学生153人が35団体と活動「地域まるごとキャンパス」報告会−長野県立大で

ながの地域まるごとキャンパス(略称:まるキャン)の活動報告会・修了証授与式が2024年2月3日、長野市の長野県立大学で行なわれました。長野市の荻原健司市長も出席した「市長と若者100人の大討論会」では、サイコロを転がしてテーマを決め、自由な発言でおおいに盛り上がりました。

「学校の枠を超えて、地域をまるごとキャンパスにしよう!」と始まった「まるキャン」は、高校生や大学生が地域で自分の「好き」を見つけ、いろいろな気づきを得るなかで新たな自分を発見し、そのなかで長野を好きになって長野に住み続けることを意図して実施しています。この活動に参加した学生は、何を感じ、何をつかんだでしょうか。

活動の場をプログラム(フィールド)として提供するのは、地域活動をしているNPOなどの諸団体です。団体にとっても、学生と出会うことで今までになかった発想やアイデアを得ることができ、その人たちに次世代を託す想いを実現できます。

153名の学生が関心あるプログラムに参加

2018年にNPOで作る「ながの協働ねっと(事務局=市民協働サポートセンター)」が企画提案してスタートした「まるキャン」は、2022年度に「ながの地域まるごとキャンパス実行委員会」が主体となって実施し、地域発元気づくり支援金活用優良事例に輝きました。そして、今年度からは長野市が主催となり官民のパートナーシップによる運営が実現しました。

また、「まるキャン」は反響が大きく年々広がりを見せています。佐久市でも長野県NPOセンターが企画提案し市と協働で取組がスタートしています(事務局:佐久市市民活動サポートセンター)。

2023年度のプログラムは、
子ども(こども広場、里親制度の広報活動、野外保育活動など)、
まちづくり(地域のお祭り、未来の街を考える企画など)、
動物(茶臼山動物園、サマーナイトZooなど)、
福祉(障がい者の方と収穫祭企画など)、
環境(ストローづくり、エコイベント企画)、
被災地支援(被災地での居場所づくり)など、さまざまなジャンルで提案がありました。

これらのなかから学生は関心を持ったプログラムを選んで参加します。いずれも「3日以上参加する」ことを原則とし、企画の段階から仲間の一人として関わっていくことを重視しています。

今年度は35団体が37のプログラムを提供し、22校から153名(高校生122名、大学生31名)の参加がありました。

153名の大学生、高校生が参加

「まるキャン」に参加した動機

主催者から今年度の活動状況の報告があったあと、「まるキャン」参加者が登壇して体験を発表しました。ファシリテーターを務めたのは、大学生の松尾有紗さんと大蔵健輔さん。

松尾さんは高校生のとき、「お祭りスタンプラリー」と「子どもフェスタ」や「エシカルふぇす」の活動に参加しました。大蔵さんは昨年の平和交流会で企画運営に携わり、いわば「まるキャン」活動の先輩です。

体験発表をしたのは、高校生の伊藤遥々さんと大学生の斉藤桔梗さんのお二人でした。

伊藤さんは「寄付の本舎 ほんのきもち」が提供したプログラムで、「寄付された古本でヒトとつながり、身の周り課題について考える」というイベントの活動に参加しました。

斉藤さんは3つのプログラムにチャレンジしていました。「天空の里いもい農場」提供の食農体験と子どもの居場所作り、「楽市楽座でつなぐ会」提供の商店街のお祭り、「eternalstory ㈱」提供の道の駅中条でハロウィンかぼちゃフェスの企画に参加しました。

報告会の会場は長野県大学

なぜ「まるキャン」に参加しようと思ったのか?
伊藤さんは「人との関り、つながりが欲しいと思った」と言います。お世話になっている地域で役立つことを自分もできないかと思っていたが、一人でやるのはハードルが高い。「まるキャン」は主体的に取り組む趣旨だけれど、スタートが「参加させていただく」という形だったので「ハードルが下がった」とのことでした。

斉藤さんのきっかけは、友だちにあったようです。「あまり理由はなく、何となく始めた」とのこと。どんな経緯だったのか。「まるキャン」に参加している友だちから話を聞いて面白いと思い、ホームページを見てプログラムを選んで参加したとのことでした。

どんな動機やきっかけで参加するようになるのかは、プログラムを提供する側にとって関心事です。できるものなら参加者全員に聞いてみたい質問でした。

参加してどのような変化が自分の中にあったか

ファシリテーターは、「参加してみて、変化したことや成長したことはありますか」と質問を投げかけました。

伊藤さんは、「主体的に自分から何かに挑戦する姿勢がついた」と話しました。
いままでは指示されてから動く感じだったと言います。プログラムでは学生の意見に耳を傾けてくれ、自分がどう行動したいのか考えて実行できたとのこと。そこで、自分のなかの「主体性の部分が伸びた」と感じているようです。

斉藤さんは、「自分の中でやりたいことが増えた」と話しました。
いろいろな企画に参加するなかで、自分がやりたいと思ったことを言うことによって助けてくれる大人がたくさんいること、「やりたい」を誰かに相談することで叶えてくれる支えがあることを知って、「やりたいと思うことが増えた」そうです。

温かさを感じ地域を大切にしたい気持ちに

参加して「印象的だったこと」も聞きました。
伊藤さんは「本を持って来てくれた人と話すことができた」のが大きな収穫だったそうです。プログラムに参加していなければ出会えなかった人たちであり、「自分が知らなかった世界を教えてもらえた」と言い、「今まで興味がなかったことに新しく興味を持つきっかけになった」とのことです。さらに「人と話すことで長野の温かみを感じ、地域を大切にしたい気持ちが芽生えた」とも話しました。

