長野市立鍋屋田小学校が開校120周年を迎えたことを契機に、学校と第三地区住民自治協議会とが合同で防災訓練を計画。消防関係団体や市内で防災に関わる活動をしている団体も参画して地域挙げての「大防災訓練」を11月13日(水)、鍋屋田小学校で実施しました。同校は災害時の指定避難所であり、防災倉庫も整備されています。学校、地域、行政、消防が連携した訓練をすることで、地域の防災力向上を目指しました。
子どもたちが教室から整然と避難
8時40分頃、「緊急地震速報 大きな地震が来ています。身の安全を守ってください」と校舎内に放送が流れました。教室にいた小学生は机の下にもぐり、自分の身の安全を確保しました。揺れが収まると「余震の危険があるので校庭に避難します」との放送があります。加えて「火災が発生している」との情報も放送で伝わりました。
子どもたちは先生の指示に従い、整然と校庭に避難します。運動帽をかぶり、火災の想定からハンカチで口元を抑えて避難する子どもたちもいました。校庭に整列するとクラスごとに人数を数え、逃げ遅れた人がいないことを確認しました。全員が無事に避難完了です。
学校現場では、避難するときの注意として、「おはしもち」というスローガンが掲げられています。「お」は押さない、「は」は走らない、「し」はしゃべらない、「も」は忘れ物があっても戻らない、「ち」は近寄らないの意味で、教育指導のガイドラインになっています。阪神・淡路大震災以降、全国に広がったと言われています。このことを頭に入れながら、子どもたちは避難しました。
「おはしもち」は本番の合言葉ではなく訓練のための合言葉との指摘もあります。火災の状況によっては走って逃げなくてはならないし、津波が押し寄せたときは全力で高台をめざす必要があります。火災が起きたときや地震で障害物があって通れない場所があるときは大きな声で伝え合うことも大切です。訓練のとき集団で逃げる基本的なルールとして「おはしもて」を頭に入れながらも、実際のときは思考停止にならないよう適切に避難する教えが不可欠との現場からの意見もあります。
連携した防災力の向上と「顔の見える関係づくり」が目的
児童が校庭に避難したあと地域の人たちも加わった全体会が行なわれ、主催した第三地区住民自治協議会の柄澤洋一会長は「学校、地域、消防が連携して地域防災力を向上させたい」と訓練の趣旨を説明しました。続いて永井克昌校長が開校120年の事業として住民自治協議会と相談し合同で防災訓練を実施することになった経緯を説明し、災害直面したときの心構えや具体的な備えをするとともに「地域のみなさんとお互いに顔がわかる関係が大切」と今回の訓練が持つ意義を話しました。子どもたちに対しては、「命を守る大切な勉強」であることを強調。「災害が起きたときどんな状態になるかを知り、自分たちに何ができるか体験を通して学んで欲しい」と呼びかけました。学校と住民自治協議会の合同防災訓練は平成元年にも実施しており、今回が5年ぶり2回目でした。
さまざまなブースで見学や体験
190名の児童は3班に分かれ、模擬消火器による初期消火訓練、発煙機による煙の充満した室内を通過する煙体験、AR災害疑似体験器による浸水模擬体験、避難所での各種体験、人形やAEDに触れての救命処置体験、防災倉庫内の資機材見学などをしました。一般住民の参加者も、子どもたちといっしょに各ブースを回りました。
初期消火訓練では消火器の使い方の手順を学び、交代しながら目標に向け放水して消火する体験をしました。避難所体験では段ボールベッド、簡易間仕切り、プライベートルーム、簡易トイレなどを見学。ベッドに寝て見たり、プライベートルームに入ってみたりしました。AR(拡張現実)災害疑似体験のブースではヘッドセットを交代でつけて被災現場の仮想世界を体験し、その様子はスクリーンにも投影されました。救急救命のブースでは赤十字救急法指導員が、声をかけて意識があるかを確認することなど「人が倒れていたときに何をしてほしいか」を説明。胸骨圧迫やAEDの取り扱いを体験しました。能登半島の震災で出動した赤十字救護隊の写真パネルの展示もありました。消防団の活動紹介のブースでは、ホースを手にとってつなぎ方などの説明を受けていました。各ブースでは防災士や消防団員が子どもたちに詳しく説明しました。
