あなたの性別は何ですか?
このように質問されると、多くの人は女性か男性のいずれかを答えるでしょう。
しかし、今、世の中ではこれら既存の枠組みに疑問符が投げかけられています。「LGBTQ+」と呼ばれる人たちを知っていますか?
2023年6月23日に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)」が公布され、同日施行されました。
この記事では2023年6月24に実施された「性の多様性」について考えよう、というLGBTQ+の当事者との交流会の内容をお伝えします。
LGBTQ+とは何か?
LGBTQ+とは性的マイノリティの頭文字を並べた言葉であり、それぞれ次のような意味を持ちます。
- L:レズビアン。自らを女性だと認識し、女性を好きになる人。
- G:ゲイ。自らを男性だと認識し、男性を好きになる人。
- B:バイセクシャル。自らを女性、あるいは男性と認識し、女性・男性のどちらも好きになる人。
- T:トランスジェンダー。もともと男性として生まれたが、自らを女性だと認識する人。あるいはその反対の人。
- Q:クエスチョニング。どのセクシャリティ(性別)にも当てはまらない人。
- +:プラス。アセクシャルやパンセクシャルの人。アセクシャルとはどのようなセクシャリティにも性的興味を持たない人であり、パンセクシャルとはどのようなセクシャリティの人にも性的興味を持つ人。
参考: さぬき市「“多様な性(LGBTQ+)”のこと 性を表す4つの要素とは?」より
そう感じているの?当事者の話から分かったこと
LGBT理解増進法ができ、社会でLGBTQ+に注目が集まりました。当事者が悩むことが多いのはもちろんですが、当事者の周りにいる人たちも悩むことがあるそうです。
LGBTQ+当事者のすみかさん(写真中央)、そしてスクールカウンセラーの丸山さん(写真左)を講師に迎えて開催された交流会。職場や地域でLGBTQ+の人と関わる可能性のある教育機関や行政機関で働く10名が参加しました。
日々感じるLGBTQ+であるが故の苦労
すみかさんの性自認と性的指向
「生まれたときのぼくの性別は女性です。しかし、自分では男性だと認識しています。ただ、好きになるのは男性であり、普段は可愛い女の子が着るような服を着ています」。
はじめて聞くと混乱するかもしれませんが、これがすみかさんのセクシャリティです。この日、すみかさんが着ていたのは白のブラウスに黒のスラックス(ズボン)。知らない人からは女性に見えるかもしれません。しかし、すみかさんはLGBTQ+の「Q」にあたるとのこと。
自らの子どものころの思いを、すみかさんはこのように語っていました。
一方、スクールカウンセラーの立場で多様な性に関する相談を受けることがある丸山さんも、自身の子どものころを振り返りこのように語っていました。
理解者であるはずの家族にカミングアウトしても……
LGBTQ+の人が悩むことの一つが、自分の複雑な性をなかなか打ち明けられないこと。意を決して家族に打ち明けても、理解してもらえないことも多々あるようです。
すみかさんは言います。
「家族には打ち明けていますが、理解は得られていないというのが現状ですね……。身勝手な発言をされて、傷つくこともあります」。
丸山さんも自身が携わったケースから、思うことがあるようです。
「家族に自分の複雑な性を理解してもらうのは、とても難しいことです。理解してもらうのに数年かかったという人もいれば、結局分かってもらえず10年や20年以上家に帰らず家族と話していない、という人もいます」。
関係者によると、LGBTQ+に比較的理解を示すのは、20代〜30代の若い世代。知り合いや友人がLGBTQ+であっても気にならないこの世代でも、家族となると半数が「嫌だ」と答えた調査もあるとのことです。また、40代や50代以上になるとそもそも理解を示さない(理解できない)人の割合が増えるそうです。
性的マイノリティと性的マジョリティの隔たり
性的マイノリティ(LGBTQ+)と性的マジョリティ(異性愛者)の間には、前提条件として隔たりがあるように感じることもあるそうです。
すみかさんは自身の経験から次のようなことを話していました。
「友達との会話で『彼氏いる?』って聞かれたことがありますが、これってぼくが女性で好きになるのが男性っていう前提が含まれているんですよね」。
これは性的マジョリティ(異性愛者)の前提で質問している典型的な例です。何気ない質問の中に「世の中には女性か男性の二つの性しかない」、「女性は男性を好きになる、男性は女性を好きになる」という固定概念からくる無意識の偏見が隠れているとの見方もあります。
また、丸山さんはこのようなことを感じるといいます。
「性的マイノリティばかり、性に関する説明を求められる気がします。たとえば、自己紹介するときに『私の名前は丸山です。私は女性で、好きになるのは男性です』なんていちいち言いませんよね?性的マイノリティばかりが説明を求められることに違和感を感じます」。
LGBTQ+に対する理解が進むと、性的マジョリティの中にはいろいろと知りたくなる人もいるかもしれません。その人にとっては、見識を広げたり相手をより知りたいと思っているのかもしれません。しかし、LGBTQ+が自らの複雑な性を打ち明けられるのは信用している人だけとの意見が出ました。
