活動する「上田電鉄別所線ボランティアガイドチーム」のきっかけは、別所線存続支援活動を検討していた2016年にあった。「別所線と学生のコラボ」を投げかけられた学生たちが始めたのが、和装・袴姿に身を包んだ乗車ガイドだった。上田市と別所線沿線の観光スポットや、地域にまつわる話などを自分たちで調べて独自のガイドを作成し、土・日曜日、祝日など月に3回ほど車両内でお客さんへガイドしていたという。

ガイド活動は、その後も代々受け継がれ、4年目に入った19年10月に令和元年東日本台風(19号)がやってきた。増水で千曲川堤防が削られ、一部崩落した赤い橋は別所線のシンボル的な存在だった。一部区間の運休が続き、学生たちは乗車ガイドの機会を失った。翌年1月になってガイドを再開したが、今度は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止になった。

「できること」を形にした学生たち

活動の機会を失いつつも学生たちは「できること」を模索する。車内でのガイドはできない。けれど、上田市や別所線沿線の魅力を多くの人へ伝えたい。そんな学生たちの熱い思いが「バーチャル別所線ガイド」になった。

バーチャル別所線ガイドのサイト

どんな状況になっても「できること」はある。また、どこへ行こうと「何もない」はずはない。それを学生たちが示してくれた。

なにかに気づく感性や、できることを探すのは「若者」や「地域外の人材」だけではない。関係人口が求める「より多様な人材が地域づくりに参画する」ために必要なのは、参画する機会づくりと参画を促す働きかけ、そして参画したことで成果と喜びを得た人々の思いを共有することにあるだろう。

前述した学生たちの願いは「早く別所線に乗りながらガイドする」こと。調べて気づいて好きになり、人へ伝えたくなる魅力が地域にはある。バーチャルガイドをつくる人、それを見た人、そして訪れる人も、すべて地域との関りをもった人になる。そうした多様な人びとの思いを共有し、ともに力を合わせて活動する「協働」の仕組みが地域にできれば、「関係人口」を増やしながら地域の担い手となる人材を育成することができる。

そんな思いに気づかせてくれた地域との関係を考える学生ガイドたちのますますの活躍を楽しみに、いっしょに地域の未来を考える「関係ある人」であり続けたいと思った。

取材・文責:ナガクルソーシャルライター 吉田 百助

#長野県台風19号災害から一年。市民の支援活動の軌跡。
文責 ナガクル編集デスク 寺澤順子
 2020.10.13

長野県を襲った令和元年東日本台風から1年。災害の日から今日までの、長野県の復旧復興支援活動の民間の動きを綴った。

2019年10月12日、最大級の台風19号が日本列島襲った。長野県の動脈、千曲川(信濃川)上流から、その周辺地域が次々と浸水。大量の雨に対応できず、水門を閉める指示が国から下ったため、流域市町村は、苦渋の中で、支流から千曲川に流れ込む水門を閉めざるを得なかったのだ。「痛み分け」という言葉が、住民の中に響く。それをしないと、下流の市町村や新潟県も大きなダメージを受けるからだ。

13日未明、長野市長沼地域で千曲川が決壊。早朝には、ヘリコプターで撮影する決壊現場上空の衝撃的なLIVE映像がTVに映し出された。決壊現場すぐ横の民家の2階から自衛隊のヘリによって救出される住民。佐久市では、千曲川沿の河岸沿の民家が激流で倒壊し流される様子が。そして上田市では別所線の真っ赤な橋が真っ二つに折れてしまった映像も。

長野県では、すぐに災害対策本部を設置。若手の知力と体力ある職員が多く配置され、また国や関連市町村からの災害支援経験職員の派遣も速やかに行われた。常時から立ち上げていた長野県社会福祉協議会長野県NPOセンター、コープながのらで作る「長野県災害時ネットワーク」の幹事団体も、対策本部に13日には集結した。

