「生分解性プラスチック」活用に成功! 珈琲豆栽培、鹿対策も?!-巴工業株式会社-

長野県上田市にある巴工業株式会社は創業1947年。生分解性プラスチックを使った草刈りコードや、国産コーヒー豆の栽培に力を入れています。
創業時から食用油製造や不動産事業など、時代に合わせ事業を転換・拡大させてきました。
1971年からはテープやロープの製造販売を開始。
ひもと言えばわら縄が主流だった時代に、まだ珍しかったプラスチック(ポリプロピレン)を使いました。時代は高度経済成長期の真っ只中であり需要は拡大。工場は3交代制で24時間フル稼働していました。

しかし好景気が去り、テープやロープなどの需要は年々減少。加えて40年以上世に送り出してきたプラスチック製品が、海洋プラスチックごみやマイクロプラスチック問題などの新たな社会問題が追い打ちをかけます。最盛期には国内に60社以上もあった業者は、今や10社程度にまで減少しているとのこと。

環境への配慮の声から生まれた”トモエバイオライン”

そのような状況に、3代目社長の別府牧雄さんは危機感を覚えます。
そこで目を付けたのが、微生物のはたらきで最終的に水と二酸化炭素に分解される「生分解性プラスチック」でした。現在ある工場の設備で、環境負荷を極力抑えた製品をつくるためです。
現在巴工業では、生分解性プラスチックを使った草刈りコードを製造・販売していますが、開発のきっかけはお客様からのこんな声からでした。

「『畑で草刈り用ナイロンコードを使っているが、ちぎれたものがそのままマイクロプラスチックになっているのではないかと心配になる…』地元の農家さんからの切実な声を聞いて、なんとならないものかと」
こういった声を受け、2020年秋、トモエバイオラインの開発に着手しました。 

”環境に良い”だけではダメ

しかし、生分解する材料で草刈りコードをつくるのは簡単ではありませんでした。
まずは材料選びです。

生分解性の材料といってもいくつも種類があるため、より製品にあった材料を選ぶ必要があります。しかし、通常のプラスチック材料に比べて高価であるため、試作のために多くを仕入れることはできないこともあり、常にコストとの戦いでした。

次に加工の問題もあります。やっと選んだ材料も、製品の使用に耐えうるように加工しなければなりません。
草刈りコードは耐久性としなやかさを同時にあわせもつ必要があります。製品として柔らかすぎると形状が保てず、固すぎると折れやすくなってしまいます。

生分解性を謳っていても、使う人が製品として「これは使えない」と判断してしまえば本末転倒です。試作品ができたら実際に刈ってみてテストをする。納得いく製品になるまで試行錯誤の繰り返しでした。

開発を始めて約2年後の2022年秋。苦難の末、生分解性草刈り用コード「トモエバイオライン」が発売されました。

縁石やビニルハウス付近などの草刈りを得意しているバイオラインですが、使用したお客さまから「もっと太い草も刈れるようにしてもらいたい」という要望が複数寄せられました。

そこで2023年冬、より太い草も刈れる新製品を開発、発売しました。

生分解性草刈りコード”トモエバイオライン”を手にする別府社長(右)と開発担当のHさん(左)

”トモエブランド”の新たな挑戦~信州産コーヒー豆の栽培~

時代に合わせて事業に転換させてきた巴工業。その挑戦はまだまだ続いています。

それは、信州産コーヒー豆の栽培です。

きっかけにはいわゆる”コーヒーの2050年問題”があります。
地球温暖化の影響で、従来の産地でコーヒーの収穫が著しく減少するといわれている問題です。

毎日職場で飲んでいるコーヒーが飲めなくなるかもしれない…。
そんな危機感からコーヒーの栽培に着目しました。
一般的に良質なコーヒーの栽培には、寒暖差のある地域が適していると言われています。長野県東信地区の気候が、その条件にあっていると考えたのも理由の1つです。

国内で苗の販売をしている企業から苗を購入。基本的な栽培方法の指導も受けました。
新規事業参入への不安はあったものの、2020年の秋から栽培を始めました。

夏場のコーヒーハウスの中は50度近くにもなる。
丹精込めて育てているコーヒーの樹を前にする従業員の保母さん(右)と金井さん(左)

1年目は、小規模のハウスで栽培。ある程度の感触をつかみました。
2年目からは規模を拡大させます。約5倍のより広い土地にハウスを建て、苗を追加。
その数は400本近く。
苗は順調に生育し、早ければ今年の冬から少しずつ収穫ができる予定です。

「信州産コーヒーというのはまだ新しいですし珍しい。だけどそれだけではダメで、「信州のコーヒーは美味しいね!」と皆さんに飲んでいただくために、より安全なもの、品質のよいもの、美味しいものをつくっていきたい。」
これから収量も増やしていきたいと別府社長は意気込みを見せます。

別府社長に今後の展望について尋ねました。

「地域に根差した企業として、上田市だけでなく長野県全体の活性化に少しでも貢献できればよいなと思ってます」

現在取り組んでいるのは獣害、特に鹿の食害対策です。ニホンジカの農林被害は長野県で2億3000万円に及んでいます(2021年度現在)。
既に、養殖ワカメや海苔を食べてしまうクロダイや、レンコンなどの農作物を食べてしまうカモ用の食害対策用忌避バンドを製造販売しており、この仕組みを鹿対策に応用できないかと開発を進めています。

常に挑戦し続ける巴工業株式会社に、これからも目が離せません。

文責:ソーシャルライター さらみ

巴工業株式会社Instagram(製造秘話や環境に関する情報発信)    https://www.instagram.com/tomoetplastics

巴工業株式会社Webサイト 
https://www.tomoetplastics.com/