長野市内の住民自治協議会(以下、住自協)が集って10月24日、「地区自慢大会」を開催しました。称して「おらほの自慢 聞いとくらいっ!」(方言の意:私たちの地域の自慢を聞いてください!)。住自協は数百世帯の小さな地区から1万世帯を超す大きなところまで開きがあり、また市街地と中山間地域とでは抱えている実情も違います。果たして、どんな「自慢話」が飛び出したのでしょうか。
地域の特性とニーズをとらえた活動
会場は長野市役所講堂。主催したのは市民協働サポートセンターまんまるです。一般市民も含め参加者数は80人余で、最初から熱い雰囲気。住自協の名前が入ったカラフルなジャンバーやTシャツを着て臨んだ人たちもおり、「まちづくり」への意欲を感じさせます。
トップバッターは鬼無里地区。「あるものを活かす ないものは数えない」とグッとくるキャッチコピーの紹介から説明を始め、活動への姿勢がキラリと光りました。市内で1位、2位を争うという高齢化が進んだ鬼無里地区。新型コロナウイルス感染予防のために外へ出にくくなった高齢者のもとに「鬼無里サンタ隊」が出動した活動を紹介しました。お茶飲みサロンが開催できず、都会に住む子どもたちにも会えず、心細い思いをしている高齢者がたくさんいるのではないかと考えたことからの取り組みです。
「サンタさんの訪問ならばビックリするかもしれないけれど許してもらえるのではないか」とのアイデアで、プレゼントを持って地区内を歩くことにしました。既存の組織「手をつなごう会」のお父さんたちに協力してもらい、一人暮らしに絞らず85歳以上のお宅全部を回ることにしました。住自協には住民台帳などの情報がないことから、対象となる方がどこにいるかわかりません。そこで民生児童委員の助けを借り、いっしょに回ってもらい、メッセージとお菓子を届けました。
次の大岡地区は、NPO法人森の学び舎が「大岡をまるごと、遊びつくす!」活動を発表しました。大岡は人口807人、世帯数477世帯の地域です。森の学び舎は「四季折々の自然と文化を生かした自然体験を提供する」ことを目的に、2020年にNPOとして認可されました。幼稚園やこども園の遠足・稲刈りなどのイベントを誘致する事業、移住を希望する親子と地域をつなぐ親子留学事業、大岡の自然・農村文化にふれる体験活動事業に取り組んでいます。「開催の回数を増やしてほしい」「漬物やおやきの講習会をやって」などの反響があることを説明するとともに、支える担い手や活動資金が不足しているとの悩みも語られました。
中条地区は人口1,480人、世帯数750世帯のこじんまりとした地域です。子どもの数が激減して中学校の閉校が決まるなど過疎化が進んでいると言います。そんななか、60歳未満(若者だそうです)の人たちを中心に「中条を盛り上げる活動を、まずは酒でも飲みながら語り合おう」と「男! 飲み会」を立ち上げたとの報告でした。メンバーは30人で、グループラインを設けています。この会がきっかけで、「エンジンが好きだ」とか「ソロキャンプをやろう」といった新しいグループができつつあるとのことです。
空き家も空き地も「中条の資源」と発表者は胸を張ります。東京から2時間半・長野駅から30分、商業地域へは20分足らずの身近な山間地域です。そこに住んでいる人たちが気づかなくても、いろいろな魅力があります。「SNSを使って情報を発信することで移住者が増え、おやじたちの姿を見て子どもたちが帰って来たいと考えるような地域にしたい」と抱負を語りました。発表の最後に、「人口3,000人!」と人口を増やす目標を数字で示しました。
戸隠地区の自慢は、「とがくしくらしのカレンダー」です。住自協の健康福祉委員会の事業として毎月発行しています。A3判両面の印刷で地域の動きや情報を掲載しています(表面は公的機関関係、裏面は学校関係)。困っているのは、カレンダーを家で壁などに張り出そうとすると両面印刷のため支障があること、以前載せていた観光情報や催事の掲載復活を求める声が多いものの、スペースに限りがあるため、どこまで載せるか線引きが難しいことを悩みとして打ち明けました。今後については、地域の声を聴きながらよいものにしていきたいと決意を語りました。
発表者の情熱と個性が会場を包む
