生きづらさを抱える当事者の声-地域から向けられるまなざしの中で生きる現実

2024年2月4日、東御市中央公民館で「生きづらさを抱える当事者の声を聴く集い」が開かれました。

集いは二部構成で、第一部は当事者である“かりん”さんの体験や想いを聴く講演、第二部は生きづらさを感じる人をサポートする立場の3名によるパネルディスカッションでした。

参加したのは約120名。会場がある東御市やその近隣自治体からの参加者がほとんどでしたが、県内でも遠方から参加した方や県外から参加した方もいました。

生きづらさを感じる当事者の声、そしてサポートする人の想いを、参加者はどのように感じたのでしょうか。

第一部「当事者の声から知る〜地域コミュニティにおける若者の孤立と生きづらさへのアプローチ〜」

講師であるかりんさんのネームプレート周りに飾られたかわいいぬいぐるみ

第一部は「当事者への接し方や、当事者が求めることなど答えを話すのではなく、一緒になって考えてほしい」という説明からはじまりました。

講師 かりんさんの生い立ち

幼少期、かりんさんは両親と妹の4人で暮らしていました。
しかし、父親は働かないうえ、暴力をふるっていた。母親は実親との関係があまり良くなく、実家に頼れなかったそうです。

やがて両親は離婚することになりますが、離婚調停中に父親が全財産を持って行方不明に。もちろん養育費が支払われることもなく、母親と妹の3人で非常に貧しい暮らしになります。

父親がいなくなり貧しいながら仲良く暮らせるかと思いきや、かりんさんの顔が父親に似ているという理由で母親が精神的に不安定になったり、親子心中を図ることがあったりと苦しい日々を送ります。

そして、親子心中をきっかけに、かりんさんだけが児童心理治療施設(児童養護施設のような施設)へ預けられることに。その後、中学生や高校生(のちに中退)の頃は施設で過ごすことになりますが、学校や施設でのいじめを経験する中で「どこにも自分の居場所がない」状態になったと言います。

結局、施設を自分から抜け出したため戻ることもできず、母親や妹の暮らす自宅にも居場所がなく、20歳まで精神科に入院していたそうです。

かりんさんは言います。

こうなったのは私のせい?
それとも親のせい?
どうしてこうなったのか?
あるいは、ここからどうすればよいのか?

もし、地域に、過去の私のような人がいたら、と想像してみてください。

辛い生活の中で出会った大切な人

それでも「生きていきたい」という気持ちを持ち、入院中に若者ハローワークへ就労相談をしていたと言います。しかし、最終学歴が中学校卒業では家を借りられず、自動車運転免許も持っていなかったため、就職先が決まりませんでした。

そんなときに出会ったのが、若者ハローワークの相談員です。

面談に来ているのに、雑談からはじまり、将来やりたいことの計画を立てたり、漫画『ワンピース』を朗読したりと、いい意味で「変な大人だな」と思いました。

次第に、就労についても話すようになったかりんさんは、「親と縁を切りたい」と思いを打ち明けました。すると相談員は「実家には戻らないほうがよい」と理解してくれ、力になってくれたとのことでした。

そこから発達障害の障害者手帳を取得したり、生活保護を申請したり、自立にむけて職場体験をする生活がはじまったのです。そして、一人暮らしをはじめ、働きながら高卒認定試験に合格し、やがて生活保護を受けなくてよい生活を手に入れました。

「地域から向けられるまなざし」に傷つく

かりんさんは言います。

「若者が生活保護を受けることに、どのようなイメージがありますか?」

かりんさんは、不正受給や努力不足など「マイナスのイメージを持つ人も多くいるのでは」という印象を持っている様子でした。
また、最近、生活保護を受給しはじめた友人が「路上生活者は私たちの税金で暮らしている」と、別の友人から言われたそうです。

頑張るべきなのは本人が一番わかっている。
頑張るために生活保護を利用するのに、制度を利用すると地域社会と関わりを持てなくなってしまう……。

「生活保護などの仕組みは政府や社会が用意するもの。しかし、それを気兼ねなく利用できるかは、地域のまなざしにかかっている」と、かりんさんは言います。

「当事者のことを想像しようとしない、あるいは理解しようとしないのは相手を傷つけているのと一緒だ」という言葉もありました。

第二部「誰もが当事者、あなた(わたし、地域)のまなざしを考える」

第二部の登壇者。左から秋山さん、草深さん、佐藤さん

第二部は、生きづらさを感じる人をサポートする立場にある3名の登壇者によるパネルディスカッションです。

1人目は秋山紅葉(くれは)さん。NPO法人場作りネットのメンバーであり、生きづらさを感じている人が休憩・宿泊できる施設「やどかりハウス」のコーディネーターとして上田市で活動しています。

2人目は草深将雄さん。生きづらさを感じる当事者の想いを載せたフリーペーパー「hanpo」の代表で、自身も不登校の経験があります。

3人目は佐藤もも子さん。東御市社会福祉協議会で社会福祉士(ソーシャルワーカー)として勤務しています。

以上3名に加えて第一部に登壇したかりんさんと、ファシリテーターとしてhanpoおよびこの会の主催団体のメンバーでもある掛川倖太郎さんが参加しました。

地域から向けられるまなざしは?