そして県と全国災害ボランティア支援団体ネットワークJVOADとの協定で、民間のNGOやNPOを中心とする災害対応の専門家が県に到着し現地調査と並行して県職員と対策を練る。対策本部会議では、知事が本部長となり被災市町村長をオンラインでつなぎ、更に上記民間の組織の専門家も加わって、毎日会議を行い、状況把握とそれに対する手当てが出され、即座に対策が決断されていった。

2019年10月15日、長野県対策本部で災害ボランティア担当者の会議

特に、長野市長沼地区、豊野地区、松代地区の被災状況が深刻だった。長沼地区では泥流や大木を伴う漂流物が地区全体を襲い、数日後に初めて入った長沼区長の発言では「絶望」の二文字しかなかったという。全てが泥で覆われ、建物は倒壊し、道もなかった。

住民は避難所に速やかに避難し、死者は二人だった。小学校や中学校も被災し、しばらく休校となった。県外NGOやNPOが避難所の整備に一役かい、炊き出しなどの支援活動が続いた。日頃から携わっていた顔の見えるNPOの活躍もめざましかった。

第6回情報共有会議では前原氏(災害NGO結代表)が地域をきれいにする作戦を呼びかけた

県社会福祉協議会やJVOADが被災市町村の現地調査を行い、人員を配置したり、支援グループをコーディネートしたりした。また市町村社協を中心としたボランティアセンターも続々と立ち上がっていき、県内外のボランティアが詰めかけるようになった。同時に、被災地では空き地や道路がボランティアや住民が民家から搬出した災害廃棄物で埋め尽くされ、雑然としたゴミの山が続く風景となり、車のすれ違いもできないほどになった。

災害時支援ネットワークの幹事団体である長野県NPOセンターと長野県社会福祉協議会はボランティアデスクでの対応を続けた。また、同時に、独自に情報共有会議を開催。10月中は週に3回のペースで、長野市中心部のもんぜんぷら座の会議室やホールで、県内で支援に入っているNPOや県外から駆けつけたNGO、また福祉団体や行政など、様々な団体が集い、被災地の現状や支援の必要性を報告しあったり、小グループでつながりあって即座に課題を解決するなど、スピード感を持った活動がなされていった。

毎回共有会議では車座で情報交換し、課題に対し知恵を出し合う(2019/10/23)

県・市社会福祉協議会、NPO、NGO、自衛隊、住民自治組織、これらの連携により、11月最初の連休には、軽トラックを伴うボランティアを上手に動かし、災害廃棄物一掃作戦に入った。これが「ONE NAGANO」オペレーションと呼ばれ、心を一つに、地域をきれいに、という災害復旧のモジュベーションにつながった。

長野県災害時支援ネットワークでは、長野市災害ボランティア委員会と協力して、炊き出しなどの支援窓口をネット上に設置。

道路や民家の片付けに向けたボランティア配置が軌道に乗り、片付けの目処が立ってきた11月後半。災害時支援ネットワークが声がけし、JAと協力し「信州農業再生復興ボランティア」を立ち上げる。りんごの産地として知られる長野市長沼地区では、広大なリンゴ園に積もった泥や漂流物の片付けが必須だった。リンゴの主力「ふじ」は晩秋の収穫を前に実のほとんどが水に浸かり全滅していた。そのまま公的な支援を待っていたのでは、リンゴの木の根に酸素が行かなくなり、腐ってしまう。木の半径1、2メートルほどの泥をとにかく掻き出す作業にボランティアが全国から集まり、みるみるうちに片付いていった。

2019年12月18日復興応援会議

寒さが近づき、ボランティア作業も限界となり、一部の住宅の片付けや畑の落ちたリンゴを残し冬に入った。課題は、河川敷に広がっていたリンゴ畑だった。春まで手付かずのままだったところも多い。

さて、避難所はというと、国からの物資に加え、民間のインターネットを利用した物資寄贈システムを活用。仮設住宅、公営住宅の斡旋や、民間のアパートへの入居が続き、極寒の冬を迎える寸前に避難所は閉鎖となった。

