米のとぎ汁から水の汚染を防ぐ-ミールケア(長野市)

最近、プラスティックによる海洋汚染問題がよく話題にのぼる。使い捨てのストローやレジ袋、ペットボトルなどが一因と言われるが、ほかにも私たちの日々の暮らしに汚染の原因があると聞けば、心中穏やかではない。

生活排水が海を汚染している
炊事や洗濯など日々暮らしの中で出す生活排水も慢性的な汚染の原因になっているという。その排水中に含まれるたくさんの有機物が海水を富栄養化し、植物プランクトンの大発生や赤潮を招き、魚や貝が酸素不足で死んでしまう。魚がいなくなれば、人間の食生活にも影響する問題。その生活排水の一つに、米のとぎ汁がある。


「調べているうち、一般家庭で毎日のように何気なく流しているお米のとぎ汁を約500mlとして、これを魚が住める水質へ戻すには、400リットル(バスタブ4杯分)の水が必要になると知り驚きました。実に800倍もの水が必要になるとは思っていませんでした」と話す株式会社ミールケア(長野市穂保731-1)の牧野哲雄さん

「水と海を守るために私たちできることはないかと考えたのが、無洗米の使用でした。」
研がずに、そのまま炊くことができる無洗米は、とぎ汁が発生せず、水資源の節約にもなる。全国で320施設、1日5万食の食事を提供する同社が使う水量を考えると、その影響は大きい。自分たちにできることで水の汚染を防ぐ取り組みをはじめている。

あわせて、同社のSDGs(持続可能な開発目標)を意識したいくつかの取り組みを紹介する。

高齢者が働ける環境を
65歳以上の高齢者や障害をもつ人でも働ける職場を。どんな人でも、その人にあわせて働ける「ミールマイスター制度」。特徴は、作業内容と勤務時間を細かく分けて明示すること。例えば、洗浄だけや、お皿を数えるだけといった単純な作業であれば、できる人がいる。勤務時間帯も短く区切って明示する。一週間で20時間だけという希望にも応えられる。一般の募集では、なんでもやらなければならないイメージだが、マイスター制度では自分でできることに応募できる。作業内容が具体的で、勤務時間も限られていれば、経験がなくてもやってみようという気になる。
女性の活躍にも力を入れている。各施設の責任者にあたるチーフは、全国で400人。そのうち350人が女性だ。管理者にも積極的に登用し、同社の運営を支える大きな力になっている。

女性も高齢者もいきいきと働く職場

美しい食文化を未来へ伝える
同社が事務局を担う一般財団法人日本educe食育総合研究所が認定する「考食師」という食育資格がある。基礎知識からすぐに役立つ実践型の食育プログラムと運用のノウハウまでを学び、食育のスペシャリストを育てる制度だ。受講者には、幼稚園や保育園などで食育の幅を広げたいという保育士も多い。子どもに「伝える」ことはむずかしい。楽しくわかりやすく伝えたい。子どもの「気づき」を引き出したい。保護者向けに幅広い知識を学び、具体的な提案をしたいなど、受講の目的はさまざま。
資格創設のきっかけは、食の乱れ。食は教育の中心であり、考え方、人間力を育む最も大切な要素だが、近年は、手間をかけない、旬を感じない、文化的意味がわからないなど、食に大きな乱れが感じられる。「このままでは、良い人間性を育む食が次の世代へと受け継がれるはずがない」との思いだった。
考食師は、五感につながる食に加え、食文化に関する知識を持ち、分かりやすく伝えることができる食育のプロ。正しい知識とスキルをもとに、食育を通して日本の美しい食文化を未来へ伝える伝道師として活躍している。

日本の食文化を伝える「考食師」の講座

子どもたちが環境に親しむ「いきものみっけファーム」
環境省が、身近ないきものの観察からその変化を知ることを目的として、市民参加によるいきもの調査に取り組む「いきものみっけ」。その発展版として、地方自治体・企業・生産者・教育関係者・研究機関・NPOなどが協働して全国に「いきものみっけファーム」の取り組みが広がっている。
同社が参加するファームでは、環境循環型の農法を実践する。子どもたちが田んぼや畑で農作業を行い食と農を学び、自然に触れ生きものを探しながら、安心で安全な食べものを育てている。総合的な環境学習の機会にもなる。
田植え、じゃがいもほり、みそづくりなど、季節によって取り組む内容は多彩だ。子どもたちが畑で見つけた虫の名前や習性を、昆虫博士に聞く機会もあった。ダンゴムシとワラジムシの違いを知りたいなど、好奇心いっぱいの子どもたちの笑顔が広がった。

親子でドロの感触を楽しんだ田植え

子どもたちの笑顔がずっと続くよう、毎日の生活を見直してみたい。何気ない日常が、地球の負担になっているかも知れない。米のとぎ汁は、畑やプランターにまけば、植物の肥料になると聞く。そのまま流さないことで水の汚染を防げるなら、そのひと手間を毎日の当たり前にしたい。一つ一つの取り組みが、すべて子どもたちの未来へとつながっているのだと感じた。
(文責:吉田百助、写真提供:(株)ミールケア)

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。