屋外では消防車、救急車などの緊急車両が展示され、なかでも救助・救出活動に使用する機材を積んだ「特殊作業車」は関心を集めていました。
非常食と炊き出しの豚汁も体験
各ブースを回った子どもたちは、最後に備蓄されている非常食と炊き出しで作られた豚汁を食べる体験もしました。お替わりを求める児童もおり、「このあと給食があるからね」と声掛けされる場面も見られました。
各ブースは地域・消防・防災団体が連携して運営し、顔の見える関係に
関係機関の連携による防災力向上が訓練のねらいであり、長野市消防局、長野市危機管理防災課、長野市消防団、第三地区の民生児童委員および福祉推進委員、市街地中心地区(第一~第五)在住の防災士、赤十字救急法指導員、市内で防災活動に取り組んでいる団体のリーダー、鍋屋田小学校PTAなどが各ブースの運営を担いました。
長野市の指定避難所となっている鍋屋田小学校は、災害が発生したときの重要な拠点となり、さまざまな組織が連携して避難所の運営や復旧活動をすることになります。各ブースでは関係者が協力して運営にあたり、子どもたちとのふれあいが生まれました。開始の全体会で校長が「大人たちのやっていることもよく見てほしい」と伝えたこともあり、メモを取りながら学ぶ子どもたちの姿がありました。「大防災訓練」は目的としていた「連携」と「顔の見える関係」を生み出していく上で意義ある取り組みになったようです。
ポンプ操法で消防団の活動を知る
子どもたちに消防の理解を深めてもらうために盛り込んだ企画として、消防団によるポンプ操法が行なわれました。長野市消防団若槻分団が機敏な動作で消火する姿を披露しました。水槽に設置したポンプから火災現場に想定した所までホースをつないで行き、「始め!」の合図で放水を開始します。消火に成功すると会場から拍手が沸き起こりました。
閉会式の前に行なわれた消防団による演奏も、子どもたちは身体を揺らして楽しんでいました。児童が消防団への理解を深めるよい機会になったようです。
地域のつながりを強めながら防災に取り組む自治協
第三地区は中心市街地にあり、新築マンションが増えて住民同士の交流が少ない、子育て世代のお母さんが孤立してしまいがち、地区内の町同士の交流が少ないといった課題があります。
そんななかで自治協が取り組んでいるのが「子どもの力を活用した町おこし」です。子育てサロン「サンサンひろば」、ホタル観賞会、なべっこ商店(鍋屋田小学校の子どもたちの活動)、おまつりスタンプラリー&こどもフェスタ、ふれあい避難体験、市長とラジオ体操などの事業を展開してきました。各種イベントを通じて明るい地域づくりをめざしています。
子どもたちのイベントには必ず親や祖父母など家族の参加があって、町を超えた交流やつながりが生まれること、おまつりスタンプラリーでは地域の商店街の協力が得られることが背景にあります。
こうした「町おこし」には、災害時に助け合う機運を高めたいとの願いが込められています。住民のふれあい、顔の見える関係づくりを進めながら、防災への意識向上を図ります、その一環としてのイベントが、公民館を利用した避難所体験です。町単位で地域公民館を使った避難所体験にも取り組んできました。
今回の「大防災訓練」は地区全体として取り組みであり、関係機関と連携しながら子どもたちも巻き込んだ大掛かりな内容で、地域の防災力をステップアップすることができたようです。
鍋屋田小学校では、ホームページの「校長室から」のコーナーに「大防災訓練」実施の様子を掲載して成果を報告。児童の様子の写真も載せて地域へのフィードバックをしました。これも学校と地域の連携を大切にするものであり、次のステップにつながるものと言えます。
>こちらからご覧ください>>鍋屋田小学校では、ホームページの「校長室から」
取材・執筆 太田秋夫(ソーシャルライター 防災士)