第4回「長沼の魅力発見ツアー」が2022年10月23日、長野市長沼地区で行われた。このツアーは、社団法人しなの長沼・お屋敷保存会が主催し、2022年の7月からスタートしたイベントで、毎回、テーマに沿って、歴史的価値や文化的な魅力を、長沼地区内を自転車で巡りながら再発見しようというもの。
前回は「一茶と出会うまち長沼」と題して、俳人小林一茶がたびたび長沼に滞在し、俳句の指導をしていたという史実を学び、地区に数多く残されている一茶や門人たちの句碑をめぐった。
今回は午前10時、御屋敷米沢邸を出発。長沼地区の要所を自転車でめぐり、現在の長沼の様子を写真に収めながら俳句となるネタを探し、米沢邸に戻るというコースだ。つまり写真俳句プラス吟行サイクリングのハイブリットイベントなのである。
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赤沼の人気ベーカリー「ホッペパン」のランチボックスで昼食タイム!
午前中の走行距離はそう長くはなかったが、慣れない自転車ですこし疲れ気味の参加者たちが米澤邸にもどり、ランチ休憩に。
長沼地区内の赤沼にあるベーカリー「ホッペパン」のランチボックスが配られた。「ホッペパン」は、台風19号による浸水被害でいったんは閉店したが、再開を待ちわびるファンの声にこたえて店舗を自宅に移し、再オープンした人気店だ。
ランチボックスの中身はというと・・・エビたっぷりの海老カツバーガーに、ふんわりで大きめの出汁焼き卵、長沼産の栗も入ったパウンドケーキ、そしてフルーツの盛り合わせである。見た目以上に満腹感があった。シンプルな紙製パックとフォークも木製という環境への配慮も感じられる。
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一口たべることに「美味しいね」「うまいね」と和やかなムードの中、主催者の一人、太田秋夫さんが、参加者の撮影してきた写真をスクリーンに大きく映す。このツアーでは自転車でめぐるからこそ、車では入れない場所に立ち寄ることができたり、被写体に接近して撮影できた写真もある。各自が撮影してきた現在の長沼の風景を見ながら、それぞれ感想を言ったり、句のヒントをメモしていく。
俳句が趣味である参加者の一人Mさんからは「(災害)前は、公民館の入口に投函ボックスがあって、生活の中で産まれたような句を気軽につくって投函していました。今は、なくなってしまったので寂しいですね」とのエピソードもでてきた。
参加者の皆さんは、資料として渡された季語とにらめっこしつつ、指を折りながら作句したり、秋の陽ざしがあたるあたたかな米澤邸の縁側で、熱心に長沼の歴史を語り合ったりしていた。
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ありがとう さようなら
17文字では収まりきらない「天王宮」への想い
大きなケヤキの写真が映し出されたときには、ひときわ参加者から反応があった。
「想いがあふれすぎて、17文字に入らないね」
「いやあ、私の腕では俳句にできないなあ」
今回のツアーガイド前島勝之さん(長沼歴史研究会会員)によると
写真に写された大木は、長野市の保存樹木としても制定されている長沼城の「天王宮」の大ケヤキである。しかし、防災センター工事のために撤去されることが正式に決定し、その日が数日後に押し迫っているのだという。
長沼城天王宮とは・・・・450年以上の歴史を有する長沼城の跡地である。三代藩主佐久間勝豊が、地域を疫病から守るために祀った祠で主神は、牛頭天王はスサノオノミコトであり、治水の神様でもあるため、全国的に洪水や津波など、自然災害を回避する必要のあった場所に祀られている。
住民の中には「長沼地区を長い間守ってくれて・・・今回もその役目を果たしてくれていた」と長沼城の象徴である天王宮へ強い想いを抱く人々もおり、「撤去伐採の計画をどうにか変更し、残してほしい・・・」という声も上がっていたそうだ。
「天王宮がモノ言わぬまま、その姿が見られなくなってしまうのなら、せめてその存在を写真と句で残し、後世に伝えていこう・・・」前島さんは今回のツアーの最大の目的を静かに伝えてくれた。