はじめに登壇者の目から見た「地域から向けられるまなざし」についての話がありました。(以下、敬称略)

私は小学生のころに不登校になったことがあるんです。当時、近所には学校の教師が暮らしており、さまざまな見方をされているのだと実感しましたね。当事者が感じる生きづらさは、ほぼ周囲からの目(まなざし)で決まるのではないか?と思ってしまうほどで…。

ほかにもこんな経験があります。私が(今日着ているような)着物を着て街を歩いていると、あるおばあさんから話しかけられたんです。聞けばもう40年も大好きな着物を着ていないとのこと。本当は着たいけど、周囲からの視線が気になって着られないそうなんですね。

これこそ、まさに「地域から向けられるまなざし」だと思いました。

本当は困ってSOSを出したいのに、言いづらくなっているのでは?と思っていますね。困っていると口に出せないため、誰にも相談できずにさらに困るという状態に陥っているのではないかと心配しています。

悪い意味で集団の心理が働いているのではないか?と感じることも。本当は当事者に対してそんなこと(悪いように)思っていないのに、集団の中にいると周りに意見を合わせてしまうみたいな。まなざしは見えない圧力なんじゃないかと思います。

地域の人が思っていることを口にしなくても、当事者は視線だけで深く傷付くこともあります。外から見ているだけでは分かりづらいのですが……。

一人の人として認められるとは、どのようなことか?

気軽に話しかけられる相手がいると、安心できるんです。そういう意味では、誰でも支援(サポート)する人になれるんじゃないかって。たとえば、近所に住む人や、いつも行く食堂の人でもいい。個人的には深夜に行くコンビニの店員が話しやすいと思うこともありますね。

このように思える人が増えれば、安心感につながるんじゃないかと思うんです。

私を一人の人として認めてくれたのは若者ハローワークの相談員の方でした(前述)。はじめから面接の練習や求人の探し方を教えられていたら、すぐに心を閉ざしていたなって、今では思います。でも雑談や面白い課題(将来の計画や漫画の朗読)があったからこそ、いろいろ話してみようと思えたんです。

かりんさんは勇気を振り絞って、今日この場で自分の体験を話してくれました。でも、これって安心が担保されている場所でないとできないと思うんです。同じことがいろいろな場所で起こって、東御市がもっとやさしい街になればいいですね。

不登校などで困っている人がいるとき、「なぜ学校に行かないの?」と問い詰めたくなりますよね。でも、何気ない会話からはじめることで、相手は肩の力がふっと抜けて話せることもあって…。

京都府で学校の存続をめぐる対立があったんです。PTAの方は、対立があることを多くの人に知ってほしいと、ゲリラ的なデモ活動(広報活動)をしていたんです。でも、そうやって対立することで話し合いが起こり、対話になりました。

生活保護で救われた家族もいる

生活保護に対してあまりよいイメージを持っていない人が多いという印象です。生活保護を受けようしている相談者すらそう思っているんです。ケースワーカーの立場からすると、一時的に生活保護を受給したほうがよいと思うケースも多々あります。しかし、実際には制度を利用しない(できない)人もいるのが現状で…。

一方、生活保護によって救われた家族もいます。私の知り合いのシングルマザーが、過去に生活保護を受給していました。しかし、今ではお子さんは立派に独立し、本人も生活保護を抜け出して生活しているんです。

フリーペーパー「hanpo」の紹介

会場で配布されていた「hanpo」

パネルディスカッションの中で、生きづらさを感じる人のフリーペーパー「hanpo」の紹介がありました。

hanpoをはじめようと思ったのは、自分と同じ経験(不登校などの生きづらさ)をした人の言葉や想いを知るため。「生きづらいか?」と聞かれて、素直に「そうだ」と答える人はなかなかいませんよね? そのため、少しだけ(半歩)先にそういった経験をした人たちの言葉を届けたいと思ったんです。今では30人〜40人の仲間が製作に協力してくれています。

以前は、「過去の自分を消してしまいたい」と思った時期もありました。
でも今は、hanpoにかかわることで、「過去の自分に価値を与えている」と思っているんです。

東御市の社会福祉協議会にも置いてあるので、ぜひ。

東御市内の小中学校にも、3冊ずつ配布しています。

みんな支え合って生きている

最後に登壇者からの言葉を紹介します。

現在の社会は自立していることを良しと考える雰囲気があります。でも、誰かの協力がないと自分だけの力では自立が難しい場合もあるんです。実際、私も生活保護を利用していなければ、今日この場所にいなかったかもしれません。地域のまなざしが変われば、生きやすくなる人が増えると思います。

