SDGsコラム29 イギリスのニート支援と課題

清泉女学院大学のアカデミック講座「欧州のセカンドチャンス教育から考える」の第3回目は、主催した同学院短大国際コミュニケーション科教授武田るい子教授。イギリスでは学校から離れ、しかも働いていない16から24歳の若者が約15%近いという。これを10%以下にすることが目標となっていると話す。

講義の様子(7月30日、清泉女学院大学長野駅東口キャンパスで)

筆者は1990年代初頭に英国留学の経験がある。日本社会に比べ「学歴」が進学や就職で、いかに重要視されるかを当時、肌で感じた。今も高校の修了資格GCSCでAレベルというハイランクの成績を取らないと大学に進学できないという厳しいルールが根底にある。高校への進学は85%を越えているが、18歳で大学に進学するのは約3割程度だ。

工場での労働者や職人が市民権を得ていた階級社会そのものが崩れ、現代では中高での学習レベルが低いと、働くという道も狭くなる現実がはだかる。オクスフォードなど世界最高レベルの大学教育の舞台裏では、SGDsの柱である誰一人取り残さない教育の整備が大きな課題だ。

政府が、不登校をできるだけ早い時点で把握し、セカンドチャンスのための教育制度を整備。注目なのは「独立系公立学校」が増えているということ。NPOも含め多様な団体が運営する高校教育機関。画一的な教育ではなく、個性を伸ばすなど、学校自体の多様化が進んでいるというのだ。しかも校舎などの設備を政府が負担、学費も無料だ。

武田さんはセカンドチャンス教育に関する研究者たちの共著「教育機関保障の国際比較」の第3章を執筆。このなかで、障がいや病気、精神疾患をもつ若者の多くが教育機関に参加できずにニートになってしまうとも推測している。スライドで2020年に現地訪問した16から24歳対象教育センターの様子を紹介。少人数グループ制を取り入れ、バスの乗り方など生活スキルから教えているという。発達障がいの子も目立ち、農場や美術館などでのワークなど柔軟で楽しい雰囲気がうかがえた。

課題と感じたのは日本と同様、一旦家庭に引きこもってしまった当事者との接点の取り方、そして教育から就職へのスムーズな橋渡しが必要となる。

労働人口比率や働き方を含めた社会構造が変化するなかで、教育がスピード感を持ってどう対応して行くのか。この課題は日本と変わらない。

2022年8月30日長野市民新聞コラム掲載 執筆:寺澤順子(ナガクル編集デスク)