斉藤さんは、バスに乗って芋井地区へ1年間向かうなかで、「車中から眺める秋の紅葉の景色が深く印象に残っている」とのことでした。バスの利用者は高齢者が多く、「このバスがなくなったら大変だろう」と過疎地域への思いを寄せたようです。楽市楽座は、「地域の人たちと触れ合うことが多く、楽しかった」と話し、ハロウィンについては、企画を一から考えて大成功させることができたことに誇りを感じている様子で、「周りのみなさんの温かさを感じた」との感想も伝えました。

活動報告で登壇した伊藤さん(左)と斉藤さん(右)

なぜプログラムを提供したか

プログラム提供団体の立場から登壇した「信州子育てみらいネット」の山岸裕始さんは提案した理由について、保育士や看護師という専門職の立場だと視野が狭くなるので、子育てや業界のことを知らない学生から広い視野での「疑問の投げかけや提案をしてもらいたいと考えたから」だと話しました。

ファシリテーターから「学生との関りで感じたことを」と促され、山岸さんは「いまの学生さんは優秀だ」と答えました。「自分の言葉でしっかりと話せる」ことを強く感じ、子育てのことがわからないなかでも学んで成長していき、その姿を見て大人の側も学ぶことがあったと感想を伝えました。

プログラムを提供した山岸裕始さん

参加してたいへんだったことは

山岸さんから登壇した学生二人に質問がありました。
「まちづくりには模範解答がなく、いろいろな意見があり、正解もいろいろある。活動していて大変だったことやモヤモヤしたことはなかったか」と聞きました。

伊藤さんは「人とのつながりを大事にするプログラムだったけれど、コミュニケーションをとることが得意でなかったので、来てくれた人に自分から話しかけるのは大きな挑戦だった」と答えました。またポップを描く機会があったけれど、今まで経験がなかったのでたいへんだったとのことでした。

斉藤さんも「コミュニケーションをとるのがたいへんだった」と率直に語りました。「初めて会った人にどう話しかけるか、やりたいことを伝えるのに少し親しくなって打ち解けてからのほうがいいと考えたものの、どのタイミングで話したらよいかで頭を痛めた」とのことでしたです。

さらに山岸さんは「受け入れ側として、こういうサポートがあったら嬉しかったということはあるか」を聞きました。
伊藤さんは「お手本を見せてもらえ、一歩を踏み出すことができた。アドバイスも欲しい」と話し、斉藤さんは「子どもが話しかけてくれ、子どもがつないでくれた」との経験を語りました。

会場からコミュニケーションをとることができるようになった点で、「どんなことから自分の変化を感じたか」との質問が出されました。
二人は、「新しいことに挑戦するのに抵抗が無くなった」「いろいろやってみようと思ったとき、すぐに行動できるようになった」「まるキャンの参加にも抵抗がなくなった」「今日の登壇もできるようになった」と答えました。

荻原市長から修了証書の授与

活動報告に続いて、荻原市長から修了証書が授与され、伊藤さんと斉藤さんが代表して受け取りました。荻原市長は「まるキャン」に参加した人たちにお礼を言うとともに、「まちをつくるのは地域のみなさん、未来ある長野市を作っていくのは若いみなさんの主体的な参加であり、箱(キャンパスの建物)のなかではない所での学びや体験こそが人生をつくっていく」と激励しました。

修了証を受領して記念写真(中央が荻原市長)

大討論会で意見交換 戻りたい過去は

続いては「市長と若者100人との大討論会」。学生だけでなく、大人も参加しました。
サイコロを転がして決まった最初のテーマは「過去に戻りたいタイミング、タイムトラベルしたい時代はあるか」でした。

「中学時代に戻って英語を勉強したい」「楽しかった中学生に戻りたい」「結婚式で親にお礼をいうときに戻りたい(用意しておいた手紙を忘れたため)」などの声がありました。

なかには「ない」と発言した人も。「今が一番楽しいから…」と理由を述べると、会場から大きな拍手が起きました。

荻原市長が戻りたいのは、1994年に開催されたリレハンメル五輪、スキージャンプの「飛び出す瞬間」とのことでした。このときは絶好調で優勝できると思っていたので、ミスさえ犯さなければいいとの姿勢で臨んでしまったそうです。「やはり戦うときは戦うという気持ちが大事だった」と振り返りました。

二つ目のテーマは「誰かと取り組んでみた活動はあるか。どうやって仲間を増やせるか」でした。
リーダー研修会でキャンプなどに行ったが、それは同級生からの誘いだった。「呼びかけが大事」との発言があると、荻原市長もこれに同意。さらに自分のラジオ体操の経験を披露しました。

コロナ禍で外へ出にくくなった令和2年5月、近くの公園へラジオとスマホを持って行って、毎朝ラジオ体操をライブ配信しながら始めたと言います。最初の頃はずっと一人だったが1年半ほどしてから近所の人が寄って来るようになり、だんだん増えていき、暖かい時季には30人くらいになることがあると紹介しました。特に決まりがあるわけでなく、役割があるわけでもなく、気軽に参加できるところがいいのではとの話でした。

そのほか「長野市のプロスポーツの試合を見たことがあるか。みんなで盛り上がるためにはどんなことがあればいいか」「10年後の自分はどこで何をしているか。長野に残ろうと思うか」というテーマについても意見交換しました。

盛り上がった大討論会

団体の活動紹介で交流も

この日は、プログラム提供団体の展示説明も併行して行なわれました。
「まるキャン」参加者が次年度の参加につながるよう取組を説明するとともに、団体間での情報交換の場ともなりました。荻原市長も各ブースを回って説明を受けていました。

プログラム提供団体の発表ブース
荻原市長に説明
参加者みんなで記念写真
まるごとキャンパスのウェブサイトは上記から

取材・執筆 ソーシャルライター 太田秋夫