「『草刈りバスターズ』は地域のやっかいごとを刈り払えたか!?」と題するワークショップが、2024年2月4日に長野市ふれあい福祉センターで開かれました。
さまざまな困りごとを地域で抱える自治会役員や住民など18名が集まって、長野市内で取り組まれている2つの事例発表を受け、グループディスカッションを行い解決に向けたアイデアを出し合いました。
主催は、環境省中部環境パートナーシップオフィス(通称:EPO中部)と、特定非営利活動法人長野県NPOセンターです。
主催者を代表してあいさつした環境省中部地方環境事務所 環境対策課の縄野課長補佐は、「持続可能な地域づくりに取り組んでいる現場のみなさんの経験を聞き、みんなでディスカッションして困りごとの解決に活かしていこう」と呼びかけました。
事例発表<1> 芋井地区の「草刈りバスターズ」
地区外の人や地元の女性に草刈り機の扱い方を教える養成講座を開いて、実践活動へつなげている「草刈りバスターズ」の取組を紹介した芋井住民自治協議会の羽田一郎さんは、「地域のやっかいごとを刈り払えたか?」との問いに対して、「まだまだ緒に就いたばかり。面倒な事は簡単に進まない。地元の意識改革と関係人口の創出など地道な努力が必要」と話しました。
「草刈りバスターズ」の発端は、2021年秋。芋井地区住民自治協議会の役員と有志などが集まって地区の未来を考えていた「いもいリビングらぼ」の中で、「草刈りも担い手不足で困ったね」の話からはじまりました。
もともと草刈りは地区の「やっかいごと」のひとつ。
「担い手がいないなら地区外の人に手伝ってもらおうよ」というアイデアから、「実験として、とにかくやってみよう」と、草刈り機の扱いを教える講習会の具体化へと話が進んでいきました。
名称は「草刈りバスターズ養成講座」。
地区内の回覧や住民自治協議会のホームページ、「いもいリビングらぼ」に協力していた長野県NPOセンターを通して長野市内の企業各社にも参加が呼びかけられました。
草刈り機の扱いを教える指導員は、地区内のベテラン経験者たち。講師を務めた森林組合OBは、草刈り歴50年(半世紀)以上の大ベテランです。
1回目の養成講座は2022年6月12日。会場には、初心者向けに平らな草原で、座学のできる建物がある「広瀬ふれあい公園」が選ばれました。公園へのアクセス道路の要所要所に案内板を立て、会場にも看板を設置しました。
当時の様子は、芋井地区住民自治協議会のホームページ「芋井の里」でご覧いただけます。
はじめての養成講座に手ごたえを感じ、反省を踏まえて次年度の活動へと進展していきました。
「令和5年長野県元気づくり支援金」を得て、現在の安全基準を満たす最新の草刈り機を20台と、保管・移動用のラックを揃えました。
また、口頭の説明では細かな扱いやノウハウをうまく伝えることができなかったことから、講座用の説明動画(「身支度編」と「実践編」の2本、いずれも限定公開)と、ポイントをまとめた配布・保存用の「草刈りバスターズ修練マニュアル」を、長野県NPOセンターの協力で作製しました。
2年目になった23年度は、養成講座を2回実施し受講者9名。現場へ出ての実践作業は4回で参加者28名。6月に予定していた1回目の養成講座(参加申し込みが16名と多かった)を大雨で中止せざるを得なかったのが残念でした。
8月6日の様子は2分弱の動画でまとめた下のYouTubeで見ることができます。
養成講座2年目の取組を終え、反省から新たな課題が見えてきました。
・雨天中止の場合に「予備日」を設定しておくこと。
・参加者のメリットを分かりやすくする工夫が必要なこと。
・事前事後のPR活動に努めて広く関心と参加を集めること。
・地区内の道路脇などへも活動の場を広げていくこと、など
そして、事例発表した羽田さんは「面倒な事は簡単に進まない」と言い、3年目に向けて「地元住民の理解と意識改革、地区外からの関係人口の創出など地道な努力がまだまだ必要だ」と、まとめました。
事例発表<2> 住民が助け合う「長沼ワーク・ライフ組合」
草刈りで地域のつながりをつくり、環境や景観を守って住みやすい地区づくりに取り組んでいる長沼ワーク・ライフ組合の西澤清文さんは、課題解決の現状と課題を振り返りながら「できる人が、できることを、出来る範囲でやり続ける(3Dバトンリレー)が大事」と話しました。
長野市長沼地区は2019年10月、令和元年東日本台風(19号)により大きな被害を受けました。被災地を復興し“くらし”を再生させていくためには、被災地区住民みずからの“たすけあいの力”が必要だと考え、21年度に住民有志で「長沼ワーク・ライフ」を設立しました。
以来、住民とボランティアが力を合わせて耕作放棄地や公費解体跡地などの草刈りを実施しています。ともに汗を流した後は「もぐもぐタイム(こびれ=おやつタイム)」で近況を報告しあい情報を交換して、つながりを強めています。
