オンライン交流で復興の勇気を!長野市と丹波市の被災者間で

長野市と丹波市(兵庫県)の被災地間交流が1月20日、Zoomを介して行なわれました。
交流したのは、令和元年東日本台風(19号)によって千曲川の堤防が決壊して甚大な被害を出した長野市長沼地区の住民。そして2014年に被災した兵庫県丹波市で復興まちづくり活動に取り組む「ぽんぽ好」(ぽんぽこ)のメンバーです
被災者同士であるからこそ分かり合える面があり、和やかなやりとりの中で、コロナにもめげずに取り組む復興の歩みに勇気が湧いたようです。

兵庫県丹波市は2014年に土石流と洪水の被害に

丹波市は京都府福知山市に隣接し、兵庫県の東部に位置しています。7年半前の平成26年(2014年)8月、記録的な集中豪雨に見舞われ、土石流や洪水で大きな被害に見舞われました。24時間雨量が450ミリ、1時間雨量100ミリに達し、死傷者5名、全壊~半壊69棟、一部損壊954棟の被害が出ました。人工林の手入れが十分でなかったのが原因と言われています。

丹波市の位置
丹波市豪雨災害復興記録誌より転載

炊き出し活動をきっかけに発足「食で地域に元気を!」

「ぽんぽ好」は、特に被害の甚大だった市島地区で活動する女性プロジェクト(現在、メンバー7名)です。お弁当を作り、地域の高齢者を中心に配食しています。「食で地域に元気を!」と取り組んでおり、高齢者が孤立することなく安心できる地域をめざしています。

きっかけは、被災直後の炊き出しでした。ログハウス「ひなたぼっこカフェ」が災害ボランティアの拠点になり、無料ミニ喫茶を開設するとともに、断水集落へおでんや冷や汁、ごはんなどを提供しました。このボランティア活動に参加した人たちが1年半後の平成28年(2016年)1月に「ぽんぽ好」を立ち上げました。

災害後、多くの人たちが被災地を訪れるけれど食事をする場所がない、いつだれが来てもおもてなしできる処があればいいなあと考えて始めたそうです。「おかげさまで」の気持ちを伝えたいことから、「食の場を通じて交流したい」との願いを抱きました。そして、地域の人たちへワンコイン弁当(500円)を提供(現在は約30食)するとともに、イベントへの出店などもしています。

最初はメンバーが1万円ずつ出資してスタート。これを材料費に当て、食器類は持ち寄りました。地元で採れた野菜を使って調理し、バラエティーに富んだ内容です。「おいしい」と評判になり、口コミで弁当を頼む人たちが増えていったとのことです。

山古志村を視察して刺激受ける

長沼地区への提案を聞かれると、「ぽんぽ好」のみなさんからは、専門的な情報を持っている外部のアドバイザーの重要性が語られました。丹波市では、各地の被災地へ入って助言をしている大学の教授などが支援に入り、活動の方向づけが得られたとのことです。丹波市の被災地と他の被災地とつないでもらったのです。とくに、地震で大きな被害を被った新潟県の山古志村と交流が大きな力になったようです。山古志村へ視察に出向き、そこで女性が頑張ることの大切さを知り、大きな刺激を受けたと言います。被災地間交流の意義が理解できるお話でした。

平成16年(2004年)10月23日の新潟中越地震は震度7、マグニチュード6.8を記録し、死者68名、重傷者632名、軽傷者4,163名を出した。全壊家屋は3175棟に上っている。山古志村(現在は合併して長岡市)は当時人口2,107人だったが、2011年には1,292人に激減している。村の復興事業としてアルパカ牧場を作り観光に力を入れている。

(写真は地震で被災した山古志農泊推進協議会のHPより)

現在の市民のみなさんの被災地への関心について問われると、「ぽんぽ好」のみなさんは「自分たちは被災して飲み水がないこと、電話や電気が使えないことがどれだけ大変かを体験してわかった。でも、やはり同じ市民であっても体験していないと忘れ去られる危惧がある」と話しました。それは長沼の人たちとの受け止めと同じで、被災者としての気持ちを共有したようです。

復興のめどは7年経ってもつかない現実

丹波市は被災から7年以上経過しています。長沼地区の人たちがぜひ知りたかったことがあります。「復興できたと感じたのはいつごろですか」。どのくらいの期間で復興といえる状態になるのかは、長沼の人たちにとって大きな関心事です。

これの質問には、「建物などのインフラや山がコンクリートで対策されるなどハード面の復興は進んでいるけれど、みんなで話し合いながら決めていかなければならないことはまだまだ」との説明でした。

長沼地区の人たちがどうしても知りたかったことのもう一つは人口の減少についてでした。被災後、再び被災する恐れから地域を去る人が少なくない状況で、長沼は人口が減少しています。とくに堤防決壊場所に近い津野区では74世帯あったものが40世帯弱になりそうです。

長沼地区で復興の活動を進めている津野復光隊女子会の代表のWさんは、その「現実」を説明しながら「高齢化が進んでいて、地域のコミュニティをこれからどうすればよいか心配していました。それは10年くらい先のことかなと思っていました。それが今回の被災で一気にそのような状況になってしまったんです」と窮状を訴えました。「ぽんぽ好」が活動する丹波市市島では地域のつながりもあり、「ここにいないと、この景色は見られない」と地域が恋しくなって帰って来る人もいたとのことでした。Wさんは「人口が減る中で、どう活動していくか女子会として話し合っている」と現状を説明しました。