複雑な性について聞かれることを、快く思わないLGBTQ+がいることを参加者は学びました。
社会に向けたメッセージ。セクシャリティをもとに壁を作らないでほしい
女らしさと男らしさ
参加者の意見として「外で遊ぶ男の子、気が利く女の子」という言葉にモヤモヤするという意見がありました。これに対してすみかさんは……。
「ぼくはケーキ屋で働いていますが、身近にいるパティシエは女性の方が多いですね。ただ、これは性別が関係しているわけではなく、その方の実力だと思います。『さすが女性だね』、『さすが男性だね』に変わる(性差のない)言葉が生まれたらいいなって思いますね」。
また、別の場面で丸山さんはこのようなことを話していました。
「最近ではスカートかスラックスか、自分で選べる学校が増えています。その制度そのものは素晴らしいですが、本人が気兼ねなく選べる環境の方が大切ですね」。
LGBTQ+について感じる社会変化
丸山さんは厳しい現実を感じることがあるそうです。
「性的マジョリティの中には社会が変わらないこと(LGBTQ+を認めないこと)を望む人もいます。LGBTQ+が社会的に認知されるにつれて、バッシングが強くなっていると感じることもあります。ただ、全体としてはよくなろうとしていると思います。(今日集まってくれた人のように)LGBTQ+のことを知ろうとする人、問題を前に進めようとしてくれる人がいるのはうれしいですね」。
すみかさんも最近の社会の動きについて、感じていることがあるそうです。
「小学生のうちからジェンダー教育をすると性的指向がねじ曲がる、と考える方が一部いるようですが、それは本当かな?と疑問に感じています。それより男女の区別なく壁を作らない方がいいと思いますね。セクシャリティに関係なく、一人の人としてお互い向き合える社会になればいいなと思います」。
LGBTQ+交流会に参加した人の感想
参加者はどのような思いで参加していたのでしょうか?2名に感想を聞きました。
ある大学生の感想
私は現在大学生で、将来は保健の先生になりたいと思っています。
同じ大学の友人には女性が多く「性の多様性」について話せる環境にあります。しかし、他の大学の友人とはあまりそういった話はしませんね。
将来はセクシャリティに関係なく、まずは相手を一人の人として見られるようになりたいと思っています。
ある高校生の感想
私は現在高校生ですが、大学に進学してジェンダー論を学びたいと思っています。
実はこれまで私の周りにも(私が気付かないだけで)LGBTQ+の人がいたのかもしれません。友人と話すときに、何気なく「好きな人や彼氏はいる?」って聞いてしまったこともありました。
性的マイノリティも性的マジョリティもカテゴライズするのではなく、セクシャリティに関係なくその人自身を見られるようになりたいですね。
当事者が安心してくつろげる場所〜にじーず〜
交流会の途中、Zoomで登場したのは一般社団法人「にじーず」の代表を務める遠藤さん。にじーずは10代から23歳までのLGBT(かもしれない人を含む)が安心して集まれる居場所を作る団体です。遠藤さんがにじーずの活動内容を紹介しました。
活動範囲は全国各地で、長野県内では長野市と松本市で活動しているそうです。にじーずは本名を名乗る必要もなく、セクシャリティを説明する必要もなく、やりたいことをして過ごせる場。途中、テーマの決まったトークセッションがありますが、参加したい人だけ参加すればよく、耳を傾けるだけの人もいれば、まったく参加しない人もいるそうです。
すみかさんも、にじーずに参加したことがあるそうです。
「ニックネームで呼んでもらえるし、○○ちゃんという呼び方はイヤ、○○さんがいいなど呼び方のリクエストができます。トークセッションの時間もありますが、参加したくなければ他のことをしていてもかまいません」。
すみかさんにとって、にじーずはかけがえのない居場所として、当時を思い出すように話していました。
LGBTQ+交流会に参加して
世の中には自分のセクシャリティがわからず、自分が何者かわからず困っている人がいます。
LGBT理解増進法が公布・施行されたことから、LGBTQ+という言葉や複雑な性に悩んでいる人のことが、今後より広く社会に浸透していくでしょう。
今はその過渡期。まだまだ問題は山積みですが、少しでも前進しようとする人が増え、セクシャリティに関係なく認めあ会える社会になると、幸せを感じる人が増えるのではないでしょうか。
しかし、ここで学んだ大切なことがあります。
それは、「セクシャリティにかかわらず、まずは一人の人間として相手を見ること」です。
筆者はこの日、この言葉を三度聞きました。
参加した感想を聞かせてくれた大学生と高校生、そしてすみかさんの口から。
女性・男性という二択に限定せず、十人十色・多種多様を基本に「多様性」を認めあうこと。
LGBTQ+を知ることは、「誰一人取り残さない」と決めたSDGs(持続可能な開発目標)がめざす新しい時代の中で生きていくことだと思いました。
<取材・執筆> ソーシャルライター 廣石健悟