次代の当たり前「アップサイクル」に夢中。長野市の企業とNPOがコラボ

「もったいない」けれど「使い道がないジャマな存在」を使って新しい価値を与える……おとなを夢中にするワークショップに参加した。

身近にあるアップサイクルを体験しよう!と呼びかけるイベント「NPOカフェまんまる(2022年10 月 29 日(土曜日)、長野市市民活動サポートセンター)。

アップサイクルとは、本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること

会場は、1928年(昭和3年)に看板店を創業以来、現在「ものづくりに力点をおき、サインで良い文化をつくる」をミッションにする株式会社アドイシグロだ。

看板の木枠をつくる時に出る端材。デザインや文字を切り抜いて看板に貼るマーキングフィルム(粘着剤付きのフィルム。カッティングシートと呼ばれることもある)の切れ端。

どちらも看板屋にとって「もったいない」ものの代表だ。
かといって保存しておいても、端材や切れ端が使えるような新しい注文が入ることは、まずない。もったいないが積み重なって、場所をとるだけのジャマにしかならない。

「アップサイクル」とは、従来から行なわれてきたリサイクルとは違い、単なる素材の原料化と再利用ではなく、新たな付加価値を持たせることで別の新しいものにアップグレードして生まれ変わらせる考えだ。

オリジナルのスツールづくり

ワークショップは、スツールづくり。
看板制作時に出てしまう端材と切れ端を使って、思い思いに座面をデザインした。(時間が許せば、スツールの材料を選んで枠組みから制作すればよいのだろうが、限られた時間のため今回は「座面」だけ、各参加者が作成した)

用意されていたのは、座面に貼る色とりどりのマーキングフィルム。
数メートルに及ぶ大きな看板をつくる本職にとっては、たしかに「切れ端」かも知れないが、素人にはそう見えない立派なシート。色も豊富で緑系だけでも、黄緑から深緑まで微妙に異なる数種類があった。

まずは下地。一面に青を貼れば、空にも海にも見える。緑を切り抜いて「山」に。黄色で「太陽」を、白で「カモメ」を…。参加者の想像力が次々と形になり、座面に貼り合わされていく。

難しいのは、シートを貼る際に入り込んでしまう「気泡」の扱い。空気が入らないよう慎重に作業しているつもりでも、どうしてもアワやシワが生じてしまうのは、素人の限界か。助けを求めたスタッフが見せてくれた手際よく美しい職人技に感服した。

シートの切り貼りと気泡とのたたかいで、予定の時間は、あっという間に終了。すっかり夢中になっていた。完成したのは、自分デザインのオリジナル・スツール。今までになかった数々の経験も、大きな価値になった。

材料は、端材と切れ端。これほど、おとなを夢中にするモノが、普段では「使い道がないジャマな存在?」と首を傾げるしかない。新たな価値を持って生まれたスツールが、アップサイクルを実感する機会になった。

身近な事例を聞き、湧いてくる思い

プログラムには、アップサイクル事例の紹介もあった。

ヴィーガンレザー(バナナの茎などを使った植物性の生地)で小物をつくったり、出荷前にはじかれた果物をドライフルーツにしたり、耕作放棄地を活用する「学び舎(や) めぶき」の永井さん。

野にあるスギナや桑の葉でお茶やクッキーなどをつくる鬼無里の地域おこし協力隊の岩川さん。茶葉は必要な分だけの量り売り。クッキーは型抜きを楽しめるようになっている。

まちを豊かにする「長野ビンテージビルプロジェクト@光ハイツ」に取り組む株式会社アドイシグロ。さまざまなコンセプトでリノベーションされた光ハイツの部屋は、どれも個性があって魅力的。見学のドアを開けるたび、驚きや感嘆の声があがった。

三者三様のアップサイクル事例を聞き、身近にあるもので「なにかできないか?」との思いが湧いてきた。そんな気持ちを察するように、プログラムは参加者交流へと続く。

いつも捨てているモノや、扱いに困っているモノ、手間と費用をかけて処分しているモノなどを出しあって「こんなアップサイクルができたらいいな」と妄想を交流。

トイレットペーパーの芯やラップの筒、使い捨てマスク、保冷剤、梱包材、コンタクトレンズの容器など、毎日の暮らしの中から「なにかに使えそう」なモノがたくさん出された。

いつかアップサイクルされた品々が、世に出てくるのを楽しみにしたい。

思い思いのスツールができました

アップサイクルを当たり前にするために

社会と暮らしの中で分別収集が「当たり前」になり、リサイクルと再利用が進んでいる。「使い捨て」時代に比べたら、格段の進化だ。

次に来るべきは、アップサイクルを持続可能な社会の「当たり前」にする時代だろう。実現に向けた問題は「どこに、どのようなモノ(材料・資源)がある」かだ。捨てたり困ったりしている人が「こんなモノがある」と言い、使いたい人が「こんなモノを探している」と言い合う機会がないと、両者の出会いは難しい。

モノや情報が集まって、ヒトとコトが交わる「アップサイクル・ステーション」(仮称)のような仕組みと場が必要だと思う。

「いつか使う」と思ってとっておいたけれど、出番が来ないままホコリにまみれてしまった菓子折りの箱も、使う人にとっては「ありがたいモノ」になるだろう。年を追うごとに「あれ?どこにあったかな?」と探す機会ばかりが増えていくのを嘆くより「あそこへ聞けば、どこにあるか分かる仕組み」が自宅にもほしいと思った。

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<取材・執筆>ソーシャルライター 吉田 百助