長野市で災害時支援ネットワーク大交流会5回目。「平時のつながり強化」と「自分ができること」

災害が起きたとき連携して支援活動を行なうことをめざす「長野市域災害時支援ネットワーク」は2024年2月18日、5回目となる大交流会を実施しました。日常的につながりを広げておき、非常時にはそれを生かして支援を必要としている人たちに寄り添うのがねらい。ワークショップでは自分は何ができるか、誰とどうつながればよいかを考えました。

長野市災害ボランティア委員会が主催

会場となった長野市のもんぜんぷら座に集まったのは、ボランティア・市民活動団体、住民自治協議会、自主防災組織、社会福祉協議会、行政、企業、大学など多様な立場の人たちで、個人の参加もありました。予定した定員を上回る50人の参加となり、これまでネットワークとつながっていなかった新たな参加者も多数あり、これまでの研修や交流のときとは異なる顔ぶれが見られました。

主催したのは長野市災害ボランティア委員会で、長野市と長野市社会福祉協議会が共催しました。
主催者を代表した村田憲明委員長は、開催の趣旨とともに「初めて出会う方と話したい。委員会のことも知ってほしい」とあいさつしました。

主催者あいさつをする村田委員長

避難所を想定して初めて出会う人と組を作る

進行役を務めたのは日本ファシリテーション協会災害復興委員会・フェローの鈴木まり子さん
巧みな話術で交流をゴール(交流を通して「私たちがつながりながらできること」のヒントを見つける)へと導きました。

最初は、「初めて出会う人」「話したことがない人」という “条件”付きで2人の組を作りました。
積極的に声をかけてバディーを組む必要があり、黙っていては相手が見つかりません。知っている人しか残っていないときは、呼びかけ合ってトレードしてもらい “条件”を満たす組合せができました。

実は、この組をつくる取り組みは、被災時における「訓練」の一貫でした。鈴木さんは、「この会場を避難所と思ってください」と話し出しました。自分たちが組を作れたからいいというのではなく、条件が満たされた状態に会場(避難所)全体がなっているかに気を配り、うまくいっていない人がいるとわかったときはトレードするなど協力し合うことが大切だと説明しました。

ファシリテーターの鈴木さんが巧みな技で交流をコントロール

初めて出会った人と、与えられた4分間のなかでの交流。自己紹介や能登の地震でどんなことを感じたかなどを話し合いました。

交流における大事なポイントについて鈴木さんのアドバイスが続きます。
話し合いのとき特定の人が長く話してしまい、他の人の話す時間が少なくなることがしばしばあることにふれ、それは「話の長い人が悪いわけじゃない」と言う鈴木さん。「私にも話させて」と遠慮なく伝えることが大事だとの助言でした。

再び相手を変えて4分間の交流。鈴木さんの「コミュニケーションなのだから、スマホで時間を計ってなんてことしないでね」という指摘に会場は大笑い。短時間のようですが、初めての人としっかりつながりができました。

知らない人」と気軽に話す力は、被災者支援でも必要

過去の大災害で継続して支援活動

会場が和やかな雰囲気になったところで、長野市災害ボランティア委員会の活動紹介がありました。2019年の東日本台風19号災害のあと、災害時に連携できるように長野市の地域のなかに災害時の支援ネットワークを平時から構築しておこうとの機運が高まり、研修会や交流会を重ねてきました。そのまとめ役を担ってきたのが同委員会です。

村田委員長は委員会のあゆみと活動を説明。阪神淡路大震災(1995年)にボランティアを送り出したことからスタート。新潟中越地震(2004年)、東日本大震災・長野県北部地震(2011年)、熊本地震(2017年)、そして2019年の千曲川堤防決壊水害などで被災者支援活動をしてきたことを伝えました。

募金や寄付金付き物販にも力を入れ、現在は防災カフェを定期的に行なっているとの紹介もありました。ネットワークに関わっている団体や個人に事務局から送付するメールの数は120通に上っているとのことです。

長野市災害ボランティア委員会の説明資料

まずはテーマを明示して「見える化」する

プロクラムはワークショップへと移ります。これは5~6人で組を編成し、段ボールで作った円卓を全員の膝の上に載せて行ないました。それぞれの膝がテーブルの脚替わりです。話し合いのテーマは、「災害時、私たちがつながり、できることは?」でした。

これを、まず円卓の真ん中に大きく書いて、丸で囲むよう鈴木さんから指示がありました。何をテーマに意見交換しているかを常に意識するための「見える化」の処置でした。大きくて、やや漠然とした「お題」を与えられても、すぐには思いつかないかも知れません。そこでヒントになるようにと、最初に2人から活動の報告がありました。

きょうの「お題」を真ん中に書いて常に意識(話がそれないように)する

避難所訓練で防災意識を高める

第三地区住民自治協議会(住自協)で事務局長をしている浅倉信さんは、中心市街地の住自協(5地区)では7年前から防災士の育成をしており、これまでに75人の防災士が誕生していることを報告しました。防災士は、それぞれのまちのなかで「お茶飲みサロン」などを利用して防災の普及活動をしているとのことです。

第三地区として5年前に、鍋屋田小学校が避難所になったとの想定で子どもたちも参加して450人で大規模避難訓練を実施したことを紹介しました。この1か月後、台風19号災害が発生しています。