心配されたのは、自宅2階で過ごす人の把握と食料支援だった。お金はあっても、車が流されてなかったり、近くのスーパーも被災し閉鎖となっていたからだ。民間団体が行政や社協と連携し、ローラー作戦を行った。社協職員や民生児童委員のOBなどの福祉関係者が中心となり「生活支援・地域ささえあいセンター」が長野市・中野市・飯山市・佐久市に立ち上がり、仮設住宅だけでなくたの地区に広がる被災者の訪問活動を行った。またボランティアグループが寒さの中でも、炊き出しをしたり、居場所を作ったり小さな努力を積み重ねていた。

まちの縁側ぬくぬく亭

更に、地域の自治会である住民自治協議会の役員らが、11月から地域で情報共有会議を開いた。また、床下の清掃方法や、公費解体などの勉強会を開くなどした。実はこの冬から春にかけて、長野市長沼の被災地を例にとると、閑散として、人がまばらな時期が続いた。なぜなら、ほとんどが自宅に住めないため、地区外のアパートや親戚にいってしまったためだ。全壊で住めないと判断された住宅は公費解体を待つのみとなった。地域で考えることや決めることが山積し、被災者でもある地区の役員の方達の心労ははかりしれない。

冬から春にかけ、決壊現場周辺の強固な堤防工事が進み、堤防内の河川敷の整地作業もできてきた。寒さの中で、ダンプカーが行き交い、堤防の工事が進めば進むほど、住民の心に小さな安心という明かりが点っていった。

3月、県と災害時支援ネットワークとの間で災害支援をする団体を支援するONE NAGANO基金を創設した。既存のNPOやボランティアグループだけでなく、いくつかのグループの複合体や、被災者自身が立ち上げた復興のための団体など、50近い団体の応募があった。最終的に第一次助成団体は32団体に決定し、様々な活動をし復興に向け努力を続けているのだ。

しかし、試練は続く。残念なことに、3月からコロナウイルス感染が広がったことで、この災害復興活動にブレーキがかかってしまったのだ。災害から半年、今後どう生活したらいいのか、ご近所とも離れ孤独を感じる被災者も。また強い雨が降るだけであの日を思い出してしまう。漠然としたこの先の生活への不安。一番の対策は、人と話すことだ。その交流の場自体が、コロナ対策で自粛せざるを得なくなってしまったのだ。せっかく復活した学校も再び閉鎖となり、先が見えなくなる。公費解体などの工事も遅れ気味となっていった。

少しずつ、コロナへの様々な対策が整ってきた。そして7月ごろから、公費解体が急速に進み始めた。被災地のあちこちで、解体作業が行われ、改築をする家からは大工さんたちが釘を打つ音が響いてきた。しかし、解体された家屋は更地になり、また断念したリンゴ畑は荒れたままとなっているところも目立つ。リンゴの産地、古くからの立派な蔵や土塀が続き、千曲川沿いの豊かな地域の様相は一変してしまった。

9月にはONE NAGANO基金の第二次の募集があり、20団体あまりの応募があった。ネットワークでは長野市、佐久市、飯山市などで災害を振り返るイベントも企画し、昨年の経験をどう捉え、日常生活に生かしていくかを、長野県民は自分ごととして考え始めている。

災害への備えを話し合うワークショップは2020年9月26日、佐久市で開催

SDGsで地球温暖化が大きな課題となり、全世界で災害が起きている。日本でも毎年のように深刻な災害に襲われるようになった。もう、一歩も後戻りは出来ない。今自分たちにできることは何か。災害によって強固になったネットワークを大事にして、できることを、待ったなしで実現していくこと。それが我々人間にが生き抜くために与えられた使命なのかもしれない。

#衰退していく長野県の地域の足=交通手段をどうすべきか
関連する目標:  

地域の足が無くなっていく!
交通弱者、買い物難民……
その現状と取り組み

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文責 ソーシャルライター 立岡淳志
 2020.5.6

人口減少・高齢社会がやってきた

 少子高齢社会と言われて久しい。若者は都市部に流出し、地方には高齢者だけが残っていく。長野県も例外ではない。長寿県ランキングでは常に上位だが、長生きであるというポジティブな側面がある一方、高齢社会にまつわる問題に直面している、ということでもある。

