災害時の子ども支援「子どものセーフガーディング」支援ネットワークが学習会を開催

長野市のどこで災害が起きても、すべての子どもとその家族に必要な支援を適切に提供する活動を目指している「長野市緊急時における子ども支援ネットワーク」は8月19日(土)、若里市民文化ホール特別会議室で「子どものセーフガーディング学習会」を開きました。

子ども支援活動時の「子どものセーフガーディングのための行動規範」の理解を深めるために実施したものです。

子どものセーフガーディングとは

講師は公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの金谷直子さん(チャイルド・セーフガーディンク・スペシャリスト)。内容はワークを通じて事例にそった対応の仕方を学ぶものでした。

参加者は、保育や教育にかかわる仕事をしている人たち、行政関係者、災害時の支援活動家など30名。5つのグループに分かれてのディスカッションも行ないました。

最初に自己紹介を兼ねて、仕事や暮らしの現場で見聞きしていること、日常のニュースに接して感じていることなどを参加動機と絡めて全員が発表しました。

金谷さんは話のヒントとして、子どものために働く立場の人が行なった、次のような事例に遭遇したことはないかを事例を挙げて質問しました。 

子どものセーフガーディングというのは、関係者による虐待や搾取など子どもの権利に反する行為や危険を防止し、安心・安全な活動と運営を目指す組織的取り組みのことです。支援者・指導者などによる虐待や不適切な行為としては、体罰、暴言・いじめ、性的行為、ネグレクト、私利私欲のための利用などがあげられています。

災害時の子どもの居場所でも必要な行動規範

災害時には、仮設住宅や被災した自宅の2階などで不自由な生活を余儀なくされる家庭が多く、子どもたちも保護者も精神的な不安を抱え、立ち直るまでに時間がかかります。子どもたちのサポートは不可欠であり、特に被災直後の避難所生活では、子どもたちに適切な居場所を提供することが求められます。

地元の子どもにかかわる団体やボランティアがその活動を担うことが多く、そうした現場でもセーフガーディングは必要になります。特定の団体だけでなく、いくつかの団体が連携し、また個人的なボランティアが入ることもあります。支援活動を進めるなかで、子どもたちの見守り以外のさまざまな団体との関りも出てきます。そこで「長野市緊急時における子ども支援ネットワーク」では、子どものセーフガーディングのための行動規範を設け、それを日常的に確認することで災害時に適切な活動ができるようにしました。

ネットワークが策定した行動規範は、「すべての関係者にとって許されない行為」として14項目、「子どもに接する際に留意する必要のあること」として9項目を明示しています。事務局が読み上げて、一つひとつ確認しました。(写真)

想定での判断を「行動規範に照らして考えてみる

文章化された行動規範を読んでも、どのように判断したらよいかの解釈は容易ではありません。講師が示した具体的な事例について、行動規範に照らして「違反する」「違反しない」「どちらともいえない」「わからない」を判断するワークをしました。

参加者はどのように判断したか指定のコーナーに移動する形で答えました。ほとんどの人が「違反する」とした想定もあれば、「違反する」「しない」で意見が割れたものもありました。また「どちらともいえない」「わからない」が多かったものもあり、そのときの状況や人によって判断が異なることが浮き彫りになりました。それは、行動規範の文章を読んだだけでは、実際に即して判断するとき容易でないことを意味する結果でした。

講師の金谷さんは、どのような理由で判断したか参加者に説明を求め、その上で、どの行動規範に該当し、どのようにとらえたらよいかを解説して行動規範活用の理解を促しました。参加者は学習会を通して学んでおくことの大切さを痛感したようでした。

現場での適切な対応についてグループで論議

災害時の緊急支援で子どもの居場所を設けたときの対応を考えるため、提示された事例についてグループで話し合うワークも行ないました。(写真)

たくさんのボランティアの応募があり、先着順に受け入れて行動規範を配って目を通しておくように伝えたというケース(シミュレーション2)については、きちんと事前にオリエンテーションや研修をすべきである、誰でも受け入れるのではなく事前に登録してもらい関係性を持ちながら行動規範についても周知しておくなどの意見が出されました。

保護者が日中は家の片付けなどに追われることを想定して活動することにし、その中でお昼ご飯を出すというケース(シミュレーション1)では、アレルギー体質がないかを保護者から聞いておく必要性が指摘されました。

だっこやおんぶをせがむなど大人に甘えてくる子どもがいる場合(シミュレーション5)は、特定の子どもだけに対応したり拒否したりするのではなく、「一人一回だけだよ」などと決めて公平にやったらどうかという提案がありました。

用を足したくなった子どもがいて少し離れたトイレに連れて行くとき(シミュレーション7)は、二人だけで行くのではなく、他の子どもにも声をかけてみんなで行くようにしたらどうか。子どもたちが情緒的に不安定でケンカしたり暴言を吐いたりしたとき(シミュレーション4)は部屋を分けたり遊びごとのコーナーで対応したりするとの意見がありました。マスコミや視察団が急遽立ち寄ってスマホで写真を撮ったり子どもに話しかけたりしてくる場合(シミュレーション8)は、断固拒否すべきとの意見が多数ありました。

スタートに先立つ準備が必要、行動規範を掲示しておくなどの提案もあり、このグルーブワークで子どもの見守り運営の大切なポイントの理解が深まりました。各グループで出された意見は発表し合って全員で共有しました。

ネットワーク立ち上げの背景と経緯

学習会を主催した「長野市緊急時における子ども支援ネットワーク」は、「長野市において、緊急時の子ども支援活動が効果的に行なわれるために、地域・分野・セクターを超えた関係者同士の連携を促進し、子ども支援の環境整備につとめ、子どもたちの権利を守ることに寄与する」ことを目指して活動しています。2019年10月の令和元年東日本台風(19号)のとき、北部スポーツレクリエーションパーク(長野市三才)の避難所で子どもの支援に関わった「特定非営利活動法人ながのこどもの城いきいきプロジェクト」が呼びかけて、子ども支援団体や行政関係者などと学習会や交流会を重ね、2023年2月に設立しました。

ながのこどもの城いきいきプロジェクトは避難所閉鎖後も休日に子どもたちの居場所を運営しながら、一時預かり・食事支援などの活動を進め、2020年4月から2023年3月までは子どもの居場所プログラム、リフレッシュプログラム、保護者支援プログラムの3本柱で被災地支援を継続しました。そうしたなかで、日常のつながりの必要性がクローズアップされ、このネットワーク結成へとつながりました。ネットワークは事業として、次の活動を展開していくことにしています。

1、 緊急時の子ども支援ガイドライン・コーディネーションガイドラインの策定と周知
2、 ネットワーク拡大に向けた活動
(1)交流会の実施
(2)保育所等の子ども関係機関への参画の呼びかけ
(3)企業への参画の呼びかけ
3、スキルアップのための活動
4、 緊急時の子ども支援コーディネーターの育成
5、 外部ネットワーク組織との連携

緊急時の子ども支援事業 – 長野 子育て支援 | NPO法人 ながのこどもの城いきいきプロジェクト

ネットワークでは、支援活動に参画するにあたって、団体も個人も、この日学んだ子どものセーフガーディングのための行動規範のすべてに同意してもらうことにしています。

今後の計画としては、2024(令和6)年2月12日(月・祝)に交流会「長野市における子ども支援ガイドラインワークショップ」を予定しています。

ソーシャルライター 太田秋夫