「心のバリアフリーが無い国」川崎昭仁

2022年6月24、25日に日本とアゼルバイジャンの国交樹立30周年を記念した「True Colors Festival」が開催されました。「多様性」をテーマにさまざまな障がいのあるアーティストの一人として、アゼルバイジャンの首都・バクーに行ってきました。ボクにとって初めての海外公演ですが、ここでは、いち障がい者として感じたことを書きたいと思います。


スロープを使って現地のバスに乗り込む筆者

羽田空港からトルコのイスタンブールを経由して約18時間の長旅。飛行機に乗るには、自分の車イスは荷物として預け、搭乗用の車イスに乗り換え、空港スタッフが座席まで案内してくれます。とても手慣れた対応で安心していられました。ただ、18時間同じ姿勢というのは想像以上につらかったです。アゼルバイジャンはイランやロシアと接し、さまざまな人種、宗教が混在しています。首都バクーはカスピ海に面し、ヨーロッパのモダンさと中東のエキゾチックな雰囲気が漂う街並みでした。

日本のバリアフリー設備は世界トップクラスだと思います。一方、アゼルバイジャンではスロープがあっても、勾配は安全を考慮したものとは思えず、舗道も段差だらけでした。それでも通称「なすびタクシー」と言われる紫色のタクシーはスロープ車だとひと目でわかるようになっていたり、すべてのバスにスロープが付いていたりしました。でも、一番驚いたのは街の人たちの対応と視線です。

日本で公共交通機関を利用すると、いろんな段取りがあって時間がかかり「面倒なのが来たよ」「早くしろよ」という視線を感じていました。でもここでは「はいよ!」と言わんばかりにスロープを出し、周囲の人も何も言わず手伝ってくれました。街を歩いている時も、段差に手間取っていると通りすがりの人がすぐに駆けつけ、何も言わずに去っていきます(惚れちゃいますよね)。

こうした対応と視線に「障がい者だから」という特別感を感じませんでした。この国には「心のバリアフリー」なんて言葉はないんだ、困ってる人を助けるという当たり前のことをしているだけなんだと思いました。安全性など不安なこともあるけれど、それを補う「助け合い」を目の当たりにし、共生と多様性のあり方を体感した有意義な旅でした。

執筆: NPO法人ヒューマンネットながの理事
初出 : 長野市民新聞 NPOリレーコラム「空SORA」2022年9月17日掲載