「長野こども白書」が主催。男女ともに訪れる更年期と性教育

「男性にも女性にもある更年期障害と性教育」をテーマにした対話が2023年10月22日(日曜日)、長野市のふれあい福祉センターで開かれました。

主催は、長野の子ども白書編集委員会事務局。白書に掲載した記事をテーマに、「みんなで一緒に考える対話の場を広げましょう」と、回を重ねています。

年刊『長野の子ども白書』とは 

 子どもの権利条約の実効ある実現を目指して、長野県の子どもたちの実状や声を集め、その実情を可視化し発信しています。諸統計や調査結果をもとに課題解決のための情報を共有し、子ども支援の現場での実践の成果を記録し、子ども白書を手がかりにネットワークを広げ、「子どもの権利実現」への意識を高めていきたいと考えます。

『長野の子ども白書』のあゆみ

 2011年5月、地域における「子ども白書」づくりにとりかかり準備を開始。初年度は55名の賛同者に執筆を依頼し、2012年5月創刊号を発行しました。「子ども」をめぐる総合的な情報誌として、県当局や多くのメディアから評価され、以後徐々に執筆者や発行部数を増やしながら毎年発行しています。「子どもの権利を守り、実現する」という取り組みに焦点をあてた白書は、大学のゼミや地方議員、行政担当者のみなさまにも参考資料として生かされています。地域の社会教育(主に人権教育)の教材としても活用され、講師の派遣や懇談会に参加しています。

長野の子ども白書WEBサイトより

この日の参加者は20名ほど。うち7名が男性で、主催者側は「こうしたテーマで男性の参加が多いことは、とても珍しい」と、喜んでいました。

はじめに、みすずレディースクリニック(長野県長野市吉田2丁目3-27、旧:林産婦人科医院)で助産師を務める「川内野 千代(かわうちの ちよ)」さんが、「更年期」について話しました。(以下には、独自に集めた関連するデータ等も含めています)

更年期は誰もが通り過ぎる時期

体の不調、変化、衰え、精神的不安定、つらい、不安、心配など、「更年期」のイメージはさまざま。

川内野さんによると「さまざまな不調には100種ぐらいの症状があり、人それぞれ」で、中には「不調が出ない人もいる」とのこと。

個人差が大きいけれど、更年期は「思春期」などと同じく誰もが通り過ぎる年代区分のひとつだそうです。(下のイラストはイメージです)

しかし、厚生労働省が発表した「更年期症状・障害に関する意識調査」基本集計結果 (2022年7月26日)では、「『更年期の不調等の症状の程度は、個人差が大きいこと』について知っているか尋ねたところ、男性の40歳代、50歳代では『聞いたことはあるが、内容について詳しく知らない』の割合がそれぞれ 45.0%、45.9%で高かった」と、男性の多くが「知らない」という結果が出ています。

また、2021年にNHKなどが行った「更年期と仕事に関する調査2021」では、更年期症状で仕事を辞めざるをえない、いわゆる「更年期離職」によって収入が減ったことなどによる経済損失は、女性で年間およそ4,200億円、男性で年間およそ2,100億円と、合わせて6,300億円に上るという結果が出ています。

要は、誰でも通り過ぎる時期なのに、くわしく知らないまま、体の不調などを感じて仕事を辞めてしまう人も多いということでしょう。

「更年期」は、いつやってくるのか?

更年期は、女性の場合、生理がなくなる「閉経」をはさんで前後5年、合わせておよそ10年間を指すそうです。閉経する時期は平均50.5歳で、更年期はおおむね45歳~55歳。症状が強く出るのは閉経をはさんで前後2~3年。一般的には「60歳代になれば治まる」と言われているそうです。

一方、男性の場合は、はじまりも終わりもわかりにくく、おおむね50~60歳くらいと言われているそうです。

男女ともに10年間ほどの更年期ですが、その対応は男女とも「特になにもせず、やり過ごす」がもっとも多いそうですが、「誰にも話さない」のが男性で、「友だちと話せる」のが女性の特徴だそうです。

日常生活に支障が出るようなら相談を

症状が重いものは、「更年期障害」と呼ばれます。
現在は、漢方薬やホルモン補充などの対処療法によって、症状の改善や緩和が期待できるとのこと。ただし、年代的には「老齢期」へ向かっているので、年相応の減退は避けられないそうです。

