2021年11月27日、体験イベント「親子で探検!牧場の生きものワールド」が開かれた。舞台は長野県と群馬県にまたがる群馬県下仁田町の神津牧場。近隣の市町村から6組の小学生以上の親子を含め総勢30人が参加した。
「親子で探検!牧場の生きものワールド」は、特定非営利活動法人生物多様性研究所あーすわーむ(軽井沢町)と長野県NPOセンター(長野市)の共催。全国各地で「いきものが住みやすい環境づくり」を行うSAVE JAPANプロジェクトの一環として実施され、損害保険ジャパン株式会社と特定非営利活動法人日本NPOセンターが協賛している。
牧場で牛の飼育や搾乳を見学
プログラムは130年以上の歴史を持つ牧場の見学からスタート。牛をどう育てているかについて話を聞き、ミルクを搾乳するための設備などを見学した。
シカから牧草地を守るには・・・
続いて、妙義荒船佐久高原国定公園内にある牧草地に移動。麻布大学野生動物学研究室の塚田英晴准教授の協力で、金網を加工して1辺1メートル程のフェンス柵を設置した。
牛が食べる草を育てるための牧草地では、近年数が増えているシカが草を食べてしまう。牧草被害は年間2千万円ほどになるという。
シカはフェンス柵の中の草は食べることができない。来年7月に再度同じ場所を見に行き、フェンス柵の中と外で植物の生え方にどんな違いがあるかを調べる実験だ。
命の連鎖について考える
牧草地の脇にある森に入って3グループに分かれ、森に暮らす動物について話を聞いた。1つめのグループは、ミミズの話。アナグマの糞に残ったミミズの毛を調べることで、アナグマがどんなミミズをどれくらいの量食べたかがわかるという。
2つめのグループは、アナグマの話。森の中に入り、土の中に掘られた直径30㎝ほどの大きさのアナグマの巣を探す。複数の巣を見比べながら、どんな違いがあるかを観察した。
そして3つめのグループはシカの話。シカが木の皮を食べることで木が枯れ、また若木の芽も食べられて新しい若木が育つこともできず、森から木がなくなってしまう可能性がある。ミミズからアナグマ、シカと樹木、草原と森の中で育まれる命の連鎖について考える時間となった。
シカを駆除するのは人間の都合?
フィールドプログラムの後は牧場の室内で、スライドを見ながら草原で暮らす生物の話を聞く。
「数十年前よりも増えている。シカが増えることによって自然が失われることもある。長野県ではシカを年間4万頭獲らなければいけないと言われている。でも、ただ駆除しなきゃいけないという人間の都合だけではなく、それぞれが個性を持った命だということは覚えていて欲しい」
と、生物多様性研究所あーすわーむ理事で動物生態学が専門の福江佑子さんは参加者に向けて語った。
命をいただくことについて考える
日没後は、2グループに分かれ、実際にどれくらいの数のシカがいるかを観察するナイトツアーが行われた(雪が舞う寒い夜だったため、残念ながらほとんどシカは現れなかった)。先発隊がナイトツアーに出かけている間、参加者は牧場で用意してもらったジャージー牛のハヤシライスを食べる。ここでも、命をいただくことについて考える。
「自然の生態系は、食物連鎖で個体数のバランスがとれるようにできている。かつてはシカの天敵であった狼を『家畜が食べられるから』と駆除したのも、シカの数が減った時期に保護政策をとってきたのも、人間の都合なんです。今度は数が増えすぎたからといって、森を守るためにシカを捕獲して数を減らすのも、人間の都合。どうするのが良いのか、命との向き合い方も含めて、関心をもって考えるきっかけになって欲しい」とあーすわーむの池田雅子さんは話した。
(文:ナガクルソーシャルライター 粟津 知佳子)