この「地区自慢大会」は、小規模多機能自治という考え方を広める手法として、お互いに活動の自慢を出し合うことが役立つとの趣旨で行なわれました。「自慢」というキーフレーズで気持ちが上がるし、各地区の特性が理解でき、課題も見えてきます。お互いに励まし合い、ヒントをたくさんもらうことができます。発表では、規模は小さくても暮らしのなかに溶け込んだキラリと光る事業から、壮大な事業に至るまで様々な発表があり、いずれも地域のことを考え地域を愛しているからこそできる活動のオンパレードでした。
4地区の発表が済んだところで、意見交換タイムとなりました。
フロアからは大岡地区の学び舎の発表者に、どのような経緯で活動を展開するようになったのかという「直撃質問」が飛び出しました。活動の内容もさることながら、先頭に立つ人がどんな人なのかに参加者は興味を抱いたようでした。他の発表者も個性豊かで、その語り口が情熱的であったことから、「みなさん元気が良くて、自分のやっていることに自信を持っている。その自信が周りに伝わっていき、人口が減っていくなかでも活力が生まれている。キーになる人が元気よく周りに発信していくことが大事だと痛切に感じた」との感想の発言がありました。
中条地区の発表については、「女性の飲み会はあるのか」との質問が出ました。「奥様方は結構ネットワークを持っていた。男のほうはなかったので飲み会をつくった」との返答とともに、「最近は女性の飲み会もつくってほしいとの声も出ている」とのことでした。
鬼無里地区のサンタ隊についても質問が出ています。「個別のお宅を訪問するのはハードルが高いと感じるが、トラブルはなかったのか」と、実行したときに予想される事態を想像しての質問でした。発表者から「民生委員さんがいっしょに回っているのでトラブルはなく、一軒だけ出て来ないおばあちゃんがいた。ポストに入れておき、あとでケアマネさんを通じて息子さんから伝えてもらった」と対応の説明がありました。
地域を活性化する工夫した活動が次々に
続いて芋井地区の発表です。長野駅から車で15~30分と比較的市街地近くに位置しているものの、遊休農地・耕作放棄地、そして高齢化が課題です。これに「あがらう活動」(発表者の表現)として平生産管理組合、百舌原そば生産組合、天空の里「いもい農場」の活動紹介がありました。またジャガイモを原料にして自分たちが飲む焼酎を作っていることや、リビングらぼの草刈りバスターズの活動、移動居酒屋「ポテトむらパブ」、芋井移住者フェアなど多彩な動きの紹介がありました。いろいろな活動の展開で活気のある地域をめざしていました。
小田切地区は世帯数401世帯で、一番小さな地区です。住民の困りごとを中心に自由な意見交換の場になっている「和輪話の会」をはじめ、余剰野菜の活用、「男の居場所」などの活動を報告しました。
浅川地区はループ橋と浅川ダムが有名です。ダムを中心とした交流活動を紹介しました。農林産物の直売、ダム祭り、ダム天端へのこいのぼり、ダム周辺の環境整備、ワイン用ぶどうの収穫などを説明しました。地域にある「資産」を活用しての活動展開です。
豊野地区は「豊野まちづくり委員会」の活動を報告しました。メンバーは20~70代の14名で、全員が自ら手を挙げての参加です。この日は黄色いTシャツを身につけて参加していました。月1~2回開催する委員会「とよの未来創造」、必要に応じて行なう参加自由な座談会「まちづくり雑談会」で町の近況について話し合っています。令和6年8月オープン予定の豊野防災交流センター(仮称)の利活用の検討、豊野地区まちづくり活動の検討・企画運営が目的です。最近(10月)の活動としては、まちあるきワークショップ「とよのみらい探検隊~豊野の過去と未来を探しに行こう~」について報告しました。
フロアからの意見交換タイムになると、豊野まちづくり委員会の活動を発表した委員長が若かったことから、会長就任にいたるプロセスのストーリーを知りたいとの発言がありました。これまた発表者自身に興味を抱いての質問でした。