「ぼんぽ好」のみなさん
「ぼんぽ好」のみなさん

官民協働と外部の力が不可欠

「官民協働のまちづくり」の面では、丹波市では行政が主体ということではなく、民間団体とパートナーシップを組んで復興させていく枠組みがあるとの説明がありました。

今回のZoomによる被災地間交流は、被災地の支援活動をしている「SEEDS Asia」が「これからのまちを考える復興リレー講座(第9回)」として実施したもので、「人口が少ない地域では、高齢化が進む町であればあるほど、外とのつながりをいかに作り出し発展させるかが、地域の持続性を保つ上で欠かせない視点」との指摘がありました。

拠点(集まれる場所)がなんといっても必要

交流会には長沼地区住民自治協議会の山嵜里司会長や復興対策企画委員会の柳見澤宏委員長が参加していました。柳見澤さんは「集まる場所が必要であることを実感した」、山嵜さんは「女性のみなさんが元気であることに尽きる」と感想を述べました。

集まる場所について「ぽんぽ好」のメンバーからは、民間の場所で活動できたことがラッキーだったとの説明がありました。「公民館など行政の管理する施設だと、やりたいことでできないこともあり、続かなかったかもしれない。個人の持ち物で人が集まるお店の場所を拠点にできたことが利点だった。行政とは離れてもダメだが、距離感を大事にすることで長続きできる」と率直な意見が出されました。

「ぽんぽ好」のみなさんの話から、女性のみなさんが復興の先頭にたって意欲的に活動することの意義が強く感じられる交流の内容でした。しかし、「ぽんぽ好」の活動は女性中心の活動ではあるけれど、メンバーの夫や若い人たち、子どもたちも巻き込んでの活動になっているとの話も出されていました。

津野復光隊女子会のみなさん

地域内外への情報発信が必要

長沼地区で被災当初から支援活動をしているホープアップル(穂保被災者支援チーム)のメンバーも参加しており、Kさんは「被災地以外の住民は、すでに復興が終わっているとの認識の人が少なくない。学生30人ほどがチームの活動に参加しているが、みなさんは現地に入って初めて現状がわかったと話している。外部への情報発信がとても大事ではないか」と提案をしました。

これについて「ぽんぽ好」では、学校の子どもたちに被災の話をしたり、ツアーのイベント(お米の収穫と餅つき、シイタケ栽培など)を実施したり、シンポジウムへの参加で報告するなど様々な形で地域外の人たちに理解してもらうようにしているとの説明がありました。

長沼地区では、住民が自主的に立ち上げた津野復光隊や住民自治協議会の集落支援員、支援団体のHope Appleなど、さまざまなグループや個人がフェイスブック(SNS)などで情報を外に向けて発信しています。そうした活動の様子が語られるなかで、「全国の人たちが見てくれてはいるものの、むしろ地域の住民に向けた情報提供と理解が必要になっている」との発言もありました。(SNSリンクを末尾に掲載)

スタディツアーの一例

夢を語ろう、声に出そう!

交流は2時間におよび、まとめで「ぽんぽ好」代表の今井頼子さんから「寂しいなかで過ごすのはイヤなので、被災のピンチをチャンスに変えようと取り組んできた。すぐには何もできないけれど、いろいろな人に聞きに行ったり、見に行ったりして、自分たちに何ができるかを考えながらここまできた。みなさんも、大変と思うが、それぞれの生活と町の将来を、仲間がいるのであるから話し合ったり協力し合ったりして頑張ってほしい」と激励がありました。

他のメンバーからも「楽しいことをしよう、夢を語ろう、声に出そう、そうすれば実現するからと言い合いながら、今日まできた」「自分を元気にし、仲間の輪を大事にして進んでほしい」とのメッセージが伝えられました。

価値観を共有して共存共栄へ

丹波市は大納言小豆や黒豆が有名な地域。長沼はりんごや桃などの果物の産地。おいしい物を交換し合いながら、いつか直接出会えることを楽しみにしようと約束し合いつつ、交流を閉じました。

丹波市では「被災地間交流」に大きな可能性を見出しています。当初は他の被災地を訪れて災害状態の紹介や励まし合うという程度の視点でしたが、山古志地域との交流が進むなかで、人の行き来や農畜産物の相互購入が盛んになりました。新潟のカップ酒を販売する店が丹波市に現れたようです。

そうしたことから、丹波市では、被災地間での共感形成ができていることから、「地域が持っている資源、環境、伝承文化、歴史、ふれあいなどを他地域の人々に提供し、地域振興、地域活性化などを共存共栄の形で実現できる。観光客を誘引できる資源を持たない地域であっても、一次資源(地域資源)から二次資源(体験・実経験)、三次資源(人・交流)まで融合した価値観を共有することが可能である」(丹波市豪雨災害復興記録誌)としています。

次の交流につながることを約束し合って…

この日のZoomによる交流は、価値観を共有した復興への道程の出発点になったようです。

〈フェイスブックのリンク〉

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長沼でつながろう、長沼をつなげよう | Facebook (2) 長沼でつながろう、長沼をつなげよう | Facebook

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取材・執筆 太田秋夫(ナガクルソーシャルライター、Hope Apple代表)