デジタル化とペーパーレス化が進み、生き残りが危ぶまれる印刷業。企業の生き残りをかけて、SDGs(持続可能な開発目標)がめざす社会を考えながら商品開発を進める株式会社アルキャストの代表取締役社長 東 佑美さんに聞きました。

代表取締役社長の東 佑美さん(左)と営業部部長の東 靖大さん

自分たちにできることは何かを考えて

「SDGs」をはじめて聞いたのは、5年ほど前のこと。「どういったことだろうか?」と調べて、「自分たちに何ができるだろうか?」とぼんやり考えはじめていた。

その後2019年に長野県が全国に先駆けて「SDGs推進企業登録制度」をつくると聞き、ぼんやりと考えていたことを「少しでもはじめよう」と、さっそく企業登録した。重点的な目標には、「環境負荷の少ない素材を用いた製品の開発」と、「地域の連携による『ひと』と『まち』が持続可能な脱炭素社会の実現」を掲げた。

※長野県SDGs推進企業登録制度とは
長野県内の企業等の価値向上と競争力の強化などを図るため、SDGsと企業活動との関連について「気付き」を得るとともに、具体的なアクションを進める長野県独自の「登録」制度です。県はSDGsのゴール等につながる具体的な取組を提示し、提示内容を踏まえ具体的なアクションに取り組む企業等を登録し、オリジナルの登録マークの提供やHP等による公表を通して応援します。現在1,329者が登録しています。(2022年3月時点)
長野県SDGs推進企業情報サイトより

生き残りをかけた取り組み

印刷業は、厳しい時代を迎えている。インターネットや電子書籍などの普及に伴い、デジタル化とペーパーレス化が進んで紙媒体の需要が減っている。テレワークの利用拡大で、書類のやりとりが電子化された。かつては外注していた名刺や年賀状なども個人で簡単に印刷できるようになった。

一般的な紙は木を原料にし、生産に大量の水とエネルギーを使う。世界各地で問題になっている森林消失と水不足は、印刷業にとって死活問題になる。

印刷業として「なんとしても生き残りたい」との強い思いをもって、お客様に納得して選んでいただけるように、企業としての信念とビジョン・目標を明確にしていった。

SDGsにある「つくる責任・つかう責任」の視点から考え、「環境にやさしい商品をつくっていこう」、「資源を大切にしていこう」と思った。偉そうなことは言えないが「少しでも社会と地域に貢献できたら」と考えて、仕事上のあらゆる活動を SDGsのゴールにつながる具体的な取組から見つめ直した。

「いままで培った印刷技術を用いてできることはないだろうか?」、「新しい技術で環境保全に貢献できることはないだろうか?」との考えが、「環境対応印刷」の実現へと続いていく。

環境負荷の少ない紙と植物油インキを利用した印刷

古紙パルプを使用し、台紙までリサイクル可能な素材で制作した「SDGs推進企業登録マークステッカー」。国産竹を100%使用した竹紙に植物油インキ(ベジタブルインキ)で印刷した「竹紙ノート」と「竹紙メモ」。石灰石から抽出した炭酸カルシウムを主成分とし、製造時に水や漂白剤を使用せず、プラスチック代替素材として高い耐久性と耐水性が注目されている「ストーンペーパー」に印刷した「ハザードマップ」。木材パルプを使わず、強さとしなやかさを備えた合成紙「ユポ紙」で作成した「パーキングパーミットタグ」。紙を素材に、外から中が透けて見えるよう加工した「紙製クリアファイル」。地産素材で高級感のある和紙に印刷した「マスクケース」。コロナ禍において印刷会社として貢献できることはないかと、SDGs中の健康と福祉に焦点をあてて考案した「接種を記録できる安心感」を備えた「ワクチン手帳」と、「衛生的に所持、携行できる安全性」をプラスした抗ウイルス版など、新しい商品を次々に生み出してきた。

「竹紙」は、成長まで数十年かかる樹木に比べ、短期間で再生可能な竹に着目してつくられた。材料になる孟宗竹は繁殖能力が強く、放置された竹林が増えすぎて在来種の植生を脅かす「竹害」は各地で問題になっている。循環資源という視点で見れば、繁殖力の強さと成長の早さは、魅力にもなる。地域で厄介者扱いされている孟宗竹が、地産地消できる持続可能な身近な資源になり得る。話を聞きながら「長野県内に竹製紙工場があれば良いのに」と思った。

水と森を守る環境対応印刷のパートナー

社名の「アルキャスト=ARScast」は、ラテン語の「ARS(技術)」と英語の「cast(配役)」をかけ合わせ、「お客様に役立つ『印刷の技術者集団』になろう!」という誓いが込められているという。非木材紙と植物油インキなどを用い「水と森を守る環境対応印刷のパートナー」としてSDGsを推進しているアルキャスト。

さまざまな環境に配慮した印刷を提供するのと同時に、社員による植樹活動や長野市内の高校で「SDGs・竹紙セミナー」を開催するなど、地域での社会貢献活動も推進している。

その原点は、自然環境の変化を少しでも緩やかなものとし地球環境を保全しながら、企業としての社会的責任を果たし、人に寄り添う製品を生み出したいという思いにあった。

株式会社アルキャスト
〒380-0935 長野県長野市中御所4丁目3−13
電話  026-217-5155

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環境に配慮した商品は、従前のモノに比べると割高になることが多い。現代では商品を選ぶ際「値段(金額)」が大きな判断基準になっている。もし、「環境へのやさしさ」や「資源の大切さ」などといったSDGsの目標達成に向けた貢献度が、会計上の書類に数字として表わすことができれば、「選択の基準が変わり、社会も変わるだろう」と思う。数字に表れない価値をお客様に、どう理解していただき、納得して選んでいただけるか。これまで、目に見えない情報を、印刷という技術で「目に見える形」にしてきた印刷業界の新たな挑戦にますますの期待を寄せていきたい。

<取材・文責>ソーシャルライター 吉 田  百 助