 高齢化社会とは高齢化率が7%を超えた社会のことである。さらに、高齢化率が14%を超えると高齢社会、21%を超えると「超高齢社会」と定義される。都道府県別に見ると、長野県は31.9%。日本国内で19番目の超高齢社会だ。
([人口推計 2019年10月1日現在(総務省統計局)]より)

 そして県内の市町村別に見ていくと、ランキングは以下の表の通り。

グラフ[毎月人口異動調査年齢別人口(2020年4月分)(長野県企画振興部)]より引用

 

 都市圏の長野市でも30.6%、松本市でも28.1%である。大変な高齢社会が到来している事がわかる。

「生活の質」にかかわる交通手段

 その中で、問題になっているのが、交通弱者だ。明確な定義は存在しないが、ここでは「自家用車などの移動手段を持たず、公共交通機関に頼らざるおえず、日常の移動に困難を生じている人々」のことを指すこととしよう。

 コロナウイルス感染症の感染が拡大している。そんな今、stay homeが呼びかけられ、移動する人は少なくなっているが、その分、路線バスなどが減便されていて、交通弱者にとっては、苦しい状況が続いている。

 交通弱者になると、移動することが困難になるため、生活の質が低下する。病院に行くにも金銭的負担がかかる、徒歩圏内に商店やスーパーが無ければ買い物難民になってしまう、学校に通うことができず結果として移住せざるおえない、等々……地域で元気に生活することが出来なくなってしまうのだ。

 国内全体で、買い物難民(または弱者)は700万人程度と推計されている。([買物弱者対策に関する実態調査結果報告書 平成2 9 年7 月 総務省行政評価局]より)

「交通に係る県民等意識調査[長野県 平成24年6月]」では、「自由に移動できる交通手段がないことで困るのはどのような時か」という設問がある。そこで多かった答えは「食料品などの普段の買い物」である。

免許返納したくてもできない

 過疎地域を中心に、人口減少~公共交通機関の利用客減少~公共交通機関の廃止・縮小~さらに人口減少、といった負のループに陥っている。その一方で、県内のマイカー保有率は全国7位で世帯あたり1.579台([自動車検査登録情報協会 令和元年8 月20 日 ニュースリリース]より)となっている現状がある。

 しかし、マイカー移動から公共交通機関での移動へのシフトは容易ではない。市民の意識の問題もある。だが、それ以上に、衰退し始めている公共交通機関は、例えば1時間に1本しか電車が来ない、土日休日はバスが運休になってしまう、など、すでに利便性は事実上失われている状態だ。そこに「マイカーをやめて公共交通機関を利用しましょう」と言っても、なかなか難しいのが、そこに生活する人の本音なのではないだろうか。

 そのため、マイカーがないとやっていけないが、マイカーを使えば使うほど公共交通機関が衰退して、交通弱者にとってはより厳しい状態になる、というジレンマを抱えている。

 既出の「交通に係る県民等意識調査」では、3~4割の人が鉄道在来線を使う時に、不便や不満を感じているという結果が出ており、その理由は「日中の便数が少ない」というものが多くなっている。そもそもで「利用していないので、わからない」という回答もかなりの割合を占めている。

グラフ「交通に係る県民意識調査 [長野県 平成24年6月]」より引用

 また、昨今では、高齢者の起こした交通事故が報道で注目され「免許返納」の機運も高まっている。県内での交通事故の約4割(39.6%)、交通事故死者の半数以上(55.4%)が高齢者だ。([長野県警察 令和元年交通統計]より)

 しかし、免許返納をしようにも、マイカーの運転が「生活の生命線」となっている場合、「返納したくてもできない」ということになってしまう。高齢者も、若者も、お互いに安全に暮らすためにも、何かしらの移動手段の保証は、不可欠だと思われる。

交通弱者問題に対する新しい取り組み

 交通弱者の問題に対して、新しい取り組みも行われつつある。



 1つ目は「既存の路線をデマンド交通に転換する」というものだ。デマンドというのは「要求」という意味で、決まった時間に時刻表通り運転する路線バスに対して、予約制のワゴン車などを運行する。予約制なので、空っぽのバスが走っている、という事態は回避されて運行効率が上がる。

