大切な居場所がなくなってしまうかもしれない。
長野市のトイーゴ広場から県庁側へ徒歩3分。「学びの拠点fourth place」はそこにある。
なかでは若者(本記事では10代から20代の人たちのことを指す)が、卓球やボードゲームをしたり、ソファーでゆっくり本を読んだり、思い思いの時間を過ごしている。
彼ら彼女らは、学校への行きづらさ、家庭への居づらさ、社会への生きづらさなどを感じている。
ここは自分の想いを話したり、聞いたり、また何もしなくても誰からも何も言われない貴重な安心を感じられる“居場所”だ。
自分にあった居場所は、「自分はこの世界に生きていても良いんだ」と思わせてくれる。
居場所は孤独感を軽減させ、自ら命を絶ってしまう人たちの砦のような役割もはたしている
そんな居場所が、今危機を迎えている。
<データで見る長野県の自殺者>
こちらのデータをご覧いただきたい。
厚生労働省の「人口動態統計」によると、全国的に15~39歳の死因の一位が自殺であることがわかる。
特に長野県は、都道府県別人口10万に対する20歳未満の自殺死亡率が4%を超え、全国でもトップ。(第3次長野県自殺対策推進計画(平成30年度(2018年度)~2022年度より抜粋)
長野県はこれを受け、『長野県「子どもの自殺ゼロ」を目指す戦略』と銘打ち、ハイリスクの子どもの把握と「子どもの自殺危機対応チーム」による対応困難ケースの個別支援・人材育成を打ち出し、全県をあげて対策に乗り出しているが、いまだに目に見えた成果は得られていないのが実情だ。
なんらかの生きづらさを抱えた若者たちが、自ら命を絶つ。
そんな状況のなか注目されているのが、学校でも家でもない“居場所”である。
<生きづらさと居場所>
2022年10月8日「若者たちの生きづらさを考える 意見交換会」(主催:長野NPOセンター)がトイーゴ長野市生涯学習センターにて開催された。
テーマに関心のある当事者や家族、支援者など60名(オンライン・オフライン合計)が参加した。
「ひきこもりになる原因は様々あるが、不登校であったり、就職ができなかったり、失業したりということがある。学校や社会からいったん遠ざかってひきこもり、そのまま長期化し、5080問題や自殺などにつながるケースもある」
講演の中で、長野大学小泉典章客員教授は、ひきこもりの長期化による課題を指摘した。
「ひきもりの長期化を防ぐために、家以外の人とつながれる場所、いわゆる“居場所”が効果的。自分の生きづらさを誰かに話せる人や場所があるというのは特に若い人たちの自殺を防ぐために有効だ」
「生きづらさは自己責任ではない」とし、何が自分を生きづらくしているのかを考える機会の重要性を訴えた。
<学生スタッフの声>
fourth placeに通っている子どもたちは現在10名ほど。
「最初fourth placeに入ったとき、本当に何もなかったんです。この空間がこの先来てくれる人たちが過ごしやすいように、面白いことができるようなきっかけになるものをこれからどうやって作って行ったらいいのか。悩みましたけど、面白く進めていきました」
福住悠斗さん(23)は学生スタッフとして、開設初期からfourth placeに来ている子どもやNPOセンターの人たちと場をいちから作っていった。
以前の使用者が置いて行ったもので電子ピアノと卓球台があった。ピアノの鍵盤に音階のシールを貼ったり、わかりやすい楽譜を置いたり。読書もしやすいようにと蔵書もそろえた。
「体を動かすことが好きな子たちもいて、よく卓球をやっていますね。あと、子どもたちがぼそっと言った言葉や考えたいフレーズから、「それってどういうことかな」「〇〇さんはどう思う?」と言葉を拾っていって、話す機会も増えていきました。もちろんそのなかでも本を読んでいる人もいますし、ソファーで寝転んでいる人たちもいます。自由な空間ですね」
fourth placeに来た当初はスタッフや他の人たちと関わろうとしなかった子どもたちが、回数を重ねることで、話を振ったときに答えが返ってきたり、意見がでてきたり、ということに変化を感じてきた。
「本当に少しずつ少しずつですが、日々変化があります。『あ、今日は調子悪そうだな』とか、『今日は何か話したそうだな』とか。でもすぐに目に見えることで子どもたちが変わったーーということはあまりないんです。
ゆっくりゆっくり見ていって『そういえば最近この話題のとき、話したそうにしてるな』とか、目に見えづらいことで変わったことは多いですね」
場所の空気感に居続けること、安心できる場所「大丈夫だな」と思う場所を体感として感じているのではないかーー。
最初に来た頃よりも今のほうが、その子自身のことについても話してくれるようになったり、展望や欲求、深いところを話してくれるようになったときは嬉しかったーー。
ただ・・・、と福住さんは続ける。
「自分はまだ彼ら彼女らと歳が近いから、ハブとしていいのかもしれない。だけど、この後のみんなの人生を考えたときに、その場その場で人と関係を構築していって、それぞれが居心地のいい場所を見つけるという体験をこれからしていってほしいなと思います」
fourth placeに来ている人たちは多くが10代や20代前半の高校生、大学生の人たち。
「とはいっても、今の時点でこの場所がなくなると、彼ら彼女らの長期的な心理的安全性が高められないと思っています。まだfourth placeは彼ら彼女らにとって必要な場所です。なくなるようなことがあってはほしくない」
終始笑顔で取材に応じてくれた福住さんの顔が引き締まった。
fourth placeは現在、クラウドファンディングを実施中!
今まで助成金で運用してきたが、今年度はそれがかなわない。
せっかく安心して過ごせる場を得た子どもたちは、どこへ行くことになってしまうのだろう。
仮に他の居場所があったとして、そこはfourth placeではない。
彼ら彼女らが「自分はここにいていいんだ」と感じられる場所を、今なくすわけにはいかない。
そんな強い思いで、クラウドファンディングが実施されている。
クラウドファンディングページでは、普段のfourth placeの様子も書かれている。
【↓↓画像をタップ、クリックするとクラウドファンディングのページに飛べます。】
地域で居場所を支えてほしい。
地域で彼ら彼女らを支えてほしい。
今回の記事を読んで少しでも共感してくださり、「何かしたい」と思ってくださる方がいたら、ぜひともご支援をお願いしたい。
(取材・執筆/ナガクルソーシャルライター さらみ)
【施設情報】
学びの拠点 fourth place 公式サイト
住所:長野県長野市大字南長野新田町1121 荻野ビル1F
TEL:080-7728-3335(担当者直通)
開放日・時間:水・木・土曜日 13時~18時
利用対象:高校生・大学生(通信制高校・定時制高校・全日制問わず)
料金:無料
公式Instagram
*新型コロナウイルスの感染状況により人数制限を設ける場合あり
*記事の内容は取材当時のものです。
運営主体:特定非営利活動法人 長野県NPOセンター 公式サイト
住所:長野県長野市高田1029-1
TEL:026-269-0015