「災害列島」とまで言われている日本。予期せずに襲ってくる地震・風水害・火山災害にどう対処したらよいかは、だれにとっても日常的に考えなければならない問題です。2019年10月の東日本台風19号で千曲川堤防が決壊して甚大な被害が出てから3年9カ月。台風シーズンを迎えている時期にあたり、防災・減災を取り上げます。注目したいのは「防災士」の存在です。
防災の基本は「自助」「共助」
長野県は山間地が多く、盆地を流れる犀川、千曲川、天竜川があることから、土砂災害や洪水の危険が高く、災害が発生しやすい地域です。活断層もあり、2010年代は震度5以上の地震が13回も発生しています(全国7位)。次の資料に示すように、私たちのふるさと信州では過去において甚大な被害が出て、尊い人命を失っています。改めて胸が締め付けられる思いです。
風水害が発生する恐れがあるとき、市町村は避難指示を発令し、避難所を開設します。被害を最小限にするためですが、そのときの基本は「自分と自分の家族は自分が守る」という「自助」の姿勢です。そして、初期段階においては地域の防災組織や隣近所の助け合いである「共助」の力が不可欠です。行政における「公助」が本格的に動き出すには、一定の時間が必要なのです。
台風19号災害のとき、被災者支援にいち早く駆けつけたのは、民間のボランティアでした。私が支援活動を始めた避難所「北部スポーツレクリエーションパーク」へは、堤防が切れた13日の早朝からたくさんのボランティアが集結し、避難所運営のサポート、炊き出しや集まってくる救援物資の整理と提供、被災者への声掛けと相談活動などにあたりました。不安を抱える子どもたちの相手をしたり、おいしいコーヒーの提供をしたり、それぞれが自分にできること、得意なことで動いていました。誰かから言われたわけではなく、指示されたわけでもなく、まさにそこには自主的な「共助」の光景がありました。
防災士とは
「防災士」という資格制度があります。民間の組織である日本防災士機構が進めているもので、この資格は社会の様々な場で防災力を高めるための活動をする意識と知識・技能を修得している人であることを示すものです。
自助(自分の命は自分で守る)、共助(地域・職場で助け合い、被害拡大を防ぐ)、協働(市民、企業、自治体、防災機関等が協力して活動する)を基本理念としています。
災害が頻繁に起きていることから防災士の資格を取得する人は年々増えています。資格制度が始まった20年前は1,581人でしたが、現在は25万8,250人(2023年5月末現在)に上っています。私が住んでいる長野県では3,570人が登録しています。(長野市479人、松本市335人)
日本防災士機構によると、防災士は平時、まず自分と家族を守るために、わが家の耐震補強、家具固定、備蓄などを進め、それを親戚、友人、知人に広めていくとともに、地域・職場では防災啓発、訓練を実施しています。だれかが積極的に声をかけなければ、人はなかなか動きません。ですから防災士は、まず自分が動き、周囲の人を動かすよう努めています。防災講演、災害図上訓練、避難所訓練等のリーダー役を果たすとともに、自主防災組織や消防団の活動にも積極的に参加しています。
災害時においては、避難誘導、初期消火、救出救助活動等に当たります。東日本大震災や熊本地震においては、防災士のリーダシップによって住民の命が助かり、避難所開設がスムーズに運んだという事例が多数報告されているそうです。
被災地支援でも、防災士は積極的に活動しています。復旧・復興にかかわるボランティア活動、物資の調達・運搬等各種の支援活動に参加し、時には重機を使ったガレキ処理等専門技術を活かした活動も実施しているようです。
日本防災士会長野県支部では昨年(2022年)10月、松本市で行なわれた長野県総合防災訓練に支部のビブスを着用して参加しています。避難所開設・運営訓練での課題や改善点などの提案も行ないました。令和5年度の総会を5月20日、安曇野市で開催し、160名中132名が参加して議案を審議、議事のあとは自己紹介を含めた意見交換を行ない、顔の見える関係の大切さを確認したとのことです。
支部の活動の様子は、フェイスブックで知ることができます。Facebook
防災士は日ごろから防災・減災の意識を高め、その思いを周囲に広げ、発災時には先頭に立って減災や救出救護、支援活動にあたっていることを知ると、防災士が増えることが災害対策として重要であることを強く感じます。
自主防災組織における防災指導員
長野市では行政区単位に自主防災会を設置し、区長をリーダーに防災訓練や災害時の対応をしています。そのリーダーとなる区長は毎年交代する組織が多いことから、区長を補佐する専門の防災指導員を配置するようにしています。長野市自主防災組織育成指導要領では、防災指導員の選任基準として、消防団を退任した者、防災士の資格を有する者を明示しています。地域の自主的防災組織の諸活動でも、防災士は大きな役割を果たしているのです。
