性、命、人権—“ちいばあ”のひとり人形劇と、故中村哲医師を知り「命」を考える

ブルースカイ(登校拒否を考える親と子の会)」は5月14日(日)、ひとり人形劇「がらくた座」を主宰する、松本市の木島知草さん(ちいばあ)を招き、「ちいばあの人形劇と命のお話」と「中村哲さんを伝える会」を開き、計100人が参加しました。

「ブルースカイ」は1990年、不登校の子どもを育てる母親仲間と共に、代表の松田恵子さんが不登校だった長男と立ち上げました。

自宅の玄関に毎年巣をかけるツバメの子を守る親の姿、巣立っていく子の姿を見て、こんな風に安心安全の場から(社会に)飛び立ってほしい―ブルースカイの名はそんな思いが込められています。

不登校の子どもたちと親たちが安心して過ごせる居場所を作ろうとスタートし、今年で33年目。

毎月1回、長野市障害者福祉センターで例会と親の会を開いています。例会では、子どもたちはスポーツで体を動かしたり、ゲームをしたり、好きなことをして過ごし、親の会では親たちが悩みを語り合います。

会場となった長野市松代の「秘密基地アトリエwanaka」

「ひとり人形劇」で楽しく伝える「性」「命」「人権」

昨年、飯綱高原で開かれた「中村哲さんを伝える会」で、約20年ぶりにちいばあに再会したという松田さん。

かつて長男の不登校で悩んでいた時に出会い、ブルースカイにも来てもらい人形劇をしてもらったそうです。
「そのときは、とても元気をもらいました。中村哲さんのことを知りたくて、昨年話を聞きに行って、ブルースカイでもぜひやりたくて、知草さんにお願いしました」

松代の若い世代の母親がスタッフとして助っ人に入ってくれたため、今回、中村哲さんを伝える会と、人形劇と命のお話、両方の開催が実現しました。

がらくた座は、木島さんが人形と対話をしながら行う「ひとり人形劇」。

「ちいねえ」が「ちいおばさん」に、そして「ちいばあ」に進化して今年で52年目になるそうです。

木島知草さん“ちいばあ”

人形劇と命のお話には幼児から大人まで、76人が参加しました。

古いストッキング、着古した子どものパジャマなど、文字通り「がらくた」に命が吹き込まれてできた人形たちは舞台上で、観客の子どもたちのリアクションに呼応しながら、生き生きと動きます。

手袋人形の「あかちゃん」と「きいろちゃん」の楽しい掛け合いでは、命は決して比べることができない、全ての人間は「たった一人の大事な存在だ」ということを自然に感じさせてくれました。

あかちゃんときいろちゃん

木島さんは、未就園児の親子教室や幼稚園・保育園、小中高校、大学など、全国を訪れ、命の誕生と性の大切さ伝える公演を長年にわたり行ってきました。

子どもに起こる暴力に対して、「いやだ」「やめて」「たすけて」をはっきり言葉にすることの大切さも、子どもたちに伝えます。

人形を使って命の誕生を伝える

性の話を社会や大人が恥ずかしいこととタブー視してしまうことで、歪んだ情報に惑わされ、子どもたちは性にまっすぐに向き合うことや、自分の命や体や性を学ぶこと、知る権利を奪われてしまいます。

楽しい人形劇の中で木島さんは、性や人権、命のことも盛り込んで、子どもたちの素直な心にオープンに伝えています。

1990年頃から、子どもへの人形劇だけでなく、大人への話もするようになりました。

「大人が学び伝えていかなければ、『人形劇が面白かった』で子どもの記憶から消えていきます。日常生活で子どもに話せる大人を育てたい」

木島さんはそう話します。

中村哲さんにも共通する「命の話」

午前中に人形劇と命のお話を行い、午後は木島さんが語り部となり、「中村哲さんを伝える会」を行いました。

中村哲さんの話をする木島さん。東京の公益財団法人「ジョイセフ」が進める、使い終えたランドセルをアフガニスタンに贈るプロジェクトにも協力している

医師である中村さんは、PMS(ピース・ジャパン・メディカル・サービス)を設立しアフガニスタンで貧困層への医療支援をしながら、干ばつに苦しむ人々を救うために、自ら設計図を引き、用水路建設を行いました。

銃撃されて亡くなったと2019年冬に届いたアフガニスタンからの訃報には、多くの人が衝撃を受けました。

2002年、木島さんが神戸の大学生への講演に招かれた際、同じ控室で出会ったのが中村哲さん。ここで、中村さんのアフガニスタンの地での活動を知ったのだそうです。

中村哲さんについて書かれた書籍

1983年に結成された「ペシャワール会」は中村さんのパキスタンでの医療活動を支援する目的で結成された国際NGOですが、中村さんが亡くなった後もペシャワール会は消滅することなく、木島さんのようにその活動を語り継ぐ人たちの草の根活動が広がり続け、会員数も寄付金も少しずつ増えているそうです。今回の参加費も全てをペシャワール会への寄付金としています。

「彼の生きざまから学ぶことがあります。自分の日々の暮らしの中で、哲さんの魂を生かすことができる。死をただ悲しむのではなく、この魂の一つでも引き継いで身の回りのことからやっていきたい」と木島さん。

伝える会では、中村さんの長年の活動をDVDで振り返り、参加者は映像を通して感じたことを共有しました。

参加した中学生は「2019年にニュースを聞いたときは小学生だったから深く考えられませんでした。自分の命を危険にさらしても人のために活動した中村さんのことをもっと知りたいと思いました」と関心を寄せました。

木島さんは「犠牲になって身を捧げたというだけでなく、現地で共に汗を流して働くことの喜びと幸せもあったから、他者を尊重できたのではないか。心の豊かさとは、幸せとは何か、家族とぜひ話してみてほしい」と参加者に語り掛けました。

ブルースカイ代表の松田さんは「人形劇も、哲さんの話も、どちらも『命』の話。参加してくれた人が少しずつ、つなげていけば広がっていくはず」と、結びました。

<取材・執筆> ソーシャルライター 松井明子

ブルースカイの例会・親の会(毎月第3水曜日・長野市障害者福祉センターで開催)はいつでも参加できます。

会員以外の参加は1人1回につき参加費500円

問い合わせ先:026-278-7223(松田)