軽井沢町の町民が集う「ちいき活動みほん市」の魅力とは?

軽井沢町は日本有数の避暑地であり、長野県民でなくても訪れたことのある人は多いはず。

しかし、その土地で暮らし町をよくしようと奮闘する人たちがいることを知っているでしょうか?

2023年6月18日に軽井沢町中央公民館 大講堂で開催された「第11回 ちいき活動みほん市 盛り上げようKARUIZA輪」。これは軽井沢町や周辺の地域をホームとしたボランティア活動や市民活動の発表会です。

入場無料で誰にでも開かれたこのイベント。その魅力とは?

手話ソングからはじまったイベント

「多くの人が楽しめるように」と実施された手話ソングのレクチャー

オープニングは歌から。聴覚障がいがある人とも一緒に楽しめるように手話ソングでした。

披露された曲は『手のひらを太陽に』と『小さな世界』。手話に慣れていない人も多くいるため、はじまる前にはレクチャーもありました。

手話を真似する人、一緒に歌う人。思い思いの楽しみ方でイベントがはじまりました。

喫茶スペースの周りに広がるブース展示

多くの来場者で賑わう会場

「今回のちいき活動みほん市では、ブースの並べ方を変えたんですよ」

そう話してくれたのは実行委員の髙尾 幸男(たかお ゆきお)さん。

髙尾さんは軽井沢町社会福祉協議会にボランティアとして参画しているほか、このイベントの実行委員も務めています。

髙尾さんは言います。

「前回までは展示物を貼ったパネルが一列に並び、それが複数列ありました。今年は展示パネルの並びを変えることで、会場に一体感を持たせました」。

今回の展示では中心に喫茶スペースを設置し、放射線状にパネルを並べました。パネルを見たあとは一度中央の喫茶スペースを通る。疲れたら休むこともできるし、そこで会った人との交流も楽しめる。そして、また次のパネルを見に行くというハブの役割を喫茶スペースが担っているのです。

喫茶スペースで休む来場者

他にもこれまでになかった取り組みを教えてくれた髙尾さん。

「今回は軽井沢町(役場)も出展しています。軽井沢町民がどのように活動しているか知るために、軽井沢町役場の職員も参加しています」。

たしかに軽井沢町のブースもあり、町が認定するボランティア団体に活動資金を助成する内容を展示(審査あり)。

「他にもトピックスがありますよ。生まれたばかりの団体も、今回イベントに参加してくれています」。

嬉しそうに話す髙尾さんからは、軽井沢町や地元で活動する人たちへ向ける思いが伝わってきました。

軽井沢らしい展示の数々

髙尾さんが紹介してくれた団体も含めて、パネルを展示している団体に話を聞きました。

外国人とのつながりを。「共生ネット佐久・軽井沢日本語教室」

共生ネット佐久・軽井沢日本語教室 事務局の山室さん

海外から日本にやってくる技能実習生。制度の本来の趣旨は「外国人に技能を身に着けてもらい本国へ戻った後、その技術を生かして本国の発展に寄与すること」ですが、いつの間にか不足する日本の労働力として捉えられている一面があります。

中には家(寮)と会社の往復だけで1日が終わり、なかなか会社以外の人とコミュニケーションを取る機会がない人もいるといわれています。

そのような人のために、人間らしく過ごせる場所を提供しているのが「共生ネット佐久・軽井沢日本語教室」です。

「外国籍の住民も私たち日本人と同じ」と提言する展示

事務局の山室さんは言います。
「この団体を立ち上げたのは2022年。仕事以外に人と関わる機会が少ない外国人労働者の方に、日本の暮らしを楽しんでほしいと思っています」。

山室さんは週1回、佐久市の望月地区で日本語教室を開催。現在、生徒はフィリピン人が3人。日本語を教えるスタッフもいて、生徒は楽しく通っているそうです。

「遠くの国から日本に来るだけでも大変なこと。そういった人たちが安心できるコミュニティを作りたい」と、力強く話していました。

診療所発信のコミュニティ!?「ほっちのロッヂ」

ほっちのロッヂの澤さん(左)と三浦さん(右)

