「地域まるごとキャンパス」の参加学生が交流し、さらなる活動意欲を高める

学園の中(キャンパス)を飛び出して、地域の市民団体や企業と一緒に活動し、さまざまな学びや体験をしてみようという高校生・大学生を対象としたプロジェクトがあります。学生の学びの場は日常の学校内だけでなく地域の中にもあることから、称して「地域まるごとキャンパス」です。この活動に参加している学生とフィールドを提供している団体の人たちが8月17日、交流会を行ないました。

まずは自己紹介と仲間づくり

会場は長野県立図書館3階の信州・学び創造ラボフリースペース。図書館は静かに本を読んでインプットする所というイメージがありますが、それだけでなく、みんなで集まってワイワイしながらアウトプットする場にしようと、県立図書館にはこのスペースが設けられています。

集まったのはスタッフも含めて40名。会場を見回しても、同じプロジェクトの人以外は知らない人ばかりです。地域の中で、どんな人たちが、どんな活動をし、何を感じているか。それをシェアし合い、これからの取り組みの力にしようというイベントでした。果たして学生に、どんな気づきがあったのでしょうか…。

数人ずつのグループに分散して交流会が始まりました。主催者から「今日は出会いを大切にし、いろいろ話し合いながらこれまでの活動を振り返り、そしてこれからの活動を自分の中に落とし込んでほしい」と趣旨の説明がありました。

まずはアイスブレークです。「自己紹介と仲間づくり」のワークショップで、「グローバル・ビンゴ」まるキャン版と命名されていました。9マスの真ん中に、まずは自分の自己紹介を書き込み、スタートの合図で会場にいる人たちに次々に声をかけて行き、自己紹介をしてもらうのです。「おすすめはここ」「感動した!」「こうなりたい!」などの質問に答えてもらうようになっていて、縦・横・斜めの列が2列埋まったらビンゴです。ワイワイガヤガヤの自己紹介タイムでした。初対面の人に、どれだけ積極的に声をかけていくかが大事で、ゲーム的な要素がありました。参加者の積極性が炸裂していました。

自分の活動を振り返り、シェアする

会場内の雰囲気が熱くなったところで、今度は静かに自分の活動の振り返りです。プログラムの内容や選んだ理由、学びや気づき、出会い、ブラッシュアップのポイントや今後やってみたいことなどをワークシートに書き込みます。そしてグループ内でのシェアへと進みます。

ユースセンター立ち上げの活動に参加しているA君は「10代の放課後の秘密基地という言葉に惹かれて選んだ。いろいろな視点から考えるのが難しいと思った。知らない人とも気軽に話せている自分に気づいた」と振り返ります。自分発見につながっていました。

平和交流会の企画に加わったB君は「平和のことを考えたことは今までなかったが、長野でも空襲があったことを知ることができた。企画や運営で自分の考えや思いを人に発信できることがわかった。平和交流会は終わったが、長期的にボランティア活動にかかわってみたい」と話しました。参加したフィールドの活動は終了したけれど、新たな参加意欲が生まれているようでした。グループの人からは「企画はどのように考えたのか」と質問が出され、B君は「誰に報告してもらうか、分散会の持ち方をどのようにするか、時間配分をどのようにするかなどをみんなで検討した」と体験を説明しました。

イベントの企画や運営に興味があるというCさんは、「今度のイベントでたこ焼きを出すタコパをするんだけど、練習して丸く上手に作れるようになった。たこ焼きを作る機会があったら呼んで」と笑顔で呼びかけました。参加したフィールドで、たこ焼きという未知の体験ができたようです。

子育て地蔵盆の活動が2年目というDさんは「半日でチラシを作らなくてはいけなくて、最初は無理でしょうと思ったけれど、イラストなども描き、やってみたら意外にもできた」と体験を披露しました。困難ととまどったものの、やればできるという自信が生まれたようです。「昨年は肝試しをしたところ、怖すぎて子どもたちが泣いてしまった」と企画の難しさについても報告しました。

