「流域治水」として千曲川の上・下流住民による「共同植樹会」を青木村で開催

千曲川の上流と下流の住民がコラボした「共同植樹会」が2023年6月3日、小県郡青木村から麻績村へ抜ける県道12号線沿いの山林で行なわれました。令和元年10月の東日本台風(19号)による増水で千曲川の堤防が決壊し、長野市長沼地区や豊野地区で甚大な被害が出ました。これを踏まえ、森林が持つ保水力を生かすことで千曲川増水の速度を抑える「流域治水」として取り組まれたものです。上・下流の住民が力を合わせてできる「防災・減災の取り組み」として今後の発展に期待が寄せられます。

上流の青木村が呼びかけ

植樹会を主催したのは青木村(長野市共催)です。会場には「青木の森林(もり)は長沼の堤防」というコピーが掲げられました。参加したのは青木村のみどりの少年団(青木小学校4、5年生)と長沼地区住民、村の職員と議員関係者など。式典のあと、しだれ桜10本と松くい虫抵抗性アカマツ200本を植えました。

台風2号と前線の影響で前日まで青木村も大量の雨が降ったため会場は足場の不安定な状態でしたが、村では通路にむしろを敷くなどの対策を講じ、晴天に恵まれた中で実施することができました。小学生は平坦な場所、大人は滑らないように注意しながら斜面を担当。クワやシャベルで20㎝~30㎝の穴を掘って、一本ずつていねいに植樹しました。

しだれ桜10本の植樹
みどりの少年団のみなさん
アカマツの植樹は200本
斜面への植樹

植樹した場所は青木村と上田市共有財産組合が管理する財産区有林です。植木は公益財団法人HIOKI奨学・緑化基金が寄付しました。開催にあたって国土交通省北陸地方整備局千曲川河川事務所が後援し、長野市長沼地区住民自治協議会が協賛しました。

植樹の前に流域治水と森林の治水効果を学ぶ

青木村の山林に降った雨は沢筋から徐々に浦野川に集まり、その後上田市で千曲川へと流れ出します。森林の土は隙間がたくさんあり、スポンジのように雨水を吸収して貯え、ゆっくりと時間をかけて川に送られていきます(資料写真参照)。森林の水源涵(かん)養機能は、山林の土砂災害を防ぐとともに治水対策につながるのです。

植樹に先立ち、長野県建設部河川課の川上学課長が「流域治水について」、長野県上田地域振興局林務課の竹内千鶴子課長が「森林の持つ治水効果について」それぞれ説明しました。「流域治水」では森林整備のほか、ため池の有効活用や雨水貯水タンクの設置などが重視されています。森林の治水効果では洪水や渇水の緩和、土砂災害の防止などがあげられています。(写真資料参照)

「流域治水」の説明資料
森林の持つ機能の説明資料

流域治水」に取り組む国と県住民の交流の力が土台に

令和元年台風の千曲川・信濃川流域の被災体験を踏まえて、国土交通省千曲川河川事務所と長野県は、流域全体で水害を軽減させるための治水対策として「流域治水」に取り組むこととし、信濃川水系(信濃川上流)流域治水協議会を設置しました。その会議の席上で、「上流と下流の地域住民間での交流が、流域全体での防災意識の向上につながるのではないか」との意見が提起されました。今回の植樹会は、これを受けて青木村が企画し、下流に呼びかけたものです。

被災後、青木村のボランティアがキッチンカーによるタチアカネ蕎麦を振る舞うなど、長沼地区の住民との交流を続けてきました。この活動を仲介してきた支援団体とのつながりが継続していたことから今回の提案があり、実現にいたりました。

参加者全員で記念写真撮影
タチアカネ蕎麦の振る舞い(穂保研修センター)
クリスマスのつどいの一コマ(21年12月19日)

森林整備を通じた流域治水への関心をどう高めていく

「共同植樹会」は上流と下流の住民の交流を意図したものですが、今回は実施までの時間がタイトだったことと開催日前日の大雨で千曲川の水位が上昇する危険があったため、長沼地区からの参加は自治協代表とボランティア団体代表の数名にとどまってしまいました。しかし、上流と下流住民の交流に基づく防災意識の向上のねらいは、今後へと引き継がれていきそうです。

防災・減災のためには、マイタイムラインによる「我が家の対策」、コミュニテイータイムラインによる「地域での対策」、そして河道掘削や遊水池の設置など多面的な対策が不可欠となっています。行政レベルの対策とともに、広域的な対策への住民の関心と関与は、これからの防災対策の上で大切なことです。

当日配布の資料とクリアファイル

長野県では、ことし令和5年度から令和9年度までの「長野県総合5か年計画『しあわせ信州創造プラン3.0 ~大変革への挑戦 「ゆたかな社会」を実現するために~』を策定しました。この中で「流域治水の推進」を掲げており、「森林が有する保水力機能の向上を図るため、県、市町村、地域住民等が行う面的な森林整備を推進」と明記しています。

このビジョンにそって住民が力を合わせて植樹などの活動に参画するかどうか、その取り組みが青木村や長沼地区以外にも広がっていくかどうかは、今後の啓蒙にかかっていると言えそうです。

青木村では「山林が持つ保水力を高める植樹会を通して上流・下流の住民の交流が深まれば…」と今回の事業実施の目的を説明しており、担当者は「将来的には行政が主導するのではなく、住民同士のつながりのなかで実施できるように発展していったなら…」と期待を寄せています。

ソーシャルライター 太田秋夫