この日、会場で配布された資料の中に、「ながののNPOと市民をつなぐ機関誌『まんまる』」がありました。この機関誌に「Myストーリー」のコーナがあり、発表した豊野まちづくり委員会委員長の平澤薫里さんが偶然にも紹介されていました。平澤さんはそのことを説明した上で、4年前の台風で被災したとき、その状況を目の当たりにして「もう、この状況を楽しむしかない」と思ったと言います。この状況でできることは何でもやろうと考えました。それが地域活動を始めるきっかけでした。災害に遭ったのが独立起業して2年目でした。比較的に自由が効く状態だったことや仕事の関係でIT関係に強かったことから復興活動に関わり、気が付いたら委員長になっていたと就任の経緯を説明しました。
地域の特徴や課題をとらえて工夫した活動や、先頭に立つ人たちとの意気込みが参加者に大きな刺激を与えたようです。主催者は「おおいにほめ合いましよう」と呼びかけ、発表はその後も続きました。
他の地域にはない地区独特の活動が光る
後半のトップは長沼地区でした。「愛の一籠運動」を紹介しました。農家からりんごを提供してもらい、それを農協に出荷して現金化し、その収益金を乳幼児育成助成金、介護慰労金、百歳の祝い金などにあて、地域の福祉活動に活かすという事業です。りんご生産地ならでは特徴的な取り組みです。昭和60(1985)年からが続いていました。しかし、当時は専業農家400軒がりんごを栽培していたものの、現在は三分の一の150軒にまで減少しており、販売価格も下落しています。りんご栽培をしなくなった家庭からは寄付という形で品物を提供してもらってきたものの、高齢化が進み、また4年前の台風災害も加わって、この事業の継続が困難になっているとの報告でした。打開策として、赤い羽根共同募金と関連付けて、できる限りの寄付をしてもらい、提示されている目標額を上回った分を「愛の一籠運動」と同じ目的で利用するようにしていると苦悩を語りました。また活動・事業を継続していくためには、住自協の取り組みとして利益を生み出す方法を考えていく必要があるのではないかとの提起がありました。
若槻地区からは、ホタルの里作りの紹介です。ホタルを呼ぶ夕べの開催やホタルウイークの設定、子どもたちのホタルさんへのお手紙など工夫した活動を進めながら発展させ、ホタルの鑑賞時期になると多くの人が訪れ、リピーターも多いとのこと。他の地区でホタルの活動をしている所があれば、ぜひ交流をしたいとの希望が伝えられました。
松代地区からは、オオムラサキの里についての報告でした。オオムラサキは日本の国蝶で、体も羽も大きいのが特徴です。里山の動植物をワクワクしながら観察できる場所になっているそうです。観察用ハウス、遊歩道、ビオトープなどが整備されています。エドヒガンザクラの木もあり、4月には花見ができます。6~7月は一般向けや小学生・保育園の観察会を行なっています。オオムラサキの羽化の様子や水たまり「ヌタ場」に集まる動物たちを紹介した冊子が会場で配布され、参加者への素敵なお土産になっていました。
更北地区の自慢は、防災啓発イベントについてでした。ことしは11月3日(祝・金)の開催で、「誰も取り残さない防災を考える日」と命名しています。詳しい内容を載せたA3判のポスターが全員に配られました。昨年(2022年)から実施しています。健康福祉部会・防災部会が主催しており、イベントは避難訓練ではなく、学びの場となっています。医療的ケア児をサポートするためにEV(電源車)により医療機械に給電する方法の紹介や、災害弱者が過ごせる避難所を考えるなど、かなり突っ込んだ内容となっています。長野県社会福祉協議会などいろいろな団体の協力を得ながら企画を進めており、地域の将来を担う中学生にも関わってもらう工夫をしています。
4年前の台風災害を教訓に防災の取り組みをしている住自協はたくさんありますが、参考になる内容であり「行ってみたい」との声も出ていました。フロアからはEV車について質問があり、「イベントを通じて関心がどの程度あるかもつかんでいきたい」との説明でした。長沼地区の「愛の一籠運動」と赤い羽根共同募金の関連についても質問が出されています。このなかで、発表者からは「住民からの寄付を活用して福祉事業にあてているものの、農家が減る状況や人口減少から財源が厳しく、独自に収益を得られる取り組みが必要になっている」との説明があり、長野市の交付金によって運営されている住自協としての財源上の悩みが浮き彫りにされました。
4団体ずつ発表し、そのつど意見交換の時間が取られました。この日の「自慢大会」は発表に耳を傾けるだけでなく、自由に質問や意見交換ができるように運営され、他の住自協の活動から学び取るよい機会になっていました。
