長野市のバス路線廃止問題を受け、住民有志が呼びかけた「長野市の公共交通を考えるつどい」が2025年4月26日、長野市生涯学習センターTOiGOで開かれ、市内外からおよそ70人が参加した。


つどいを主催した「長野市の公共交通を考える会(仮)」で代表を務める五味美穂子さんは、「住民説明会はあったが、住民の声がどれだけ反映されるか不安」と言い、「どのような交通になればよいのか、みんなの気持ちや考えを出しあう集まりになればよい」とあいさつ。

長野市のバス路線廃止問題とは
正式な協議事項になったのは、第43回長野市地域公共交通会議(令和7年3月12日開催)だという。「長電バス㈱が運行する『牟礼線』の運行見直しについて」と「アルピコ交通㈱が運行する地域間幹線等の運行見直しについて」が協議されている。

このうちアルピコ交通の運行見直しは5路線。市の公式ホームページに掲載された議事概要には、[資料2に基づきアルピコ交通(株)より説明。代替手段の方向性も見えていない状態であるため協議が整わず、継続審議とすることを決定]とあった。
正式協議より先にマスコミが報道
会議の前日(3月11日)、NHKのニュースで「アルピコ交通 長野市内5路線で来月から本数を半分に」と報道されていた。荻原市長は11日の定例会見後に記者からの質問に答えて「地域住民の不安を考えると残念だ。事業者を行政がどのように支えるのがいいのか、ほかの自治体も参考に公共交通のあり方を根本的に見直す時期だ」と述べて、早急に対策を進める考えを示したとも報じられていた。
また、つどいの最後に提案された「長野市の公共交通を考える会結成アピール」には、「アルピコ交通の方針については昨年暮れには長野市に伝えられていたにも関わらず、関係機関や利用者に知らされず、代替案が示されないまま発表され、小中学生、高校生の通学、進路選択にも影響を及ぼすなど大混乱を招き、市民に大きな不安を与えることとなりました」とあり、昨年からの市の対応を問題視している。
バスで通う高校生の声
減便・廃止を2月末に聞いて衝撃を受け、緊急で生徒の声を取りまとめたという長野県高等学校教職員組合の組合員は、「4月に入学した生徒は、バスの減便・廃止を知らずに受験した」、「バスがあったから入学したのに」、「学校へ通えなくなれば辞めなければならない、卒業の資格を奪わないで」と切実な声を報告した。
また、長野県長野西高等学校中条校では、バス時刻に合わせて時間割を変更。休み時間と昼食、そうじの時間を短くして下校時間をバス時刻に間に合わせているという。


公設民営バスを運行する松本市
事例として、松本市の公共交通政策が報告された。同市は令和3年4月に、交通に特化した部局として「交通部」を新設。【利用者減少】⇒【収入減少】⇒【経費削減】⇒【サービス低下】という公共交通が直面する<負のスパイラル>からの脱却を「公設民営=市が制度設計し、民間事業者が運営運行」でめざした。
路線バスを、市民の最も身近な足として位置づけ、将来にわたって路線網を維持、拡充するため、エリア全体をアルピコ交通と一括協定し、市がマネジメントして①路線バス②高速バス③貸切バスと複数のバラバラな運行形態を統一、重複路線を統合して便数も見直した。
住民に対しては路線再編の必要性と方向性について説明する会を、計55回開催したという。
地域バスを支える住民の取組
路線バスの廃止に伴い代替交通として平成29年4月からコミュニティーバス(正式には「地域主導型公共交通」という)の運行をはじめた松本市の「ほしみ線バス協議会」の滝澤睦広会長は、「公共交通は、そこにあることが大切。地域の文化や経済が、そこを流れていく」といい、「みんなで乗ろう!ほしみバス」と書かれた広報紙「ほしみ線だより」や新聞記事などを紹介した。
住民主体で運行するバスを支えるのは、市独自の「交通空白地」を対象にした補助制度。補助金を除く運賃収入などで事業費の1割を確保するのが条件のため、広報紙で住民に知らせ「乗ってもらう努力をする」という。
滝澤会長は、「行政は首長の姿勢が大事だが、なによりも地域住民が本気にならないと、実現しない」といい、「乗っている人の問題にしたら継続は無理。地域全体のものにしないと」と強調した。
松本市にならって長野市も議論が必要
事例報告後の意見交換では、さまざまな意見が相次いだ。一部を紹介する。
〇公共交通は、高齢者やこども、障がい者など車を運転できない人のためだけではない。社会インフラの重要なひとつ。
〇長野市に合併した中山間地から人がいなくなる要因になりかねない。住む権利さえ奪われるのではと心配事が増える。
〇若い世代は高校の問題もあり、バスがなくなると暮らしづらくなる。
〇バスと徒歩でくらしていると町の変化がよくわかる。まちづくりの観点からも考えたい。
〇中山間地の助け合いとしてライドシェアができないか。
〇松本市は「運転手がいない」という問題を公設民営で解決した。長野市も大いに議論していきたい。
意見交換後、つどいの主催者は、「のぞましい公共交通を引き続き考えたい」とし、「長野市の公共交通を考える会結成アピール(案)」を提案した。一部を抜粋して紹介する。
(前略)交通の果たす役割は、移動手段だけではありません。①地球温暖化を防ぐなど持続可能な地域社会を創ります。②交通は、教育、福祉、医療など社会的な便益をもたらします。③交通は人の交流、情報交換などをつうじて地域社会や人々の文化を高め、豊かな生活を築き上げ、文化を育みます。④交通は誰もが人として幸せに生きていくための大切な人権(交通権)です。⑤交通はまちづくりの土台です。特に長野市は多くの中山間地を有する都市であり、交通の確保は地域の存続に直結しています。交通権を保証できる街づくりを求める声を集め、長野市に交通政策の強化をもとめていきましょう。(中略)
長野市と市民が協力し合い、長野県や国の協力を得ながら安心して暮らせる地域社会を作るために力を合わせて参りましょう。そのためにも長野市が真摯にこの課題に向き合い、全面的な公共交通の再編に取り組むことを強く求め、私たちは今後署名活動に取り組んでまいります。市民の皆さんのご協力をよろしくお願いいたします。
閉会後、代表を務めた五味美穂子さんは、「呼びかけたものの、どれほど人が来てくれるのか不安だった。たくさんの人に集まってもらい、いろいろな声を出してもらった。より良いものになるよう、この問題を知っていっしょに考えてほしい」と話した。

<取材・編集>ソーシャルライター 吉田 百助



