今、長野県佐久市で、「災害に強いまちづくりプロジェクト」が始まっている。
2019年10月、千曲川流域に大きな被害をもたらした令和元年台風19号。佐久市内では1,000軒を超える住宅被害が出た。
当時の被災状況を振り返り、次の災害に備えるためのワークショップが、2021年7月22日、被災地区で開催された(下記写真)。
被災地区で経験や地質に沿って、現場で確認を。
プロジェクトは特定非営利活動法人長野県NPOセンターが主催し、佐久市危機管理課、佐久市消防団、佐久市市民活動サポートセンターの協力で行うもの(助成:ジャパン・ソサエティ)。佐久市内の千曲川支流にある清川、前山、入澤、大沢、志賀などの12区を6つに分け、それぞれ3回ずつ、計18回のワークショップが行われる予定だ。
2021年4月~5月にかけて行われた1回目のワークショップでは、各区の区長や消防団の協力のもと、当時の被害状況を振り返り、情報を地図に落とし込んでいった。2回目のワークショップとなる今回は、地質学の専門講師による講座と、被害があった現場を実際に見て回るフィールドワーク等が行われた。
7月22日に臼田清川区で行われたワークショップには、区長や消防団委員など約20名が参加した。
冒頭、防災士・災害支援コーディネーターの大出邦雄さんより、時系列を追って清川区の被災状況の共有がされた。消防団員が撮影した当日の写真を映し出しながら、「時間雨量が30㎜、積算雨量が100㎜を超えたら被害が出ると思った方が良い。公式な避難指示が出てからでは遅い。道路がまだ水に浸かっていない、積算雨量が100㎜を超える前に避難完了しているのが理想的。それより避難が遅くなると、消防団にも被害が出る恐れがある」と、参加した消防団員に注意を促した。
続いて、長野県岩村田高等学校教諭の寺尾真純さんより「佐久地域の地質概論」についての話があった。長野県デジタル地質図など、様々な資料を紹介しながら、「長い年月をかけて、洪水や山の崩落を繰り返し、現在の地形ができている」と佐久地域の地質について解説した。
後半は実際に被災した現地を見ながらのフィールドワークを行い、支援活動に入った消防団員から話を聞いた。もともと老朽化が進み取壊し予定だった消防団の詰め所が、増水により流されてしまったという。
降雨時に川に近づくことは危険だ。川までいかなくても水位が確認できるよう、吉沢川神代橋にはその後水位を観測するためのライブカメラが設置された。(ライブカメラの情報は国土交通省「川の防災情報」のページから確認できる。吉沢川神代橋のカメラ情報はこちら。)
ロープワークの実演も。被害を最小限に。
公民館に戻った後、再び大出さんより、水害時に消防団員が自分自身の身を守るためのロープワークの実演が行われた。
参加した田口下町区の前区長・山本隆さんは、「『清川区の吉沢川であればこの地点の水位』というように、それぞれ自分の区ごとに避難の目安を知っておくことが必要。自主防災の大切さを改めて感じた。災害が起きた時にどうするかだけでなく、被害が出ないようにどうするか。川の上流にある山の手入れがされないと、倒木や土砂の流出に繋がる。自主防災と山の管理と、両面で取り組んでいかなければならない」と真剣な表情で語った。
今後、第3回目ワークショップとして、災害時の降水量や気象庁発表などを元に、災害時の行動を時系列にまとめる「マイタイムライン」の作成を行う予定。民生児童委員、日赤奉仕団員など福祉関係者をはじめ、関心のある住民に幅広く参加を呼びかけていく。
企画した長野県NPOセンター山室秀俊代表理事は「台風19号の被害経験を無駄にせず、教訓を次に生かさなければならない。次の災害が来る前に、どのような訓練をし、どう備えるのか。今回のワークショップをきっかけに、佐久市内それぞれの区で、災害に備えるための自主的な行動が生まれることを期待したい」と話す。
(文:ソーシャルライター 粟津 知佳子)