新型コロナウイルスの猛威が世界を襲い、人が集まって交流するカタチへの変化を余儀なくされています。長野市で毎年開催されている「ボランティアのつどい」はZoomとYouTubeによるオンライン配信へと変貌し、ウィズコロナ下で新たなステップを踏むこととなりました。

※筆者は実行委員会の一員としての活動を通して、開催準備から当日に至るまでの動きを完全レポートします。

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実行委員会でテーマ、内容を検討

開催を見送ることは簡単でした。しかし、コロナという魔物に手をこまねいているわけにはいかない、というのが関係者の共通の思いでした。ボランティア活動をしている有志と長野市社会福祉協議会・同ボランティアセンター職員とで「ボランティアのつどい2021実行委員会」を7月に発足させ、12月5日(日)の開催日に向けてスタートしました。

午前10時から午後3時半までの5時間にわたるライブ配信とし、手探りの準備が進められていきます。これまでのように「会場に来なくても参加できる」という点を積極的に捉えて、今まで「つどい」に参加したことがない人に向けて「ボランティアとは何か」を発信し、関心をもってもらうとともにボランティアへの参加を促すという位置づけを明確にしました。

まずは「ボランティアとは何か」を説明できなければなりません。ボランティアという言葉を使わなくて伝えることはできないか…。みんなで話し合うなかで「好きなこと、得意なことで社会や人の役に立つこと」というイメージができ上がっていきました。そして「つながる」というキーワードも見えてきました。

実行委員の心の中には、ボランティアというのは特別なものでないという認識が共通にありました。ボランティア活動に参加したことがないという人たちに、それをどう理解してもらうかの工夫が必要であり、どんな内容にするかを煮詰めました。

これまでどおり、ボラセン(長野市ボランティアセンターのこと)に加盟するグループの活動を映像や写真で伝えること、2年前に起きた令和元年東日本台風(19号)被災地とボランティア活動の様子を「被災地は今」として現地から生中継すること、外国の方々との交流を盛り込むこと、著名なアーティストに登場してもらい文化的要素を打ち出すことなどの骨子が固まりました。多面的なコーナーにより、「切り口」を変えることでボランティアへの理解が深まるようにしました。

「好きなこと・得意なこと 誰かと みんなと つながろう」が「つどい」のテーマ・スローガンとなりました。ボランティアという言葉を使わずに表現しました。性別・年齢問わず、これまでボランティアグループと接点がなかった人たちにも、オンラインという形のなかで親しみやすくしました。

実行委員会
実行委員会で知恵を出し合う

届いた映像や写真の編集

ボランティアグループの活動紹介は、3分程度の映像または写真で各グループから寄せてもらうことにしました。ボラセンの置かれている長野市ふれあい福祉センター内での展示も可能にし、そこからもライブで紹介することにしました。

集まってきた映像や写真のチェック・編集は、実行委員の担当者が経験のないなかで必死の格闘をしました。最も苦労したのは、著作権・肖像権を侵害する状況はないかの確認です。映像や写真で個人のプライバシーにかかわる部分は消す必要があり、音楽もチェックが不可欠です。自力で映像収録ができないグループについては出向いたりボラセンに来てもらったりして製作しました。文字を工夫して入れるなどの編集にもチャレンジしました。

こうした作業は、当初見込んでいた状況とは異なり、はるかにハードでした。「開催日」というお尻が決まっているので、猶予がありません。慣れないなかでの奮闘の日々でした。

被災地長沼からのライブ配信をどう実現するか

台風19号被災当初、たくさんのボランティアが現地に入って復旧・支援活動にあたり、被災住民を励ましました。あれから2年余が経過し、復興に向けてさまざまな取り組みが行なわれています。その活動のなかでも、多くのボランティアが関わっています。とくに学生の参加には目を見張るものがあります。

こうした様子を現地からライブ配信することにし、被災当初から長沼地区で支援活動を継続しているHope Apple(穂保被災者支援チーム)が担当することになりました。

中継場所は、まだ被災したままの状態の古民家・米沢邸のお庭で、明治初期もしくは江戸後期の大きな「お屋敷」が背景になります。千曲川堤防決壊場所から西へ300mほどの場所です。ここを修復再建する活動をしている一般社団法人しなの・長沼お屋敷保存会の協力で実現しました。

