2019年10月13日の東日本台風19号災害から5年。災害当時を振り返り、これまでの復興へのあゆみを確認しながら今後の防災の機運を高めるイベントが2024年10月6日(日)、長野市若里のビックハットで開かれました。イベント名は「さらなる復興に向けて 復興応援市民参加イベント 絆」。
被災地からの出展、防災関連の展示、物産・物販コーナー、応援の思いを込めたステージ発表、実話をもとにした映画「決断」の上映など多彩な内容で、来場者と出展参加者が情報を交換しながら今後の復興への道筋を確認し合う様子が見られました。
被災を振り返り、風化しないよう伝え続ける
信濃毎日新聞社は、長野市内各地の被災状況を大型写真パネルで展示しました。新幹線車両の冠水、住宅地の排水作業の様子、東北中学校の保護者やボランティアの泥出しなど、当時のたいへんだった様子を写真で伝承する内容でした。
長沼歴史研究会も入口を入ってすぐの廊下壁面に、当時の写真を320枚掲示しました(映像)。同研究会は、これまでもさまざまなイベントの機会に写真展示を繰り返し、『決壊』という災害を記録した本を発行するなど、被災当時の様子を後世に遺して防災に役立てることに力を入れています。
長野市危機管理防災課は、長野市全域の被害と地域の動きを写真パネルにまとめて紹介。千曲川本流の堤防の越水・破堤だけでなく、支流への逆流によって内水氾濫が発生し、浸水域は市内全体で約1,541haに上ったとしています。浸水深は豊野地区で最大4.3mに達しました。当時は、家屋からの泥出しと災害ごみの排出が復旧作業として行なわれ、全国から約7万人の災害ボランティアがかけつけてくれました。
各被災地が復興の取り組みを報告
被災地からの出展コーナーで、長沼、豊野、松代、若穂、篠ノ井の各地区住民自治協議会が復興の取り組みを紹介しました。写真等の展示だけでなく、若穂や豊野、長沼各地区は映像を流して説明しました。
長沼地区では被災と地元の魅力を理解できるように製作した長沼カルタの展示や新たなイベントとして昨年から始めた「てっかりんご飛ばし大会」の様子を見てもらい、復興に向けて勢いのある取り組みをしていることを伝えました(映像)。
松代地区は松代復興応援実行委員会と連携してオリジナルすごろくや防災ポーチを紹介し、防災意識を高める取り組みをアピールしました。
自治協以外の展示もありました。豊野温泉りんごの湯は被災当時と現在の写真を対比して掲示し、復興への変化をわかりやすく伝えました。
長沼地区の希望のつどい実行委員会は被災住民を励まし続けてきた「復興タイムズ」を展示しました。被災翌年の2020年7月から24年7月まで4年間に渡って45号まで毎月発刊を続けました。 (参考 台風19号被災住民を励まし続けた長沼地区「復興タイムズ」が役割を終え休刊 | ナガクル (nagacle.net)) 被災で生じた空き地の草刈り対策に臨んでいる長沼のワークライフ組合の発表もありました。
被災した200年前の古民家「米澤邸」の修復を目指す一般社団法人しなの長沼お屋敷保存会は活動の様子をパネルと映像で紹介し、引き続きの支援を呼びかけました。被災から5年になる今年(2024年)6月から9月にかけて「左官塾」を開催し、ようやく土壁の修復が始まりました(参考 被災した築200年の古民家・米沢邸。全国から集まった左官塾生35名で土壁を再生。|ナガクル)。
長野市消防団や長野市消防局も活動の紹介や緊急消防援助隊機材の展示などをしました。消防局はAR(仮想現実)を用いた火災の疑似体験をしてもらいました。
「てっかりんご飛ばし大会」の説明(長沼地区まちづくり委員会)
被災地域のゆるキャラたち大集合
地域で諸活動を盛り上げている各地のゆるキャラたちも「大集合」して来場者との写真撮影に応じていました。長沼地区の「ふくりん」、豊野地区の「ゆたかちゃんJr.」、古里地区の「サイまる」、篠ノ井地区の「茶太郎」、松代地区の「六モンキー家族」で、会場に明るい雰囲気を醸し出していました。
防災を呼びかける様々な展示発表も
災害時に子どもを支援するためのネットワークを構築し平時からの対策に力を入れている特定非営利活動法人ながのこどもの城いきいきプロジェクトは、防災クイズや防災アプリを使った学びのコーナーを設け、こどもたちがチャレンジしていました(映像)。災害時にどのような行動をとったらよいかを知ってもらう内容です。
長野県社会福祉協議会は福祉避難所の必要性をアピールしました。多機関の協働の必要性を訴えていました。長野県はマイタイムライン作成を指導しました。