受講費用を補助する自治体も
減災のためには、防災に関する知識と技能を有し、いざというときにリーダーシップを発揮する人材を増やすことが大きな力となります。そのための防災士の資格を取るためには、①日本防災士機構が認証した研修機関が実施する「防災士養成研修講座」を受講し、「研修履修証明」を取得する ②日本防災士機構が実施する「防災士資格取得試験」を受験し合格する(受験料=3,000円) ③全国の自治体、地域消防署、日本赤十字社等の公的機関またはそれに準ずる団体が主催する「救急救命講習」(心肺蘇生法やAEDを含む3時間以上の内容)を受け、その修了証を取得する―ことが必要です。
長野県では、松本大学が防災士養成研修講座を実施しており、2023年度は回数を増やすことを検討しています。
こうした講座を受講するための補助金制度を設けている自治体があり、長野県では伊那市、塩尻市、須坂市、諏訪市、御代田町、小布施町、飯島町などが実施しています(補助額3~5万円)。長野市では住民自治協議会として補助しているところもあります。
講座の内容と今年度の開催予定
防災士に求められる知識と技能とはどんな内容なのか。日本防災士機構はA4判380ページの教本を作成しており、次のような講座内容になっています。
災害の基本的な知識や情報に関することとともに、自助・共助を進める上で必要な情報が網羅されています。
松本大学では、これまで年1回の講座開催でしたが、事務局によると本年度は4回の実施を予定しています。5月はすでに終了し、次回は8月26、27日、3回目が12月16、17日(いずれも土・日曜日)で、年明け2月中旬にも開催予定とのことです。ホームページで要綱が公開され、申し込むことができます。
松本大学 ホームページ https://www.matsumoto-u.ac.jp/news2022/06/31205.php
防災士にチャレンジ/ソーシャルライターの挑戦!
筆者は台風19号被災直後から長野市長沼地区で支援活動を行ない、現在も被災地域に役立つことは何かを考えながら活動を継続していますが、体系的に学んで資格を取得しようと思い立ち、ことし5月に松本大学で行われた防災士養成研修講座(2日間)を受け、検定試験に臨みました。研修講座での講義は12講座で、残り13講座は事前のレポート提出でした。
講師の中には、これまでの支援活動の中で行き会った人もおり、講師陣は現場を詳しく知る人たちだっただけに、実践に即したリアルな話をたくさん聞くことができました。講座を受ける中で、防災士の学びを多くの人にしてほしいという思いも募りました。そこで、ソーシャルライターとして「防災士」への理解を広めるために今回のレポートをまとめることにしました。検定の結果は、短時間の集中的な学びでしたが、合格することができました。
隣の席にいた人は長野市の消防団員でした。その隣は学校の先生で、「防災担当になったので受講した」とのことでした。今回は50人ほどの受講者でしたが、学ぶ姿勢の方がたくさんいることを知って嬉しく思いました。
防災士として
被災地支援活動の中で出会った人で、山口県の安部保成さんという人がいます。安部さんは各地の被災地へ災害ボランティアとして出動しており、2019年の長沼の台風被害でもかけつけました。あれから3年半以上を経過しますが、安部さんはいまも被災したリンゴ農家とつながりを継続していて、年に何回か農作業の応援で長沼へ来ています。
安部さんは防災士であり、山口県自主防災アドバイザーもしています。地元で行なわれた今年1月の防災イベントでは長沼の様子を写真展示するなど、被災地長沼との関りを続けています。長沼アップル放送局の1月の「つなぎの杜」にも出演し、ボランティアとしての思いを語りました。安部さんの根底にあるのは、「防災士としての意識」なのです。
長野市の第三地区住民自治協議会は「ふれあい避難所体験」という事業を3年前から行なっています(地域防災力向上事業)。地域の施設を避難所に見立てて防災訓練を実施し、住民の交流をはかるものです。事務局長の浅倉信さんは「近所で助け合うことが防災では特に大事」と話しています。浅倉さんとは市民活動の様々なシーンで行き会う仲ですが、防災士であることをつい最近になって知りました。この自治協では防災士の育成に力を入れており、現在17人の防災士が地区内にいるそうです。長野市の中心市街地第一~第五地区の自治協では防災に力を入れ、防災士資格取得にも補助金を出しています。この5地区で、防災士は64人になっています。
防災士が増え、防災士同士のつながりが強くなれば、それが地域の防災・減災で大きな力になることを、台風シーズンを前にいま改めて感じています。
太田秋夫(ナガクルソーシャルライター・防災士)