中継機材の準備が課題です。もちろん初めての挑戦です。カメラはメンバーが持っている家庭用ビデオを使うことにしました。万が一に備えて、パソコンで使用するウエブカメラも配備しました。音声は3本のマイクを使用し、イベント用で使用しているPA(拡声装置)をミキサーとして代用しました。モニターは、これまたメンバーが所有する小型アンプとディスプレイを持ち込み、パソコンと接続しました。

最も心配だったのは通信回線の確保です。現地にはインターネットの設備はありません。ドコモ、au、ソフトバンクの3社の通信速度を測定して、一番スピードが出ていたドコモを基本回線としてつなぐことにしました。もし回線が切れたときは、すぐに他社の回線に切り替えられるように体制を整えました。本番中は、回線の負担を軽減するためドコモの通信使用を自粛するよう関係者に要請しました。

出演(登壇)者は長沼で活動するグループ、地域まるごとキャンパスに参加する学生、長沼の被災地住民、隣接の豊野地区の支援グルーブ、さらに篠ノ井地区からも15名のみなさんに来てもらうなど多数に上り、席にスムーズに移動するために誘導係を配置しました。入れ替わりの登壇で、出演時間は各3~4分しか「ワク」がありません。そのためタイムキーパーを配置し、1分前と30秒前にカンペが提示されます。MCには「何分遅れになっているか」を示すメモが渡されます。

途中で3回、事前収録の映像を挟み込み、Zoomの機能の「共有画面」で流すようにしましたが、そのときの切り替えはMCの話すのに合わせてスタジオの担当者が行ないました。中継現場のマイクのオン・オフはパソコンでモニターしている担当者が切り替えます。登壇者が写真を示すときはその部分をアップするなどのカメラワークが必要であり、台本に合わせてカメラを動かせるようにカメラ担当者を2人配置しました。Zoomにより岡山県・真備町の支援者ともつないで対話することに試みました。

出演者・スタッフは総勢39人の態勢でしたが、みんながみんな初めての経験です。それでも、通信が切れることもなく、素人ながら1時間の中継を成し遂げることができました。その要因として挙げられるのは、パソコンや通信の知識を持つ人がメンバーの中にいたことです。全体のディレクションを担当し、詳細なタイムテーブルと出演者・担当者の名簿を作成し、運営スタッフの動きが滞りなくできるようにしました。エクセルの表に進行の時間を入れると何分遅れになっているかが自動的に計算される仕組みまで作って、タイムキーパーがMCに進行状況を伝えるという念の入れようでした。

エンディング
1時間のライブ中継でエンディングのご挨拶

海外からの留学生をスタジオに迎えて

外国の方との共生をプログラムの内容に盛り込み、長野工業高等専門学校の留学生4人をスタジオに招き、ライブ中継で日本での感想を話してもらいました。マレーシア、タイ、ミャンマーからのみなさんです。

日本に来て驚いたことやボランティア活動について語り、自国の祭りについても紹介しました。また日本で飲食店を長野市内で営む中国とフィリピン出身の方も収録映像で登場し、お料理の紹介をしました。

このコーナーもスムーズに進行でき、国による文化の違いやボランティア活動についての考え方を視聴者に伝えることができました。MCは実行委員で国際交流に関わる人が担ったことから、当日の進行はもとより出演者の選定もスムーズにいきました。

シンガーソングライター清水まなぶさんと学生のトーク

最後のコーナーは、そこまでの中継内容を振り返りながら、清水まなぶさんと学生2人の楽しいトークでした。「つどい」のテーマに沿った内容で、人との出会いやつながりで感じた話題で盛り上がりました。清水さんの巧みなトークでボランティア活動を考え参加していく上で示唆に富む中身になりました。

ぶっつけ本番という進行でしたが、MCを務めた学生は事前にさまざまな質問を用意してあり、あっという間の時間でした。清水さんのミニラブも流しましたが、これは音声に問題が生じたときのことを配慮して事前収録の形をとりました。

このコーナーでも、事前の準備に力を注いだことがうまく進行できた理由として挙げられそうです。清水さんは忙しく各地のライブやイベントに飛び回っていますが、合間を縫って実行委員会や打ち合わせに参加するなど、「つどい」成功に向けての協力を惜しみませんでした。そして、清水さんを招聘できたのは、実行委員のつながりからでした。