トレーラーハウスの活用で災害時の支援に貢献している㈱カンパニーランド・ジャパンはトレーラーハウスを会場内に設置し、来場者は室内に入って見学しました。重量のあるトレーラーハウスを運搬するために牽引する特殊な車両も並べられ、目を引いていました。
電力インフラ災害対策、住宅関連防災、災害伝言ダイヤルの利用体験、ハイブリット車による災害時電源供給の実演など、企業からの出店も多数ありました。
長野市河川課は雨水流失抑制施設助成制度を紹介し、貯留タンクを展示しました。
能登半島支援の出展も
長野市災害ボランティア委員会は能登半島へ出向いた支援活動の様子を写真展示。輪島塗りの製品やさまざまな海産物などを並べて販売し、能登半島の復興を応援しました。長野で起きた被災後も各地で災害が発生しており、災害時の支援の輪の広がりの必要性を訴えるものでした。
日本防災士会長野県支部も能登半島へ災害復旧の応援に入っています。当時の写真を展示し、能登支援とともに、日ごろから防災意識を高めることの大切さを呼びかけました。 (参考 長野県内の防災士が松本市に集まり、能登半島地震の支援活動を学ぶ | ナガクル (nagacle.net))
消防団の活動を描いた「決断」の上映
被災地長沼の消防団の活動を描いた映画「決断~火の見櫓に登った男たち~」が4回にわたって会場の特別室で上映されました。各回とも満席となり視聴者に感動を与えました。 (参考 映画「決断」長沼地区で封切り。2019年台風19号・堤防決壊を半鐘で知らせた消防団の葛藤とは? | ナガクル (nagacle.net))
出演者、制作スタッフ、制作委員の舞台挨拶もあり、成美プロデューサーや平岡亜紀監督らが制作への思いや撮影にまつわる話をしました。
ステージ発表で復興応援
ステージでは徳間小学校の金管バンド、長野市消防団音楽隊吹奏楽部の演奏をはじめ、清水まなぶコンサート、長沼こまち太鼓、長沼出身の塚田尚也さんのピアノ演奏などがありました。
長沼地区の獅子保存会は赤沼北組、大町、赤沼上組がそれぞれ出演し、特色ある舞いを披露しました。長沼地区には各区ごとに保存会があり、獅子舞奉納は被災後しばらくは活動ができないでいましたが、ようやく秋祭りなどで舞うことができるようになり、復興へ向かった地域の様子を示すものでした。
さまざまな物販が会場を盛り上げる
屋内・屋外ではラーメン、ジンギスカン、パン、クレープなどのキッチンカーが並び、農産物、おやき、うどん、スイーツなどの物産の販売も人気でした。
救助・救援の大型車両の展示
屋外会場では災害救援にかかわる大型の重機や車両が展示されました。自衛隊、長野市消防局、国土交通省、長野県LP協会長野支部などの出展があり、子どもたちの乗車体験には列ができていました(映像)。
自衛隊は避難所にお風呂を設置し、大量のお湯を供給することで入浴できる支援活動をしますが、そのデモも行なわれていました。浴槽の代わりに「足湯」にして、来場者に支援の取り組みを体感してもらいました。
楽しいスタンプラリー企画
このイベントでは、事前に被災地をめぐる応援デジタルスタンプラリーが行なわれました。訪問した個所数に応じて抽選に参加し、被災地の特産品を詰めた「復興BOX」や温泉券がもれなくゲットできるという企画でした。
また会場では、各ブースを回ってのスタンプラリーの企画もありました。イベントへの来場を促し、当日は各コーナーを回って展示者と来場者が話す機会を得るようにする工夫でした。
被災地域が連帯して復興機運の盛り上げ
このイベントは長野市長を会長とする復興応援事業実行委員会が主催し、被災した6地域の住民自治協議会、福祉団体(社会福祉協議会、赤十字奉仕団)、経済団体(長野商工会議所、長野市商工会、長野商店連合会)、観光・まちづくり団体(長野観光コンベンションビューロ)、農業団体(JAながの、JAグリーン長野、長野市農業公社)、行政(国、長野県、長野市)によって構成されました。
5年という節目にあたり、復興の軌跡を知り、災害の記憶を紡ぎ、被災地を盛り上げ、感謝の気持ちを伝え、これからの防災を考えようと企画されたイベントでした。
被災からの教訓を生かすことが防災・減災につながります。いつ、どこで、どんな災害に見舞われるかわからない日々だけに、一人ひとりのテーマとして考える必要があります。そんなきっかけを、今回のイベントが提供したということができそうです。
取材・執筆 ソーシャルライター 太田秋夫(防災士)