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あれから3年・・・長沼の今・長沼の秋を俳句で表現
「3年前から今日までおっかなくて(怖くて)、とても千曲川のそばには近寄れなかった・・・今回のツアーではじめて、河川敷までいきました。それまで近づくこともできなかったんです。今回もそばまでいったものの苦しくなって、すぐに、自転車までもどってきました・・・。今も・・・」
小さな声で話してくれた参加者の一人の女性の言葉はそこで止まった。この日は、秋晴れの穏やかな日だったが、被災者にとっては、3年前は過去ではなく現在進行形なのだと思い知った。正直、取材前は勉強不足もあり、時折、車で通りすぎる国道アップルライン周辺の長沼地区だけをみていたので復興はもっと進んでいると思っていたのだ。
しかし、一歩踏み込んで長沼地区を訪れてみると、長沼支所の仮施設やブルドーザ―などの重機が並ぶ河川エリアが目に飛び込んできた。町並みも一見、修復、建て替えが進み新築の家があちこちあるようでいて、甚大な被害をもたらした傷跡もいまだ深く、復興は途上にあることを知った。ましてや住民の言葉にできない想いを察すると、いくつか用意してきた質問は、とてもできなかった。
昼食を終えた参加者の皆さんは、次々と自作の俳句を清書しボードに貼っていった。何気ない秋の風景を詠んでいるが、その風景が当たり前ではないという前提で俳句を味わうと、さらに伝わってくるものがある。
ここで参加者の俳句の一部を紹介しよう。
★一茶碑を あたためるごと 紅葉散る ★コスモスと 話の花が 咲き誇り ★天王宮 見守る郷土 色葉散る ★古木でも たわわなりんご 夕陽映え ★秋風や 被災乗り越え、歩む道 ★いわし雲、百代のときを ながれけり ★コスモスや 希望つないで 昨日きょう ★朝寒の 自転車こぎし おんま道 ★城遺跡 穴の深さや うろこ雲 ★蘇る 被災の里に 柿たわわ
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災害がもたらしたもの
痛み、悲しみ。希望と絆・・・
昼食休憩や句会の会場となった米澤邸は、台風19号災害で甚大な被害にあい公費解体が決まっていたが、信州大学工学部建築学科の土本研究室の調査で、主家は1818年(文政元年)創建ということが判明。幾多の水害、地震を乗り越えてきた300年を超す歴史的建造物であり、地域産業を物語る「歴史の証言者」としての価値から、修復し保存していくことに。そして、今後の長沼再生活性化の拠点となっている。
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台風19号の被害は辛く、悲しい出来事だが、それにより思いもかけない「地域の宝」との出会いもあった。300年続く伝統的建築様式のお屋敷「米澤邸」や今も発掘作業が続いている「長沼城の遺跡」といった歴史的価値の高い重要財産である。
また、ボランティアをはじめ地区外の人が長沼住民を励まし応援しあう新しい風が吹いた。被災者支援という形で出会い、外から見た長沼の素晴らしさを伝えることで、長沼地区住民の誇りや勇気につながったことが参加者の方々のお話から伝わってきた。
長沼地区を思う人と人の気持ち「結」の精神が、さらなる新しい長沼の魅力の一つとして確かに生まれていることを発見したツアーだった。
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再発見ツアー解散後、太田秋夫さんと天王宮を訪れた。大ケヤキを見上げたとき、風が吹き抜けていった。
自然は時に恐ろしい。これまでも私たち人間は自然災害の前に、なんども絶望を味わってきたはずだ。それでも、残されたものたちが次の世代につなぐ街を、人を育んできたことも事実だ。
数日後には人間が、この立派な大樹、そしてザワザワと揺れる豊かな枝葉を奪うのかと思うと辛くなったが、「大切なことは忘れてはいけない、残さなければ、伝えなければ」という想いを新たにその場を去った。
取材・撮影・執筆/ソーシャルライター 大日方雅美
撮影協力/太田秋夫さん
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