上田市で、『夜明け前』で有名な島崎藤村のお父様をモデルにした青山半蔵の舞台をやっていました。やどかりハウスの元利用者で高校生のときに親から虐待を受けていた方が、舞台を見た感想を送ってくれましたので紹介しますね。

「僕には命をかけて自分を削って体や心を反応させ、訴えかける人種がどの時代にも一定数いるように感じます。そうせざるを得なくなった過去や現在に苦しみながら、僕らの存在に気づいてと体を張って訴えかけているようにも見えてきます。(中略)ただ生きているだけでは何の役にも立っていないと否定される日々ですが、僕らは存在しているだけで意義あるのかもしれません。少なからず僕は、似たような人種に出会えたこと、出会える場に巡り会えたことが、生きていてもいいのかもしれないと思える材料になりました。(中略)僕らの体や心が発している反応のその先にある意味を、探してみたいと思います」

(実際に1本ボールペンを立たせようとして倒れて…)ボールペンは1本では立ちませんでした。人間も同じ。支え合って立てればいい。1人で立てなくても、たとえば5人で立てれば5人分の人生を楽しめます。

「自立」という言葉が示すのは、必ずしも就労や経済的な自立ではないんです。一人ひとりが自分で思う自立を決めてゴールにすればいい。一人だけで生きられる人はおらず、全員が多くの人に支えられて生きているんです。そういう意味では支えられ上手になることも大切ですね。

登壇者からのメッセージ

第二部パネリストのネームプレートの周りにも、かわいいぬいぐるみ

イベント終了後、第二部に登壇した5名のパネリストに①本日の感想と、②会場に来れなかった方へのメッセージを聞きました。

自分の体験を話すには勇気がいりました。でも、たくさんの人が来てくれてうれしかったです。今日の話を聞いて何か持ち帰ってもらえればと思います。

当事者は毎日生きるのが苦しいと思います。でも、やどかりハウスやhanpoなど気軽に話せる場所や、自分の気持ちを受け止めてくれる場所があるんです。ぜひ、そういった場所が見つかればと思います。また、サポートする人は、当事者のつらい気持ちを素直に受け止めてくれればと思います。

かりんさんの生の声をたくさんの人と一緒に聞けてよかったです。今日参加してくれたみなさんの中で、何かが生まれたり、何かがはじまってくれたらうれしいですね。

一人ひとりの人が自分の声で話せる場所を作っていきたいと思っています。当事者だけでなくサポートする人や、関心のある周囲の人みんなが連なって、そのような場所を作っていきたいですね。

生きづらさを感じる当事者の方が多く参加してくれてよかったです。その中には、hanpoとつながりたいと申し出てくれた人もいてうれしかったですね。私はhanpoの代表という立場ですが、hanpoを通してあくまでも対等に多くの人とつながりたいと思っています。

一人で生きなくていいと思います。多くの人に寄りかかって生きればいいんです。たくさんの支え合える人を探して、自立(孤立しない)の一歩となればいいなって思います。

本当に多くの人が来てくれて感謝しています。この問題に関心のある人が多くいてくれてよかったと思っていました。

ケースワーカーの立場からすると、些細なことでもまず相談してもらえればと思います。東御市社会福祉協議会ではLINEによる匿名の相談も受け付けています。相談のしやすさから、実際に効果も出てきています。こんなこと相談していいのかな?なんて思う必要はありません。

来場者の方を含めて、誰一人欠けても今日のイベントはできなかったと思います。無事に終わってホッとしているところです。

生きづらさを感じる人が「自分の居場所だ」と思える居場所を作っていきたいと思います。それは必ずしも物理的なものでなくても、hanpoやSNSのコミュニティなどでもいいんです。どこかに僕らはいます。

参加者の感想

真剣に講演を聴く参加者

若者(10代)から高齢者まで多様な年齢の方が参加していました。参加者の感想を紹介します。

  • 若者にも生活保護が必要だと思いました。
  • 長野県にも多様な価値観を認められる地域が増えるといいなと思います。
  • 当事者の声を実際に聴いて、心のなかに残りました。
  • 私も虐待やいじめの経験があるため、かりんさんと重なる部分があり共感しました。
  • 人それぞれに異なる生きづらさを感じて生きていると思います。
  • 関心がある人が多くて驚きました。
  • 人の経験を実際に聴くことは大切だと思いました。

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今回のイベントでは、生きづらさを感じる当事者の現実を実際に聴くことができました。参加者はみな真剣に話を聞いており、身を乗り出して聴く人や、中には涙ぐみながら聴く人もいました。

「地域から向けられるまなざし」が少しでもやさしいものへと変わることを願います。

主催:東御市民まちづくり会議ひだまりの家プロジェクト部会
E-mail:sarami7589@gmail.com

<取材・執筆> ソーシャルライター 廣石 健悟