 ただし、デマンド交通は、予約する手間がある。予約方法は、高齢者でも簡単にできるように、スマホといった電子機器だけでなく、電話などでも予約できるようにしておくべきだろう。

 また、当然のことながら、ただデマンド交通を走らせるだけでなく、どの程度の効果が上がったのか、検証し改善することが必要だ。既存の鉄道・バスとの連携も重要である。

 飯綱町では「iバス」というデマンド交通があり、年間250万円の経費削減につながり、また住民の3分の2が利用登録をしているという。([自治体通信オンライン ウェブサイト]より)

 


 2つ目は「MaaS=マース(モビリティ・アズ・ア・サービス)」という仕組み・考え方の導入だ。ITを活用して、すべての交通機関のデータをつなぎ、運行主体にとらわれずに「移動」をもっと一体的に捉え、便利にしよう、というものだ。

 利用者はスマホを使い、移動方法の検索から決済までを行う。国土交通省が全国で先行モデル事業を19事業選定し、その導入促進を模索している。([国土交通省報道発表資料 「日本版MaaSの展開に向けて地域モデル構築を推進!~MaaS元年!先行モデル事業を19事業選定~」より])

 長野県内では、まだMaaSの導入事例はないと思われるが、IT・スマホを活用したサービスとして「信州ナビ」というアプリが公開されている。公共交通のルート検索や、一部地域では、走行中の路線バスの現在位置が分かる「バスロケーションサービス」が提供されている。


 

 3つ目は「移動販売などによる買い物難民の支援」だ。県内でも各地で移動販売や宅配・ネットスーパーの取り組みが行われている。決まった場所や、自宅の目の前など、自分の生活圏内に移動販売車がやって来て、買い物ができる。

 県内にどんな支援事業があるのかは、長野県のウェブサイト「買物環境向上支援事業実施事業者一覧」で閲覧することができる。

 信濃町では地元の人が、地元スーパーと協力して「移動スーパーとくし丸」を運営している。買い物難民を支援することは、日々の食料品の調達を助けるだけでなく、コミュニケーションが生まれて、暮らしの活力になるのだ。([信濃町の移住者支援サイト 「ありえない、いなかまち。」より])

 また、向こうからやってくる移動販売とは逆に、市街地へ自分たちででかけていく「買い物ツアー」を企画しているところもある。長野市鬼無里地区では、住民自治協議会が主体となり、地元の路線バスを使って市街地へ行き、買い物をしながら、住民であるお年寄りの心身のリフレッシュを図っている。([FNNプライムオンライン]および[鬼無里地区住民自治協議会フェイスブックページ]より)

 

交通の問題は、生活の維持に直結する

 本稿では、交通の問題、特に「交通弱者」をキーワードに、問題の現状や新しい取り組みの一端を見てきた。

 地域の交通手段は、利用者の減少とそれに伴う収入減で、非常に厳しい状況に置かれている。路線バスだけでなく、鉄道も同様だ。「乗って残そう」というのはよく聞かれるスローガンだが、簡単なことではない。例えば、しなの鉄道は平成10年度から平成20年度の10年間で、利用者が14.7%も落ち込んでいる。([しなの鉄道総合連携計画 平成22年2月]より)

 自家用有償旅客運送(福祉有償運送)などの場面では、地域の社会福祉協議会やNPO法人等が努力を重ねているが、それもこのままでは、限界を迎えるかもしれない。

 交通手段が本当に無くなってしまえば、その地域には住むことはできなくなる。その現実を、我々は早く直視すべきだろう。今ならまだ間に合うかもしれない。

 交通は、それ単体で見れば、単なる移動手段だが、生活のすべてに関わってくる重要な要素だ。しかし、国家レベルでも県や市町村レベルでも、それぞれのシーンで担当部署が異なり、一貫した施策が行われているとは言い難い。早急に、横断的なチームの立ち上げが望まれる。

 今までは、主に民間事業者が担っていた公共交通だが、まさに今「公共」のものとして、考え方を変え、もう一度意識し直す時期に来ているのではないだろうか。行政や事業者だけでなく、何より利用主体である市民一人ひとりが考えて、行動することに、公共交通機関ひいては地域の未来がかかっている。

#台風19号災害支援 発災から2週間NPOの軌跡 長野県
関連する目標:  

台風19号水害発生から2週間、長野でNPOはどう動いたか?

