#動物と人間の幸せのために必要な「アニマルウェルフェア」(動物の福祉)

動物と人間の幸せのために必要な「アニマルウェルフェア」(動物の福祉)

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執筆者:松井明子 (ナガクルソーシャルライター)
 2022.11.22

普及が進まない「アニマルウェルフェア」の考え方

人間に身近な動物というと、犬や猫を思い浮かべる方が多いかもしれません。

一方で、日ごろ食べている鶏、豚、牛などの家畜動物の生活を思い浮かべることはあるでしょうか。

できる限り苦痛を取り除き、動物にとって快適な環境で飼うという「動物の福祉」「アニマルウェルフェア」の考え方があります。

日本も加盟している世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関「国際獣疫事務局」(OIE)の勧告で、「アニマルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義されています。

人間が食用などに利用している動物たちに、なるべくストレスが少なく快適な環境で暮らしてもらうことが、実は私たち食べる側にとっても大事なことなのです。

農林水産省がアニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針等の普及を進めようと努めています。

残念ながら、日本では畜産動物の飼育実態が広く知られていません。採卵鶏の多くがバタリーケージ※飼育されていることを約7割の人が知らず、アニマルウェルフェアという言葉を約8割の人が知りません。(2022年 認定NPO法人アニマルライツセンターの調査結果)

※バタリーケージ…一羽あたり22㎝×22㎝ほどの金網のケージ

認定NPO法人アニマルライツセンター 2022年 畜産動物に関する認知度調査アンケート

アニマルウェルフェアを、飼育中だけでなくその先まで考える

採卵鶏は一般的に5ヵ月くらいに育ったヒナを入れて、1ヵ月程度慣らすと産み始めて、1年~1年半の間集中的に産ませて廃鶏にし、また5ヵ月くらいに育ったヒナを入れて…というサイクルで効率的に産卵させるそうです。

4、5年から長ければ10年程度生きるという採卵鶏。役目を終えた鶏たちを、身近な方に無償で譲っている養鶏農家さんがいると聞き、お話を聞いてみました。

上高井郡高山村で養鶏をしている高山村の平飼い卵(むらたま)」の村内倫子さんは、熊本県から移住し、自然に関わる仕事がしたくて移住先探しをしているときに高山村に出合いました。

養鶏の仕事を始める以前の仕事が激務で、食がおろそかになり体を壊してしまった経験から、食生活を大切に、食と環境、動植物と人の幸せのつながりを思うようになったそうです。

村内さんはヒヨコのうちから鶏舎に入れるので、成長するまで5~6ヵ月の空白期間ができます。取材に伺ったときはちょうどその移行期で新たに3期生となるヒヨコを入れる前のタイミングでした。

2019年4月に1期生30羽で開業。2020年5月に完成した運動場つきの鶏舎で2期生を飼い始めました。

ここの鶏たちは純国産鶏のあずさ。鶏たちが鶏舎のなかを自由に行き来する「平飼い」で飼育し、広々とした運動場で放牧をしています。鶏舎は1㎡あたり3羽でしたが2羽にしようとしているとのこと。鶏のつつき合いを防ぐために日本では一般的に行われているデビーク(くちばしを切る)もしていません。

また、一般的なバタリーケージは、ケージの下が傾斜していて、産み落とされた卵が転がり、卵が汚れず集めやすくなっていますが、むらたまの産卵箱は平らで、鶏たちがそれぞれお気に入りの産卵箱で産卵します。

1期生は自分のところで卵を食べたいという4家庭に全羽、引き取ってもらったそうです。

手間も時間もかかる鶏の里親探し。採卵鶏としてもう必要がない鶏の行く先をどうしてそこまで考えるのでしょうか。

「もちろん、うちの子たちを生かしたいという気持ちもあるけど、まずは鶏に興味を持ってもらいたいんです。『1年とか1年半しか産まないの?』と驚かれたり、1日1個か0かというペースで産むのに、『1日10個くらい産みますか?』と聞く人もいます。ポンポン簡単に産むわけではなく、本当に一生懸命産むんだよというのを間近で見る機会が少しでもあればいいなと思います。知識として知っているだけでも、全く知らないのと比べたら全然違います。でも、実際飼って経験してみると、知っているだけ見ているだけと全然違う理解度になる。経験って一番大事」

高齢の方にとっては、子どもの頃に庭先養鶏をしていた方も珍しくないそうですが、私は鶏を間近で見たこともほとんど初めての経験でした。

この子たちが一生懸命産んだ卵をいただいているのかと思うと、1個1個の重みがやはり違って感じられます。

村内さんは「限りある命、家畜と言えども生きているうちは幸せな生を全うしてほしい」と、アニマルウェルフェアへの思いを話していました。

一般家庭の庭先で鶏を飼う

鶏の飼育経験がない私は庭先養鶏をイメージするのが難しく、実際に村内さんから鶏を譲り受けた長野市の高橋有希さん宅を訪ねて、飼育の様子を見せてもらいました。

今年6月に高橋さん宅にやってきた鶏、りんごちゃん。

昨シーズンの大雪であまり鶏舎から出られず、むらたまの鶏たちにストレスがたまり、他の鶏たちにつつかれて首の後ろの羽毛がなくなり、地肌が見えている状態になっていた鶏なのだそうです。

