「学びの拠点」存続をきっかけに、今、若者たちに求められている社会について考える講演会シリーズが、社会福祉法人長野いのちの電話主催、NPO法人長野県NPOセンター共催でスタートしました。3月26日にリアル会場とオンライン合わせて170名が参加し、元文科省の事務次官を務め、教育行政に詳しい前川喜平さんの講演を聞きました。
学びの拠点 fourth place
長野県 NPO センターが運営する若者の居場所。高校生の要望で始まり通信制の学校で学ぶ子たちや学校に行きづらい子、生きづらさを感じる子たちが、気軽に寄って安心していられる居場所として運営されている。
「子どもは宝」とはどういうことか。
子どもは国の役に立つから宝と捉えている人もいるのではないでしょうか。「社会の宝として子どもを育てよう」「未来の日本を支える人材を育てること」と国も言っています・・・本来は「子どもの存在そのものが宝」ではないのでしょうか・・・。
前川さんは、「子ども一人ひとりが尊厳ある人間であり、基本的人権の主体。命が大切にされ、子の自由が大切にされて尊厳が守られる」とし、児童憲章や憲法13条から、幸福追求権について紹介。「命が大切なんだということ。子どもの人権を保障することに原点を置かなければならない」と話しました。
4月に設置される「こども家庭庁」についても言及。その名について、伝統的家族感の視点が議員の一部にもあり、「こども庁」ではなく「こども家庭庁」となってしまった、これは家父長主義的なあり方に結びついていることを指摘しました。
「日本の社会は子どもを人権の主体に考えていない。自己肯定感が高まらない。大人が子どもを肯定しないから、自分を尊重できなくなる・・・」との懸念も。
若者の自殺者の多い日本、居場所が求められる
G7の先進国の中で、日本だけが若者の死因トップが自殺で、他の国は事故が一位となっていること。日本の高校生の自己肯定感についても調査で、他の国の80%以上に比べ半分程度と非常に低いという実態。そして高校生以下で年間500人以上が自殺しているという現実を、会場の参加者とシェアしました。
前川さんは、3年ほど前「子どもたちをよろしく」という映画制作に関わりました。「家庭にも学校にも地域にも居場所がない、行政も介入しないという現実。だからこそ、今、子どもの居場所が必要で、そういうメッセージを伝える映画」と説明した上で、自主上映ができることも会場に呼びかけました。
「居場所とは生きる場所」であり、生きる場所がないと自殺に走ったり、SNSでつながった人を頼って、家出をして、いろんな事件に巻き込まれてしまうこともあります。
前川さんは、「家庭が悪い、親が悪いのではなく、親が弱く、親自身が病んでいる。社会の犠牲になっている親自体を責めて、親学で解決するという考えは違うと思う」と訴えます。
行政の調査では、不登校自体の原因は、学校の先生に聞いたデータが中心であることも指摘。だからこそ「本人の無気力や家庭の問題」が不登校の原因とされてしまう。しかし、本人に調査した結果だと、30%以上が先生との関係がきっかけだとも答えているのです。
オルタナティブ教育の重要性を話す。
国自体が、2019年以降、不登校の子どもたちを学校に戻すことを目的とせず、学校以外での教育も推奨していること。例えば、NPO法人が運営する公設民営のスマイルファクトリーというフリースクールや、東京シューレが運営する世田谷区の“ほっとスクール「希望丘」”を紹介しました。
また、生活保護世帯だけを見ると高校進学率が低い。高校中退率でみれば3年間で12%が辞めてしまう。2割近くの子どもが高卒になれないで社会へ出てしまうというのです。前川さんは、こうした子どもたちが安心して学び直せる夜間中学が長野県にないのは残念だともらします。
最後に、「貧困には、社会的貧困がある。これは人間関係の貧困のこと」とし、現在の社会では、子どもを取り巻く人間関係が、家庭や学校以外にあまりない。そのため、この問題はお金だけではなく、人、つまり善意で子どもに接してくれる大人が必要だと強調します。
そのためには、地域の中に血縁に代わる人間関係を意図的に作り出すこと。例えばフリースクール、フリースペース、自主夜間中学、子ども食堂などの居場所を作っていくことがこれから大事になってきます。斜めの関係をたくさん作っていくことです。多世代の人たちとの交流を作り出す共助を生み出し、それを公助として行政が支えていくことが重要であると話しました。
(取材執筆/ナガクル編集デスク 寺澤順子)
長野いのちの電話 自殺予防講演会は、次回は5月13日14:00-16:00、長野市・松本市でのリアルのみの開催になります。詳細についての問い合わせは長野いのちの電話まで