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長野市民新聞「市民とNPOのひろば」2019.11.5掲載 執筆:ナガクル編集デスク 寺澤順子
 2019.11.13

10月12日から13日未明に掛けて襲った台風19号。その被害は長野県各所で甚大です。

10/24決壊現場付近、民家の庭に流れ込んだ体育館床材を、重機で撤去する支援グループ(DRT JAPAN)

穂保地区では、堤防が決壊した後15日水位が低下し、17日には仮堤防が完成。ようやく住民が現地に入れる状態となりました。24日に決壊現場近くの民家でボランティアと一緒に作業する被災者の大学生に話を聞くと「17日に県外から戻ると、実家周辺は見渡す限り泥だらけ、言葉を失った」と話しました。決壊箇所のすぐ近くにある長沼コミュニティセンターの体育館の床ははがれ、北側の民家に突っ込んでいました。重機を持って助けに入ったグループが撤去作業を行っていました。こうしたプロボノ(専門家のボランティア集団)といわれる民間NGOが、重機やダンプ、軽トラなどを全国から調達し、廃棄物や泥を運び、道を明けていました。

10月15日、長野県対策本部で災害ボランティア担当者の会議

災害が発生してすぐに、災害専門のNPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)が県災害対策本部室に入り、岡山や広島の災害での経験をもとに、現地調査をし対応に当たりました。また県NPOセンター、県社会福祉協議会、県生協連などの民間が作る「長野県災害時支援ネットワーク」のメンバーも対策本部で県職員と共にボランティア担当としてその対応に当たっています。

10月19日長野市南部ボランティアセンターの様子

長野市では市社会福祉協議会が中心となって「災害ボランティアセンター」南部と北部団体サテライトの立ち上げ運営に着手。

第2回情報共有会議(10/16)では次々と課題が出されていく

また民間組織「長野市災害ボランティア委員会」や防災啓発グループ「ながのみらい」のメンバーが、避難所やボランティアセンターなどに調査、サポートに入り、毎晩ミーティングを重ね、現状と課題を共有し被災者支援に尽力してきました。フェイスブックやメッセンジャーなどのSNSを活用して、24時意見交換を行い、民間サイドにできることを模索。同時に市民に様々な情報提供をし対応に当たっています。

毎回共有会議では車座で情報交換し、課題に対し知恵を出し合う(10/23)

県災害時支援ネットワークはNPOや市民グループなどを集め、14日から週3回、情報共有会議を開催。6回までで延べ332人、94団体が参加しました。毎回、県の防災本部からの情報共提供、被災現場の状況、災害ボランティアセンターの現状、避難所での被災者の様子などについて報告があり、分野ごとに車座で意見交換します。

第6回情報共有会議では前原氏(災害NGO結代表)が地域をきれいにする作戦を呼びかけた

24日に行った第6回会議では「今、現場では災害廃棄物の山、泥の山がたくさんあり無残な光景に。住民やボランティア、関係機関みんなで心を一つにして景色をきれいに一変させたい」と災害NGO「結」の前原士武さんが訴えました。また県災害時支援ネットワークは市災害ボランティア委員会と協働で、炊き出しや心のケアなどのボランティアをマッチングするシステムも準備しています。

穂保サテライト拠点でNGO(写真は青年海外協力協会)や市民グループも活躍(10/24)

今までに経験のない災害対応の混乱の中で、県と市や自衛隊、県内外のNPOや社会福祉協議会、そして小さな市民グループと一緒にスピーディな協働が求められています。「ここからが長期戦。在宅避難者の調査や支援活動もし、一人も取り残さず助けたい。みんなで一緒にがんばりたい」と第6回会議参加者が最後に呼びかけました。

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

 

