誰も取り残さない防災って? 防災啓発イベント―長野市更北地区で

4年前(2019年)の台風19号災害を契機に、長野県内各地で行政や各種団体によって防災・減災の取り組みが進められています。そんななか、長野市の更北地区住民自治協議会(以下、住自協)は、医療的ケアが必要な人や高齢者など、「災害弱者」と言われる人たちのサポートをどうすればよいかにスポットをあてた防災啓発イベントを実施しました。

医療的ケアを必要とする人たちをどう支援するか

文化の日である11月3日の開催で、「誰も取り残さない防災を考える日」と銘打ちました。更北公民館と更北支所駐車場を会場に、さまざまなコーナーが設けられ、防災の気持ちを多角的に啓発する内容でした。長野県社会福祉協議会が共催し、防災活動に取り組む団体・グループ、高齢者や障碍者に寄り添う団体、福祉関係組織、さらに教育・企業関係など幅広い人たちの参画があり、イベントを盛り上げました。

注目されたコーナーの一つが「災害弱者が過ごせる避難所とは?」とのテーマを掲げた展示で、医療的ケアを必要とする人たちや高齢者が、災害時に適切な対応から除外されてしまう現状を提起するものでした。在宅酸素を利用している人たちや、人工呼吸器・胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な人たちにとって、災害時に避難所へ避難することは困難です。長時間の停電では機械の稼働がストップし、命に関わるリスクがあります。

避難のための機械類の移動が難しいだけでなく、行政の指定避難場所・避難所での受け入れも困難です。こうしたリスクを抱えている人たちについては、実態が把握さえされていないのが現状です。器械メーカーと清泉女学院大学の協力で、ケアに必要な医療機械が会場に展示されました。一般的に見ることがあまりないことから、参加者はこうした機械・器具類が必要であることに理解を深めていました。

医療的ケアの説明
医療的ケアの機器類を展示

災害時の電源供給としてEV・PHEV車の活用が考えられます。この日はトヨタとマツダの2社が「災害対策支援車」として展示し、給電のデモをしました。1,500Wの出力が可能で、フル充電であれば6日間使用でき、ハイブリット型の車種では蓄電池の容量が下がったときエンジンが自動的にかかって自ら充電する仕組みになっているとのことです。

更北地区住民自治協議会では、EV・PHEV車を所有している人たちで災害時や停電時に協力してくれる人に事前登録をしてもらい、電源を必要としている在宅酸素使用者や医療的ケアが必要とする人とを結びつける対策を模索しています。イベントを企画推進した健康福祉部会・こうほくボランティアセンターの山本里江さんによると、支援の希望者はいるものの協力の申し出はまだなく、理解を広げるために今回の防災啓発イベントに位置付けたとのことです。

自動車からの給電デモ
1,500Wまで供給できる

イベントがきっかけでつながりが広がり、新たな対応へ

医療機械の展示説明を担当していた清泉女学院大学看護学部小児看護学教授の北村千章さんは、「医療的ケアの人たちは避難所へ行くことができず、行ったとしても受け入れられる状況でないため、自宅にいるしかないのが現状」と語ります。大学の東口キャンパス(長野駅東口)は緊急時避難場所にも指定されていることから、医療的ケアを必要としている人を一時的に大学で受け入れることを検討しているとのことです。移動については自動車販売会社と協定を結んで実現させたいとの説明も。北村さんは「このイベントを通じて、いろいろな関係者とのつながりが広がり、大学だけではできなかったことが可能になってきている」とイベントが果たしている役割を高く評価していました。

イベントのねらいは、誰も取り残さない防災を考えること

さまざまなコーナーで防災を啓発

体験コーナーも豊富でした。消防署や消防団は煙体験、ロープの結び方ワーク、消防自動車や消防団員の装備品の展示、心肺蘇生とAEDの説明と体験などを行ないました。赤十字奉仕団はハイゼックス(炊飯袋)を使った炊き出し、長野県社協はアルファ米のごはんとパッククッキングで作った蒸しパンを提供しました。住自協福祉推進員は防災用具を詰めた防災ボトル作りを提案していました。

