法務省のトップページに「2019年4月1日から新たな外国人材の受け入れ制度が始まります!」の告知がありました。なお、太字にした部分は法務省で大文字にしていた部分です。あと1週間でこの制度が始まるという時点の今、長野県内に住む外国人の傾向について振り返ってみたいと思います。数字からうかがえる大雑把な傾向でしかありませんが、この新たな制度により、今も十分に身近な外国人が今後も増えることは間違いなさそうですから、魅力あるナガノを作るための検討材料にはなるかと思います。
外国人労働者について考えるワークショップ。筆者も出席。外国籍のまま働く悩みなどを話し合った。(2019年3月16日 長野市市民協働サポートセンターまんまる)
1990年から日系人の就労急増
まず復習ということで、長野県内に暮らす外国人の推移をみてみます。外国人に関する各種統計は法務省入国管理局(現在)のページで公表されていますし、長野県に関しては県国際課が発表しています。ここでは県のものを引用します。
県内に在住する外国人の推移(毎年12月末現在)(長野県県民文化部国際課のデータより)
1990年に「入管法改正」という注釈がグラフ中に入っていますが、身近なところを簡単にいうと「定住者」という在留資格が新たに加わり、日系3世まで日本での就労が可能になったということです。それでブラジル人を中心に、かつて日本人が移民した国々から、移民の子孫である日系人が大勢来るようになりました。その様子はグラフで一目瞭然です。ちなみに当時の入管法改正の背景に、バブル経済期に問題になった3K労働などの人手不足があったことはいうまでもありません。
「裏口」に対して表玄関を開ける
ところで日本の外国人政策は「バックドア(裏口)からの受け入れ」と皮肉られることがありました。単純労働、つまりいかにも「外国人労働者」の言葉が喚起するような労働者は受け入れないという、言葉を変えればそのような滞在資格はないという立場をとりながら、現実的には裏口から受け入れているという意味合いを含んだ表現です。「定住者」は仕事の種類に関係なく働けるので単純労働にも従事できますが、労働のためのビザというわけではありません。日本からの技術移転を目的とする「技能実習生」が、実際には単純労働者ではないかとの批判があるのは周知のとおりですし、日本語学校、専門学校などの「留学生」が限られた時間内での就労を認められていることから、人手不足の業界での労働力になっている面も否定できません。
今回の「新しい外国人人材」は、以上のような「裏口」に対して表玄関を開けたということができます。というのは介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、 建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野で、一定の条件を満たせば、働くための滞在資格をもって労働できるようになるからです。詳しいことはこちらに図説されています。
長野県でもベトナム人の急激な増加
次に現状をみてみます。長野県の発表資料から抜粋して作成した平成30年末現在の人数で広域別の集計です。先のグラフで最近の増加ぶりは明らかですが、この表でも前年に対しての大きな増加に注目して下さい。
地域ごとの特徴を考察してみます。佐久地域では、全体的に圧倒的な中国人を別にすると、タイ人の多さが目立ちます。一時期はトップだったこともあり全国的にも珍しいのが佐久地域です。外国人が定住する場合、ある程度の規模になると食材店ができたり同胞ネットワークができるため暮らしやすくなり、それを頼ってさらに同胞が集まることが知られています。佐久地方におけるタイ人の定住化は、基本的にはこの論理で説明できそうです。
中国は距離的にも近く人口規模も巨大ですから色々な分野で多くなるのは必然ですが、忘れてならないのは、長野県が全国一の満蒙開拓団送り出し県であった歴史で、中でも南信州の割合が高かったことから、帰国者家族も多くなっていると予想できます。
ブラジル人の特徴は工場労働者が多いことです。そのため景気の動向に左右されやすいことは、上記グラフの注釈にもある通りです。ブラジル人が一番多い上伊那地域は、精密機械関連、電気・電子機械関連など高度加工技術産業を地域の強みとしていますから、関連は考えられるところでしょう。
木曽でフィリピン人の割合が突出して高いのは興味深いところです。フィリピン人の場合、かつてダンサーや歌手として働ける「興行」ビザで来日した女性が、日本人男性と結婚するケースは多く、例えば1996年の国際結婚では妻フィリピン、夫日本人の組み合わせが最多となっています。ちなみに現在は妻中国人、夫日本人です。
そしてグラフからも表からも際立っているのは、ベトナム人の急激な増加ぶりです。外国人の増減は個人的事情というよりは、受け入れ国と送り出し国の事情と関係性に依存します。例えば自国が経済発展し送り出し要因が小さくなると相対的に日本の魅力は小さくなりますし、国際関係による変化も見逃せません。ベトナム人の増加が何を物語るのかは考えてみる余地がありそうです。
実は「永住者」が一番多いのです!
ここでは単純に人数だけを、しかも外国人登録をしている正規の数だけを参考にしました。「外国人」という言葉を使いますから、イコール「いずれ帰る人」のイメージを持つ人がいるかもしれません。しかし滞在資格別という観点からみると、実は日本全体で一番多いのは「永住者」の28.8%で「特別永住者」を合わせると41.2%にもなります。長野県も同程度。永住者ですと、配偶者や家族の呼び寄せもできますし、定住化が進んでいることは明白です。今回新設のビザも一定の条件を満たすと家族の呼び寄せができますから、全員が外国人という家族が増える可能性はますます高くなります。
それでも政策的には「移民」という言葉は使われていませんから、統合的な政策がとりにくいのではないかとの懸念がでています。世界各地で移民問題に端を発する問題が多発しています。島国日本で山に囲まれた長野県も、これまで経験したことのない社会に入ろうとしています。外国人政策は国の役割ですが、私たちと一緒に暮らすのは他でもない「人」なのだということを、改めて見つめ直す必要があると思います。