がまんして日常生活に支障が出ているより、医療機関を受診して「がまんを減らす」のがよい。知らないまま心配や不安を募らせるより、専門家に相談して「人間の体ってそうなんだ」と知れば、心が広く気も楽になる。仕事を辞めてしまうほど悩んだら、まず相談するのがよいとのこと。

そして周囲も、誰もが通る道と理解して、互いに思いやることが大切です。

ただし、男性は俗にいう「男の股間(沽券)に関わる」話をしない傾向が強い。性的能力は、アイデンティティ(自我同一性。自分が自分であり、それが他者や社会に認められているという感覚)に関わることで、人に話しづらいそうです。

そこで使いたいのが「チェックシート」。紹介があったシートを掲載します。
男性は「LOH症候群チェックリスト」、性的能力を含めて項目数が多い。
女性は「簡略更年期指数SMI」。

セルフチェックで自分を客観的に見て、結果が心配だったら受診するのが良いそうです。
ぜひお試しを。

家庭内を振り返り「なるほど」と思った話(筆者の経験から)

体の仕組みを知って納得した私ごと(筆者)の話。
中学生の娘が母親に口ごたえする。「反抗期だから」「思春期だから」と言ってみても、衝突が減る訳でもない。

一方の母親は、イライラとした感じが溜まりにたまって、両者の激しい正面衝突が起きる。
ここで、うかつに出ていくと「もらい事故」に巻き込まれかねない。嵐は通り過ぎるのを、じっと待つに限る…。家庭内事故処理係の経験を文章にすると、こんな心境でした。

話を聞き、こうした衝突の原因が、どちらも女性ホルモンの増減変化が起きる「思春期」と「更年期」にある体の仕組みにあったと知って、ものすごく納得しました。

両者ともにホルモンのバランスが崩れ、心身が不安定な時期。どちらも互いを受け止める余裕がないから、衝突してしまう。

もし、「そういうもの」と知っていれば、うまく衝突を避けたり、やわらげたりすることができたかも知れない。「なるほど」な話でした。

大人に学んで欲しい「包括的性教育」とは?

年代を問わず幅広く性について学ぶ国連が提唱するプログラムのひとつだそうです。
ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の定義の中では、人権尊重をベースに次の8つのキーコンセプトが掲げられています。
 1.人間関係
 2.価値観、人権、文化、セクシャリティ
 3.ジェンダーの理解
 4.暴力と安全確保
 5.健康とウェルビーイング(幸福や喜び)のためのスキル
 6.人間の体と発達
 7.セクシュアリティと性的行動
 8.性と生殖に関する健康

筆者は現在の学校教育を知りませんが、古い記憶では小学校か中学校で「生殖器」や「精子・卵子」といった男女の違いを聞いた覚えがある程度。
上のキーコンセプト6の「人間の体と発達」の一部を教わったに過ぎず、今回の誰もが通る「更年期」の話も、今まで聞く機会がないままだったと思い返しました。

そうした中、長野の子ども白書は、「人権教育としても優れている包括的性教育を学校でぜひ実施してほしいが、大人の私たちが学んでいないことが残念」とし、まず多くの大人に体験してほしいと考え、今回のような会を開いているそうです。

特に男性には「正しい理解」と「社会参加」がおすすめ

今回、話があった更年期も「人として当たり前に訪れる体の仕組み」のひとつ。
人の体は「こうなっていく」と、子どもも大人も性別も関わりなく、みんなで知っておくことで、ひとりで悩むことなく、互いに思いやることができる。人に話したがらない男性は、特に正しい理解が必要です。

自分の体で気になっていることや、感じていることがあれば、セルフチェックして結果によっては専門家に相談する。自己判断で「更年期だから」と決めつけて見過ごしていると、ほかの病気が隠れているかも知れないので、注意が必要とのことでした。

また、健康的な生活には、よく言われる「規則正しい生活」と「運動」、「バランスよい食事」が欠かせないそうです。

特に男性が年齢とともに減少するホルモン(テストステロン)を保つためには、社会参加が必要で、社会的な輝きや競争、闘争心が減少を抑えるとのことでした。定年退職後に「なにをしたら」と考える男性に、ぜひ知ってほしい話です。

はるか昔に学校で習ったことは、今の世界の常識とは大きく異なるようです。
「男性にも女性にもある更年期障害と性教育」。機会があれば、より多くの大人たちに参加してもらいたい体験会。

次のチャンスは、長野の子ども白書WEBサイトでご確認を。

<取材・文責>ソーシャルライター 吉田 百助

主催のこども白書の過去記事はこちらから