#無関心な有権者、長野県議選、投票率過半数下回る

投票率の低下に見る社会への関心度 目と耳をふさぐ有権者

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ナガクルソーシャルライター 吉田百助
 2019.4.24

2019年4月7日に投開票された長野県議会議員選挙(以下、「県議選」)。県選管の選挙結果速報によると、投票率は47.57%と過去最低を更新した。

「有権者の関心が高まらなかった」とコメントした報道もあった。投票率が41.39%と最も低かった長野市・上水内郡区は、「11の議席をめぐって13人が争う激戦」と伝えられながらも、候補者の声が有権者の関心を呼び起こすまでに至らなかったのだろうか。

県議選の投票率は1979年から11回連続で下がっている。実際に選挙運動の現場を歩くと、いまの社会では投票率の低下も仕方ないことのように思える。

データは長野県選挙管理委員会のホームページにある投票率・年齢別投票率等より

選挙期間中にできる選挙運動

選挙運動は、公示日(告示日)に候補者の届け出があった日から選挙期日の前日までしかできない。先の県議選では、3月29日から4月6日の9日間になる。

この間に立候補者と選挙事務所ができるのは、①遊説と街頭演説の実施、②個人演説会の開催、③電話での投票依頼、④公営掲示板へのポスター掲示、⑤1回の選挙公報、⑥2回以内の新聞広告、⑦インターネットを利用した選挙運動、そして枚数制限がある⑧公選はがきの送付と⑨ビラの配布。投票率の低さは、これだけの方法を駆使しても有権者を投票所へ向かわせられないことを表している。

2月14日市民協働サポートセンター主催 第9回ポップアップ知恵出し会議「統一地方選挙間近!~若者とナガノのミライを語ろう~」で長野市の担当者説明の様子@ナガクル編集室撮影

 

有権者は「見ざる・聞かざる・行かざる」

理由は簡単だ。これらのうち有権者が拒否できないのは、不意の遊説車の音しかない。街頭演説は立ち止まって聞くまでもなく、個人演説会には行かない。特に高齢者は夜間に出歩かなくなっている。ビラは受け取らない。知らない番号の電話には出ない。もし詐欺だったら困る。ポスターや選挙広報、新聞広告、インターネットなどは見ない。わざわざ探すこともない。新聞をとっていない、読んでいない。はがきやビラがあったとしても見ることはない。

三猿のように目と耳をふさぎ「見ざる・聞かざる」を貫いたうえに、投票所へは「行かざる」で済む有権者。選挙は「知らない・行かない・関心がない」でも、とがめられることがない。
一方で「口」だけは、やたらと反応することがある。「遊説車の音がうるさい!」、「うちの電話番号や住所をなぜ知っているんだ!」と、わざわざ選挙事務所の番号を調べて電話を入れてくる。候補者の政策や訴えに問題や関心がある訳ではない。

選挙期間中の戸別訪問は禁じられているが、候補者の後援会への加入活動は選挙期間以前に行われる場合もあるだろう。これも難しくなっている。玄関先に出るまでもなくインターホン越しに「うちは結構です」と拒否できる。それ以前に、カメラ越しに見慣れない人には応答しないという居留守もできる。

候補者がいくら届けたいと思っても、相手は目と耳を完全に塞いでいる。芸能人か有名人でもなければ有権者が寄ることはない。それでも「関心を高めろ」と候補者に求めるのは酷な気がする。

投票所へ行けない高齢者

地域には自分の足で投票所へ行けない人たちがいる。歩くのがままならない。自動車の運転免許を返納した。地域を走っていたバスが無くなってしまった。交通手段の無い高齢者が増えるにつれて投票率が下がっているように思える。近くに顔見知りの親切な人がいればよいのだろうが、社会は孤立化が進み、近所付き合いも疎遠になっている。わざわざタクシーを呼んでまで投票所へ行くほどでもない。そんな金もない。孤立しがちな高齢者に寄り添う手立てが必要なのは、選挙だけの問題ではない。ちなみに公職選挙法では、選挙運動員が投票所まで有権者を送迎することは投票干渉行為として禁じている。では、誰が手を差し伸べるのか。いっそ投票箱が地域を巡回する仕組みがあればと考えてしまう。

