2023年10月6日から20日まで長野市役所で開かれた「災害アーカイブ展」に合わせて千曲川流域の地区が10月14日、長野市役所の市民交流スペースで交流しました。
各地区の被災の様子やその後の対策を報告し合い、今後の活動の参考にするのがねらいです。復興や防災への気持ちを高め合う場ともなりました。
主催したのは長野県、長野市、信州大学教育学部防災センターの三者です。平時は各地区がそれぞれ災害対策に取り組んでいますが、他の地区の様子については情報が十分でありません。
しかし、千曲川の流域地区が連携した対策は防災対策として重要です。各地の被災状況などを紹介したパネルが並ぶ中で交流が実施されました。
災害時に避難所開設ができる人材を育成
第一部では、防災人材育成モデル地区形成事業に取り組む長野市松代地区と上田市真田地区から、現在までの活動状況について報告がありました。発災直後は、行政によって避難所が開設されても、運営の体制が整うまで時間がかかり、民間ボランティアの協力が不可欠です。そうした状況のときに、ただちに行動できる人材を育成しようというのがモデル事業の取り組みです。
松代地区では松代小学校で研修を実施。キックオフ研修会で運営に必要な備品を確認し、防災倉庫の中を見ました。その後、8班に分かれて分担した活動をそれぞれブラッシュアップしてきました。どのくらいの時間で避難所を開設できるか研修を重ねることにしていると報告。区の役員は交替していくので、いざというときは地域全体で取り組んでいくことが大事であることが強調されました。
第二部は、流域の各地区から展示内容の説明でした。長野市長沼地区、佐久市常和地区、佐久市入澤地区、小布施町、長野市若穂地区からそれぞれ被災の状況や防災・減災に向けた取り組みが紹介されました。そのなかで、防災士の役割を強調し、育成のための助成を求める要望が出されました。
長野県の「逃げ遅れゼロ」の取り組みと被災者の率直な声
後半は長野県から「逃げ遅れゼロ」の取り組みについて説明があり、防災アプリの開発、デジタルアーカイブ事業、関連死を防ぐための対策(TKB=トイレ・キッチン・ベッド)などの紹介がありました。
政策対話という位置付けで忌憚のない意見が求められ、参加者から体験に基づくさまざまな発言がありました。「避難所へ自分で用意してあった食べ物を持って行ったが、周囲の人は持っていなかったので食べることができなかった」「高齢者避難が出たけれど避難所は開いていなかった。指定避難所を開けるべきではなかったのか」「避難所運営のプロがいない」「行政の避難指示が出てからでは間に合わない地域がある」などの声が聞かれました。
また率直な意見として、「逃げ遅れゼロと言われても、それは不可能だ」との意見も出ました。住民に避難を呼びかけても接触を拒んでいる事例があったためで、命を守るために避難するという気持ちを住民みんなにどう持たせるかという課題の難しさを伝えました。
長沼地区からは、2021年8月の千曲川増水のとき、対岸の須坂市と小布施町では高齢者避難が出たにもかかわらず長野市では発令がなく、地域として自主的に避難する対応をしたものの、なかなか避難所として体育館を開けてもらうことができなかったという事例が語られ、行政間の判断の違いに戸惑う状況があったことが伝えられました。
長野県が「逃げ遅れゼロ」の取り組みをしていることを知らなかったという人もおり、もっと啓発してほしいとの要望や、「垂直避難を呼びかけられても、共同住宅で1階に住んでいる人は2階に逃げることはできず、いやな思いをしている」という声もありました。
各地区の発表のあと、長野市篠ノ井地区で活動している「なでしこ隊」と「寺子屋ダンディー」のみなさんが、被災を題材にした朗読劇を披露しました。
災害アーカイブ展2023年 – 信州大学教育学部防災教育研究センター (shinshu-bousai.jp)
防災士 ソーシャルライター 太田秋夫