被災者中心の災害支援と三者連携の重要性

災害が起こる前からの連携が必要だ。日頃のつながりがないと災害時に飛び交うさまざまな情報を、誰へ伝えてよいのかもわからない。被災者目線の支援と、行政・社会福祉協議会・NPOや民間などの三者連携の重要性を考え、明日からの災害支援につながるフォーラムにしたい(開会あいさつより抜粋)

「第5回災害時の連携を考える長野フォーラム~被災者中心の災害支援と三者連携の重要性を考える~」が、2023年3月12日(日)午後、オンラインで開かれました。参加申し込みは138名。長野県内のみならず全国から参加があり、関心の高さが伺えます。

主催は、長野県災害時支援ネットワーク(略称:Nネット)。団体や組織の枠を超えて、平時から課題や取り組みを共有し、長野県内で災害が起きたとき、多様な団体や行政が効果的に連携し、被災者支援を円滑に行うことを目的に活動しています。

2022年の災害対応とネットワークの取り組み

特定非営利活動法人 全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(略称:JVOAD)の明城徹也さんは、2022年の大雨や台風被害時の対応を振り返りました。

情報提供したJVOADの明城さん

8月の大雨と台風8号は、東北から北陸にかけて広い範囲で水害をもたらしました。個人のボランティアは新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から地域を限定した受け入れになりました。
一方、重機を使うなど特殊な技術を持つボランティアは全国から現地へ入りましたが、「事前に、つながりやネットワークがあったか」が支援に入れたかどうかのポイントになりました。

「必要なところに支援をしっかり届けるために、平時から関係性をつくる三者連携が重要」
「災害発生後は連携を活かして、被災者のニーズと支援の全体像を把握・情報共有し、現場の活動を支援するとともに、課題解決に向けた調整を行って、支援の『もれ・むら』をなくす」

「三者連携は被災者支援の14分野ごとに調整できるよう考える」

明城さんは、Nネットへの期待として「支援分野ごとの連携と役割分担、市町村とも共通の認識を持つことが大事。個人の理解は進んでいるが、それが組織の共通認識になっているか持ち帰って再度検証するように」とアドバイスしました。

被災者支援のための連携~Nネットの挑戦~

2011年の長野県北部地震から2021年9月の土石流災害まで全9回、県災害対策本部を設置したほど災害が多い長野県で、さまざまな災害対応にあたってきた前長野県危機管理部 火山防災幹の古越 武彦さん(JVOAD事業担当、Nネット顧問)は、「行政だけでなんとかなるものではない」と、災害対応の難しさを話しました。

「災害救助法は人口規模に応じた基準が適用されるが、本当は被災された方が等しく救助されるべき。災害が起こると、自治体の力量が試される。行政は『制度をきちんと運用しなければ』に囚われしまいがち」

「被災者支援は行政の責務であるが、いざとなると業務量が膨大で行き届いた支援ができなくなる」

「行政は避難所に飲料水とアルファ化米を用意するが『温かいものを食べて、再建にがんばってもらおう』という配慮はなく、避難所の様子はずっと以前から変わっていない。地域の有志が炊き出しで支えている」

「行政は『被災者目線』に立って、自分ごととして何ができるのかを考えるマインドを持つこと。制度運用は、できない理由を探すのではなく『どうすればできるかを考える』。できないことは地域の民間との協働で連携することが大事」

古越さんは、いつも胸に刻んでいる「一人ひとりに寄り添い 最後の一人までも見捨てない」という故 黒田裕子さんの言葉を紹介し、「被災地で生きていくために生活を再建するには、長期にわたる多様な支援が必要。行政には『健康な食事の提供』という目標と連携が欠けている。いっしょに未来を築くため、被災者目線で支援の気持ちと力を合わせるようNネットは常に挑戦し続けてほしい。防災は人づくり、人とのつながり」と、期待を寄せました。

<事例報告>令和元年東日本台風災害からの歩み

避難所の運営を約2か月にわたって担当した経験をもつ長野市企画政策部復興推進特別対策室 小池 啓道さんは、令和元年東日本台風当時を振り返りながら、長野市災害復興計画に定めた「3つの再生~ONE NAGANO~」の考えや、避難所を出た後の「市生活支援・地域ささえあいセンター」での支援、復興応援事業などを話しました。

2004年の中越地震ボランティア活動がきっかけで社会福祉法人長野県社会福祉協議会に務めることになったという山﨑 博之さんは、「『地域とともに』災害コミュニティソーシャルワークの展開へ」と題して、災害ボランティアセンターの三原則「被災者本位・地域主体・協働」をもとに、地域にある「三つの孤立」を「三つの安心感」へ変えるため被災者に寄り添った対応の大切さを話しました。

2016年 台風10号で自らが被災したことから被災者支援活動をはじめ、17年に被災者支援団体(一社)Jumpを設立した千葉 泰彦さんは、岩手県岩泉町で住宅地図を手に全戸をまわって状況とニーズを把握した経験から「困っている人は、困っていることすらわからない。助けを求められずに『大丈夫』と言ってしまう。あらかじめ顔見知りになっていることで、困ったことを話しやすくなる」と、普段からのつながりが大事だと話しました。

災害支援を振り返り、これからの連携のヒントを得たフォーラム。被災者を全力で支えるために、平時からの連携とネットワークが大事であること。そして、被災者のニーズをていねいに聞き取り、全体で共有することの重要性を改めて知りました。

事例報告した小池さん、山崎さん、千葉さん

Nネットの代表幹事を務める山室秀俊さんは、「Nネットが立ち上がって6年。大きな水害の経験で、まだまだ不十分なことがあったと思い返した。気持ちを新たに体制を強化し、被災者目線で挑戦し続ける前進の年にしたい。ともに語り合いながら連携して歩んでいきたい」と、第5回フォーラムを結びました。

<取材・執筆>ソーシャルライター 吉田 百助