カンボジアってどんな国?
知ることから始めよう
11月4日、長野市新田町のもんぜんぷら座3階「ながの若者スクエア『ふらっと♭』」で、カンボジア農村部の子どもたちをサポートする活動報告や、クラウドファンディングをPRするイベントが開催され、市民やメディア関係者含めて10数名が参加した。
スピーカーの大西彩桜さんは高校生3年生。昨夏にNPO「HERO」が主催するカンボジアへのボランティアツアーでカンボジア農村部の子どもたちの現状を知りった。
大西さんが代表となり「Aspration」を結成。カンボジア農村部の小学校図書館の絵本不足と健康意識を改善するプロジェクトを進めている。
活動報告会では、カンボジアに関する「ボジクイズ」からスタート。「ボジ」とはカンボジア国の愛称だそうだ。クイズ形式で参加者に問いかけながら、カンボジアの地理や、宗教、言語や産業といった基礎的な知識と、大西さんが感じたカンボジアの魅力、そしてこの国の歴史的背景と現在抱えている課題も交えて、素直な想いを言葉にして説明した。
図書館なのに本が足りない!小学校を卒業できない子どもたち
カンボジアは 他のアジア諸国に比べて経済的な発展途上にある。昨今の中国資本により首都プノンペンのような都市部では高層ビルが建ち並ぶ一方で、農村部では高床式住居に暮らし、深刻な貧困が続いていると大西さんは話す。
カンボジア全土に埋められている地雷も、国際的な支援活動によりその撤去作業は進んではいるが、地雷のためにカラダの一部を失った人たちは多数いる。背景には1975年からおよそ20年間にわたるポルポト政権による内政混乱がある。中でも医師や官僚、教員などの知識人が標的とされたため、現在も教育インフラが十分に整っていないという。
ほぼ7割の子どもたちは小学校5年・6年生になると働き手として、親たちに退学させられ卒業ができない。貧困と劣悪な環境、不十分な教育による悪循環が続いている現状を、厳しい表情で説明する大西さん。
だからこそ、農村部の小学校図書館は貴重な教育資源だ。だが、どの小学校でも蔵書はわずか100冊前後しか見当たらないという。そのため子どもたちはすべての本を読んでしまって、すでにボロボロで、読み飽きてしまっているという現状を目の当たりにした。
大西さんが現地で気づいたことの一つに、「絵本が単に不足しているだけではなく、カンボジアにはいわゆる啓発を意図した教育絵本がまったくなかった」ということがあった。子どもにとって、絵本は物語を楽しむだけではなく、新しい知識をわかりやすく身に付ける最適なツールなのだが、カンボジアには存在していなかったのだ。
未来を担うカンボジアの子どもたちへ
手洗いの大切さが伝わる自作絵本を届けたい!
コロナ禍でカンボジアでも水道の普及が進んだものの、基本的な衛生管理、健康意識の低さから、手洗い習慣などがなかなか広まらないという課題もあった。そこで大西さんたちは、カンボジアの子どもたちにも、手洗いの大切さをわかりやすく伝えるために、イラストをふんだんに用いた絵本を考案。カンボジア在住のスタッフと協力しながらクメール語に翻訳するなど、自作で制作中だ。農村地域にある小学校への寄贈するそうだ。
また自作絵本の製本をし、来年2月には直接子どもたちに絵本を届けるために、大西さんはふたたびカンボジアを訪れる予定。その際、現地の小学校4校で、石鹸で手を洗う重要性を感じ実践してもらうためのワークショップを行う。
現在、その活動資金を集めようとクラウドファンディングに挑戦中している。2023年11月26日までの期間だ。「目標金額到達にはまだまだ足りない状況なので、多くの方からの支援を」と訴えた。
自分らしい一歩から、可能性が拡がる!未来とつながる!
大人の心にも火が灯る
大西さんは通信制高校に通うメリットを活かし、主に平日の昼間は、企業を訪問をして、活動主旨を説明し寄付を募ったり、NPO/NGO団体との連携していくなど、今、いちばんやりたいことに時間を注ぐことができている、と話す。
「この活動を通して、サポートしたい気持ちだけでは実現できないことにも直面しました。しかし、いろいろな年長者の方とも出会い、自分に足りない部分が見えたので、経済学、社会学、政治学を多角的に学ぶために大学へ進学します。将来的にはカンボジアだけではなく、ラオスや他の途上国、経済的弱者をサポートする活動をしていきたいと考えています」
はにかみながらもはっきりと自分の想いや考えを表明する大西さんの明るい表情に、参加者も心動かされた様子だった。
イベントに参加した10代の男性は「カンボジアについて、ほとんど知らなかったので、はじめて知ったことも多かったです。また大西さんがどんな活動をしているのかもよくわかり視野が広くなりました。」40代の女性は「こうした他国の問題を自分事としてとらえて、実践されている高校生がいることにたいへん驚きました。自分もできることは何かあるだろうか?という気持ちになりました」と話していた。
筆者も2019年にカンボジアへ旅をしたことがある。やはり農村部には水道がなく「乾季には井戸も使えなくなり、泥水のような川の水を買うしかないのです」という日本語ガイドの言葉が衝撃的で、ずっと忘れることができなかった。
今回の取材を通して、大西さんの話から、現在は農村部でも水道普及が進んでいるという今のカンボジアを知ることができた。また、今回のクラウドファンディングに参加したことで、数年前から胸中に置き去りにしていた「何か自分にもできることはないだろうか?」という想いとつながり、思いがけずカンボジアへの支援協力できたことは、たいへん感慨深い機会だった。
そして、カンボジアの子どもたちを支援する大西さんの活動報告から、若者たちのもつ情熱や可能性が、行動という形で大きく花開いていく……そのまっすぐな姿勢に大きなパワーを感じた。
長野市もんぜんぷら座3Fに誕生した「若者スクエア『ふらっと♭』は、大人や子どもたちにとっても新鮮な感覚や感動に触れられる、まさに”パワースポット”になっていくのかもしれない。
取材・執筆: ソーシャルライター:大日方雅美