ライ麦素材のストローづくりプロジェクトが、御代田町(長野県東信地域)で、注目を集めている。
その名も「MIYOTAライ麦ストロープロジェクト」。
移住したクラフト作家の上原かなえさんと御代田町社会福祉協議会(以下、御代田町社協)を中心とし、農家など地域住民との協働で行われている。
ライ麦の収穫時期、初夏の7月24日に行われた収穫祭を取材した。
収穫祭イベントを企画したのは、「おとなもこどもも学べる場づくり」をテーマに活動する「みよたぐらし」。御代田町社協に隣接する古民家を拠点に、親子で参加できるアート教室や、ピラティス教室、味噌づくりイベントなどを実施している。午前中は御代田の農家や作家によるマルシェとライ麦ストローづくり体験、午後はトークショー&スライドショーが行われ、親子連れなど多くの参加者で賑わった。
北欧フィンランドの麦わらを使った伝統工芸「ヒンメリ」を作品として手掛けていた上原さん。両親の移住をきっかけに、「この地に麦の種を蒔きたい」と思う土地との出会いがあった。当初は東京と御代田町を行き来していたが、3年前から本格的に移住。「畑で若い人が作業をしている姿が珍しいらしく、いろんな人が話しかけてくれるようになった」という。
デイサービスのお年寄りの手仕事が生きる
子育て真っ最中の上原さん。「自分が動けない時やできない部分を他の人に助けてもらい、いろんな人が関わるプロジェクトの形ができあがった」と、立ち上げ当時を振り返る。
最初はひとりでやっていたストローづくりを、地域のお年寄りに手伝ってもらいたいと、自然農園をやっている酒出佐登美さんに相談。すると「デイサービスに元気なおばあちゃんたちがたくさんいるから、そこでやってもらったら?」と、酒出さんの母親が通所する御代田町社協のデイサービスを紹介してもらった。
御代田町社協の担当者も関心をもち、高齢者が日中の時間を過ごすデイサービスのリハビリ活動として導入することに。「みなさん農作業をしていた経験がある。重労働は難しくても、手は動かせる。やりがいを求めているおばあちゃんたちがたくさんいて、喜んでやってくださった」と、上原さんは話す。徐々に町内の宅老所にも活動の輪が広がり、現在は障がい者の就労支援の一環としても麦わらストローづくりを行っている。作業に人手が必要な時は、近所の方々も手伝いに来てくれるという。
デザインの力で商品の意義と価値をアピール
「麦わらを使いたいから育てている」と言うと、地域の農家からは「そんなのゴミだよ」と言われてしまう。「作れば作るほど、広めたい気持ちが高まる。ちゃんと意義と価値をつけないと伝わらない。いろんな人の手によって作られているという価値を伝えるには、美しいパッケージが必要」。そこで、小諸出身のイラストレーターや移住者のグラフィックデザイナーの力を借りて、商品化した。
ストローの歴史を調べてみると、耐久性に優れたプラスチック製ストローが普及し始めたのは1960年代で、それ以前は紙製のストローや麦の茎などが使われていたという※。それぞれの時代の状況や価値観とともに、製品の素材も見直され、変わっていく。
(※参照:ナショナルジオグラフィック日本版サイト『ストローはこうして世界を席巻した、その短い歴史』)
「プラスチック削減に直接はつながらないかもしれないけれど、子どもたちがライ麦ストローを知っている、使ったことがある、それが大事だと思う。ストローに限らず、日常で使う素材を見直すきっかけになれば」と上原さんは話す。「ガソリンを使って各地に運ぶよりも、共感する人たちから自然発生的に、他の地域に無理なく広がっていって欲しい」と結んだ。
御代田で生まれたプロジェクトは、地域で暮らす様々な人の手から手へとつながり、これからもゆっくりと育くまれていくだろう。
(文:ナガクルソーシャルライター 粟津 知佳子)