エシカルとアニマルウェルフェアにずっと興味があったという高橋さんは、自宅の隣でパン屋を営み、りんごちゃんの鶏舎も同じ敷地内にあります。車道からは奥まったところにあるため、りんごちゃんが道路に出てしまう心配はないそうです。10月には新たにむらたまさんから2羽目を譲り受け、2羽が隣り合って砂浴びする姿も見られます。

「webでむらたまさんが鶏の里親を探しているのを知りました。ちょうど、生き物を飼いたいと思っていて。パン屋という職業柄、食べ物に関心があるので、鶏を世話することによって鶏が元気に卵を産んで、それが息子のお弁当に入る、そういうのを体験させたいと思いました」

高橋さんにとって鶏の飼育は初めてなので、食べ物などの飼育方法についてはむらたまさんがアドバイスをしています。

鶏というと、「コケコッコー!」と朝暗いうちからけたたましく鳴くイメージがあり、庭で飼えるのだろうかと気になりましたが、それはオスだけだそうで、メスのりんごちゃんは「コッコッコッ」と小さな声でさえずります。

今年5歳になる息子さんは、りんごちゃんが産んだ卵を採ってくるのが好きだそうで、りんごちゃんがおいしそうに虫をついばむのを、高橋さんと一緒になってじーっと見ているといいます。

鶏を飼うことですごく考えさせられます。人間に都合よく改良されて、短期間にたくさん産むように変えられてきた生き物に対して、さらなる仕打ちをするのかという気持ちがわきます。しっかり愛情をかけて世話をしてあげるのも人間の責任なのではないでしょうか

自分の意志で歩きたいところを散策し、虫がいそうなところをつつき、伸び伸び過ごしている姿に、なんだかほっとしてしまいます。

高橋さんは「幸せそうな動物から卵をもらえるというのは精神衛生的にいい」と笑顔を見せていました。

※鶏の飼育をする上での注意

家畜伝染病予防法に基づき、飼育目的や羽数に関わらず、毎年2月1日現在に何羽飼っているかと衛生管理の状況について、家畜保健衛生所に定期報告書を提出する必要があります。鳥インフルエンザ発生予防のため「飼育衛生管理基準」が決められています。

ストレスなく育った鶏はおいしい

採卵鶏だけでなく肉用の鶏の飼育についても知りたくて、中野市のIN THE VILLAGE FARM(インザヴィレッジファーム)の代表、中村栄介さんを訪ねました。

中村さんは、長野県で開発された、長野県オリジナル地鶏「信州黄金シャモ」を飼育しています。信州黄金シャモは、ブロイラーの血が一切入っていない100%在来種の地鶏で、長野県認定の生産者がブロイラーの2倍以上の時間をかけてじっくり育てています。

ブロイラーは通常約50日間で育てられるそうですが、中村さんの鶏は120日間かけて育てているそうです。

静岡県から移住して4年目。3年間は中野市の地域おこし協力隊員として、信州黄金シャモプロジェクトを進めてきました。

決まっていたのは活動テーマだけだったため、当初は鶏の肉の処理の仕方から学び、1年前からは現在の場所を借りてシャモを飼育しています。

鶏舎は3棟あり、それぞれ半分に分けて計6部屋を作り、200羽×6を飼育。生まれて3週間のヒナを畜産試験場から買い、3週ごと部屋を入れ替えて120日間育てます。

「50羽から始めて、いきなり頭数を増やさずに自分で管理できる数だけを飼育してきました」という中村さん。値崩れをさせず、鶏の価値に見合う値段を付けているといいます。

エサも試行錯誤で配合を調整。エサ代は高騰していて、中村さんが養鶏を始めたころの1.5倍の価格になっているそうで、エサには市内の米農家から提供してもらったくず米を混ぜています。

「エサにタンパク質が足りなくなると、鶏同士のつつきが始まります。今の配合になるまではつつきが収まりませんでした」

鶏は地面をつついてエサを探す生き物で、つつきたい欲求を持っているため、鶏同士のつつき合いが起きることがありますが、中村さんのように鶏への理解を深めることで、つつき合いを防ぐことができます。

一方で、日本国内の養鶏場の採卵鶏の80%以上は、つつき合いを防ぐためにクチバシを切断(デビーク)されているという現実があります。

クチバシを切断されれば、鶏は当然痛みを感じます。その後も慢性的な痛みを感じるとされ、切断面からの感染の恐れもあるといいます。ヨーロッパ諸国では、デビークを禁止している国もあります。

ウイルスから鶏を守るために、鶏にストレスを与えず、獣から鶏を守る。それを常識的にやっているだけで、今さら胸を張って言うことでもありません。商売でやっていることですから」と淡々と話す中村さん。生産者が、おいしい肉を生産するために試行錯誤していることが、結果的にアニマルウェルフェアにもつながっているというのは興味深いことです。

取材を通して、鶏肉や卵に関心を持っていたつもりが、養鶏場を目にしたこともなかったことを改めて反省する思いになりました。

日本でなぜこんなにもアニマルウェルフェアが進まないのか―やはり多くの人が実態を知らないことが大きいのではないでしょうか。安すぎる卵、安すぎる鶏肉はどうしてその価格になっているのか、どうやって飼育された鶏なのか、知った上で選択できる消費者になりたいと思いました。

取材:高橋有希さん(2022年7月26日)、高山村の平飼い卵(2022年8月9日)、IN THE VILLAGE FARM(2022年8月16日)

【関連サイト】

認定NPO法人アニマルライツセンター

高山村の平飼い卵(むらたま)

中野市のIN THE VILLAGE FARM(インザヴィレッジファーム)

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