清水まなぶさんとのトーク
清水まなぶさんと学生のトークセッション

聴覚障がい者のために「要約筆記」を導入

今回の「つどい」では、画面に要約筆記をつけました。耳の不自由な方に向けた配慮です。リアルの会場では手話通訳という方法がとられますが、映像による配信のため、話している内容を即座に文字にして伝えました。

画面より若干の遅れは出ますが、要約筆記者2人がパソコンのキーボードから入力しました。リアルタイムで届ける必要があり、要約筆記者には「早く、正確に、読みやすい」ことが求められます。手話習得の困難な中途失聴者や難聴者のコミュニケーションを支援する方法であり、情報保障手段として、こうしたやり方があることを伝える役割も果たしました。

繰り返し行なったリハーサル

今回力を入れたのは事前のリハーサルでした。台本を作成し、実行委員全員でその内容を共有しました。

11月29日と前日の4日にリハーサルを実施。それぞれが配置につき、本番の流れにそってやってみました。MCのトークからZoomの共有画面への切り替えなど、そのタイミングを確認しました。

Zoomを体験した人には理解できることですが、音声の音質の確認やハウリングを起こさない調整なども必要になります。長沼からの中継では、中継会場に本番と同じように機器を設置して、2度にわたり通信でつないで確認しました。カメラワークのテストも行ないました。

こうしたことはプロの業者に依頼すれば心配のないことですが、すべて自分たちでやってみることに意味がありました。ウィズコロナの下で活動していくためには、自分たちでスキルを磨かなければなりません。安易な道でなく、「チャレンジの選択」をして力を合わせたと言うことができます。

心配した回線のダウンも起きず、5時間半の長丁場のライブ配信を乗り切りました。うまくできたのは、きちんとリハーサルをしてトラブルを事前に回避する手立てをとったことが大きかったようです。そして、経験のない者同士でも、ライブ配信でイベントを開催することが可能であることを実証できた「つどい」であったと言えます。

実行委員会リハーサル
機器類を設置して実行委員会(繰り返し接続試験)

広報もSNSを使うなど新たなカタチで

インターネットを活用したライブ配信による「つどい」ということで、広報にも新たな取り組みが必要でした。従来通りのチラシ配布や関係組織の機関紙誌への掲載はもちろんですが、SNSによる告知発信にも力を入れました。

「ボランティアのつどい」専用のフェイスブックページを立ち上げ、開催日までの「カウントダウン」を毎日アップしました。登場する予定のグループの紹介もしました。いろいろな人が自分のFBで開催を知らせ、それを見た人たちがまたシェアするという広がりもありました。QRコードによってZoomやYouTubeに容易にアクセスができる工夫もしました。

今回の「つどい」は長野市周辺の人たちだけでなく、全国どこからでも参加が可能でした。各地の社会福祉協議会などへメールを送って視聴を呼びかけた実行委員もいました。まさに広報においてもインターネットやSNSを活用しました

その結果、YouTubeを見た人は565人でした。

最終実行委員会での振り返り

最終実行委員会を1週間後の12月10日(金)に開催し、実行委員それぞれが感想を出し合いました。持ち場の役割を果たし、力を合わせることで新たな試みの「つどい」を完遂できたことを、喜びをもって確認し合いました。

「新しい発見と学びでした。ボランティアセンターへ行ってみたくなりました」「幅広い年代の方々が仲間とともに生き生きと活動されていることがよくわかりました。誰かのため、何かのために役に立てることがあるって幸せなことだと思いました。優しい気持ちになりました。私も何かしたいなあと思いました」「コロナ禍でも私たちは『つながれる』んです。初めてのオンラインの企画をここまで素晴らしいものにしていただいたスタッフの皆様に感謝します」などの感想が視聴者から寄せられていることが事務局から報告されました。

実行委員は、この「つどい」実施のために初めて出会った者同士でした。実行委員自身が「つながり」によって「つどい」を開催し、その企画の内容も「つながり」によって生み出されたものでした。そして、「つどい」の成功は、実行委員それぞれが「好きなこと」「得意なこと」を生かして力を発揮した結果でした。「つどい」そのものが、ボランティアとは何かという、最初の段階で設定したテーマを具現化するものとなっていました。

 取材・原稿 太田秋夫(ナガクル ソーシャルライター・ボランティアの集い実行委員・Hope Apple 代表)

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