2019年10月12日、千曲川流域に大きな被害をもたらした令和元年台風19号からまもなく1年。被災状況を振り返り、次の災害への備えを話し合うワークショップが9月26日、佐久市で開催された。

主催は佐久市市民活動サポートセンター(通称さくさぽ)、共催は長野県災害時支援ネットワーク。佐久市志賀下宿区、入澤区、佐久市役所危機管理課、佐久市社会福祉協議会等の協力で行われた。

もともと2月に開催を予定していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により延期。感染症対策を行った上で開催に漕ぎつけた。当日は主に佐久市内から市民22名の他、協力機関等から約50名が参加、参加者の年代は10代から80代までと多世代に渡った。

第1部はゲストスピーカーによるリレートーク。大きな被害を受けた志賀下宿区区長の神津浩一さん、元民生児童委員の木内真理子さん、入澤区区長の渡辺一夫さんから、「普段からどのような備えをしていたか?」「当日はどう動いたか?」などの話を聞いた。

佐久市志賀下宿区では志賀川4ヶ所の決壊があり、腰まで浸かる水害が発生。そんな状況にもかかわらず、台風被害の翌日には被災状況が確認でき、社会福祉協議会へ被災状況を伝達できたという。

当時民生児童委員だった木内さんは「当日は朝から高齢者世帯を一軒一軒まわりました。一人暮らしでも動けない方は、ご家族に連絡をし、消防団に誘導してもらって安全なご家族のお宅に避難していただいた」と当日の様子を振り返った。

神津区長は「100年に一度の規模の災害が来たら危ないという話は前から聞いていたが、心の片隅でまだ来ないんじゃないか、大丈夫だと思っていた。一瞬にして増水し堤防が決壊し、30cm~40㎝くらいの太さの木が根こそぎ持っていかれるのを見て恐怖を感じた」と災害の怖さを語った。

志賀下宿区はいきいきサロンモデル地区として、16年前から支えあいマップづくりを行っている。高齢者や障がい者といった災害時に支援が必要な家の場所が地図上に記載され、消防団にも情報共有を行っていた。この支えあいマップが、災害時の対応や、災害発生後のボランティア派遣にも役立ったという。

一方の入澤区は、谷川(やがわ)を挟むように山間に集落が広がる地域で、谷川の氾濫により橋が流され、川沿いの道路は1.2キロに渡り崩壊し、土砂で通行できなくなった。「台風の規模と予想降雨水量を見て、これは大きな被害が出ると確信した。10月10日から対策本部を準備し、11日に自主防災会を開催しました」と、渡辺区長は当時を振り返りながら語った。

入澤区では、被災当日12日、市内の避難所開放に先立ち、朝から佐久市危機管理課へ避難所開設を要請し、朝9時半には青沼小学校を避難所として開放した。

翌13日には、どこの道路が通行可能か、どこで水が入手できるかなどライフラインの情報を示した地図を作成し、14日には区内全戸に配布した。

「行政が動くのを待つのではなく、リスクのある地域こそ自分たちの地域は自分で守る、自分たちで進んでやるという意識が必要」と渡辺さんは力強い口調で参加者に語りかけた。

被災翌日に入澤区で作成したライフラインの地図

続いて、佐久市危機管理課課長清水淳一さんが登壇し、各警戒レベルの違いについて紹介。8月に全戸配布された佐久市の広報紙別冊を手に、災害に対してどのような行動をとるかを時系列で整理する「マイタイムライン」、新型コロナウイルス感染症状況下での避難についても説明した。

「キーワードは”準備”。組織でかからないと自然災害に人間は立ち向かえない」「地域によって特徴が違う。警戒レベルで避難指示が出たから避難するのではなく、その前から自分の住んでいる地域でどんな危険があるのかを把握し、準備していただきたい」と呼び掛けた。

佐久市危機管理課清水課長

第2部は地区ごとのテーブルに5-6人ずつ分かれ、「あなたが山田家だったらどうする?」をテーマに、架空の家族設定で「マイタイムライン」を作成。大型台風が近づいている想定で、気象庁発表の警戒レベルの段階が上がるにつれ、避難するかどうか、どこにどう避難するかを具体的に話し合った。

架空の家族設定でのワークについて、主催者は「被災された方、影響がなかった方、同じ佐久市内に住んでいる方でも温度差があった。同じ視線で話し合ってもらいたかったので、今回は架空の家族設定にした」と話す。

各テーブルに用意された地区ごとのハザードマップを見ながら、それぞれが意見を出し合った。

社会福祉協議会の職員の方々もファシリテーターとして参加
どう避難する?」「その段階でこの道は通れる?」「車は持っていく?」
真剣に話し合う参加者の皆さん

全体進行を務めた山室秀俊(佐久市市民活動サポートセンターセンター長兼長野県災害時支援ネットワーク事務局長)は、「災害に備えるには、多様な機関が連携し、平時から顔がみえる関係性をつくっていくことが大事。ぜひそれぞれの地区、それぞれの職場や家庭に持ち帰って、一緒に考えていただきたい」と結んだ。

全体進行を務めた山室秀俊佐久市市民活動サポートセンターセンター長兼長野県災害時支援ネットワーク事務局長

当日資料等は、さくさぽホームページからダウンロード可能。

またイベントに伴い制作された動画はYouTubeでも公開されている。

文責:ソーシャルライター/さくさぽコーディネーター 粟津 知佳子