この振り返りと交流は、いろいろな経験が学びになっている様子を浮き彫りにしてくれる場となりました。

おもしろい本を探せ「図書館探索タイム」

せっかく図書館での開催であることから、休憩をかねて「図書館探索タイム」となりました。グループ交流のなかで気になったキーワードに関係した本や、いま読んでみたいと思う本を探すという企画です。見つけたら各コーナーの受付で手続きをして交流会場まで持参します。制限時間は20分。図書配置の館内地図を片手に、思い思いの書棚へと散って行きました。

交流会が再開し、探して来た本をシェアし合いました。学生の関心は多様で、活動に直接関係のないものも多く、『耳なし芳一』、『毒蛇全書』など意外な本が選ばれました。「私の住んでいる所は田舎過ぎて蛇が出るので、何か対策になったら…」と選んだ説明があり、場内に爆笑の渦が起きました。「たこ焼きの作り方の本を探したけれど見つからなかった」という発言も。時節柄『熱中症』の本も選ばれました。もちろん、『地域再生と町内会・自治会』という地域づくりの本を見つけて来た人もあり、「ぼくたちの世代に自治会の活動が回って来たときのために」と選んだ動機の説明がありました。『たこ焼き』の本は、交流会を下支えした図書館の司書がプロの腕を発揮して3冊探し出し、交流会の最後に紹介してくれました。選ばれた本はお勧めの本として、部屋の端にしばらくの間、展示されることになりました。

私が選んだ本は「毒蛇全書」

テーマに沿って真剣トーク

最後は「テーマトーク」です。主催者が各グループごとに別のテーマを設定。「推薦・成績のために参加するのはNG?」「ボランティア 選ぶとき重視したのはどこ?」「参加にあたってのネックは何?」「ぶっちゃけ探究学習ってどうよ?」「こんなことがあったら続けていきたい」「こんなプログラムなら参加したい」というテーマが、それぞれのグループにお題として与えられました。すっかり溶け込んで親しくなった参加者は、思い思いの考えをぶつけ合いました。

「推薦・成績のために参加するのはNG?」のグループでは、それがきっかけであっても参加して新しい出会いや発見があるならばいいのではないかという意見が多く出されました。

「ボランティア 選ぶとき重視したのはどこ?」では、立地や時間とともに「自分のためになること」「今しかできないこと」などがあげられました。

自分の頭で考え、その意見を表現することで胸に落とし込んでいく。そんな時間となりました。

152名の高校生、大学生が参加

ながの地域まるごとキャンパス(通称・まるキャン)は今年が6年目。2021年度までは市内のNPOを中心に構成されたネットワーク組織「ながの協働ねっと」が主催していましたが、昨年はNPOや行政などが集まる実行委員会による運営に移行。今年度からは長野市の事業となり、運営は長野県NPOセンターが事務局を担っています。フィールドとして提供されているプログラムは37あり、高校生120名、大学生32名の合わせて152名が参加しています。

今回のような活動途中での参加者交流会は初めてでした。他のプログラムで活動している人たちのことも知りたいという希望から実現し、運営に学生もかかわりました。最終報告・終了授与式は2024年2月3日(土)、長野県立大学で行なわれます。

この日の「成果」とも言える選んだ本とテーマトークの交流内容は、会場となった信州・学び創造ラボフリースペースの壁面に掲示し、図書館を訪れた人たちに見てもらえるようにしました。

「地域へ飛び出し、学校では出会うことのできない仲間・大人たちと出会い、地域課題の解決に向けてアクションしよう!」と学生に呼びかけている地域まるごとキャンパス。この取り組みは、フィールドを提供する市民団体・企業にとっても有益です。どんなにおもしろく意義のある活動であっても、それを若い人たちに知ってもらう機会がなければ地域は盛り上がりません。素晴らしい活動を、学生が知るチャンスともなっているのです。

まるキャン事務局は、「ボランティアや市民活動団体と意欲ある若い世代が出会ったら、わたしたちの住む〈ながの〉はもっとすばらしいまちになるはず」とプロジェクトの活動の意義を強調しています。

本年度の取り組みの中間地点における今回の交流会は、後半への跳躍台になりそうです。地域と積極的に関わる意欲ある若者の姿が印象的でした。

ソーシャルライター 太田秋夫