2月14日長野市内の、市民が集まるワークショップで、どうしたら選挙に関心を持ってもらえるかを真剣に議論@ナガクル編集室撮影

 

買い物は投票と同じだけれど

なにを買おうか、どちらを買おうかと、毎日のようになにかを選んでいる。支持されたメーカーは売り上げを伸ばし、増産するかも知れない。支持されなかったメーカーは赤字を増やし、生産をやめるかも知れない。なかには「なぜ、あんなものを売っているのだ」と思える品があったとしても、それは買う消費者がいて需要があるから。消費者がなにを選ぶかでメーカーの今後が決まる。それぞれの消費者は、なにかしら自分なりの基準をもっている。価格か、量か、質か、産地かも知れない。

買い物は「選挙」、メーカーは「社会」に読み替える。しかし、現実は「なにも選ばない」が過半数を占めている。自分たちが暮らす社会のことを、なにも考えないことが問題に思える。ここ数年、投票所で投票証明をもらってくれば、買い物や飲食が割引される「選挙割」というサービスも見られるが、これは根本的な解決ではない。候補者の声と考えをどう届けるか。関心を呼び起こすか。「見ざる・聞ざる・行かざる」の有権者を動かすことができなければ、現代社会の抱える問題は解決できない。社会的な課題を取り扱うソーシャルライターの一員として、有権者へなにをどう伝えればよいのかが悩みどころである。

 

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。

   

 

#NPO法施行20年記念特集1
関連する目標:  

NPOの運営、60代が中心、高齢化が浮き彫りに

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アンケート主体:ナガクル編集室 協力:ながの協働ねっと「市民とNPOのひろば編集委員会」
 2018.2.8

2018年12月で、特定非営利活動促進法(NPO法)が施行され20年を迎えます。同法は95年の阪神淡路大震災がきっかけとなり、98年3月に成立し、12月に施行されました。NPO法20周年記念「優良NPO活動に関する調査」を昨年12月に実施しました。運営とその課題部分の集計結果の一部を紹介します。

優良NPO活動に関する調査
ナガクル編集室(NPO法人長野県NPOセンター)が、ながの協働ねっと「市民とNPOのひろば編集委員会」に委託し実施しました。NPOの運営・資金調達・情報開示・広報に関する実態調査です。調査対象は、市内で設立登記  から10年以上経過し、28年度の予算が100万円以上の団体としました。県ウェブサイト公開書類で確認し、郵送による送付数は68団体、返信数は26団体でした。

9割以上がNPOのミッションを達成している

活動する中でミッション(使命)の達成度についての質問(図1)に、「ある程度ミッションは達成したと感じている」は38%、「ミッションの一部は達成できたと感じている」は54%で、多くのNPO法人が設立以来、目標を達成できているという結果でした。

 

34%が運営にあまり満足していない

 

それに対して、運営(経営)について満足していますかの問い(図2)には、「満足している」「まあまあ満足している」が66%、「あまり満足してない」が34%と運営の難しさがうかがえます。  

 

課題のトップ3は人材、そして協働の推進

運営上の課題について(図3)、スタッフの人材確保、高齢化、会員確保と、人材の問題がトップ3を占めました。資金調達が4位に入り、次に企業・地域・行政との協働が挙げられたのが特徴的で、NPO法人が単独の活動ではなく、さまざまな組織と協働することの必要性を課題と感じていることがわかりました。

 

60代がNPO運営の中心に! 課題はやがて後継者不足に

また特に大きな課題として挙げられた高齢化について理事の年代を調べた結果(図4)、理事の年齢について60代がもっとも多く96人、次に70代と50代が占める割合が高く20代はゼロでした。立ち上げ時から年月を経た今、後継者不足や世代交代が大きな課題となったことが浮き彫りになりました。

また、調査団体の中の各分野のNPO理事長に取材し、その成果や課題について話を聞きました。順次取材、トピックス頁に掲載していきます。(>トピックス>NPO紹介 参照)

(執筆:寺澤順子)

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