居場所づくりから仕事づくりへ
10年ほど前に家族で信濃町に移住し、3人の子育てをしてきた出浦洋子さんは、2019年12月にNPO法人ライフワーク・レインボーを設立しました。
これまで発達障害がある3人を育てきて、子どもたちのことを学校にどう理解してもらったらよいのか、どうしたら安定して子育てができるのかと悩んできたという出浦さん。親の会である「ふくろうの会」、私設の図書室を作って学校に行かれない子の居場所づくりをする「みみずくの会」の活動を通じて、同じように悩む母親仲間たちと支え合ってきました。
「居場所の活動をする中で直面していたのが、『大人になってから安心して働ける場がすごく少ない』ということです」
出浦さんは、福祉事業所に行くほどではないが一般の企業に就職するのは難しい子どもたちが、制度のはざまに落ち、苦労する姿を見てきました。 学校や周りの環境に恵まれないまま大人になった子たちは、元気に働く力をもち続けることが難しい。そういう子たちでも少しずつ、一歩ずつでも働いていけるような場所を作りたいーと、就労の機会を作るために、仲間たちとライフワーク・レインボーを立ち上げました。
薬草栽培事業をスタート
子どもたちの将来の就労につなげようと行っている事業の一つが薬草栽培。
合計で約2アール(60坪)ほどの遊休農地を借り、昨年から、胃薬の原料になるセンブリのほか、キキョウ、ハッカなどを育てています。
薬草は栽培が難しく、野菜と違って収穫までに2年以上かかるものも多いため、収益になるまでに時間がかかります。
信州大学農学部元特任教授で、公益社団法人東京生薬協会の薬用植物国内栽培事業委員長の小谷宗司さんとの出会いがあり、様々なアドバイスをもらいながら育てています。
薬草は乾燥させた状態で数百kgなど、大きな単位でしか買い取ってもらえないことから、小規模での参入が難しい仕事です。しかし小谷さんは、各地の産地を生産組合のようなかたちでつなぎ、小規模でもできるようなネットワークづくりをしています。
このほか、高齢になった町内の農家の甘茶や杜仲の栽培管理を引き受けています。
信濃町では特産である甘茶とともに、杜仲茶の杜仲が各地で栽培されています。いずれも高齢化で畑の担い手が減っており、仕事づくりの活動と共に、地域の産業を守っていくことにもつなげていきたいと考えているそうです。
地元企業の株式会社黒姫和漢薬研究所と連携し、ライフワーク・レインボーが栽培から収穫、納品までを請け負っています。
今年から大豆栽培も始めました。大豆は、育てるのが比較的簡単で、薬草に比べて短期間で収穫できます。収穫後は、欠けているものや虫食いのものなどをはじいていく、集中力のいる選別作業をしなければなりませんが、特性によってそうした作業が向いている子たちもいるのではないかと考えて試みています。
「農福(農業と福祉の)連携が全国で進められていますが、いろいろな福祉事業所で『農業で土に触れてしっかり体を動かして毎日を送っていると、みんな元気になっていく。まずは農業で健全な精神と身体を取り戻し、そこから自分のやりたいことを伸ばせればいい』と言う方が結構いらっしゃいます。農業が不向きな方もいますが、たとえ1時間でも2時間でも土に触れてから自分の作業に入れるといいなと思います」
平日の畑の管理は大人たちがボランティアで行っています。夏期は、晴れていれば草取りなどでほぼ毎日畑に出ているそうです。
週末は、放課後等デイサービスに通う信濃町や飯綱町の高校生などがお手伝いに来ます。
全く初めての人や場所ばかりの環境に飛び込むのは、発達障がいの子たちにとって、とてもハードルが高いことですが、ライフワーク・レインボーの仕事をお手伝いしているのは、出浦さんをはじめとしたスタッフとつながりのある子たち。安心できる環境で将来の就労への準備として、自分のペースを大切にお手伝いに参加しています。実際にアルバイトとして雇うところまではまだ軌道に乗っていませんが、高校生たちに仕事をお手伝いしてもらったら謝礼を支払っています。
薬草栽培事業のほか、株式会社ツチクラ住建と連携してのナチュラルハウスクリーニング、株式会社カンマッセいいづなの移住体験施設の清掃や芝の管理など、地元企業の賛同を得て、仕事づくりをしています。仕事づくりのほかに、今年4月からはフリースクール事業も始めています。
「全員をひとまとめで考えるには多様すぎるので、やり方がなかなか難しい。一人ひとりに合った形で、本人も納得する形で進めています」
一人ひとりの個性と向き合い、試行錯誤して仕事を進めています。
すべての人に「居場所」と「出番」を。どんな人も自分の生き方に「YES!」と言える人生を!
出浦さんは「福祉事業も大事だけど、大人になったら起業して得意なことを伸ばしていってほしい。私たちは、彼らが得意でないこと、たとえば事務、お金の計算、会社とのやり取りなどをサポートして、彼らが自分の足で立てるように対等の関係で一緒にやっていかれたらいい」と思い描いています。
「自分を変化させ続ける、挑戦させ続けるには、母体に無償の愛があって安心があることがすごく大事。安心安全な居場所とその子の出番、役割を作っていきたい」
まだ一歩踏み出したばかりの就労支援活動ですが、全ての子が自分の生き方に『YES!』と言える人生になるように―と、その理念へ共感する人たちの温かい輪が広がっています。
NPO法人ライフワーク・レインボー
〒389-1314 長野県上水内郡信濃町穂波1446番地
TEL 080-1460-1536
取材:2021年6月29日 ライフワーク・レインボーの畑にて
文責:ソーシャルライター 松井明子