ワーク・ライフ組合の運営は、➀草刈りをお願いしたい依頼者(おねがい会員)からの申込を➁事務局が受けて作業日程と作業員を調整し➂依頼を受けた協力者(おたすけ会員)が草を刈り➃作業後に事務局へ報告➄事務局が活動報告書を作成し請求書とともに依頼者へ届ける、といった仕組みです。
おねがい会員は、耕作放棄地の地権者や公費解体跡地の地権者など35人(23年度。前年は38人)。「ずっとお願いしていた方が高齢で来られなくなってしまった」、「雑草がひどくて、近所の人に申し訳なく思っている」、「親と離れて暮らしているため、土地の管理が心配」など、“草ぼーぼーで困っている”声が寄せられる一方、「ワーク・ライフ組合がなくなったら困る」とも言われています。
人の背丈を超えるほどの草が生えてしまい荒廃した耕作放棄地は、草を刈って適正に管理すれば「遊休農地(休ませている農地)」となって人へ貸すこともできます。3年間ずっと草刈りを続けていた耕作放棄地が今年度、農業公社を通した賃借契約で新たな耕作者と結びつくという農地流動化の実践例ができました。
おたすけ会員は、地区居住者と地区外のボランティアあわせて23人(23年度。前年は29人)。ほぼ全員が台風19号災害時に「被災者支援ボランティア」の経験者で長沼地区には強い思いを持っていますが、「地元会員がなかなか増えない」のが課題です。
昨年の大みそか(23年12月31日)、信濃毎日新聞の朝刊1面に「被災後の長沼守れ 住民が景観指針」の大見出しで、長沼地区住民自治協議会が策定した「環境保全・整備ガイドライン」とワーク・ライフ組合の取組が大きく報道されました。
被災で営農を断念した畑が知らないうちに残土置き場になっていた事例や、再度の洪水への不安から地区外に転居した住民にとって土地の管理が負担になっているといった話を取り上げながら、住宅解体後の空き地や遊休農地などの管理が課題で、地域の荒廃や野放図な開発を防ぎ、住民主導で生活環境を守っていくための指針として、ガイドラインが紹介されました。
ガイドラインを策定し、地区内の全世帯に配布したというニュースは、YouTubeチャンネルINC長野【ながのニュース】「長沼の景観守るガイドライン作成 ともに歩む~台風災害からの復興~」でも見ることができます。
事例発表した西澤さんは、「ガイドラインと長沼ワーク・ライフ組合は表裏一体」とし、「草刈りの活動はあるが、地域課題の解決はまだ十分と言えない。できる人が、できることを、出来る範囲でやり続ける(3Dバトンリレー:3つの「できる」)が大事」とまとめました。
困りごとを洗い出すワークショップ
グループに分かれてのディスカッションでは、はじめに地域が抱えている困りごと・やっかいごとなどを各自で付箋紙に書き出しました。
気を付けたのは、付箋1枚に1つづつ、できれば「単語」で書くこと。「高齢化で草刈りが困難」という困りごとには「高齢化」と「草刈り」、2つの課題があります。複合的な要因は当然ありますが、根本的な課題を明確にするために、できるだけ短い言葉で書き出すようにしました。
次の作業は、書き出した付箋を区分けすること。
「○○があれば解決できる」あるいは「〇〇が足りないから解決できない」という視点で、次の4つの区分が示されました。
1.お金
2.人手
3.設備や機材
4.政策や制度
しかし、4つの区分けは簡単ではありませんでした。
草刈りには、仮払い機が必要ですが、予算を組んで機械だけ買い揃えても人手がなくては宝の持ち腐れ。扱う技術も必要です。それよりも趣旨を理解してくれる人でないと協力が得られない…。
区分けできなかった付箋には、人の理解や気持ち、やる気、問題意識など、モノやカネでは解決できない言葉が並びました。
次の問題は「課題を解決するためにどうしたらよいか?」でした。
地域の困りごとに問題意識を持ってもらうためにも、理解して協力してもらうためにも「情報」が必要です。どのように伝えれば、分かりやすいのか…。
人手が足りないのなら、地区外の人にも協力を呼びかける。
例えば、「草刈りツアー」にして、草刈りとまったく縁がなかった人々に非日常の体験を楽しんでもらう機会をつくる。最初は格安の「モニター募集」で、手ごたえを得られたら旅行代理店などと組んで大々的に募集する。ツアーの様子を地区の人に見せることで、地区内の協力者を増やしていく。子どもたちも参加していっしょに楽しめれば、地区に活気が生まれる…。
次々とアイデアが出され、模造紙が付箋で埋め尽くされていきました。
「モニターを募集する体験ツアー」は、実に楽しそうなアイデアです。
多くの人が地域を訪れる機会をつくり、気に入って何度も足を運んでもらったり、なにかにつけて地域のことを気にかけてもらえるようになれば、立派な「関係人口」になります。
「また行きたい」と思ってもらえる企画とともに、四季折々の様子や地域の動きなどを便りで届け、関係を保つ工夫も必要です。
悩みごとに頭を抱えて下を向くより、妄想を含めていろいろなアイデアを出し合うことが楽しい!
見方を変えれば、やっかいごとも地域の魅力と価値になるのでは!?と、感じたワークショップでした。
<取材・編集>ソーシャルライター 吉田 百助