地域住民が気軽に参加できるコミュニティが増えている今。しかし、診療所がベースとなったコミュニティはとても珍しいものです。

軽井沢町の発地(ほっち)という地区で診療所がベースとなったコミュニティを作っている「ほっちのロッヂ」。軽井沢町の子どもと診療所をつなぐ役割を担っている澤さん(写真左)から話を聞きました。

「通常、医療は施す側(医者)と施される側(患者)にわかれてしまいます。しかし、うちはそんなことはなく、双方向の支援で成り立っています」。

診療所なのでもちろん現役の医師も所属。そのため、在宅医療、病児保育、訪問看護ステーションという、通常の診療所と同等の機能も持っているそうです。三浦さん(写真右)は医師として活動している一人。

「町の人と一緒にみんなで幸せになりたい。町の人に喜んでもらえるとうれしいですね」と三浦さんは話していました。

楽しそうな活動の展示

診療所なのに映画鑑賞会を開いたり、診療所なのに軽井沢町在住の演出家と一緒に表現のワークショップを開いたり。

とにかく二言目には「診療所なのに」とつっこみたくなるような、楽しいイベントが開かれているそうです。

澤さんは言います。
「軽井沢には素晴らしい文化やくらしがあります。私たちはそれらを守るお手伝いをしたいと思ってやっています」。

今後なにかを変えていくのではなく、今あるものをずっと守り続けていく。
ほっちのロッジには、そのようなささやかな幸せがあるのかもしれません。

「ほっちのロッヂ」のHPはこちら

趣のある ほっちのロッヂ の看板

バーチャルではなく、リアルの面白さを。「メカトロニクス教室軽井沢」

メカトロニクス教室軽井沢のメンバー。話をしてくれたのは理事長の多田さん(右端)

人の声でにぎわう会場の一角に、ミニ四駆に使うようなモーター音を響かせる団体がありました。団体の名は「メカトロニクス教室軽井沢」。

ゲーム機のようなコントローラーで動かすのは、自作の運搬ロボット。荷物に見立てたブロックを、指定された枠の中に入れるゲームのようです。

まずは動画をお楽しみください。

「小中学生を対象としたロボット教室をやっているんです」。

話してくれたのは理事長の多田さん(写真右端)。

「毎年参加してくれる子もいますね。年々操作の腕が上がっているのを見るとうれしくなります。5年以上かかってやっと勝てた、という子もいましたね。子どもって意外に根性があるものですよ」。

点数制のため、勝敗がはっきりとつく競技。そのルールが子どもたちの心に火をつけるそうです。そう嬉しそうに話していました。

ロボットの操縦に熱中する子どもたち

昨今、日本はエンジニアの育成に力を入れています。しかし、力を入れているのは情報・プログラム系。機械や電気のような、リアルを相手にするエンジニアはあまり人気がないそうです。

自身もエンジニアとしての経歴がある多田さんは言います。

「この活動を通して、科学技術人材となる子どもが増えてくれると嬉しいですね。プログラムもいいですが、こうやって実際に動くものを作るのも楽しいものですよ」。

今後もロボットに熱中する子どもたちが増えるといいですね。

「メカロトロニクス教室軽井沢」のFacebookページはこちら

給食を通して実現する食の安全。「軽井沢 オーガニック給食を考える会」

軽井沢 オーガニック給食を考える会 のメンバー。話をしてくれたのは代表の上原さん
(右から三人目)

農林水産省が推進する有機栽培(オーガニック栽培)。化学的な肥料や農薬を使わず、人体にも自然にもやさしい農業です。

長野県内でも取り組む農家が増えていますが、「軽井沢オーガニック給食を考える会」の代表である上原さん(写真右から三人目)が有機栽培に興味を持ったのはママならではの視点からでした。

