『よこね田んぼ』を交流の拠点に
山間の谷間、傾斜や地形に合わせて作られた小さな田んぼが、階段状に広がっています。
この地域の先人たちが、ひと粒でも多くのコメを作ることができるように、と努力を続けた成果が、今も地域に受けつがれているのです。
こういった田んぼは、『棚田』や『千枚田』などと呼ばれていますが、この地域では、もともとの地名や、横に連なるその形状から『よこね田んぼ』と呼ばれ、日本の棚田百選にも選ばれています。
飯田市千代地区は、天竜川の東側の山あいにあり、千代(ちよ)と千栄(ちはえ)というふたつの地域からなる、森林面積が広い中山間地域です。
特定非営利活動法人『里山べーす』は、「里山をもっと楽しく!」を合言葉に、もとは地域自治組織が担っていたまちづくり活動を発展させ、里山の魅力発信や、訪れる人との交流を促進させていこう、と2019年2月にNPO法人として独立した団体です。
地元の方が「地域のために使って欲しい」と同法人に託している広い民家の一室で、吉澤富夫理事長、萩元文雄副理事長、野田充夫副理事長、会計を担当している金田光廣理事にお話を聞きました。
20年ほど前から注目されるようになった『よこね田んぼ』は、里山の景観としてはとても魅力的である反面、機械が入りにくく手作業が多いため、平成に入った頃から高齢化や後継者不足などにより、約4割が休耕田となっていました。
この状況を受け、地元自治協議会などが棚田を地区の文化的財産と位置づけ、1998年に『よこね田んぼ保全委員会』が発足しました。
里山べーすも法人設立時から、同委員会とともに保全活動の中核的団体として活動、よこね田んぼのオーナー制度の運営、採れたお米の販売や、酒米からのお酒づくりや販売、『かかしコンテスト』などのイベントも手掛けてきました。
「周りに家がなく、自然の景観が守られている。電線がないから、カメラマンには好まれるんですよ」と、吉澤理事長は話します。
よこね田んぼは昔からそこにあって、地域の人たちにはあたり前のものでした。中山間地であるため、人口減少や農業の担い手不足は顕著ですが、一方で、四季折々の棚田の美しい景色や、昔ながらの懐かしい里山の風景を見に来る人、お米づくりを中心とした田舎体験をしたいと考える他地区の人もいることが分かってきました。
地域内には、『野池親水公園キャンプ場』や、沢渡りができる『万古渓谷』もあり、今後、民泊ができるような施設を整えることで、千代地区を周遊・宿泊してもらうようなプランを作ったらどうか、と相談しているそうです。
「千代の人たちは、地域の課題について、自分たちでやれるところまでやる。その後は行政とか、そういったところに頼ることもあるが、基本的には自分たちのことは自分たちで、という意識がずっとある」。
草刈りなど、よこね田んぼの作業日にはいつも、50人ほどの地元の人たちが参加してくれるそうです。
ここに住む人と、さまざまな目的でここを訪れる人の交流の拠り所になるよう、今後も取り組んでいきたいと話していました。
特定非営利活動法人 里山べーす
〒399-2222
飯田市千代1159-1
TEL・FAX 0265-49-0433
団体ホームページはこちら
取材:2021年4月7日 同法人事務所にて
文責:ソーシャルライター 増田綾子