令和元年(2019年)台風19号で被災した長野市長沼地区で、住民同士が励まし合いながら復興に立ち向かおうと、有志住民が自主的に発刊し続けてきた「復興タイムズ」が2024年7月の第45号(最終号)をもって休刊になりました。
A4判12ページで特集を組み、トップページの見出しは「災害を乗り越え未来にむかって」とし、地元東北中学校生徒のみなさんによる「ハッピーフラワープロジェクト」の写真を採用しました。
住民のコミュニテイー不足を補うために
「復興タイムズ」の創刊は被災翌年(2020年)の7月。このころ、被災住民は仮設住宅で避難生活をしている人が多く、加えて春先からの新型コロナ感染拡大で集まる機会が奪われていました。
コミュニテイーがなくなるという危機感。そんななか、被災した年の12月に元気を出そうとクリスマスコンサートを開催した穂保区の住民らが話し合い、自分たちの手で情報紙「復興タイムズ」を出すことにしました。
編集や印刷をどのようにしたらよいかわからないままに、気持ちだけでスタート。それでも、既存の地域組織や行政が発する情報とは一味違う内容で編集し、住民の関心に沿った素材を見つけるとともに、住民の声を載せることにも気を遣いました。
毎月1回の発行で、で配布は穂保区の全世帯。途中から津野区にも広げました。部数は200部ほどでした。
企画で知恵を絞り、アンケート調査の実施も
夏祭りや「てっかりんご飛ばし大会」など地域のイベントの様子はもとより、正月のどんど焼きや秋の祭りが徐々に復活してきていること、堤防の現況、空き地の草刈り対策、あんきあんきの会の交流、ラジオ体操の動きなどきめ細かな話題を拾いました。初期の頃は「お宅訪問 居たかない?」のコラムで住民の動向を伝えました。
そうした動きだけでなく、2021年8月の豪雨による千曲川水位上昇の際は「19号台風の不安再び―教訓は生かされたか」という特集を組み、住民のアンケート結果を載せました(2021年10/11月 16・17号)。
また2023年2月の32号では「被災から3年を迎えて 意識アンケート調査」を企画し、復興は進んだのか住民の声を紙面に反映させました。「生活がもとにもどった」という人は51%にとどまり、「いいえ」と答えた人が23%いました。生活がもとにもどったのは2年後という人が49%、3年後が24%でした。こうした調査は、住民に寄り添い共に復興に立ち向かう気持ちから生まれたものでした。
親しみやすい紙面づくりでも知恵絞る
「懐かしいことば」という親しみやすいコーナーを設けたこともあります。
「おこびれ」「なっちょ」「もうらしい」「ちびたい」などの方言の意味と使い方の事例を解説しました(2022年3月 21号以降数回)。若い人たちには耳慣れない言葉ですが、高齢者にとっては懐かしく、好評を得た企画でした。
東北中学校からのオファーがあり、生徒の寄稿を載せたこともありました(2023年12月 42号)。これは復興に向けた学校との連携でした。
「休刊」にあたり、44号と45号で5年間の集大成
被災からまもなく5年。住民の意識も前に向かって落ち着いてきているとの判断から、「復興タイムズ」がめざしてきた目的は達成したと考えて「休刊」を決断しました。
最終号の前44号(2024年5月)では「写真で振り返る復興の歩み」として16ページに渡る写真の特集を組みました。被災以降の年ごとの動きを伝えています。
最終号には、今後の復興に向けた住民の意気込み、「復興タイムズ」を読んでの感想・感謝の気持ちを寄稿してもらい掲載しました。
「長沼で暮らす人々は、新たなステージに進む時がきたように思います。復興タイムズによって蒔かれた種が実を結びつつあると思います」(松原秀司さん)
「災害から、地域の仲間と共に歩んできた日々を胸に抱いて、また全国から助けにかけつけてきたボランティアの方々への感謝を忘れずに、私はこれからもこの長沼で生きていきます」(渡辺美佐さん)
「復興タイムズは地域のための情報源であり、カラーページを開くたびに勇気を与えてくれ、私にとって不可欠なタイムズです。みなさんの功労に対し大賞をあげたい気持ちです」(松澤糸江さん)
「災害は予測不可能。生活を一瞬にして変える力を持っていますが、コミュニテイーの結束力と協力は回復への道のりにおいて不可欠であり、一人ひとりが持つ希望と決意は、困難を乗り超える原動力となります」(金沢勉さん)
「復旧もままならない中、新型コロナウイルス感染の広がりの中、復興タイムズを発刊して地域の皆様のつながりを大切にし、コミュニケーションを構築することに貢献されたと思います。復興タイムズが終わることは残念ですが、穂保区に大きな貢献を残したことを感謝申し上げます」(小山田昌幸さん)
このように、住民のみなさんの今後に向けた決意がみなぎる最終号の紙面となっていいます。
編集長を務めてきた住田昌生さんは、「住民にどう情報を伝えたらよいか悩んだが、予想もしなかった人から感想を聞かされ、発刊していることの重大さに気がついた」と活動を振り返っています。
発刊の母体となった穂保希望のつどい実行委員会の活動は、引き続き継続するとのことです。
被災・復興の歩みを記録した貴重な資料に
5年間の歳月における復興の歩みを被災住民の視点からリアルに知ることができる貴重な記録となった「復興タイムズ」。これまでは住民にとって復興に向かう力になってきましたが、これからは被災と復興の歩みを後世に伝えるという新たな役割を果たしていくことになりそうです。
「復興タイムズ」の紙面は、長沼地区住民自治協議会のホームページから見ることができます(くらしの情報⇒穂保区配布物を見る⇒復興タイムズ)。
また、2024年10月6日(日)に長野市若里のビックハットで開催される「復興応援事業「絆」~さらなる復興に向けて~」のイベントの会場でも全紙面が展示される予定です。
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執筆 ソーシャルライター 太田秋夫(防災士)