避難所で設営する段ボールベッドや間仕切りテントの展示もあり、長野市防災ナビのコーナーでは説明を聞きながらアプリをスマホに入れる人もいました。長野市災害ボランティア委員会はペットボトルランタンを紹介、NPO法人Happy Spot Clubはヘルプマークの啓発運動としてヘルプマークの説明をしました。

赤十字奉仕団の炊き出し
ハイゼックスにチャレンジ
県社協の炊き出し
防災ボトル作り
ボトルに何を入れるか…
実際に作ってみよう
消防車の展示
ロープワーク
消防団員の装備品
救命処置の説明
ヘルプマークの説明
防災ナビの説明

小中学生もイベントの発表に参画

子どもたちのイベントへの関りも特徴的でした。地区内の小中学校が洪水ハザードマップを見て学んだことをまとめたものを発表。さらに住自協が10月23日に実施した「子ども未来会議」で出た内容についても掲示しました。「水害が起きたらどうする」「災害に備えてできることは」などをまとめています。「学校でできること」では、非常食を食べてみる、避難生活の体験をする、実際に災害を体験した人の話を聴くなどがあげられていました。

小中学生がハザードマップを見て学んだこと
「子ども未来会議」でのワーク
「子ども未来会議」でのワーク

更北中学校ものづくり部理科班の生徒は、水辺を調査した結果をデジタルマップに載せて発表しました。また流域治水について研究し、コンクリートの場所では雨水が一気に流れるけれど土の場合は吸収して流れ出る速度が遅延することを説明できる装置を作って、来場者が見て実感できる発表をしました。

流域治水を知る実験(水が流れ出やすいのはどちらか)

支援の輪の広がりを模索

イベントでは体験を語るリレートークや被災時の写真展示などもあり、楽しく学べる内容でした。リレートークのなかで住自協会長の田中保さんは「災害が起きたときは自分の命を自分で守ることが基本だが、地域のどこにどういう人が住んでいるか平時に把握しておき、声をかけて手を差し伸べることが大切」と話し、PHEV車を所有している人で電源供給の協力をしてもらえる人の登録を呼びかけました。

リレートークで体験を発表

「誰も取り残さない」という視点を掲げた今回の防災啓発イベントは昨年に続いて2回目。災害時に忘れられがちな人への支援を提起するもので、多くの関係団体が関わって実施されたのも大きな特徴でした。田中さんは、PHEV車の所有者の協力体制を構築するためには周辺の住自協との連携が必要になるとし、イベント開催や会議などで他の住自協との交流も進めていると話しています。

行政にとっても地域の各種組織・団体にとっても、4年前の被災は予期せぬ体験でしたが、そこから教訓を導き出して、今後の防災・減災の取り組み、そして被災時に迅速な対応ができる対策に向けて様々な事業・活動が展開されています。市民レベルでの取り組みや教育分野での実践も進んでおり、防災意識の向上は、今後の災害時における大きな力になりそうです。 

更北住自協主催の防災啓発イベント協力団体(順不同・ポスターより)〉
NPO法人さくらネット、清泉女学院大学、㈱フィリップスジャパン、フクダライフテック北信越㈱、長野県栄養士会、長野県危機管理防災課、長野市更北支所、長野市危機管理防災課、長野市消防局篠ノ井消防署更北分署、日本赤十字社長野県支部、自衛隊長野地方協力本部、長野市災害ボランティア委員会、長野市地域包括センターコスモス、長野市地域包括センターインターコート藤、長野市南部発達相談支援センター、ジオナレッジ合同会社、合同会社PDジャパン、オンサイテック㈱、一般社団法人長野県自動車販売店協会、更北中学校、真島だんごむしカフェ、ふきっこのおやき、長野市赤十字奉仕団、長野市消防団更北分団、民生児童委員協議会、福祉推進委員会

取材執筆 太田秋夫 ( 防災士、ソーシャルライター )