長野市災害ボランティア委員会が主催する「ぼうさいcafé」(Zoomで夜8時から)でこの取り組みについて昨年1月に話したところ反響が大きく、地域に密着した地道な活動ということでいろんな所から講演を何回も依頼されたとのことでした。

この避難所訓練のあと、町単位に避難所を作る必要性を感じ、3年前から各公民館単位で避難所体験をする活動を行なってきたそうです。炊き出し訓練や段ボールベッドを作ることなどを通じて、公民館が避難所になったときのことを実際にやってみました。

中心市街地ではマンションが多く、新しく入ってきた住民で知らない人がいるため「知り合いを増やそう」という趣旨もあったとのことです。浅倉さんは「それが一番の防災につながった」と話しました。知り合っている関係は、安否確認や避難所開設において大事だと言います。育成会ともコラボし、子どもに参加してもらうことで親にも来てもらえるという活動手法も紹介し、ヒントが満載でした。

ことしも9月4日に大防災訓練を実施するとのことで、浅倉さんは会場の人たちにも協力を呼びかけました。

ヒントが満載だった浅倉さんのお話

子どもたちの支援体制も平時から

つづいて、「ながのこどもの城いきいきプロジェクト」の廣田宣子さんが「長野市緊急時における子ども支援ネットワーク」について報告しました。

「こどもの城」は4年前の台風19号災害のとき、北部スポーツ・レクリエーションパークの避難所に入り、子どもたちの居場所を設けてサポートをしました。その後、子どもたちには長期的な支援が必要であることを感じ、3年間に渡って活動を継続して来たとのことです。

子どもたちの支援に関わっている人たちが平時からつながっておく体制づくりをしておく必要があることから、昨年2月に支援ネットワークを立ち上げました。合わせて活動上のガイドラインも作りました。「各団体に直接声をかけて、なぜ災害時に子ども支援が必要なのかを伝えることを大切にしてきた」と話す廣田さん。これからは地域とつながっていきたいとして、「子どもが困っているときに声をかけてもらえるネットワークにしたい」と話しました。

最後に、ガイドラインのお披露目を兼ねた交流会を3月24日(日)に実施する計画を告知し、参加を呼びかけました。

子どもの居場所づくりに全力投球してきた廣田さん

交流でつながって、これからできること

各グループで意見交換が活発に行なわれました。

「中心になっている団体によって、つながっている各団体が何をできるか把握しておき、災害が起きたとき、こういうニーズがあると振ってもらえたら」

「どんな支援ができるかをまとめてパッケージ化しておき、避難所を開設したとき行政から渡してもらったらどうか」

「災害弱者のための訓練も必要だ」

「手話サークルがあることも忘れないで」

「公民館のカギを誰が開けるかまで決めておく必要がある」

さまざまな意見が飛び交い、活動する分野の違う人たちからの意見や提案は、おおいに刺激になり、つながりが深まったようです。

交流の時間はあっと言う間に過ぎていく

ワークショップの締めに、各自が「明日から何ができるか」を附箋に書き出しました。
これは持ち帰り用です。「ノートなどに貼って、いつでも見えるようにしておいてください」とファシリテーターの鈴木さんから呼びかけられました。

「その日の振り返りをoutputする」
「まちの役を引き受けてみる」
「浅倉さんとつながる」
「アパート・マンションの住民が孤立しないように、まずは回覧板が回るように働きかける」
「連絡ツールとしてLINEの使用を検討する」
「防災計画を作る」
「コーディネート力の構築(非常時だからこそ冷静に)」
「被災した人々の様子を地域に伝える活動をする」
「地区の公民館で防災イベントを企画する」
「家具の転倒防止」
「今日の絆を今後も生かそう!」
「隣近所との日常的な声掛け (うわさ話でない)情報交換」
「隣近所とのつながり(子ども・高齢者の見守り、あいさつ運動)」
「交流会に参加する 顔を出す」
「防災ネットワークの交流会に参加する」
「手話サークルの方から具体的に必要な支援について聞く」
「本日参加の皆さんに3月24日の交流会に参加して頂く」
「聞こえない方の災害時の困り感を伝えるために、支援ネットワークへの参加を続ける」
「ボランティア団体として他の方々とつながることが大切だと仲間に伝える」
「正確な情報を伝える」
「来年も多様な立場(行政、社協、NPO、ボランティア)で災害時にできることを考える交流会を実施する」
「社協、行政さんと定期的な会議を年度が替わっても続けていく」
「どんな団体で何ができるかわかる資料を作成する」
「防災士会のLINEグループのメンバーを増やす」
「防災士に登録して女性防災グループを作る」
「災害ボラセンの訓練・Co養成の研修をやります」
「情報を持っている人とつながっていく」
「自分から話しかけ、相手の話を聴く(意識的につながりを作るよう心がける)」
「体験を話し合う会を開く(おしゃべり場)」
「体験した災害を風化させない 気にかけ続ける」
「今何ができるかを考え、周りに知らせる。共に歩んでもらう」

附箋に記した自分の取り組み課題は持ち帰ってノートに張り出す

今回の交流とつながりは、それぞれに新たな視点を与えてくれ、これからの活動に向けた意欲を醸造してくれたようです。主催者の村田委員長から、最後に「来年も大交流会をやります」と力強い宣言がありました。

取材・執筆 ソーシャルライター 太田秋夫(防災士)