「次男と三男が赤ちゃんのころに酷いアトピーがあったんです。病院に行くと薬をもらって治療する。そうじゃなくて、なにか食事を通して健康になれないのかな?って思ったんですよね」。

それまでは食べ物について詳しくなかった上原さん。子どものアトピーがきっかけで、栄養や食品添加物について自分で調べるようになったそうです。

子どもたちに健康に良い食品を食べさせたい、という思いが伝わってくる展示

「給食って子どもにとって大きな存在だと思うんです。給食が家庭の食事のお手本になってほしい。そのためには、体にやさしい調味料や化学的な肥料・農薬を使わない有機栽培の野菜が必要だと思います」。

しかし、有機栽培には慣行農法(従来の化学肥料や農薬を使う農法)よりはるかにコストがかかるもの。すべての食材を有機栽培のものに変えるには、長い時間がかかります。

「私もいきなりすべての食材を有機栽培に変えるのは難しいと分かっています。ただ、一品ずつでもいいから、変わっていってほしいと思っています」。

上原さんをはじめとするメンバーのはたらきかけで、実際に有機栽培の食材に変わったものもあるようです。

これまでの活動の成果

今後も軽井沢町の給食が、より健康にやさしい食材に変わっていくと思います。

「軽井沢 オーガニック給食を考える会」のFacebookページはこちら

ソーシャルデビューに向けたお手伝いを。「浅麓コミュニティカレッジ」

浅麓コミュニティカレッジ の坂本さん(左)と話をしてくれた長沢さん(右)。

子育てが一段落して地域や社会の役に立ちたいと思いはじめる40代〜50代。しかし、これまで子育てや仕事に一生懸命だったため、何からはじめればいいのか?と困っている人が多いようです。

そのような人と地域活動を行う団体とをマッチングするのが「浅麓コミュニティカレッジ」。

「浅麓」とは浅間山の麓をさす言葉で、軽井沢、御代田、佐久、小諸を対象地域としています。設立は2022年、まだできてから日が浅い団体の一つです。

設立メンバーの一人である長沢さん(写真右)は言います。
「地域貢献や社会貢献をしたいと思っても、どうしたらいいか分からない方がソーシャルデビューできるようお手伝いをしています」。

ボランティアや市民活動にかかわらず、最初の一歩で躓くこともあります。そういったことがないようにサポートするのが長沢さんたちの役割のようです。

活動の意義や今後の展望を示す展示

「平均寿命が伸びて人生100年時代といわれるようになりました。それはチャレンジできる時間が増えたともいえます。みんなで一緒に活動できるコミュニティにしたいと思っています」。

実はこのイベントの前日に「浅麓コミカレ」の開校式が行われたそうです。その舞台となったのは佐久市が管理する古民家。そして学長に就任したのは中学一年生の男の子。

古民家で開催された開講式と、学長に抜擢されて中学一年生の男の子

今後も浅麓コミュニティカレッジの活動から目が離せません。

「浅麓コミュニティカレッジ」へのお問い合わせはこちら
senroku.c.c@gmail.com

古き良き軽井沢の歴史を伝えたい。「軽井沢観光ガイドの会」

「軽井沢観光ガイドの会」 会長の中原さん

軽井沢町の観光地として思い浮かぶのはアウトレットモールや旧軽銀座。しかし、軽井沢町には「昔からある軽井沢の姿」という貴重な観光資源があるのです。

「私たちの活動の目的は、軽井沢の自然や歴史、そして別荘などの文化を正しく伝えていくこと。多くの方に軽井沢を好きになってもらいたいです」。

そう話すのは軽井沢観光ガイドの会の会長である中原さん。軽井沢観光ガイドの会には、その名の通り観光ガイドが所属し、団体はもちろん個人からの申し込みにも対応しているそうです。

かつて軽井沢町は今ほど賑わいがある町ではなかったそう。それが大正から昭和にかけて著名人や皇族が別荘を建てて、今の姿になったといわれています。

本来の軽井沢らしいスポットを案内するそうです

中原さんは言います。
「建物を建てるとき高さは10m以下、道路からは建物の壁まで5m以上離すなど、軽井沢らしい景観を残すルールが条例で決められています。軽井沢はもともと沼地でした。昔からある自然の風景を残していきたいと思っています」。

軽井沢の文化を知りたい人は、ぜひガイドをお願いしてみてはいかがでしょうか?