活動の積み重ねが地域のカラーを特色づける
残りの発表は4団体。川中島地区は、「川中島白桃」のブランド化事業を紹介しました。品種改良によって昭和38年頃に誕生した桃で、全国に広がりました。原木はすでに伐根されています。ブランド化の事業として、地域きらめき隊により規格外の桃を活用したお菓子やクラフトビールなど13品目を商品化したこと、東京の「銀座NAGANO」に朝採り桃を出荷していること、更級農業高校と連携してシロップ漬けやジャムの加工をしていることなどの説明がありました。また桃の花ウォーキング、桃の花まつり、川中島桃ツアーなどのイベントを実施しているとのことです。
第三地区は、新築マンションが増えて住民同士の交流が少ない、子育て世代のお母さんが孤立してしまいがち、地区内の町同士の交流が少ないといった課題があるとのことです。そこで取り組んだのが、「子どもの力を活用した町おこし」の活動です。子育てサロン「サンサンひろば」、ホタル観賞会、なべっこ商店(鍋屋田小学校の子どもたちの活動)、おまつりスタンプラリー&こどもフェスタ、ふれあい避難体験、市長とラジオ体操などの事業を展開しており、各種イベントを通じて明るい地域づくりをしていることを感じさせました。
子どもたちのイベントには必ず親や祖父母など家族の参加があって、町を超えた交流やつながりが生まれること、おまつりスタンプラリーでは地域の商店街の協力が得られること、公民館を利用した避難所体験は隣近所で助け合う雰囲気が生まれ防災力がアップするといった成果が出ているようです。
大豆島地区は「ラジオ体操やってます」というのぼり旗を掲げて登場しました。10年以上前から行なっているラジオ体操です。自分自身の健康増進、ご近所の見守り、子どもを含めた世代間交流が目的になっているとのことです。地区内6か所で朝6時半からNHKのラジオ放送に合わせて毎朝実施しています。高齢化が進む岐阜県の団地でラジオ体操を始めたところ参加者が増えていき、地域の活動の重要な役割を担っているというNHKの報道がきっかけになったそうです。会場では野菜の販売をするなど、集まりやすい工夫をしています。
発表の最後は七二会地区。豊かな自然の中の「ヒメボタル」が自慢です。陣馬平山の地蔵峠(標高約1,100m)に生息しています。水辺ではなく、幼虫から成虫まで一生を陸で送る変わったホタルです。30年前に地元の人がヒメボタルの研究者から道を尋ねられたのがきっかけで陣馬平でのヒメボタル生息が発見されました。存在が知られるなかで写真を撮りに来るカメラマンが増えています。暗いなかで撮影するカメラマンと、灯りをつけてしまう鑑賞者との間でのトラブルが起きないことを願っているとのことです。駐車場までの草刈りをする程度で特に何かをしているわけでなく、「何もしないことが結果としてヒメボタルの保護につながる」と考えているそうです。
最後の意見交換タイムでは、一般参加者から「どこでも高齢化の問題やイベントの集客の難しさなどの課題を抱えるなかで取り組んでいるが、何がいちばんの自慢かと言えば、やる気、元気であり、それが活動を進める特効薬になっていると発表を聞いて思った」と感想が語られました。この日の発表は、「困難があってもやりたいことを明確にし、楽しく取り組むことが大きな力になる」ことを浮き彫りにする場になったようです。各住自協あてに感想やメッセージを記入して届けられるように、主催者から用紙が用意されていました。「ほめっこしよう」と呼びかけられていましたが、この日の大会をベースに、引き続き住自協間のつながりと支え合いが生まれるような仕掛けが施されていました。
本レポートは、各住自協の自慢話の数々を埋もれさせてしまうのはもったいないと考え、多くの人に知ってもらいたい思いから、すべての発表の要旨を記述しました。住自協の活動のみならず、さまざまな市民活動においてもヒントをつかみ取ることができる「原石」となっています。発表された活動の詳細はネットで紹介されているものもあります。また、直接住自協に問い合わせて詳しく聞いてみるのもいいかも知れません。ソーシャルライターとして、このレポートが地域活動活性化のためのお役に立つことを願っています。
ソーシャルライター 太田秋夫