参加者の8割が「1~2年以内に居場所やカフェを立ち上げたい」と答えた講座

「居場所」は社会的孤立を防ぎ、人間性を回復するサードプレイスとして、また「市民参加の場」として昨今注目されています。しかし、いち市民が居場所を立ち上げて継続していくには、ヒト・モノ・カネといった大きなハードルがあります。

「居場所をつくりたい」という思いはあるけれど、実際にどうしたらよいのか分からない。
そうした想いを持つ方のための講座が長野市で開かれました。

2022年11月26日から12月4日までに開かれた「心地よい関りが生まれるカフェのつくりかた」は、居場所をこれから立ち上げようとしている個人・団体に向けて、講座とインターンを全3日間にわたって行いました。

開催を案内したちらし

参加者は長野市内をはじめ、長野県北信の飯綱町や南信の阿智村などから計8団体で11名。それぞれが居場所やカフェづくりに対する想いを持った多種多様な方々。

メイン講師は、森祐美子さん。横浜市戸塚区で子育て支援の居場所カフェ「こまちカフェ」を運営する認定特定非営利活動法人こまちぷらすの代表理事です。

明るい笑顔が印象的なこまちぷらすの森さん

第1講座「なぜ、なんのためにカフェを」~原点と構想を言語化しよう~

「こまちカフェ」の運営に関わる話を聞いたうえで、各自の「原点」(なぜ居場所をつくろうと思ったのか、そのきっかけと核にある想いなど)と「構想」(どのような居場所をつくりたいかなど、その居場所があることでどんな社会をつくりたいのか)を言語化していきます。

参加者がペアになって、事前課題として用意したワークシート「ライフヒストリー」を互いに発表し合いました。シートには、自分の性質や性格、過去にあった体験やエピソード、きっかけになった出来事などが曲線グラフで書き出され、「居場所をつくりたいと思った原点」を明確化して深堀することができます。

互いの原点と構想をアウトプットし、対話を重ねることで自分自身の理解度も上げていきました。

講座はオンラインで行われました

第2講座「どんなカフェをつくりたい?」~やりたいことタマネギで具体化しよう~

「居場所をつくりたいと思った原点」は、迷ったり悩んだり、つまずいた時に、戻る場所。居場所を立ち上げる際の「コア要素」にもなります。

「やりたいことタマネギ」というワークシートを使って「Why(想い)」→「How(構想)」→「What(事業)」→「How(運営)」の順に書き込んでいきます。

どんな居場所にしたいか。具体的な内容(飲食?雑貨?スペース貸し)や組み合わせ、収支、規模感などを団体内で相談して考えていきます。

具体的に言語化できたところで発表し合い、他の参加者から感想や意見をもらうワークを行いました。ニーズを調査したり、ほかの居場所やカフェに足を運んだりしながら、自分の「想い」を表に出すことで「志縁づくり」にもつながっていくことを学びました。

インターンシップ~ワンデイこまちカフェ体験~

長野市松代町にある有形文化財「寺町商家」を借りて、居場所での実務を体験する「ワンデイこまちカフェ」を開催しました。

お客様は、事前にインターネットなどの広報で集まった「お客様役」の方々。
講座参加者が「接客」と「キッチン」の二手に分かれ、接客担当のキャストはお客さまとの関わり方や接し方を実技し、キッチンではドリンクの作成やケーキの盛り付けを行いました。

この日は、今までのオンラインと違って、スタッフや参加者同士がリアルで初の顔合わせ。同じ場所で、同じ実務研修を行うことで現在進行中の悩みや感想、共感を呼び、さらにお互いを深く知り合うことで「居場所やカフェを開きたい」という同じ志を持つ者同士の気持ちが打ち解け、互いにメンター(良き指導者、優れた助言者)のような存在になっていました。

第3講座「どのようにカフェをつくる?」~事業展開と収支計画を具体化しよう~

つくりたい居場所を、どのように形にしていくかを考えました。
場所を借りるときに考えるべき優先順はなにか?
仲間や協力者をどのように見つけ、人を集めるときの関わり具合は?
事業展開の進め方と時間軸の捉え方は?
資金調達の方法は?
収支計画が伴っているか?
などについて、こまちカフェでの苦労話も交えながら、現実的な話しを聞きしました。

第4講座「心地よい関わりを生むために」

こまちカフェの事例を聞きながら、居心地のよい関わりの設計に欠かせないことを考えました。
自分だったらどんな設計をしたいか?
自分たちが持っている場所やネットワークなどの資源を整理して、できていることや個人で考えていることを明確にしていきます。

なにかをやるきっかけや関係性を生み出すためには、多様な入口をつくることが重要だけれども、大変さも伴うこと。共感を得るためには、お客様であっても理念の共有や関わりしろを残しておくことも大切だということ。スタッフの価値観をお客さんに押し付けず、あえてマニュアル化しない部分を持つことで、常に問い続けながら「心地よい関わり」をつくり上げていくことが、チームや関係性を築き上げていくことにつながっていくのだと学びました。

参加者の「やる気」を後押しした講座

3日間にわたるプログラムには、具体的な事例を交えた話と、想いと考えを深堀して言語化するワーク、参加者同士の発表と意見交換に、ワンデイこまちカフェでの体験など、実践に役立つ内容が凝縮されていました。

はじめは「どのようにしたら?」とモヤモヤ感をもっていた参加者たち。
終了後のアンケート(10段階で、1がもっとも不満で10がもっとも満足)では、
◇3日間の講座とインターンを通して「居場所のイメージ」は参加前より具体化できた⇒8.7
◇居場所づくりに向けて、具体的なアクションをとりたいと思った⇒8.9
といずれも満足度が高く、参加者の8割が「1~2年以内に、居場所やカフェを立ち上げたい」と答え、「すぐにでも実行したいという思いが強くなった」「有意義な時間と仲間づくりにつながった」と感想を寄せています。

参加者とスタッフで「心地よい居場所をつくろう」と想いを一つにした瞬間

心地よい居場所を全国各地に

講座を主催した認定特定非営利活動法人こまちぷらすは、「子育てをまちでプラスに」を合言葉に、子育てが「まちの力」で豊かになる社会をめざして活動しています。
そのひとつが、地域での居場所となるよう、つながりや仲間を得たり相談できたりする関係性が築けるよう運営する「こまちカフェ」。一度は足を運びたい場所です。

そして、誰もが自由に足を運べ、参加できる余白や誰かとつながるきっかけを兼ね備えた「心地よい関りが生まれる」居場所が、他地域でも立ち上げやすく続けやすくなるよう、ノウハウの共有や学び合いをする講座を行っています。

県外へ出ての講座は、今回の長野が初開催。特定非営利活動法人長野県NPOセンターと長野市市民協働サポートセンターが共催して、長野県内で居場所の立ち上げを検討している人へ後押しを行いました。

講座では、こまちぷらすで実際に使っている帳票類なども提供され、誰もがそれを使ってマネができることで、全国に居場所の輪が広がることを願われていました。
また、帳票類のように「マニュアル化できるところ」と、「そうでないところ」をあえてつくることも重要で、「決まった型で接客しないこと」でお客さまとの関わりが生まれるのだと言います。話したり迷ったり考えたりする余地をあえて残しておくことで、それに対する答えがないことを問い続け、みんなで考えることによって全体の成長にもつながっていくのだそうです。

受講された方々は、どのような居場所をつくられるのでしょうか。心地よい場所が長野県内に増えることが、とても楽しみです。

<取材・写真>田中一樹 <編集>吉田百助

認定特定非営利活動法人こまちぷらすのサイト