「軽井沢観光ガイドの会」のHPはこちら

別荘地ができる前の軽井沢の自然を。〜われもこうの会〜

自然味あふれる看板

軽井沢には別荘とともに豊かな自然があります。しかしまだ別荘もない頃には、湿地が広がり山野草が多く生えていたそうです。

そのような頃の風景を次世代に引き継ぐために活動しているのが「われもこうの会」。

軽井沢町から借りた二か所の土地で山野草を育てているそうです。

定期的な活動は外来種の駆除(草むしり)や山野草(在来種)の栽培。イベントでは育てた山野草を有償にて配布していました。

軽井沢の山野草に興味がある人は、ぜひ連絡してみてください。家庭のベランダで育てられる品種もあるそうです。

「われもこうの会」のHPはこちら

困っている人たちをつなぐコミュニティ。「軽井沢フードバンク」

フードバンクと子ども食堂の活動を紹介する展示

困っている人に食材や食事を提供する「軽井沢フードバンク」。名前に「フードバンク」と入っていますが、食材を集めて提供するフードバンクと、子どもに食事を提供する子ども食堂の両方の機能があるそうです。

軽井沢町内の郵便局や軽井沢新聞社、そしてホテル音ノ羽森などでフードドライブを実施。集まった食材を困っている人に配っているそうです。

子ども食堂「あたしキッチン」は定期的に開催されています。子どもには無料で、大人には300円で食事を提供しているとのこと。多いときには100人〜130人ほど(保護者含む)が参加してくれて大変賑わっているそうです。

子ども食堂の様子

「子どもたちの笑顔が未来に続いていくように。そのような願いを込めて活動している」と話を聞かせてくれました。

「軽井沢フードバンク」のHPはこちら

ボランティア活動の第一歩へ

来場者の数。軽井沢町内が多いが、町外や県外からの来場者も

今回のイベントでは34のパネルが展示され、団体関係者99人と一般来場者120人の計219人が参加していました(撮影時の人数とは差異あり)。

まるで地元の観光名所「旧軽銀座」のように多くの人が訪れ、気になる展示を見たり知り合いや友人と話したり。思い思いの時間を過ごしていたように見えました。

最後にイベントを振り返って、実行委員長の小沼 史弥(おぬま ふみや)さんに話を聞きました。

これまで5回以上このイベントに参加して、そのうち3回は実行委員として運営に携わってきた小沼さん。運営側として4回目の参加となる今回は、実行委員長として忙しい1日を過ごしていたようです。

「今日は本当に忙しかったです。でも、たくさんの方に来ていただいて楽しい時間を過ごしてもらって。それが一番嬉しいですね」。

「ちいき活動みほん市」は来年も開催されるそうです。来年の開催に向けて小沼さんはこのように話していました。

「ボランティア活動をはじめようと思っても、最初の一歩を踏み出すのが難しいと思います。このイベントをきっかけとしてボランティア活動に興味も持ってもらい、最初の一歩を踏み出す人が増えれば嬉しいです」。

              ・     ・     ・

観光地としてだけではない軽井沢町の違った側面を見た気がしました。魅力的な活動は今後も続きます。

もし興味深い活動があれば、その団体に連絡を取ることから、あなたの行動がはじまります。

ぜひ、あなたの力を地域の力に。

<取材・執筆> ソーシャルライター 廣石健悟